こんにちは、たまっち先生です。
第3回は憲法について見て行きましたが、第4回となる今回は行政法の原告適格について実際のA答案とC答案を比較検討し、受験生の皆様がどのような点に気をつけて答案を作成すれば、合格答案を書くことができるようになるのかをレクチャーしていきたいと思います。
今回扱う問題は、平成29年司法試験の行政法です。
この年の問題は、設問1で非申請型義務付け訴訟の訴訟要件の充足性が問われていますが、メインとなるのは原告適格の認定です。原告適格はご存知の受験生も多いと思いますし、多くの受験生が小田急判決の規範を答案に正確に示せると思います。
しかし、「原告適格の規範までは正確に書けるものの、当てはめに自信がない。」という受験生は非常に多いのではないでしょうか?
これは行政事件訴訟法(以下、「行訴法」といいます。)9条2項の解釈が難しいことに起因しています。
私はこれまで多くの答案を添削していきましたが、多くの受験生が「処分の名宛人以外の第三者の原告適格を判断するにあたっては、行訴法9条2項に従って検討する」と答案で指摘しているにもかかわらず、実際に当てはめを見てみると、行訴法9条2項に従った検討ができていないという場面が多く見受けられます。
そこで、本記事では、まず原告適格の規範及び行訴法9条2項に沿った原告適格の検討方法を簡単にレクチャーし、最後に実際のA答案とC答案を比較検討しながら、具体的にどのように答案に落とし込めば、高得点が得られるのかについて一緒に考えていきたいと思います。
平成29年司法試験司法試験問題は⇩⇩をクリック
(https://www.moj.go.jp/content/001224571.pdf)をご参照ください。
次に、なぜ今回平成29年司法試験を選んだのかについて述べていきたいと思います。
第一に、過去の司法試験で原告適格については何度か問われていますが、その中でも平成29年司法試験の原告適格は、原告適格を苦手とする受験生が答練をするのに適していると考えたからです。原告適格の問題を解く際には、被侵害法益というものを考える必要がありますが、その被侵害法益が公益的な性質が強い場合に、被侵害法益を補強しなくてはならないパターンがあります。平成29年の問題は、まさにこのパターンの問題であり、考え方もシンプルですので、演習に最適です。
第二に、平成29年の司法試験では事情の異なる二人の原告適格が問われています。司法試験では、このように複数人の原告適格が問われることがよくあります。そのため、複数人の原告適格を検討することに慣れておけば、今後の司法試験で原告適格が問われた際にも、十分な思考で臨むことができます。
B E X Aの考える合格答案までのステップとの関係では、「8、事実を規範に当てはめできる」との相関性が強いです。
以下でも検討しますが、C答案も原告適格の規範について指摘することができています。そのため、原告適格の評価に差が出ているのは、当てはめの出来不出来であるといえるでしょう。
行政法は他の科目と異なり、個別法の解釈が求められる場面があり、原告適格の当てはめはまさにその個別法を正確に解釈できているかという点で評価が分かれます。個別法は事案に応じてそれぞれ異なりますので、絶対的な基準があるとはいえませんが、少なくとも条文を検討する際に着目すべき点がいくつかあります。
したがって、この考え方を抑えておけば、徐々に原告適格の当てはめができるようになるといえます。
まずは、原告適格の規範を指摘できるようにしましょう。
答案添削をしていると、たまに省略した規範を用いる方がいますが、試験本番で制限時間が足りないなどの場合を除き、原告適格の規範はフルで指摘すべきだと思います。原告適格に関する判例の規範は以下の通りです。
本問では、非申請型義務付け訴訟が問題となっていますので、根拠条文は行訴法37条の2第3項となりますが、規範自体は変わりありませんので、条文の指摘に注意しておけば、あとは上記の規範を指摘すれば十分でしょう。
原告適格の考え方ですが、大きく分けて4つのステップがあります。それは、①被侵害法益の検討、②根拠法規の趣旨及び目的の検討、③被侵害法益の内容及び性質の検討、④当てはめ、の4ステップです。平成29年司法試験を参考に、のそれぞれのステップごとに検討していきましょう。
