みなさん、こんにちは。
弁護士の伊藤たけるです。
この度は、平成29年司法試験&予備試験の受験、本当にお疲れ様でした!
私は、19日(金)の最終のサンダーバードで富山から大阪入りをして、20日(土)朝にマイドームおおさか、午後に日本橋TKP、21日(日)朝に早稲田、午後に五反田駅、夕方に青学と、強行軍でみなさんの応援に向かいました。
声をかけてくれた方、一緒にセルフィーを撮った方、握手をした方、本当にたくさんの受験生に会うことができました。
かつて私は、短答式試験が3科目になることで、ベテラン受験生とさがつかなくなるため、出題傾向が旧司法試験化すると主張して、BEXAの短答式という講義を配信しました。
あの頃は、まだBEXAは株式会社ではなく、任意組合であり、メンバーも今とは若干異なっているので、ちょっと懐かしいですね。
そんな昔話はさておき、平成29年司法試験の短答式は、いよいよ本格的に旧司法試験化したように感じます。
これまでは、判例肢が中心となり、学説肢はab問題という「bの記述はaの見解に対する批判となるか」というような論理問題が多く、芦部憲法から出題されていたのですが、今回から、旧4人組や辻村先生の教科書から出題されるなど、学説肢の知識が細かくなったように感じました。
私が解いていて気になった学説肢をいくつかご紹介しておきましょう。
天皇に関する次のアからウまでの各記述について,それぞれ正しい場合には1を,誤っている場合には2を選びなさい。(解答欄は,アからウの順に[№23]から[№25])
ア.天皇の人権には,天皇の象徴たる地位に基づく制約があり,特定の政党に加入することや国籍を離脱することは認められないが,学問の自由についてはかかる制約を受けることなく一般 の国民と同等に保障されている。[№23]
イ.判例は,天皇が日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であることに鑑み,天皇には民事裁判権が及ばないとし,摂政についても,天皇の名でその国事に関する行為を行うことから同 様であるとしている。[№24]
ウ.憲法第2条は,皇位が世襲のものである旨定めているところ,その具体的な在り方を定める皇室典範において,皇位の継承において皇長子の長子より皇次子を優先させることとしても 憲法に反するものではない。[№25]
アは、天皇には表現の自由や学問の自由について一定の制約があるとする旧4人組の見解によれば×ですが、一般的な教科書には書いていないように思います。
イは、判例は摂政については触れていないので×です。問い方が細かいですね。
ウは法律事項ですから○ですね。これは例年通りの難易度でしょう。
最高裁判所の規則制定権に関する次のアからウまでの各記述について,正しいものには○,誤っているものには×を付した場合の組合せを,後記1から8までの中から選びなさい。(解答欄は,[№ 36])
ア.最高裁判所は,裁判所の内部規律に関する事項について規則を定める権限を有するが,憲法第76条第3項は,すべて裁判官は憲法及び法律にのみ拘束されると定めているから,裁判官を対象とする事項を規則で制定することはできない。
イ.最高裁判所の制定する規則は,その対象となる事項が規則を制定した機関の内部事項に限られないという点で,議院規則と異なる性質を有する。
ウ.「この法律に定めるもののほか,非訟事件の手続に関し必要な事項は,最高裁判所規則で定める。」との非訟事件手続法第2条の規定は,憲法第77条第1項において規則の対象とされている「訴訟に関する手続」に非訟事件の手続が含まれないとの立場を前提としている。
1.ア○ イ○ ウ○ 2.ア○ イ○ ウ× 3.ア○ イ× ウ○
4.ア○ イ× ウ× 5.ア× イ○ ウ○ 6.ア× イ○ ウ×
7.ア× イ× ウ○ 8.ア× イ× ウ×
アはそんなわけないので、普通に×だとわかるでしょう。
イは○です。最高裁判所規則の対象は、憲法77条1項によれば「訴訟に関する手続、弁護士、裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項」ですから、とりわけ訴訟に関する手続では、内部事項に限られないことは判断できるでしょう。
問題はウです。おそらく、非訟事件手続法は、最高裁判所規則の「訴訟」に非訟も含まれるから、最高裁判所規則で定められる事項であることを前提に、第2条を置いたのでしょう。たとえば、金子修[編著]『一問一答・非訟事件手続法』(商事法務、2012年)36頁には、そのような記載があります。旧法のもとでは、日本国憲法が制定されていなかったため、規則で定める事項も法律で定めていましたが、非訟事件手続法を定めるにあたっては、日本国憲法が公布され、憲法77条で最高裁判所規則制定権があることから、あえて2条を置いたとされています。なお、「含まれない」からこそ、あえて法律が委任したのではないかという見解も想定されるかもしれませんが、委任の要件を欠いているため、難しいでしょう。
財政に関する次のアからウまでの各記述について,それぞれ正しい場合には1を,誤っている場合には2を選びなさい。(解答欄は,アからウの順に[№38]から[№40])
ア.「租税を除く外,国が国権に基いて収納する課徴金及び法律上又は事実上国の独占に属する事業における専売価格若しくは事業料金については,すべて法律又は国会の議決に基いて定めなければ ならない。」と規定する財政法第3条について,その根拠を憲法第83条の財政民主主義に求める見解に対しては,財政法第3条は,具体的な金額又は金額算定基準まで法律によって定めることま 要求していないのであるから,憲法第83条と矛盾することになるとの批判が妥当する。[№38]
