法曹を志した原点は読書にあります。警察官である父の影響もあり、中学生の頃から警察小説や司法を題材とした小説を好んで読んでまいりました。宮部みゆき『火車』では、法の知識を持たないがゆえに追い詰められていく人間の姿に強い印象を受けました。薬丸岳『天使のナイフ』や高野和明『13階段』では、刑事手続の陰で声を上げられずにいる人々の存在に心を動かされました。これらの作品を通じて、法は知る者を守る一方で、知らない者を窮地に追いやることもあると実感し、自らその知識と力を身につけたいと考えるに至りました。
愛知大学法学部に進学後、最初の2年間はアルバイトと趣味に明け暮れていましたが、2年次の終わりに司法試験を志すことを決意しました。周囲の友人の多くが就職活動へと歩みを進める中、共に学ぶ仲間は一人を除いておらず、心細い出発ではありました。それでも、予備試験・法科大学院のいずれの経路を選ぶにせよ、この時期を逸しては間に合わないという切迫感が決断を後押ししました。
生活費の大半を自ら賄っていたため、予備校の選定には経済的な制約が伴いました。費用が手頃であることと教材の分量が過大でないことを基準に予備校を選び、勉強を始めました。
3年次の4月から約9か月間、基礎講座を通じて、論点の処理と事例への当てはめという答案作成の基本を学びました。4年次には予備試験を受験したものの、論文式試験の法律実務基礎科目および選択科目に十分な対策時間を割くことができず、結果は芳しくありませんでした。法科大学院入試の準備と並行していたために、限られた時間が分散したことも否めません。この経験から、法科大学院の授業と予備試験対策の両立は現実的でないと判断し、大阪大学法科大学院既修コースへの進学に目標を一本化しました。
顧みれば、精神的に最も苦しかったのはこの入試直前の時期でした。私の通っていた法学部はいわゆる難関校ではなく、法曹を目指す学生の水準を肌で知る機会がありませんでした。そのため、自分の実力が法科大学院入試においてどの程度の位置にあるのか、相場観を持つことができませんでした。入試には合格の目安となる点数が明示されているわけでもなく、合格できるかどうかの見通しはまったく立ちませんでした。加えて、仮に合格したとしても在学中受験までさらに約2年の研鑽を要し、その先の合格も何ら保証されていませんでした。友人たちが次々と社会に出ていく中で、自分だけが終着点の見えない道を歩み続けているという感覚は、想像以上に重くのしかかりました。
11月末に合格が決まり、1年半近くにわたる努力により一応の成果が出たことに深く安堵しました。ただ、その安堵から気が緩み、入学までの約4か月間をほとんど勉強せずに過ごしてしまいました。
その影響は入学後すぐに現れました。法科大学院の授業は入試水準の知識が身についていることを前提に進みますが、私はその多くを忘れてしまっており、授業についていくことさえ容易ではありませんでした。加えて、生活費を賄う必要からアルバイトを減らすこともできず、入学後約4か月間の学習時間は1日平均3時間程度にとどまりました。その結果、最初の期末試験では学内順位が入試時から大きく後退しました。
同級生との交流には大いに救われ、新たな環境での生活そのものは充実していました。しかし学習面では周囲との差を痛感する場面が続き、このままでは到底間に合わないという危機感が日増しに募っていきました。
6月頃からは、非常に優秀な友人3人とともに、週1回、司法試験の過去問を起案して答案を検討し合う自主ゼミを始めました。ところが、初めて本試験の問題に取り組んだ際には、制限時間内に答案の半分も書き切ることができませんでした。短文事例問題集の知識だけでは太刀打ちできない問題が少なくないことを思い知らされました。基本書の精読に立ち返るべきか、授業の復習に注力すべきか判断がつかないまま、学習は暗礁に乗り上げてしまいました。
この迷走は8月末まで続きました。取り組むべき課題が増える一方で、生活のために減らすことのできない週4〜5回、計20〜25時間のアルバイトもあり、いずれも消化不良のまま日々が過ぎていきました。
転機となったのは、自主ゼミで合格者の再現答案を読んだことでした。そこで、合格答案に求められる水準が、私が想定していたほど高いものではないことに気づきました。
その後しばらく再現答案の分析に時間を充てるうちに、この認識は確信へと変わりました。合格答案は、必ずしも高度な知識や誤りのない論証によって構成されているわけではありません。短文事例問題集で扱う基本論点を正確に書き切り、周辺知識で補強できていれば、合格水準には十分に届き得ます。今にして思えば、それまでの私は到達すべき目標を過大に見積もり、本来不要な努力まで抱え込んでいたように思います。
目標が明確になったことで、学習の取捨選択の基準も定まりました。その学習が得点にどれだけ寄与するかという基準です。これに照らし、全科目の過去問を全年度起案すること、基本書の通読、難度の高い演習書への取組みは、いずれも自分には不要と判断しました。そのうえで、信頼に足る教材を絞り込んで反復することに専念しました。
