平等原則 合格答案のこつ たまっち先生の「論文試験の合格答案レクチャー」第 24 回 ~ 平成27年司法試験 憲法~

たまっち先生の
「論文試験の合格答案レクチャー
第 24回
「平等原則
合格答案のこつ

平成27年度司法試験 憲法から

第1 はじめに・・・平等原則は、他の人権とは異なり自由権ではないので、論じ方が異なります

 こんにちは、たまっち先生です。
 今回は、憲法における平等原則について実際のA答案とC答案の比較検討を通して、どのような点に気をつければ、合格答案を書くことができるのかをレクチャーしていきたいと思います。

 平等原則は、他の人権とは異なり自由権ではないので、論じ方が異なりますから、本記事を通じて平等原則の考え方をマスターし、その特殊性を意識して答案を作成できるようになってもらいたいと考えています。

| 目次

第1 はじめに・・・平等原則は、他の人権とは異なり自由権ではないので、論じ方が異なります

第2 A答案とC答案の比較検討
  【A答案とC答案】
  【比較検討】
    1 BとDらの別異取扱いについて
    2 BとCの同一取扱いについて

第3 B E X Aの考える合格答案までのステップ「4、各科目の答案の「型」がわかる」、「6、条文・判例の趣旨から考えるとの関連性

第4 平等原則の考え方
  【問題文及び設問】
  1 平等原則における憲法答案の型
    ⑴ 総論
    ⑵ 別異取扱いの認定
    ⑶ 正当化
  2 本問の検討
    ⑴ CとBを同一取扱いについて
    ⑵ BとDらとの別異取扱いについて

第2 A答案とC答案の比較検討

【A答案とC答案】
では早速、A答案とC答案を2つを見比べてみましょう。

A答案(※表現の自由に関する論述は省略しています)

