46歳、未修、独学から、予備試験・司法試験ダブル合格へ。
きっかけは、同僚の過労死。「働く人を守りたい」その想いで、法律未経験から法曹を目指した木谷晋輔さん。
何度も不合格を経験しながら、環境を変え、勉強法を見直し、仲間と励まし合う中で合格をつかみ取りました。
本記事では、独学の限界と葛藤、合格につながった学び方、そしてモチベーションを保つ工夫まで、実体験をもとに紹介します。
司法試験を目指すようになったのは、40代半ばの頃です。大学卒業後、システムエンジニアとしてIT業界で約9年勤務していましたが、長時間労働により体調を崩し、退職を余儀なくされました。
また、在職中、同僚が過労死するという出来事に直面しました。同じ職場環境で働いていた私にとって、それは他人事ではありませんでした。「働く人を守れる立場になりたい」そんな思いが強くなり、弁護士という選択肢を意識し始めたのです。
ただ、私は法学部出身ではなく、法律の知識もゼロ。大学では文学を専攻しており、法律とは無縁のキャリアでした。さらに、経済的な理由からロースクール進学も難しかったため、予備試験ルートを選びました。情報も教材も少ない中、完全な独学での挑戦がスタート。「時間はあるが、何をどう学べばよいのか分からない」という不安を抱えながらの出発でした。
論文が書けずに行き詰まっていた頃、気持ちをリセットするために行政書士試験を受けました。短答対策にもつながるだろうという思いもありました。行政書士は選択式中心で「答えがある」試験。努力が点に反映され、過去問演習を重ねる中で、「積み上がっている」という実感が持てるようになりました。
独学での挑戦でしたが、無事に合格できたことは大きな転機でした。 「やれば結果が出る」「自分にもできる」という手応えが、次の一歩を踏み出す力になったのです。
予備試験の短答は2年連続合格した一方で、論文は遠く及ばない状況が続きました。このとき初めて、「どれだけ努力しても、自分のやり方では超えられない壁がある」と、独学の限界に気づきました。
そう感じたタイミングで見つけたのが、辰巳の奨学生制度です。論文答案の提出による選抜がありましたが、思い切って応募し、合格。無料で講座を受講できることになり、ここから独学からの脱却が始まりました。講義では、各科目のつながりや試験の出題意図など、「全体の構造」が初めて明確に見えてきました。
特に論文では、型の習得や論点の重要度に応じた書き分けなど、独学では気づけなかった視点が次々と得られました。それまでの私は、論文を書こうとしても構成に迷い、論点がぼやけてしまうことが多くありました。そこで取り入れたのが、「とにかく真似る」ことから始める答案作成法です。まずは模範解答を読み込んでから、同じ構成で写してみる。数日後に、白紙から自力で再現してみる。この「逆算型のプロセス」を繰り返すうちに、答案の型が少しずつ自分の中に定着していきました。
予備校を利用して臨んだ令和4年度の論文試験では、不合格とはなりましたが、あと10点というところにまで迫りました。順位は600〜700番台。次の年には合格できるとの手応えを感じました。
直前期になり、憲法の答案の型はある程度把握していたものの、具体的にどのような答案が評価されるのかピンと来ていませんでした。審査基準も「なんとなくで中間審査にする」など、なぜその審査基準にするのか、自分で答案を書きながらよくわかっていませんでした。
そんな中、たまたま憲法の流儀が半額セールというのを目にして、なにか参考になることがあればと思って受講することにしました。受講を進めるうち、なんとなくモヤモヤしていた憲法の疑問点が数多く氷解しました。「どういう点に着目して審査基準を定めるのか」の構造が可視化されました。憲法を要件事実的な観点からとらえることができるようになり、審査基準の定立で書くべきことに迷わなくなりました。また、適用違憲の書き方もいまいちわかっていなかったのですが、そもそも適用違憲にも種類があることなど目から鱗が落ちる経験を数多くしました。