まずは、①被侵害法益を明らかにすること、です。これは答案でわざわざ指摘する必要はありませんが、原告適格を検討する上での出発点となります。なぜ、被侵害法益を検討する必要があるかというと、原告適格の判断の対象は、上記の規範で示した中のうち「法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者」に当たるかどうかです。そのため、まずは本問でX1とX2のどのような利益が侵害されるのか、その被侵害法益を明確化する必要があるわけです。
本問では、本件フェンスがあるため本件市道を通行できないことにより、X2が小学校まで遠回りをしなければならないといった交通の支障が生じ、通行利益が害されるという不利益が考えられます。次に、迂回路であるB通りは交通量が多く、X2が通学時に事故に遭う危険が高くなるとう不利益も考えられるでしょう。さらには、本件市道は災害時の緊急避難路とされていたことからすれば、X1とX2の両者が災害時に緊急避難路として通行できないことにより、X1とX2が本件市道を通行できないことにより生命侵害が害されるという不利益が生じることすら想定することができます。
そこで、本件市道の通行利益あるいは通行利益が害されることに伴い生じることになる生命、身体の利益は、法律上保護された利益といえるのか、すなわち、道路法がこれらの利益を専ら一般的公益に吸収解消させるにとどめず、個々人の個別提起利益として保護すると解されるか否かを検討していけばよいと、大まかな検討の方向性を決定することができます。
ここで、行訴法9条2項は、「当該処分又は採決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。」と規定しています。処分の名宛人以外の第三者の原告適格の判断は行訴法9条2項に従って行うわけですから、上記の本件市道の通行利益あるいは通行利益が害されることに伴い生じることになる生命、身体の利益が法律上保護される利益に当たるかの判断に際しては、①当該法令の趣旨及び目的(ステップ2)と②当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質(ステップ3)から判断すれば良いことが分かります。本問の出題趣旨でも、「原告適格の検討に当たっては、行政事件訴訟法第37条の2第4項で準用されている同法第9条第2項の規定に基づき、道路法第71条第1項及び第43条第2号の規定の趣旨・目的を踏まえ、本件被侵害利益がこれらの規定によって考慮されているか、また本件被侵害利益の内容・性質及びそれが害される態様・程度を勘案しなければならない。 」とされています。
以下、それぞれについて検討していきましょう。
本件フェンス撤去命令の処分法規は、道路法(以下、「法」といいます)71条1項1号及び43条2号ですので、これらの規定がいかなる利益を保護する趣旨目的であるかを論証する必要があります。ただ、これらの規定だけではいかなる利益を保護する趣旨であるか明確ではないので、このような規定を定めた根拠法規全体の趣旨及び目的を検討するのがおすすめです。
法43号2号は、道路への土石、竹木等のたい積といった道路の交通に支障を及ぼすおそれのある行為を禁止し、その違反者に対して、法71条1項1号は、道路に存する工作物その他の物件の除去や「・・・物件により生ずべき損害を予防するために必要な施設をすること」を命ずる監督処分をなしうると規定しています。すなわち、これらの規定は、監督処分の発令により交通の支障を解消・防止し、通行の利益を維持する趣旨であると解釈することができるでしょう。なぜ、通行を妨害する行為をあえて道路法が禁止しているのかを遡って考えてみる、というイメージです。さらに、法1条は、「交通の発達」への寄与は公共の福祉の増進という目的を掲げていることから、通行の利益の保護という法の趣旨・目的も読み取ることできます。法1条は分かりやすく規定されている場合が多いので、できる限り指摘しておきたいですね。このように、処分の根拠規定及び目的規定は必ず指摘しておく必要があります。
以上からすると、法71条1項1号所定の監督処分の発令により、「交通の支障」を解消・防止することで、本件市道の通行の利益という具体的な利益が保護されるという関係にあります。したがって、法71条1項1号および法43条2号は少なくとも本件市道を利用する者の通行利益を保護する趣旨であるということができます。この段階では、あくまで一般公益として保護されているという段階にとどまるので、ステップ3のところで補強していく必要があります。