C答案

設問1⑴
1 (中略)
2 BとDの差別
憲法14条1項は合理的理由のない差別を禁止しているところ、BとDはいずれもY対策課の採用を求めており、BはDと勤務実績が同程度ないしこれを上回るものであるから、BのYに関する表現行為及び信条を理由に異なる扱いを受けることに合理的理由があるといえるかが問題となる。
国籍法事件に鑑みれば、重要な事由に基づく、重大な不利益を課すような差別は、その合理的理由の有無について慎重な判断を要する。本件では、BはYに対する反対意見を持っていること、及びシンポジウムでの発言を理由としてDと区別されたのであって、BのYに対する考えは14条1項後段の「信条」に該当し、また19条によって保護された重要な政治的意見である。また、シンポジウムでの発現が民主主義社会において極めて重要な価値を持つことは上記の通りである。他方、Y対策課の職員となれば、Yの安全性を確保他するために、より積極的な活動が可能となり。これは参政権的な価値のある事項であるし、同課は意見交換等も予定しており表現行為の機会を付与するものであるから、Bを不採用とすることは重大な不利益を課すものである。よって、慎重な判断が必要である。
本件では、上記のようにBのYに対する考え方や、シンポジウムでの発言内容は、Yの安全性を確保するというY対策課の設置目的にかなうものであるから、これを理由としてDと区別し、Bを不採用とすることは合理的理由のあるものとはいえない。よって、違憲である。
3 BとCの区別
 憲法14条1項は平等原則を定めたものであり、その理念は「等しいものは等しく、異なるものを異なって扱う」という点にある。とすれば、「異なるものを等しく扱う」場合においても、合理的理由がない限り平等原則の理念に反するといえ、憲法14条1項に反する。
 本件では、Cは、Bと異なりYの採掘について絶対反対の立場をとっており、仮にY対策課の設置目的が「Yの採用を前提としつつ安全性に配慮する」というものであったとしても、Yの安全性が確保されたとすれば採掘事業を行なって良いとするBの立場とは著しく異なり、A市の立場と極めて遠いものといえる。また、Cの行なった反対意見の表現活動は、シンポジウムに拡声器を用いて乱入してこれを妨害するという社会的に見て容認できないものであるのに対し、Bはシンポジウムにおける手続に基づき適正に表現行為をしたのであり、表現行為それ自体の社会的相当性もBとCは著しく異なる。そうであるのに、BとCに対し同一の取り扱いを行うのは合理的理由があるとはいえず、違憲である。
小問⑵
1 BとCの区別について
憲法14条1項は、等しく扱うべきものを別異に扱う場合に限って問題となるものであり、本件のようなケースでは問題とし得ない。
2 BとDの差別及び表現の自由について
 A市は、誰をY対策課の職員として採用するかについて広範な衣装があり、Bの主張するような厳格な審査基準は妥当しない。また、Y対策課の設置目的は、Yの採掘事業を開始することを前提として、可及的に安全性を確保するとともにこれに対する市民の信頼を確保する点にあり、Bの設置目的に関する認識は誤りである。
設問2
1 BとCの差別について
 A市に賛成である。憲法14条1項は、平等原則を保障したものであり、これは「等しく扱うべきものを等しく扱わない場合」に限って問題とされるものである。異なる事由があるのに同様に扱う場合、これが不当であれば、他者との比較において同様に扱ったことはではなく、同人に対する取扱について合理的理由があるか否かを問い、これが認められない場合において憲法15条以下の人権(本件では表現の自由)に対する侵害の問題として処理すれば足りるから、このように解しても人権保障に反することにはならない。
 また、仮にBの主張が認められるとしても、後述のようにA市は誰を雇うかについて広範な裁量があるから、Bの列挙する事由がCとの差異として認められるとしても、なおA市がBとCと同様に不採用としたことが合理性を欠くとまで言うことは困難である。
2 (中略)
3 BとDの差別について
 憲法14条1項の問題についても、「誰を採用するか」という問題である以上はA市の裁量を前提とせざるを得ない。ただし、Bの主張するように、本件区別は信条や表現行為という重要な事項に基づき、参政権的地位及び表現行為の機会を付与しないという重大な不利益を加えるものであるから、裁量の逸脱濫用の有無は慎重に判断すべきである。
 上記のように、Y対策課の設置目的は、Y採掘事業を実行することを前提として、可及的に安全性を確保するという点にある。そして、Bの信条や表現行為は、これと合致するものではない。しかし、Y対策課の業務を考慮すれば、多様性のある意見を持つ者を採用することは目的達成のために有益であるし、Bは資源開発について専門技術的知見を有するから、安全性確保のための監視などを行うにあたって有益な人材であるといえる。よって、Bの心情や表現行為がY対策課設置目的と合致しないことは、BとDを区別する合理的理由とはならない。
 以上により、違憲である。

