こんにちは、たまっち先生です。
第2回となる今回は、令和2年度予備試験の刑法を題材として、優秀答案と不合格答案のどこで差がついたのか、両答案を比較・分析しながら、どのような点に気をつければ優秀答案を書けるようになるのかについてレクチャーしていきたいと思います。
令和2年司法試験予備試験問題文
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詳しくは(https://www.moj.go.jp/content/001330821.pdf)を参照
第2回として予備試験令和2年刑法を選んだ理由は、令和2年の刑法は2項詐欺罪における欺く行為の当てはめで差がついた問題だということができるからです。詐欺罪は予備試験、司法試験のいずれにおいても超頻出論点であるにもかかわらず、詐欺罪の実行行為たる欺く行為の当てはめを苦手とする受験生は非常に多いという現状があります。
詐欺罪が出題された際には、欺く行為の当てはめの出来不出来で評価が決まると言っても過言ではないくらい欺く行為の当てはめは重要な役割を有しています。そのため、受験生の皆様には、本記事をきっかけとして、詐欺罪の欺く行為の認定を完璧にマスターしてもらいたいと考えています。本記事を読めば、欺く行為の当てはめで注意すべき点を理解できますし、逆に言えばその部分さえ気をつけて論じることができれば、詐欺罪に対する苦手意識が克服できると考えています。
【欺く行為の要件】
「欺く行為とは、相手方が財産的処分行為を行う上で判断の基礎となる重要な事実を偽ることをいうとされています。これを細かく3つに分けると以下のようになります。
①偽る行為であること
②財産的処分行為を行う上で判断の基礎となる事項であること、
③重要な事実であること
今回の記事は、B E X Aの考える「合格答案までのステップ」との関係では、「7、条文・判例の趣旨から考える」と「8、事実を規範に当てはめできる」との関連性が強いです。
合格までのステップの詳細は(https://bexa.jp/columns/view/302) をご参照ください。
まず、「7、条文・判例の趣旨から考える」との関連性についてですが、令和2年度予備試験の刑法では2項詐欺罪について問われており、気付いた方も多いと思いますが、詐欺の部分については著名な2つの最高裁判例を意識して作成されていると考えられます。
その2つとは、最高裁平成26年3月28日に同時に出された2つの判例(以下、最高裁平成26年3月28日判決・刑集63巻3号582頁を判例①、最高裁平成26年3月28日判決・刑集63巻3号646頁を判例②と言います。)になります。事実関係は非常に似ており、いずれも暴力団員によるゴルフ場の利用が問題となった事例でした。
しかしながら、最高裁は判例①については詐欺罪の成立を否定したのに対して、判例②については詐欺罪の成立を肯定しました。最高裁が判例①と判例②の結論をあえて分けた理由がまさに欺く行為の当てはめなのです。そのため、欺く行為の当てはめについて理解することは詐欺罪における超重要判例である判例①と判例②の趣旨を理解することに繋がるといえると考えられます。
次に、「8、事実を規範に当てはめできる」との関係では、判例①と判例②がどのような理由によって結論を分けたのかを頭では理解できていても、実際の問題を解く際にどのような事実を拾ってその事実をどのように評価すれば高得点を狙えるかまで理解できていなければ、受験の世界では全く通用しません。そのため、本記事では、当てはめの際に問題文のどのような事実に着目し、その事実をどのように評価すれば良いのかという点までレクチャーすることで真の実力向上を図っていきたいと考えています。
判例①は、宮崎県のゴルフクラブの事件で、最高裁は詐欺罪で有罪とした福岡高裁を破棄し一点無罪としました。これとは逆に、判例②は、長野県のゴルフクラブの事件で、被告人が高裁の有罪判決についてした上告を、最高裁が棄却し有罪判決を維持しています。いずれの事案でもクラブ側は利用細則または会員約款で暴力団関係者の施設利用を拒絶する旨規定していたにもかかわらず、なぜ反対の結論が出たのでしょうか。それには、判例①と判例②には以下のような事案の違いがあったからです。
判例①は、クラブハウスの出入り口に「暴力団関係者の立入り、プレーはお断りします。」との看板を立てていたものの、受付表に暴力団関係者かどうかを確認する欄はなく、その他暴力団関係者でないことを誓約させる措置は講じられておらず、暴力団員も、受付表に自分の住所、氏名、住所、電話番号を偽りなく記載していたという事案であった。
