こんにちは、たまっち先生です。
今回は、令和2年度司法試験の民法の設問1を題材として、実際のA答案とC答案を比較検討し、契約不適合責任の考え方についてレクチャーしていきたいと思います。
契約不適合責任は、債権法改正により新たに規定された制度であり、旧法下の瑕疵担保責任を引き継いでいます。ですが、旧法下の瑕疵担保責任は、法が特別に規定した法定責任と考えられていたにもかかわらず、改正法下の契約不適合責任は、債務不履行責任であると考えられています。このように民法の考え方が変わったことにより、受験生としてはより丁寧な契約解釈が求められることになりました。契約解釈で重要な視点は当事者の合意がどのような部分にあったのかを問題文から丁寧に分析することです。
そこで、受験生の皆様には今回の記事を通じて、契約解釈の手法をマスターしてもらいたいと思っております。
債権法が改正された関係で、令和元年以前の司法試験の民法の過去問は重要度が下がりつつあります(もちろん、令和元年以前の問題についても過去問演習を行うべきであることは言うまでもありませんが)。その中で、数少ない改正法下の過去問である令和2年度の司法試験は、債権法改正の中でも重要度の非常に高い契約不適合責任が出題されています。そのため、現在利用価値のある過去問の中では非常に重要度の高い問題であるということができるでしょう。
債権法改正により、契約解釈が求められる場面が旧法下に比して多くなりましたので、受験生の皆様には契約解釈をする際にどのような点に着目して検討を行えばいいのか、本記事を通してぜひ考えてもらいたいと思います。
「B E X Aの考える合格答案までのステップ」との関係では、「4、各科目の答案の「型」がわかる」及び「5、基本的事例問題が書ける」の2点との関連性が強いと思います。
令和2年度司法試験で問われている契約不適合責任の問題は、レベルとしてはそこまで高いものではありません。民法の答案の「型」(=請求権を導くための要件を一つ一つ検討する)を守って、事実を丁寧に拾えてさえいれば、そこまで差がつくものではありません。ですが、後に見るとおりA答案とC答案の差は一目瞭然であり、合否を分けてしまいかねません。C答案の方も民法の基本的な理解が足りていないわけではないと思いますが、要件を丁寧に認定する、法的三段論法を守る、という論文答案を書く上での基本的な姿勢を忘れてしまっている印象を受けました。
本記事を読んでいる受験生の皆様には、基本を忘れずに論文答案を作成するという意識をぜひとも持っていただきたいと思います。
【問題文及び設問】
令和2年司法試験問題は⇩⇩をクリック
https://www.moj.go.jp/content/001326057.pdf
司法試験では、問題を作成した司法試験委員会から出題趣旨と採点実感が公表されます。これらは、司法試験委員会がどのような意図で問題を作成し、実際にどのような答案を評価したのかを分析する上で必要不可欠な資料といえます。受験生の皆様は法務省のホームページからダウンロードした上で常に参照できる状態に置いておくべきでしょう。以下では、出題趣旨と採点実感を参考に、実際のA答案とC答案の論述を比較検討してみましょう。
出題趣旨では、「売主Aが契約不適合責任を負うことを確認する必要があるが、契約不適合責任が認められるかについては、契約当事者が特に合意した内容及び取引上の社会通念に照らして判断されることを示しつつ、乙建物の品質(防音性能)には契約不適合があることを述べる必要がある。設問1では、A B間において、乙建物が特に優れた防音性能を備えた物件であることが合意内容とされ、代金額が定められたこと、乙建物は合意された防音性能を備えていないことなどからすると契約不適合があると評価することが求められる。」と指摘されています。この点から、答案ではまず契約不適合責任の判断基準を明確にする必要があるとわかります。基本的なことですが、法的三段論法を守って書いて欲しいという趣旨でしょう。上記のA答案とC答案からおわかりいただけるように、A答案は法的三段論法が守られているのに対して、C答案は終始法的三段論法が崩れてしまっています。
採点実感では、「・・・契約不適合責任の認定判断において、性能が契約に適合しないという結論だけを述べているものや、買主であるBの目的のみをもって判断しているものが見られた。」とあり、答案ではA B間の合意内容を丁寧に明らかにしていなければ、高い評価は得られないことが示唆されていいます。上記のA答案とC答案からも分かるように、A答案は特に優れた防音機能の中でもBの目的がチェロの練習をすることであるという点に着目し、A B間の合意内容が、本件契約の目的物として、チェロの練習をしても音漏れしない程度の特に優れた防音性能を有する乙建物を引き渡すこと、であったと認定できています。これに対して、C答案は、特に優れた防音機能を有する乙建物と指摘するにとどまっており、より具体的に合意内容を検討できているのはA答案であることがわかります。
そして、「・・・代金減額請求を基礎付ける要件や効果について、論述が不足しているものや、知識が不十分であるものが散見された。例えば、買主に帰責事由がないという要件を充足していることについて触れていないものが比較的多く見られたが、このような基本的な要件の充足・不充足については簡潔でもよいから検討する必要がある。」と指摘されており、民事系科目においては要件の丁寧な検討が高い評価を得るためで必須となっていることが窺われます。これについては、A答案も若干要件検討を漏らしている部分はあるものの、C答案と比較すると要件を丁寧に検討できている印象を受けます。特に、相当期間の催告をしていないという点に着目して、検討できているのは問題文をよく読んでいることが採点者にも伝わる記述だといえるでしょう。