設問1
1 小問⑴
⑴ Bの訴訟代理人となった場合、①BとCの間に合理的な区別をしなかったことが平等原則(憲法(以下略)14条1項)違反であること、②BとD らの間に不合理な区別をしたことが平等原則(14条1項)違反であること、③Bを正式採用しなかったことは、Bの表現の自由(21条1項)の侵害に当たること、から国家賠償法上の違法を主張する。
⑵ BとCの間について
ア BとCは、ともにA市のY対策課に正式採用されなかった。これは、両者が甲市シンポジウムにおいてY採掘事業に反対する内容の発言を行ったことに基づく判断である。そして、Y対策課で正式採用されるということは、自己の望んだ職業に就くことであり、重要な利益に当たる。
イ 憲法14条は差別によって、各人の差異に沿った取扱いをし、相対的平等を実現するための規定である。そこで、根本的な差異がある者の間には合理的な差別をしなければ、平等原則に反した「差別」となる。
ウ 本件では、BとCとの間には、Y採掘事業に対する考え方の相違があり、甲市シンポジウムでの表現態様も異なる。それにも関わらず、BとCの差異を無視して同一の取り扱いをすることは「差別」にあたる。
⑶ BとDらの間について
ア BはY対策課に正式採用されなかったのに対し、Dらは正式採用されている。Bの勤務実績はDらと比較してほぼ同程度ないし上回るものであったが、Bでの甲市シンポジウムでの発言やY採掘事業に関する考えを踏まえて、Bは不採用となった。これは、Bの信条に基づく区別であるといえる。
イ 14条1項後段の列挙自由は、歴史的に当該事由に基づいて差別がされてきたものである。そこで、後段列挙事由に基づく区別の場合、違憲審査密度は高められる。また、区別されたことによって生じるBの不利益は、望んだ職場で働けないことである。職業は自己表現の場でもあるので、重大な不利益を被る。侵害される利益の重要性も、違憲審査基準を厳格にする方向に働く。そこで、信条に基づく区別が合憲かは、区別の目的がやむにやまれぬものであり、区別の手段が目的達成に必要ふかけるであるといえるかで判断する。
ウ 本件でBを不採用とし、Dらを採用とした目的は公務員の職務の公正を維持するためであると考えられる。この目的は、やむにやまれぬ目的とはいえなくはないかもしれない。しかし、Y採掘事業について様々な意見を有する職員がいた方が、職務の構成は保たれる。したがって、Y採掘事業に対して反対の意見を有する候補者を一律に不採用とすることは目的達成に必要不可欠な手段とはいえない。よって、Bを不採用とし、Dらを採用とすることは、平等原則に違反し、違法である。
⑷ (中略)
2 小問⑵
⑴ BとCの間について
平等原則が適用されるのは、不合理な区別をしているときであり、合理的な区別をしないからといって、平等原則違反を主張することはできない。
⑵ BとDらの間について
ア Bの不採用は「信条」に基づく区別ではない。
イ 職員の採用に関しては、A市の広い裁量が認められている。
⑶ (中略)
第2 設問2
1 BとCの間について
⑴ 確かに、A市の主張するように平等原則違反が問題となるのは、典型的には不合理な区別がなされた場合である。しかし、平等原則の趣旨は、各人の差異を前提として、合理的な取扱いをし、人権保護を図る点にある。そうだとすると、合理的な区別をしていない場合にも平等原則違反となると解する。
本件では、BもCもA 市に居住し、天然資源開発に関する研究を行っている大学院生であり、甲市シンポジウムで表現をした点では共通している。しかし、BはY採掘事業に安全確保を徹底することができれば、Y採掘に反対ではないのに対し、Cは、Y採掘事業に絶対反対の立場である。両者の見解には本質的な違いがある。また、Bは甲市シンポジウムに参加し、その場で穏当に自己の見解を述べている。これに対して、Cは拡声器を使い、職員に怪我を負わせるなど、過激な方法で表現をしている。両者の間には、無視できない差がある。この差を踏まえて、BとCとの間では取扱いを区別することが合理的である。したがって、BとCに合理的な区別をしなかったことは、平等原則に違反し、違法である。
2 B とDらの間に関して
⑴ 「信条」は内心にとどまる限り、絶対不可侵であるが、信条が外部に表現された場合には、他の人権との調和から制約を受け得る。本件では、A市は、Bが甲市シンポジウムで表現行為を行ったという外在的事実に着目して区別をしていると考えられ、「信条」に基づく区別であるということはできない。したがって、審査基準は緩められる。
⑵ A市が主張するように、市職員の採用については、市政等を踏まえた専門技術的判断が要求されるので、市の広範な裁量が認められる。しかし、重要な事実の基礎を欠くか、社会通念上妥当性を欠く判断がなされた場合には裁量権の逸脱、濫用に当たる。本件では、A市は勤務実績以外の事情を考慮し、正式採用か否かを決定している。Bが甲市シンポジウムでY採掘事業に反対する内容の発言等をしたことがあり、Y採掘部事業に全面的に賛成でないことは事実である。したがって、重要な事実の基礎を欠いてはいない。また、Y採掘課の設置目的は、Y採掘事業に関する市民の信頼を確保することである。そうだとすれば、過去に甲市シンポジウムで反対の発言をしたことのあるBを採用することは、目的達成を阻害し得る。したがって、Bを不採用とすることも社会通念上著しく妥当性を欠くとはいえない。よって、BとDらで区別をすることは不合理ではなく違法ではない。
3 (中略)

 