このような事案で最高裁は、「上記の事実関係の下においては、暴力団関係者であるビジター利用客が、暴力団関係者であることを申告せずに、一般の利用客と同様に、氏名を含む所定事項を偽りなく記入した『ビジター受付表』等をフロント係の従業員に提出して施設利用を申し込む行為自体は、申込者が当該後留上の施設を通常の方法で利用し、利用後に所定の料金を支払う旨の意思を表すものではあるが、それ以上に申込者が当然に暴力団関係者でないことまで表しているとは認められない。そうすると、本件における被告人及びDによる本件各ゴルフ場の各施設利用申込み行為は、詐欺罪にいう人を欺く行為には当たらないというべきである。」、「Cクラブの施設利用についても、ビジター利用客である被告人による申込み行為自体が実行行為とされており、会員であるEの予約等の存在を前提としているが、この予約等に同伴者が暴力団関係者でないことの保証の趣旨を明確に読み取れるかは疑問もあり、また、被告人において、Eに働きかけて予約等をさせたわけではなく、その他このような予約等がされている状況を積極的に利用したという事情も認められない。これをもって自己が暴力団関係者でないことの意思表示まで包含する挙動があったと評価することは困難である。」と判示し、詐欺罪の成立を否定しています。
判例②は、クラブを利用した暴力団員が「予約承り書」に苗字と名前をメンバー同士で交錯させ、乱雑に書き、それを非暴力団員である会員Aにフロントに待って行かせ、フロントが仕方なく改めて清書せざるを得ず、Aは入会の際、暴力団または暴力団員との交友関係はないとアンケートに答え、かつ、暴力団関係者を同伴・紹介しない旨の誓約書をクラブに提出し、クラブは、長野県防犯協議会事務局から提供された暴力団排除情報をデータベース化し、予約時ないし受付時に利用者の氏名が同データベースに登録されていないか、確認をしていたという事案である。
このような事案で最高裁は、「以上のような事実関係からすれば、入会の際に暴力団関係者の同伴、紹介をしない旨誓約していた本件ゴルフ倶楽部の会員であるYが同伴者の施設利用を申し込むこと自体、その同伴者が暴力団関係者でないことを保証する旨の意思を表している上、利用客が暴力団関係者かどうかは、本件ゴルフ倶楽部の従業員において施設利用の拒否の判断の基礎となる重要な事項であるから、同伴者が暴力団関係者であるのにこれを申告せずに施設利用を申し込む行為は、その同伴者が暴力団関係者でないことを従業員に誤信させようとするものであり、詐欺罪にいう人を欺く行為にほかならず、これによって施設利用契約を成立させ、Yと意を通じた被告人において施設利用をした行為が刑法246条2項の詐欺罪を構成することは明らかである。」とした上で詐欺罪の成立を肯定しています。
このように、最高裁は、欺く行為の判断に当たり、重要な事実、行為者の欺罔が財産的損害を発生させるような事実を偽ったものであったか否かで結論を分けていると分析できます。判例①と判例②の事案では、246条2項の2項詐欺罪が問題となっていますので、ゴルフ場には暴力団関係者にゴルフ場が利用されることによりどのような財産的損害が生じるかを考えてみると、「暴力団関係者にゴルフ場を利用されることにより生じる利用客の減少という不利益」を想起することができます。したがって、欺く行為に当たるかどうかは、判例①と判例②における行為者の行為が「暴力団関係者にゴルフ場を利用されることにより生じる利用客の減少という不利益」を生じさせるようなものであったか否かを判断すれば良いということになります。
すなわち、判例①では、ゴルフ場側が暴力団排除をうたってはいたものの、受付表等には暴力団排除を明示しておらず、このような事情から最高裁は、行為者の行為は、「申込者が当然に暴力団関係者でないことまで表しているとは認められない」、「・・・自己が暴力団関係者でないことの意思表示まで包含する挙動があったと評価することは困難である」として欺く行為には当たらないと判断しています。つまり、行為者の行為は、自身が暴力団関係者ではないことまでを表示しているとはいえないため、「暴力団関係者にゴルフ場を利用されることにより生じる利用客の減少という不利益」に向けられておらず、重要な事実を否定しているわけです。
他方で、判例②のように、暴力団関係者でないことまで誓約させ、暴力団排除情報をデータベース化し、予約時ないし受付時に利用者の氏名が同データベースに登録されていないか、確認をしていたという事案においては、もはやこの段階に至っている場合には、行為者の行為は、自身が暴力団関係者ではないという表示までを含んでいるため、「暴力団関係者にゴルフ場を利用されることにより生じる利用客の減少の不利益」に向けられたものであると解し、重要な事実に当たると認定したと分析することができます。