イ.最高裁判所の判例によれば,個人への特別の給付に対する反対給付として当該個人に対して課する国民健康保険料のような金銭給付は憲法第84条の「租税」には当たらないと狭く解したとして も,「租税」以外の公課の賦課要件について定めた条例が憲法第84条の趣旨に反することはあり得る。[№39]
ウ.国費を支出するには国会の議決に基づくことを必要とするが,国費の支出に関する国会の議決は 使途の確定した支出についてなされるべきものであるから,使途が未確定である予備費を設けるこ とについては国会の議決を要しない。[№40]
アは、財政法3条と憲法の関係について問う、近年ではめずらしい問題です。
旧4人組Ⅱ337頁によれば、設問の見解は憲法84条の租税法律主義とする見解に対する批判なので、憲法83条の財政民主主義とする見解に対する批判ではなく×となります。
イは、判例百選出題ランキング講義でさんざん扱っている旭川市健康保険事件大法廷判決からの出題ですね。もちろん○です。
ウは×です。憲法87条1項は「予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基いて予備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができる。」と定めています。
憲法改正に関する次のアからウまでの各記述について,正しいものには○,誤っているものには×を付した場合の組合せを,後記1から8までの中から選びなさい。(解答欄は,[№41])
ア.憲法改正には,国民投票において「その過半数の賛成」を必要とするとされているが,日本国憲法の改正手続に関する法律によって,「その過半数」とは,有権者総数の過半数を意味するとされている。
イ.憲法第96条第2項は,国民の承認を経た憲法改正について,「直ちにこれを公布する」と定めているが,ここで「直ちに」とされているのは,公布を恣意的に遅らせてはならないことを定めたものである。
ウ.憲法を始源的に創設する「憲法制定権力」と憲法によって与えられた「憲法改正権」とは同質であるとの見解は,憲法改正の限界について理論上限界はないとする立場の根拠となり得る。
1.ア○ イ○ ウ○ 2.ア○ イ○ ウ× 3.ア○ イ× ウ○
4.ア○ イ× ウ× 5.ア× イ○ ウ○ 6.ア× イ○ ウ×
7.ア× イ× ウ○ 8.ア× イ× ウ×
アは、国民投票法126条が、有効投票(賛成票と反対票の合計のこと。無効票を除いている)の過半数としていることから×です。学説は、可能な限りハードルを上げようとして、有権者総数の過半数やら、投票総数の過半数を主張し、国民投票法が無効票を除いている点について批判しています。このように、学説の批判が強いところは、学説の見解を肢として出題する傾向は昔から変わりませんね。
イは、ネット上では×とする見解もあるようですが、辻村みよ子『憲法〔第5版〕』(日本評論社、2016年)517頁によれば○となるでしょう。知識としては、誰もが知っているとはいえないものですから、できないとしてもやむを得ないでしょう。
ウは○です。有名な議論ですが、憲法制定権力=憲法改正権ならば、何でも決められるという立場と親和的なのは、考えなくてもわかる話でしょう。
判例肢については、概ね、例年通りの傾向です。気になるものをいくつか見ていきましょう。
夫婦が婚姻の際に定めるところに従い夫又は妻の氏を称すると定める民法第750条の規定が,憲法第13条の規定に違反するか否かについて判示した最高裁判所の判決(最高裁判所平成27 年12月16日大法廷判決,民集69巻8号2586頁)に関する次のアからウまでの各記述について,それぞれ正しい場合には1を,誤っている場合には2を選びなさい。(解答欄は,アから ウの順に[№2]から[№4])
ア.前記判決は,氏名について,その個人からみれば,人が個人として尊重される基礎であり,その個人の人格の象徴であって,人格権の一内容を構成するが,具体的な法制度を離れて,氏が変更されること自体を捉えて直ちに人格権を侵害し,違憲であるか否かを論ずるのは相当ではないとした。[№2]
イ.前記判決は,氏には,名とは切り離された存在として社会の構成要素である家族の呼称としての意義があるとの点を強調して,婚姻を含めた身分関係の変動に伴って自らの意思に関わりなく氏が改められるとしてもやむを得ないという結論を導いている。[№3]
ウ.前記判決は,現行の法制度の下における氏の性質等に鑑み,婚姻の際に「氏の変更を強制されない自由」が憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるといえるとしつつも,結論として,民法第750条の規定が憲法第13条に違反するとまではいえないとした。[№ 4]
出ました!夫婦別氏訴訟判決です。最新判例もきちんと押さえてく必要があることがよくわかると思います。
アは、そのとおりの説示がありますので○です。
イは、やや難しいところです。おそらく○ではないかと思うのですが、家族の呼称としての意義を「強調」したといえるかは評価が分かれるところです。判決は、氏が制度に依存していることも理由としてあげていますから、家族の呼称としての意義だけを「強調」したとは言い難いとも思えます。正直、判断に迷う肢です。
ウは×です。判決は、指名を「人格権」としつつも、「氏の変更を強制されない自由」については保障を否定しています。
2017年5月23日 伊藤たける
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