【比較検討】

1 BとDらの別異取扱いについて
 設問1⑴について、A答案は、後述する憲法答案の型を概ね守って論述を展開できています。まず、A答案はBとDらとの間に別異取扱いが行われていることを簡単に認定しています。その上で、国籍法判決を挙げ、「重要な自由に基づく、重大な不利益を課すような差別は、その合理的理由の有無について慎重な判断を要する」旨を述べています。これは、国籍法判決が重要な法的地位や自己の努力で脱却不可能な事項に基づいて差別が行われた場合には審査密度を厳格化している点を踏まえた論述だと考えられ、平等原則に関する重要判例の正確な理解を示すことができているといえるでしょう。憲法の答案は作文のようになりがちですが、A答案のように参考となる関連判例に言及することが説得力のある答案を書く秘訣となります。

 A答案は、国籍法判決BとDらの差別が「信条」という憲法19条によって保障された「重要な政治的意見」に基づいて行われていることを認定できています。14条1項後段列挙事由と指摘するにとどまらず、「信条」は憲法19条で保障される思想・良心の自由と捉えることができる点を踏まえ、憲法上保障されている重要な自由に基づく差別であることを認定できている点は高く評価されるでしょう。

  小問⑵の反論では、「誰をY対策課の職員として採用するかについて広範な裁量があり、Bの主張するような厳格な審査基準は妥当しない・」と指摘し、サラリーマン税金訴訟等の判例を踏まえた検討ができています。

 設問2の私見では、A市の裁量論をいかに打開するかが問題となりますが、A答案は、誰を採用するかという点にA市に裁量が認められるとしても、「信条や表現行為という重要な事項に基づき、参政権的地位及び表現行為の機会を付与しないという重大な不利益を加えるものである」ことを理由に「裁量の逸脱弾用の有無は慎重に判断すべき」と述べており、これは裁量が認められるからといって直ちに審査基準が緩やかになるというわけではなく、「事の性質」に応じて裁量の幅が狭くなる場合があると判例の立場を理解した論述だと評価できます(薬事法判決参照)。

 その上で、Bは設置目的に適合する有益な人材であるにもかかわらず、これを不採用とするという手段に合理性が認められないことを踏まえ、違憲という結論を導き出せており、全体として論述の流れが自然で説得的なので高く評価されたと考えられます。
 他方C答案は、設問1⑴については判例名の言及はないものの、国籍法判決を意識した論述ができているように思います。A答案と同様、「信条」が重要な利益であることを踏まえて、審査密度を厳格にするという点を指摘できていました。また、設問1⑵の反論についても採用には裁量が認められるという点を踏まえ審査密度が緩やかになる点に言及できています。ここまでの論述については、A答案とC答案に大きな差はないように思います。

 もっとも、C答案は設問2の私見で、採用には裁量が認められるという反論に何の理由もなく従っており、憲法論ではなく裁量論の展開をしてしまっています。本問はあくまで憲法の問題であり、行政法の問題ではないですから裁量論に終始するというのは非常に危険だと思われます。採点実感では、『憲法上の主張や見解について問われているにもかかわらず、A市の反論や「あなた自身の見解」において裁量論に迷い込み、憲法論から離れてA市側の行為の当・不当を長々と論じている答案が散見された』と述べられており、裁量論に終始する答案が低い評価にとどまったことが分かります。また、A市の反論が妥当だという合理的な説明をした上で裁量論を展開したならまだしも、何の理由も示すことなく裁量論に従っているという点も減点があるでしょう。「あなた自身の見解」が問われているのですから、「あなた自身の見解」がA市の主張と一致する論拠を示す必要があるのは当然だと思います。

2 BとCの同一取扱いについて
 設問1⑴について、A答案は、14条1項にいう「平等」が相対的平等を意味することを論じた上、「等しいものは等しく、異なるものは異なって扱う」ことを指摘できています。採点実感からすれば、同一取扱いの場合には平等原則の問題とはならないと論じた答案も一定数あったようですが、A答案は正確な論述ができています。そして、本件の差別が表明活動に関するものであることを指摘できています。これが表現の自由として保障されうるものであることまで論じることができれば、重要な法的地位に基づく差別であることをより説得的にアピールできたと思いますが、最低限の論述はできていると思います。