上記2つの優秀答案を見ていく中で共通していることがあります。それはいずれの答案も私が本記事の冒頭で指摘した①〜③の要素を全て検討できているという点です。当然だと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、これは意外と簡単なことではありません。詐欺罪にいう欺く行為は、詐欺罪の実行行為です。ご承知の通り、実行行為とは構成要件的結果を発生させる現実的危険性を有する行為をいい、詐欺罪に置き換えて考えてみると、欺く行為は、財産上の損害を発生させる現実的危険性を有していなければならないことになります。つまり、欺く行為の認定の中で、財産犯に必要とされる財産上の損害も同時に認定しておく必要があるのです。違和感を感じた方もおられるかもしれませんが、上記の優秀答案を見ると、優秀答案は実行行為の中で財産上の損害についても認定することができていることがお分かりいただけると思います。また、そもそも財産的損害を発生させないような事項を偽ってしかいないのに詐欺罪の実行行為性を認めてしまうと詐欺未遂罪が成立してしまうことになり、およそ実務では考えられない結論を導くことになります。これらの点からすると、実行行為をあてはめる段階で財産的損害について検討することは合理的なものだと言えるでしょう。
まず、優秀答案1を見ると、「本件条項及び、暴力団組員に不動産を使用させるとその不動産の資産価値が下がることから、B は甲が X 組員であると知れば、本件賃貸借契約を締結しなかったといえるため、B の錯誤は処分行為の判断の基礎となる重要事項に関するものであったといえる」と記述しており、「不動産価値が下がる」という部分から、Bに生じる財産的損害の認定を読み取ることができます。また、優秀答案2についても「Bが暴力団関係者と知っていればBと賃貸借契約を締結することはなかったであろうし、暴力団関係者が不動産を賃借して居住するとその資産価値が低下する恐れがあるのだから、暴力団関係者と賃貸借契約を締結しないことは重要な関心事であり、常に念頭に置かなければならない事であるといえる。」と記述しており、「その(本件居室の)資産価値が低下する恐れがある」という部分から財産的損害の認定を読み取ることができます。
以上の検討から分かるように、優秀答案が高く評価されている理由として、「人を欺」く行為の認定の中で、重要事項性の認定を丁寧に行っていることが挙げられるといえるでしょう。出題趣旨では、『2項詐欺罪の成否が問題になるところ、主に論ずべき点として、客観的構成要件要素である「人を欺く行為」(欺罔行為)の意義を示した上で、甲には家賃等必要な費用を支払う意思も資力もあったことを踏まえつつ、甲の属性(暴力団員であるか否か)や、本件居室の使用目的(暴力団と関係する活動か否か)が、 前記契約締結の判断の基礎となる重要な事項といえるか否かを検討する必要がある』と指摘されており、重要事項性の認定には、配点が多く割り当てられていたと予想することができます。
他方で、不合格答案を見てみると一見事実をふんだんに使って丁寧に検討できているように思えます。しかし、本問で最も大切である重要事項性の検討が不十分になっています。
具体的にいうと、まず1点目として、問題文の事実を拾うことはできているものの、事実に対する評価を加えることができていません。刑法は特に、事実を評価するという点に重点が置かれており、事実をどのように評価できているかで点数の差が開きます。そのため、C答案のように事実が評価されていなければ相対的に低い評価にとどまる恐れがあると言えるでしょう。次に2点目としては、重要事項性の当てはめが不十分であるという点です。これが不合格答案と合格答案との決定的な差だと言えると考えられます。合格答案を検討した際にも指摘したように、重要事項性の当てはめは財産的損害の認定で決まります。それを前提に不合格答案を見ると、合格答案では書かれていたはずの不動産価値が低下する等の財産的損害に関する当てはめが一切見受けられません。そのため、不合格答案の当てはめでは、財産犯たる詐欺罪において最も大切といえる財産的損害について検討ができていないことになり、甲の行為がおよそ財産的損害を生じるかどうかわからない行為であるにもかかわらず、詐欺罪の実行行為性を肯定してしまっていると評価されるわけです。これでは、詐欺罪についての基本的な知識が不足していると判断され、低い評価を受けることになってしまいます。