極端な例ではありますが、選択科目の労働法に至っては過去問を1年分も起案せず、試験前日に直近の出題形式を確認したのみでした。
論文対策の軸に据えたのは、短文事例問題集と論証集です。論証集は予備校のものをそのまま用いるのではなく、不足を感じた箇所に基本書等から必要な記述を補い、自分専用の一冊に仕立てました。基本書は通読せず、必要な箇所を適宜参照するにとどめ、そこで得た知識はすべて論証集に集約しました。
情報の集約先を一つに定めたことで、基本書を幾度も読み返す必要がなくなり、限られた時間を復習に充てることができました。直前期にはこの一冊を繰り返し読み込み、記憶の定着を図りました。手法自体は簡素なものですが、自らの理解の進度に合わせて手を入れ続けたことで、最後まで信頼を置ける教材になったと考えています。
時間が足りないことや、入学前後に十分な勉強ができなかったことを嘆いても、状況が好転するわけではありません。問うべきは、与えられた条件の下で何が最善の方法かということです。そのように考えを改めてからは、目の前の課題に集中できるようになりました。
こうして2025年、法科大学院在学中に、初回の受験で司法試験に合格することができました。入学後の総学習時間は約1,900時間、1日平均にして約4時間であり、受験生の中では決して多い部類ではないと思います。
学習の深度は科目ごとに変えました。労働法や民法は出題範囲が広く、同一の論点がそのまま繰り返し問われることは比較的少ないと判断し、過去問の深掘りよりも基礎知識の確認と重要分野の演習を優先しました。
他方、刑法と刑事訴訟法は、同じ論点が形を変えて繰り返し問われるうえ、時間内の処理能力が得点を大きく左右する科目です。そこでこの2科目を過去問演習の最重点に位置づけ、反復して起案することで処理の速度と精度を高めました。その結果、刑法・刑事訴訟法ではA・Bの評価を得ることができ、最後まで苦戦した憲法も、合格ラインを超えることができました。
合否を分けたのは学習時間の多寡ではなく、何に時間を費やし、何に費やさないかという判断の質であったと考えています。アルバイトと両立する中で、時間がないから無理だと諦めかけたことは一度ならずありました。それでも、時間がないからこそ注力すべき対象を見極めるという姿勢を最後まで崩さなかったことが、合格につながったと考えています。
今後は特定の分野にとどまることなく、幅広い領域において依頼者の多様なニーズに応えられる弁護士を目指してまいります。
私自身、時間的に恵まれていたとは言い難い受験生でした。しかし、その制約があったからこそ、何をやり、何をやらないかを考え抜くことができたのだと思います。司法試験は、勉強時間を積み増せば合格できるという性質の試験ではありません。合格に何が求められ、自分に何が欠けているのかを見極めたうえで、必要なことに力を集中させることが肝要です。
学習時間が限られていることは、必ずしも不利な条件ではありません。制約を前提として戦略を練り、信じた教材を愚直に繰り返せば、合格は十分に手の届くところにあります。受験生諸賢のご健闘を心より祈念しております。
| 区分 | 教材 | 提供 |
|---|---|---|
| 憲法 | 『司法試験&予備試験 短答過去問パーフェクト 憲法』 | 辰已法律研究所 |
| 憲法 | 『憲法 逐条テキスト』 | 早稲田経営出版(Wセミナー) |
| 民法 | 『司法試験・予備試験 合格セレクション 民法』 | 編:伊藤塾 監修:伊藤真 出版社:日本評論社 |
| 民法 | 『民法 逐条テキスト』 | 早稲田経営出版(Wセミナー) |
| 区分 | 教材 | 提供 |
|---|---|---|
| 全科目共通 | 『総合講義 論証集(全科目)』 | アガルートアカデミー |
| 全科目共通 | 『司法試験・予備試験 重要問題習得講座』 | アガルートアカデミー |
| 科目 | 教材 | 提供 |
|---|---|---|
| 憲法 | 『読み解く合格思考』 | 辰已法律研究所 |
| 憲法 | 『憲法の流儀』 | BEXA |
| 憲法 | 『総まくり論証集 憲法』 | 加藤ゼミナール |
| 憲法 | 『憲法ガール』 | 著者:大島義則 出版社:法律文化社 |
| 科目 | 教材 | 提供 |
|---|---|---|
| 民事訴訟法 | 『読解 民事訴訟法』 | 著者:勅使川原和彦 出版社:有斐閣 |
| 民事訴訟法 | 『民事訴訟法判例百選』 | 有斐閣 |
| 民事訴訟法 | 『リーガルクエスト 民事訴訟法』 | 著者:三木浩一・笠井正俊・垣内秀介・菱田雄郷 出版社:有斐閣 |
2026年4月10日 BEXA事務局
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