 設問2の私見では、BとCとの同一取扱いは、「表現の自由」に基づくものであることを踏まえ、平等原則の問題として論じるよりは、「表現の自由」に対する侵害の問題として処理すれば足りることを指摘できています。採点実感では、『「平等」の問題と「自由」の問題との違いを踏まえつつ、「平等」の問題が「表現」(ないし「思想良心」。・・・)の問題と連動している点を見抜き、両者を密接に関連付けて論じる答案もあり、優れた問題分析能力をうかがわせる答案があったことが印象的であった。』と指摘されており、本A答案は平等原則の問題と自由の問題とを絡めつつ論じることができている点で非常に高い評価を受けたと分析することができるでしょう。平等の問題として処理するか、自由の問題として処理するかという結論よりも、本問の差別には平等と自由とが絡み合っているという点を意識し、その点に対する自己の考えを示すという点が重要であるといえるでしょう。

 他方、C答案について見てみると、設問1⑴において「平等」の意義を適切に指摘した上で、本件の差別が「表現態様」に基づくものであることを指摘できています。設問2では、差別の基礎となっている事項が表現態様であることを踏まえて、BとCには意見の「表明態様」に明確な差があったことからBとCは別個に取扱うべきであったことを指摘できています。概ね論点を押さえることができており一定の評価はされたと思われます。ただ、上記のA答案は平等原則と自由とが絡み合う問題であることを踏まえ、その問題点に対する自己の考え方を示すことができているのに対し、C答案は平等原則の問題に終始して検討をしているため、その点でA答案とC答案には評価に差が生まれたと考えられます。

第3 B E X Aの考える合格答案までのステップ「4、各科目の答案の「型」がわかる」、「6、条文・判例の趣旨から考えるとの関連性

 B E X Aの考える合格答案までのステップとの関係では、「4、各科目の答案の「型」がわかる」、「6、条文・判例の趣旨から考える」という2つのステップとの関連が強いと思います。

 平等原則の論じ方は他の人権とは異なるので、当然憲法答案の「型」を押さえておくことは必須ですが、答案の「型」を押さえているだけでは司法試験本番の問題に対応するのは困難です。司法試験の問題に対応するためには、答案の「型」が理解できていることに加え、参考となる判例の理解を答案に示すことが必要になります。上記のA答案は参考判例への言及ができているのに対し、C答案は参考となる判例への言及が少ないという点から明確な実力差を読み取ることができ、現に大幅な点数差がついていることがわかります。このように、憲法答案においては参考判例への言及が高いウエイトを占めますから、受験生の皆様は判例重視の学習をするよう意識していただきたいと思います。

第4 平等原則の考え方

【問題文及び設問】

平成27年度司法試験 憲法の問題を読みたい方は⇩⇩をクリック

法務省:https://www.moj.go.jp/content/001144527.pdf

1 平等原則における憲法答案の型
⑴ 総論
 本記事の冒頭でも述べたように、平等原則が問われた際には答案の型が通常の人権とは異なります。そこで、まずは平等原則の憲法答案の型を押さえる必要があります。平等原則が問題となる事例では、自由権のような三段階審査(保障範囲→制約→正当化)ではなく、二段階審査(別異取扱い→正当化)を行うことになります。平等原則は権利ではないので、「〜の権利が保障される」、「〜の権利が制約される」などとは書かないように注意する必要があります。

⑵ 別異取扱いの認定
 平等原則に関する問題は、別異取扱いが認定できて初めて顕在化するので、まず第一に別異取扱いがあることを認定する必要があります。その際、誰と誰が区別されているのかという点を明確にし、比較対象を挙げることが必須となります。
 憲法14条1項の「平等」とは相対的平等をいい、「等しいものは等しく、等しくないものは等からず」扱うことを要求するものです。したがって、答案ではまず①等しく扱うべき者を等しく扱っていない、あるいは②本来区別をすべき者を等しく扱っている、点を認定する必要があります。