受講当初は「2週間の短期集中で視聴しよう」という気持ちでスタートしましたが、想像以上に面白く、実際には1週間強くらいで全部に目を通しました。使い方に関しては、基本的には1周したあとテキストを確認する形をとりました。理解が薄いと感じた点については部分的に2、3周しました。また、講義での話をテキストに追記し、特に重要と感じた部分については別途一元化教材にまとめなおしました。
一人で黙々と勉強を続ける日々の中で、どうしてもモチベーションを維持することの難しさを感じていました。やる気が出ない日には「今日は気が乗らないから」と理由をつけて、つい手を止めてしまうこともありました。
そんな中、「同じ目標に向かって努力する仲間と学ぶ環境が必要だ」と考えるようになり、思い切ってロースクールへの進学を決意。一橋大学の法科大学院に入学し、同じ志を持つ仲間と切磋琢磨しながら学ぶようになりました。
そこで出会った仲間たちは、私よりもはるかに多くの時間を勉強に費やしながらも、それを苦しいとは思わずむしろ楽しんで取り組んでいるように見えました。その姿は、私にとってとても良い刺激になり、「自分ももっと工夫して頑張ろう」と自然と思えるようになりました。
そうして、朝7:30から夜22:00まで自習室に通い、仲間とLINEで日々の学習目標と進捗を共有するようになりました。「自主ゼミ」のような環境が自然と生まれ、孤独を感じることも少なくなりました。また、ロースクールでは場面ごとのルールも明確に。移動時間は音声講義、隙間時間は論証集、とあらかじめやることを決めて、迷わず集中できる状態を保っていました。
さらに、モチベーションを維持する工夫も取り入れました。
・髪色を変える(赤、青、緑など)ことで気分転換
・万年筆を新調して「書くこと」自体を楽しむ
・22時以降はアニメやゲームの時間にするなど、意識的な切り替え
勉強法を整えることも大切ですが、続けるための仕組みづくりや“楽しさ”も重要だと強く感じています。
これから予備試験・司法試験を目指す元社会人や未修の方に伝えたいのは、年齢や経歴がハンデになるとは限らないということです。むしろ、社会人としての経験や、「今の自分を変えたい」という気持ちのほうが、最後までやり抜く力になります。
私は、最初は独学でいけると思っていました。でも何年も受からず、「一人では限界がある」と思うようになったんです。そこから環境を変えて、講座を取り入れて、仲間と一緒に勉強するようになって、ようやく結果につながりました。
社会人は時間が限られているので、全部をやろうとしない。やることを絞る。使う教材も、信頼できるものに絞る。それが大事だと思います。
あとは、やっぱり「自分はなぜ司法試験を目指しているのか」、志を忘れないことです。私は「働く人を守りたい」という思いがあったから、どれだけ失敗しても、やめずに続けられました。
科目 | 使用教材 |
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憲法 | 辰巳法律研究所『短答過去問パーフェクト』 |
民法 | 辰巳法律研究所『短答過去問パーフェクト』 |
刑法 | 辰巳法律研究所『短答過去問パーフェクト』 |
科目 | 使用教材 |
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憲法 | 『基本憲法』/『伊藤たける 憲法の流儀』 |
行政法 | 『基本行政法』 |
民法 | 佐久間毅『民法の基礎』 潮見佳男『債権総論』 『完全講義 民事裁判実務[基礎編]』 『紛争類型別の要件事実』 |
商法 | 『ロープラクティス商法』 |
民事訴訟法 | 『リーガルクエスト民事訴訟法』/『ロジカル演習 民事訴訟法』 |
刑法 | 『基本刑法』/『応用刑法』/『刑法総論の悩みどころ』/『刑法各論の悩みどころ』 |
刑事訴訟法 | 『基本刑事訴訟法』 |
科目 | 使用教材 |
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労働法 | 『事例演習労働法』 |
2025年4月28日
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