以上のように、同じ事実を拾えていても、判例が事実をどの部分を重視して判断を示しているかを理解していなければ、当てはめで書き負けることになります。受験生の皆様には、この点を十分に意識して答案を作成するように心がけてもらいたいと考えています。難しいと思われた方もいらっしゃったかもしれませんが、判例①と判例②は重要事項性の認定で判断が分かれた判例であるという点さえ理解していれば、詐欺罪の検討をする際には重要事項性の認定には注意しなければならないことは気付けるはずです。あとは、問題文に落ちている事実の中で判例が重視した事実を拾い上げて自分なりの評価を加えることができれば、十分評価される答案が書けるはずです。
では、最後に復習がてら令和2年度予備試験刑法の2項詐欺罪の欺く行為について、一緒に検討してみましょう。
2項詐欺にいう欺く行為とは、財産的処分行為を行う上で判断の基礎となる重要な事実を偽ることをいいます。
この要件は、①偽る行為であること、②財産的処分行為を行う上で判断の基礎となる事項であること、③重要な事実であること、の3つに分解することができます。そして、今回レクチャーしたように、上記③にいう重要な事実とは、詐欺罪が財産犯であることに鑑み、財産的損害を発生させるような事実であると考えられています。
令和2年度予備試験刑法の問題文を見てみると、賃貸借契約書には「賃借人は暴力団員又はその関係者ではなく、本物件を暴力団と関係する活動に使いません。賃借人が以上に反した場合、何らの催告も要せずして本契約を解除することに同意します」との本件条項が設けられていたこと、「前記マンションが所在する某県では、暴力団排除の観点から、不動産賃貸借契約には本件条項を設けることが推奨されていた」こと、及び「実際にも、同県の不動産賃貸借契約においては、暴力団員又はその関係者が不動産を賃借して居住することによりその資産価値が低下するのを避けたいとの賃貸人側の意向も踏まえ、本件条項が設けられるのが一般的であった」ことがわかります。このような事情からは、本問は、判例②に類似した事案であると評価することができますよね。
以上からすれば、甲が本件賃貸借契約書に署名・押印することは、甲は本件条項に同意することを示すものであって、甲が暴力団組員でないとの黙示的な表示であると言えます。したがって、挙動によって、相手方Bを偽っていると言えます(①)。なお、補足ですが、本件では作為義務が観念できない以上、甲の行為はあくまで作為によるものであって、不作為による欺罔ではないので、注意してください。
そして、本件条項の規定からすると、Bは甲が暴力団員であるという真実を知っていれば、賃貸借契約に応じなかったと考えられるため、甲が暴力団員であるかどうかという事実は、Bが賃貸借契約を締結するかどうかについて判断の基礎となっていたと評価することができます(②)。
さらに、賃貸借契約は、「甲がマンションに住むことができる法的地位」を与えるものであり、賃貸借契約の締結自体によって、甲はマンションを適法に利用できる地位を得ることできます。他方で、Bは本来使用させたくない暴力団員甲にマンションを利用されることによって甲にマンションを利用されてしまうという損害や本件マンションの不動産価値が低下する等の財産的損害を生じることになりますので、甲が偽った事実は、財産上の損害に直結する事実であるといえ、重要な事実であると評価できます(③)。重要事項性とはまさに、上記したようなマンションを利用されてしまうという損害だったり、不動産価値が低下したりという財産的損害に直結するような事実を指しますので、この部分は絶対に答案に示すようにしてください。これは、本問に限らず、1項詐欺罪についても妥当することですので、絶対に理解しておくと良いと思います!
以上からすれば、甲の行為は2項詐欺罪の実行行為たる欺く行為に当たると評価できます。
今回は、合格答案と不合格答案の比較検討を通じて、詐欺罪にいう欺く行為の当てはめ方についてレクチャーさせていただきました。一見すると同じ事実を拾えていても、事実の評価の仕方でこれほど評価に差が生まれるということが分かっていただけたかと思います。それと同時に、刑法においても他の科目と同様に、判例の趣旨を正確に理解するのが大切であることも分かっていただけたのではないでしょうか。
受験生の皆様は、機械的に過去問演習をするのではなく、合格答案と不合格答案のどの部分に違いがあるのかを分析し、それを自主ゼミ等の議論の対象にしてみてもいいかもしれません。
本記事が、受験生の皆様の受験勉強に少しでもお役に立てば幸いです。
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2022年4月11日 たまっち先生
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