⑶ 正当化
ア 総論
 職員待命判決は、「憲法14条1項・・・は、国民にたいし絶対的な平等を保障したものではなく、差別すべき合理的な理由なくして差別することを禁止している趣旨と解すべきであるから、事柄の性質に即応して合理的と認められる差別的取扱をすることは、なんら右各法条の否定するところではない。」と判示して、以降同判決を引用していることから、答案では大前提として「合理的な区別といえなければ、憲法14条1項に反し、違憲となる」などの上位規範を定立する必要があります。したがって、平等原則の判断の対象は、当該差別に合理的な理由があるか否かという点にあるといえます。

イ 判断方法
 そして、平等原則の審査手法ですが、判例は大きく分けて2パターンの類型があります。それは、①目的手段審査型と②区別理由審査型の2つです。それぞれの代表的な判例は以下の表の通りです。

 

・尊属殺重罰規定違憲判決(最大判昭和48年4月4日)
・国籍法違憲判決(最大判平成20年6月4日)
・再婚禁止規定違憲判決(最大判平成27年12月16日)
・非嫡出子相続分差別規定違憲判決(最大決平成25年9月4日)
・東京都管理職選考受験拒否事件判決(最大判平成17年1月26日)
・学生無年金障害者訴訟判決(最判平成19年9月28日)

 判例は、このように①目的手段審査型と②区別理由審査型に分かれており、受験生としては答案でどちらの論じ方を採用すべきか悩むと思います。ただ、日頃の憲法答案で目的手段審査型の論じ方に慣れている受験生が多いと思いますので、①の目的手段審査型を採用するのが良いでしょう。以下は、①の目的手段審査型の論じ方を詳しく解説していきます。

 

ウ 目的手段審査型の論じ方
 目的手段審査型の最重要判例は国籍法違憲判決です。同判決は、「立法府に与えられた上記のような裁量権を考慮しても、なおそのような区別をすることの立法目的に合理的な根拠が認められない場合、又はその具体的な区別と上記の立法目的との間に合理的関連性が認められない場合には、当該区別は、合理的な理由のない差別として、同項に違反するものと解されることになる。」と平等原則に目的手段審査が用いられることを述べた上、「日本国籍は、我が国の構成員としての資格であるとともに、我が国において基本的人権の保障、公的資格の付与、公的給付を受ける上で意味を持つ重要な法的地位でもある。一方、父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得するか否かということは、子にとっては自らの意思や努力によっては変えることのできない父母の身分行為に係る事柄である。したがって、このような事柄をもって日本国籍取得の要件に関して区別を生じさせることに合理的な理由があるか否かについては、慎重に検討することが必要である。」と判示しています。本判決を参考にすれば、差別の基礎となっている「事柄の性質」が(ⅰ)重要な法的地位、(ⅱ)子にとって自ら脱却不可能な事項、である場合には審査密度が厳格になると考えていることが分かります

 もっとも、判例の中には、サラリーマン税金訴訟のように、「租税法の定立については、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正確な資料を基礎となる立法府の政策的、技術的な判断に委ねるほかはなく、裁判所は基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ないものというべきである。そうであるとすれば、租税法の分野における所得の性質の違い等を理由とする取扱いの区別は、その立法目的が正当なものであり、かつ、当該立法について具体的に採用された区別の態様が右目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り、その合理性を否定することができず、これを憲法14条1項の規定に違反するものということはできないものと解するのが相当」と判示しています。この判例からすれば、政策的・技術的な判断に委ねられる領域については、「事柄の性質」上、別異取扱いの「合理的な根拠」の有無が緩やかに審査されることがわかると思います。

以上からすると、平等原則が問われた際は、
① 別異取扱いの認定(当該差別に合理的な理由があるか否かが大規範となることを指摘)
② 差別の基礎となった事柄の性質が(ⅰ)重要な法的地位+(ⅱ)子にとって自ら脱却不可能な事項、に基づくものか否かを認定(※もっとも、政策的・技術的判断が要求される際には立法府の裁量が働き、審査基準を緩めることに注意)
③ ②を踏まえ違憲審査基準を決定(中間審査基準、合理性の基準等)
④ あてはめ(目的の重要性、手段の実質的関連性等)
という順序で論じれば良いと整理することができます。

