こんにちは、たまっち先生です。
今回取り扱うのは、民事訴訟の基本原則である「弁論主義」についてです。
弁論主義の第1テーゼが裁判所は当事者の主張していない事実を判決の基礎とすることができないことを指し、ここにいう事実が主要事実であるという点は、予備試験、司法試験受験生の多くがご存知だと思います。
しかし、どのような事実が主要事実に該当するのかを正確に整理できている受験生はそう多くありません。そこで、今回は平成28年度予備試験の民事訴訟法設問1を題材として、弁論主義の考え方をレクチャーしていきたいと思います。
【A答案とC答案】
では早速、A答案とC答案を2つを見比べてみましょう。
設問1⑴
A答案は、Xの買い戻し合意の主張を第2の請求原因であると捉えて、譲渡担保が請求原因に対する抗弁となることを的確に分析できています。このように、訴訟物から請求原因を導き出し、XとY1の主張を適切に整理できている点は高く評価されたと思われます。譲渡担保の要件事実は①債務の発生原因事実、②債務を弁済できないときに債務の弁済のために目的物の所有権を移転させる旨の合意(譲渡担保の合意)、であると考えられるところ、Y1は②の事実について主張していないので、裁判所は②の事実を判決の基礎にすることができません。それにも関わらず、本件の裁判所は譲渡担保の合意があった事実を判決の基礎として認定しているため、弁論主義の第1テーゼに反するということになるでしょう。
他方でC答案は要件事実の理解の不十分さが答案に現れてしまっています。まず、本件の訴訟物が何であるのかを特定できておらず、その請求原因についても指摘することができていません。このように、XとY1の主張が法的にどのような主張であるのかを整理できていない点は減点の対象となったと考えられます。本問は弁論主義違反を導くことが求められている問題であり、譲渡担保の事実が主要事実であって、これを認定することが弁論主義違反に当たるというゴール自体は明確です。そうすると、このような設問で高得点を取るためには、結論が正確であるだけでは足りず、結論に至るまでの過程を丁寧に論述することに重点を置くべきだといえるでしょう。それにもかかわらず、C答案は譲渡担保の事実を認定したことが弁論主義に反するという結論部分のみしか論述できておらず、結論に至る過程を答案に論述することができていないので、結果として低い評価にとどまったと分析できます。
設問1⑵
A答案は、まず手続保障の観点から裁判所には法的観点指摘義務が課されることを指摘できています。その上で、Yらが譲渡担保という観点に気づかないと不当に敗訴することにある旨を指摘できています。これは、本件訴訟において、Xの主張によって①Y2からXが1000万円の債務を負っていること、②XがY1から甲土地を代金1000万円で買い戻す旨の合意があったこと、がすでに主張に現れていることを踏まえ、あとは譲渡担保の合意の事実さえ主張すればXの請求を棄却することができるにもかかわらず、Yらの知識不足が原因で譲渡担保の合意が訴訟に現れておらず、これのみが原因で本来勝訴するはずのYらが敗訴するという不当な結果が生じてしまうことを意識した論述だといえます。また、このような本件訴訟の状況からすれば、裁判所はYらに譲渡担保の合意を主張するよう促すものに過ぎないので、過度にYらに肩入れするわけではないといえ、裁判の中立性にも反しないことになるでしょう。
このようにA答案は、当事者の手続保証と裁判の中立性という2つの観点に着目して適切な結論を導き出せており高い評価が得られたでしょう。
他方、C答案は冒頭で「裁判所に釈明義務が認められるのか」という点を長名と論じてしまっており、およそ問われていない事項に関して答案の枚数を割いている点で非常に勿体ないです。余事記載については、減点されることはないと言われているものの、加点されない事項について長々と記載するのは時間が勿体ないですし、採点官の印象を悪くする恐れがあります。そのため、本問では釈明義務がそもそも認められるかという点については論じるとしても簡潔なものにとどめるべきだったでしょう。
また、問題の釈明義務違反の点についてはYらに手続保障がなかったことのみをもって釈明義務違反を論じており、裁判所がこのような釈明を行うことがYらに対する過度な肩入れとならないかという点や裁判の中立性の点から問題がないのかという点からの検討ができていません。このように、C答案は、一方的な検討にとどまっていることからA答案との差がついたと分析できると思います。