1 考え方
法71条1項1号及び法43条2号の趣旨が本件市道を利用する者の通行利益を保護することにあるとしても、法は上記の利益を一般公益に吸収解消させるにとどめず、個々人の個別的利益として保護しているといえなければ、Xらに原告適格が認められることにはなりません。そこで、ステップ3では行訴法9条2項の後半部分の当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質、について検討していく必要があります。
ここで、再度行訴法9条2項を見てみましょう。行訴法9条2項は、「当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。」と規定していますので、これらの観点から本件において具体的に本件市道を通行する者にどのような不利益が生じるのかを検討していけば良いことが分かります。
まず、利益の内容については、人の生命・身体といった一度侵害されれば回復が困難な利益なのか、あるいは財産的利益のような事後的に回復が可能な利益なのかを分析する必要があります。高次の利益が侵害される可能性があるほど、違法な処分がされた場合に回復困難な損害が生じることを指摘しやすいですから個別的な利益として保護されていると解釈しやすくなります。次に、利益の性質については侵害された際の回復困難性に着目すると良いです。最後に利益の害される態様及び程度については、侵害される際の反復継続性だったり、距離に応じて侵害の程度が増大したりするかに着目すると良いです。
2 本問の検討
本問で問題となっているのは、本指導の通行利益ですので、誰もが有している利益であって公益的な側面が強いです。このような公益性の強い利益が問題となっている場合には、判例上、原告適格が否定されるか原告適格を認めるとしても非常に狭い範囲でしか認めない傾向にあります(大阪サテライト事件参照)。そのため、Xらの原告適格を認めるためには、かかる通行利益を補強してあげる必要があります。つまり、通行利益を単なる通行利益とは捉えずに、より高次な利益と組み合わせて考えることで、通行利益をより重大な利益であると強調してあげるわけです。
本問では、本件市道の交通の支障のため他の道路を通行せざるを得ないとすれば、迂回先の交通量の多いB通りで交通事故に遭ったり、災害時に避難が遅れたりして、負傷や死亡するリスクが高まるといえます。これにより、本件市道の通行利益が害されることで通行利益という公益的利益のみならず、より高次な生命・身体という利益が害される危険があるということができます。つまり、被侵害法益は、本件市道を通行できないことに伴い生じる生命・侵害を害されない利益であると考えることができます(被侵害法益の内容)。
Xらが交通事故や災害時の避難の遅れなどに伴い負傷という結果が生じれば、それは事後的に回復が困難な性質の不利益であるといえます(被侵害法益の性質)
そして、本件市道を日常的に利用する者にとっては、上記の生命・身体の危険は一般的抽象的なものにとどまらず、より具体的な危険として想定されることになります。また、本件市道に近ければ近いほど本件市道の利用頻度は高まりますので、本件市道を利用できないことにより被る不利益の程度は大きくなるといえるでしょう(利益の侵害の態様・程度)。
以上からすれば、法は本件市道を利用する者の交通の支障により生命・身体が害されないという通行利益を個別的利益として保護する趣旨であると考えることができます。したがって、上記の利益を有する者に原告適格が認められることになります(規範の定立)。
X1、X2共に、本件市道の近くに居住しており、本件市道を日常的に利用しているといえます。それだけにとどまらず、X2はC小学校への通学路として現実に本件市道を利用してきた者であるし、X1は通学路しては本件市道を利用していない者の、Xらは両名とも災害時には本件市道を緊急避難路として利用する予定でした。そうすると、Xらが本件市道を通行できないことにより、Xらには生命、身体に関わる著しい不利益が生じる恐れがあるといえます。そして、現に本件フェンスが設置されたことによりXらはB通りを迂回せざるを得なくなっていますので、両名の災害時の避難の遅れによって負傷または死亡する危険が十分に高まっていると考えることができます。