2 本問の検討
⑴ CとBを同一取扱いについて
① 別異取扱い(同一取扱い)の認定
→相対的平等とは、等しいものは等しく、等しくないものは等しくなく扱うものであるので、合理的理由なく、等しくないものを等しく扱うことを禁じるものです。
→本件不採用は、意見表明の方法が過激だったCとそうではなかったBとを同一に取り扱っている点で、別異取扱いが認められるといえます。

② 差別の基礎となった事柄の性質が(ⅰ)重要な法的地位+(ⅱ)子にとって自ら脱却不可能な事項、に基づくものか否かを認定

【Bの主張】
→本件同一取扱いの基礎となった「事柄の性質」について見ていきましょう。Y採掘事業は極めて高い経済的効果が見込まれるものであって、A市の今後のあり方に深く関わるものですので、Y採掘事業のぜひについての意見は、自己の思想を外部に表明するものであるということができ、表現行為と捉えることができるでしょう。
そうすると、BとCは「表現の自由」という重要な法的地位によって同一取扱いを受けていることになります(ⅰ)。このように、憲法上保障される人権に基づいて同一取扱いが行われているような場合には、重要な法的地位に基づく同一取扱いと評価することができるので、審査基準は厳格になります(国籍法違憲判決参照)。

【A市の反論】
→他方、本件のように誰を採用し、誰を採用しないかという採用決定には広い裁量が認められるため、審査基準は緩やかにすべきであるとの反論が考えられるでしょう(サラリーマン税金訴訟参照)。

【私見】
→確かに、採用の自由が及ぶという反論が認められる余地はあるものの、誰を採用するかの裁量があるからといって、それが直ちに審査基準を緩やかにする根拠となるわけではなりません。重要なのは、具体的な事実関係を踏まえて同一取扱いの実質を判断することです。

 そこで本件を見ると、差別の基礎となった「事柄の性質」は、表現の自由という自由権の中でもとりわけ重要性が高い自由です。そして、本件ではBはA市にとって高い経済的効果のあるY採掘事業についての意見を表明しているのであって、A市の住民としてA市のあり方を決めるという点で表現行為としての重要性が高いということができるでしょう。
憲法上重大な権利が制約される場合には、事の性質上裁量の幅が狭くなる場合があります(薬事法判決参照)。

 そうすると、本問においても事の性質上採用の裁量が狭いといえることから、Bの主張が妥当であり、同一取扱いの合理的な理由の判断にあたっては厳格に審査すべきということできると思います。

③ 違憲審査基準の設定
 以上を踏まえると、合理的な理由があるか否かは、同一扱いの目的が重要であり、手段が実質的関連性を有するか否かで判断すべきということになります。

④ あてはめ
【目的】
 本件同一取扱いが行われた目的は、Y対策課の設置目的たるY採掘事業の安全性及びこれに対する市民の信頼を確保することになります。Y採掘事業には危険性が指摘されており、Yには人体に悪影響を及ぼす有害成分が含まれており、採掘の際にはその有害成分が流出・拡散した場合、採掘に当たる作業員のみならず、周辺住民に重大な健康被害を与える危険性があります。それにもかかわらず、Yの有害成分を完全に無害化する技術は未だ開発されておらず、また、実際に外国のY採掘現場では健康被害が生じる流出事故が発生したことがあったというのです。
 これらの立法事実を踏まえると、A市としては、Yの採掘にあたり住民の安全性を確保する必要がありますし、Y採掘に対して住民の信頼を確保する必要があるということができますから、上記の立法目的の重要性は肯定することができると思います。

【手段】
 本件の手段は、単にY採掘の意見を表明したに過ぎないBを、反対の意見の表明を拡声器で連呼した利、職員を殴ったりしたという過激な方法で行ったCと同じく不採用にするというものです。当該手段を採れば、Y採掘事業に関し公の場で反対の意見を述べるような者がY対策課の職員になることはないわけですから、Y採掘の安全性や住民の信頼を確保するのに資するような職員のみが採用されるといえ、手段の関連性自体は肯定することができるでしょう。