以上の検討から分かるように、A答案の論述がずば抜けて優れているかといえば、決してそういうわけではないと思います。ですが、A答案の素晴らしいところは、法的三段論法を忠実に守り、一つ一つの要件を問題文の事実を踏まえながら丁寧に検討できているところです。このような一見当たり前かのように思える論述を展開できれば、十分上位に食い込むことが可能なわけです。
代金減額請求権は、請求権という名前は付いているものの、形成権ですので、行使されれば直ちに代金減額の効果が生じることになります。したがって、代金減額請求権は、売買契約の一部解除と同じ機能を営むものということができます。というのも、代金減額請求権の実質は、契約不適合部分に相当する部分的な解除に等しいからです。
代金減額請求権を行使するには、買主は前提として、売主に対して、追完の催告をし、相当期間の経過を待って代金減額請求をする必要があります(563条1項参照)。追完請求権の方が代金減額請求権よりも優位するという趣旨でしょう。催告を要さずに代金減額請求権が認められる場合もありますが、本問とは直接関係しないのでここでは省略します(気になる方は563条2項各号を参照してください)。
したがって、代金減額請求権の実体法上の要件は以下の通りとなります。
【代金減額請求権の要件】
以上より、本問では、上記①から④の要件の充足性について検討することが求められています。要件検討自体は、丁寧に行えば問題ないと思いますので、以下では、本問における契約不適合部分に焦点を当てて検討していきます。
本記事冒頭でも指摘しているように、債権法改正により、改正法は「瑕疵」の概念を捨て、これに代わるものとして、契約不適合という概念を採用しました。そして、「種類、品質、数量の点で契約の内容に適合しない」ことをもって契約不適合、すなわち、債務不履行であると評価しています。その意味では、売買契約の当事者が当該売買契約において目的物の種類・品質・数量に対してどのような意味を与えたのかを契約の解釈を通じて探究し、こうして導かれた契約の内容に即して見たときに「あるべき」種類・品質・数量が欠如している場合が契約不適合と評価できることになるわけです。客観的な瑕疵で判断するという旧法下の概念を捨て去り、契約当事者の合意がどこにあったのかを重視した上で、契約不適合を考えるのです。
「あるべき」種類・品質・数量の判断にあたっては、①契約適合的なものとしてあるべき種類・品質・数量が何であるかを確定するにあたり、具体的な契約において当事者が下した評価を基礎として判断を加えるべきであること、②当該契約のもとで売買契約目的物の種類・品質・数量に関するリスクを両当事者がどのように分配していたのかを探求すること、が必要になってきます。
本問の事実からすると、「Bは乙建物内でチェロの練習をする予定であったため、AB間において、乙建物が特に優れた防音性能を備えた物件であることが合意の内容とされ、・・・」とあるので、A Bは、本件契約の締結にあたり、目的物たる乙建物が特に優れた防音性能を備えた物件であることを合意の内容としていたことがわかります。Bは乙建物がチェロの練習をしても音が漏れないくらいの特に優れた防音性能を有していると評価した上で本件契約を締結していることになります(上記①の点)。
そして、「・・・代金額が6000万円と定められた。」とあるので、AとBはこれらの合意内容をもとにして、本件契約の代金を6000万円と定めたことがわかります。これは、Bは上記のような優れた防音性能を乙建物が有していると考えたからこそ6000万円の代金を支払うというリスクを引き受けているのであり、この部分も「あるべき」品質を確定する上で重要な要素となります(上記②の点)。
以上から、チェロの練習をしても音が漏れない程度の特に優れた防音性能を有している乙建物が本件契約の「あるべき」品質であると評価することができます。
それにもかかわらず、実際に引き渡された乙建物は、Bがチェロの練習をしていると音が漏れ聞こえてうるさいとの近隣住民からの苦情が入るものであり、上記の契約に適合しないことは明らかです。
したがって、本件乙建物は「・・・品質・・・に関して契約の内容に適合しない」ということができます。
いかがでしたでしょうか。今回は初の民事系として令和2年度司法試験の民法から契約不適合責任を扱いました。民法を制するものは司法試験を制する、とも言われ、民法は司法試験・予備試験において重要度の高い科目です。その一方で苦手とする受験生が非常に多い科目です。ですが、今回見ていったように、基本に忠実に論述が展開できていればA答案はもちろん上位答案を書くことすら可能なわけです。そのため民法に関して苦手意識を持つ必要は全くありません。
冒頭でも指摘しましたが、受験生の皆様にはいつ何時も、基本に忠実に、という意識を忘れずに学習をしてもらいたいと思います。
今回もBEXA記事「たまっち先生の論文試験の合格答案レクチャー」をお読みくださり、誠にありがとうございます。
今回は「令和2年司法試験 民法 契約不適合責任」合格答案のこつについて解説いたしました。次回以降も、たまっち先生がどのような点に気をつけて答案を書けば合格答案を書くことができるようになるかについて連載してまいります。ご期待ください。
2022年6月6日 たまっち先生
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