したがって、Xらは本件市道の交通の支障により生命・身体が害されないという通行利益を有する者に当たりますので、「法律上の利益を有する者」として原告適格を肯定することができるでしょう。
以上のA答案とC答案の論述を見てもらうと分かるように、規範についてはA答案もC答案も差はありません。しかし、A答案とC答案の当てはめを見てみると、その差は明らかであることがお分かりいただけると思います。
まず、A答案は処分法規の趣旨及び目的を検討するに際して、法43条を指摘できているのに対して、C答案は法1条の目的規定しか指摘することができていません。この点からは、条文を適切に拾うという点からも差が生じてしまっていると分析することができます。
そして、A答案は法1条と法43条を指摘した後に、「それに違反した者に対し監督処分を出すことができると規定する(法71条1項1号)。これらのことからすれば、法は、道路を交通する者の交通する権利を守り、交通の発展に寄与する趣旨であるといえる。」と論述しており、道路法がこのように規定する趣旨及び目的について検討することができています。これに対して、C答案は法1条を指摘するだけでこの条文がどのような趣旨及び目的で規定されたものなのかを検討することができていません。この点からは、ステップ2の出来不出来で点数差が開いたと分析することができます。
最後に、A答案は、「前述したように、本件市道を交通できなければ、Xらは生命にかかわる重大な損害を負う可能性がある。そして、一度交通事故や災害時の避難の遅れにより負傷結果や死亡結果が生じれば、それは事後的に回復が困難である。」と指摘できているのに対して、C答案は、「Xらは、本件土地上に居住する住民であり、 X2は、日々本件市道を通学路として利用している。X1も災害時の緊急避難路として、本件市道を使用する予定のある者である」と指摘するにとどまっており、処分において考慮されるべき利益の内容及び性質について、A答案は利益の内容を明らかにして、回復が困難な性質を有していることまで指摘できているのに対して、C答案はこれらの点に全く言及することができていないのが分かります。上記の点からは、ステップ3の出来不出来でも点数差が開いていると分析することができます。
A答案についても法に反した処分がされた場合に、被侵害法益がどのような態様でどのような程度侵害されるのかという点までは言及できていませんが、それでもC答案と比較すると、A答案は非常によく書くことができているのがお分かりいただけることと思います。
司法試験は、相対評価ですので、周りの受験生よりも優れた答案を書くことが大切であって、模範答案のような完璧な答案を書くことは求められていません。そのため、上記のA答案のように基本的なポイントさえ抑えた論述が展開できていれさえすれば、たとえ検討忘れの点があったとしても、十分合格答案に達することができることも合わせて付言しておきます。
いかがでしたでしょうか。原告適格を苦手とする受験生は多いですが、原告適格は行訴法9条2項の規定に忠実にしたがってポイントを抑えた論述さえできていれば、十分に合格答案に達することがお分かりいただけたと思います。原告適格を苦手とする受験生の多くは、行訴法9条2項の規定をないがしろにしており、法令の趣旨及び目的の検討が不十分だったり、考慮されるべき利益の内容及び性質についての言及ができていなかったりします。司法試験は法律実務家を登用するための試験ですから、受験生の皆様には、「条文に忠実に検討する」という姿勢を忘れないでもらいたいです。
今回もBEXA記事「たまっち先生の論文試験の合格答案レクチャー」をお読みくださり、誠にありがとうございます。
今回は「平成29年 司法試験 公法系科目(行政法)原告適格」について解説いたしました。次回以降も、たまっち先生がどのような点に気をつけて答案を書けば合格答案を書くことができるようになるかについて連載してまいります。ご期待ください。
2022年5月15日 たまっち先生
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