 もっとも、BとCには上記のようにその考え自体や意見表明の方法に明確な差があります。単に反対の意見を述べたBは、現状のY採掘事業の安全性には問題が残るため、あくまで現段階では採掘事業には反対せざるを得ないが、少しでもその安全性を高めるために働きたいとの考えを持っています。これは、まさにY対策課に必要な人材であるといえます。他方、Cは、Y採掘事業の安全性が向上したとしても絶対に許されるべきではないと考えており、そもそもY採掘事業に否定的な考えのみを有しており、さらにその意見表明の態度にも上述したような問題点があります。そうすると、CはY対策課の人材として相応しくはないでしょう。BとCにはこれら明確な差があるにもかかわらず、A市は全くこれらの差を鑑みることなく、漫然と同一取扱いをしているわけですから、必要性を欠いているということができます。
 よって、本件同一取扱いには合理的な理由がなく、14条1項に反することになります。

⑵ BとDらとの別異取扱いについて
① 別異取扱いの認定
 BとDらの勤務実績には差がないにもかかわらず、DらをY対策課の職員として採用しているのに対し、Bを不採用とするものですから、別異取扱いがあります。

② 差別の基礎となった事柄の性質が(ⅰ)重要な法的地位+(ⅱ)子にとって自ら脱却不可能な事項、に基づくものか否かを認定

【Bの主張】
→本件不採用の基礎となった「事柄の性質」について見てみましょう。本件でBが差別された理由は、A市におけるY採掘事業に反対意見を持っていることにあり、「思想」(憲法19条)の違いにあるということができます。このように、憲法上保障される人権に基づいて同一取扱いが行われているような場合には、重要な法的地位に基づく同一取扱いと評価することができるので、審査基準は厳格になります(国籍法違憲判決参照)。

【A市の反論】
→他方、本件のように誰を採用し、誰を採用しないかという採用決定には広い裁量が認められるため、審査基準は緩やかにすべきであるとの反論が考えられるでしょう(サラリーマン税金訴訟参照)。

【私見】
→前述したように、採用に裁量が認められるとしても、憲法上重大な権利が関わるような場合には、事の性質上裁量の範囲が狭くなる場合があります。
本件の差別は、BのY採掘事業に対する考え方という思想に基づいて別異取扱いが行われていますから、「思想・良心の自由」という重大な法的地位に基づく別異取扱いといえます。また、「信条」は憲法14条1項後段に規定されており、同項後段に列挙されている事項は歴史的に差別が繰り返された事項であることからすれば、重要な法的地位ということができるでしょう。

 そうすると、本件の別異取扱いは、重要な法的地位に基づくものであって、A市の反論は認められず、Bの主張通り厳格に判断すべきということになります。

③ 違憲審査基準の設定
 以上を踏まえると、合理的な理由があるか否かは、別異取扱いの目的が重要であり、手段が実質的関連性を有するか否かで判断すべきということになります。

④ あてはめ

【目的】
 目的の重要性は、BとDの同一取扱いで述べて通りです。

【手段】
 Bの市民の安全な生活や安心を確保するという思想は、Y対策課の設置目的であるY採掘事業の安全性及びこれに対する市民の信頼を確保することに資するものです。なぜなら、Y採掘事業に単に賛成している者よりも、Y採掘事業の安全性に疑問を有する者の方がY採掘の安全性を確保するためにどうすべきかを積極的に考えるといえるからです。そうすると、Bを不採用とすることが別異取扱いの目的との関連性を有していることすら怪しいといえます。
 加えて、BはDらと比較しても勤務実績はほぼ程度ないし上回るものであって、Bを不採用とする必要性を欠いています。
 以上からすれば、BとDらの別異取扱いについて合理的な理由はなく、14条1項に反することになります。

以上

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 今回は
平成27年度司法試験 憲法から「平等原則」合格答案のこつ について解説いたしました。次回以降も、たまっち先生がどのような点に気をつけて答案を書けば合格答案を書くことができるようになるかについて連載してまいります。ご期待ください。

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2023年1月8日   たまっち先生 

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