B E X Aの考える合格答案までのステップとの関係では、「5、基本的な事例問題が書ける」との関連が強いです。
釈明義務はさておき、弁論主義は民事訴訟の代表的な基本原則の1つであり、受験生としては必ず押さえておく必要がある論点です。解答に際し要件事実の理解が関わってくる点で難しい面もありますが、民事実務基礎の点数アップにも繋がりますので、頑張って習得して欲しいと思います。
平成28年度予備試験 民事訴訟法の問題を読みたい方は、⇩⇩をクリック
法務省:https://www.moj.go.jp/content/001198332.pdf
1 設問1⑴
⑴ 弁論主義の意義
弁論主義とは民事裁判における事実の認定に必要な資料(=裁判資料)の収集及び訴訟の場への提出が、当事者の権能でありかつ責任であるとする原則をいいます。弁論主義は、処分権主義と並んで「当事者主義」を体現する民事訴訟における重要な基本原理です。弁論主義の具体的な内容については、以下の3つの原則の集合体と理解するのが現在の一般的な考え方です。
① 主張原則(弁論主義の第1テーゼ):裁判所は、当事者のいずれもが主張しない事実を裁判の基礎としてはならないという原則をいいます。
② 自白原則(弁論主義の第2テーゼ):裁判所は、当事者間で争いのない事実は、証拠調べなしに判決の基礎にしなければならないという原則をいいます。
③ 証拠原則(弁論主義の第3テーゼ):当事者間に争いのある事実について証拠調べをするときは、当事者の申し出た証拠によらなければならないという原則をいいます。
①の主張原則、②の自白原則については、その適用対象となる事実が何であるかについて、かねてより議論があります。主要原則、自白原則は共に当事者の事実に関する主張について、裁判所に対する拘束を認めるものです。そうすると、厳格に拘束を認めてしまうと、裁判所の事実認定を過度に不自由にする恐れがあります。したがって、①、②にいう「事実」とは主要事実、すなわち権利の発生、変更、消滅という法律効果の判断に直接必要な事実をいうと解されています。
受験生としては、弁論主義の第1テーゼが問われた場合には、弁論主義の意義、弁論主義の第1テーゼの内容、適用範囲、については必ず答案に示す必要があります。
⑵ 本問の考え方
弁論主義の第1テーゼに関する問題が出題された時には、当事者の主張を請求原因、抗弁、再抗弁・・・という形に整理することが不可欠です。その際、重要となってくるのは要件事実の理解です。要件事実は民事実務基礎でのみ問われると考えていた受験生もいらっしゃると思いますが、本問のような弁論主義の問題や自白法則の問題に解答する際にも必要な知識であるといえるでしょう。
本件の訴訟物は、XのY1に対する甲土地の所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記抹消登記(手続)請求権です。かかる請求の請求原因として①Xの甲土地所有、②甲土地上にY1名義の登記が存在すること、を主張する必要があります。登記の保持権限は、Y1が主張すべき抗弁に位置づけられるので、請求原因段階では主張する必要はありません。
次にY1は、Xの請求に対し、Y1らが代物弁済によりXから甲土地の所有権を取得したと主張しています。これはXが甲土地を所有していたという事実を認めつつ、その上でXの甲土地の所有権を喪失したという主張ですから、所有権喪失の抗弁としての代物弁済の主張であると整理できます。
これに対して、XはY1との間で甲土地を代金1000万円で買い戻す旨の合意をしており、かつ代金1000万円を支払ったことから甲土地の所有権を再取得した旨の主張をしています。これは、Y1の主張する事実と両立し、かつ甲土地に関するXの所有権の再取得を示す点で請求原因事実を復活させるものですから、Y1の代物弁済の抗弁に対する再抗弁と位置付けることができるでしょう(また、当該主張を第2の請求原因と位置付けることも可能だと思います)。
そして、本件裁判所が認定している事実は、Xが譲渡担保によって甲土地の所有権を喪失したという事実ですので、上記Xの主張に対する再々抗弁(第2の請求原因との関係では請求原因に対する抗弁)に位置づけられることになります。したがって、再々抗弁に該当することから、譲渡担保の事実は本件訴訟における主要事実に該当することになります。ゆえに、当事者の主張がなければ裁判所は判決の基礎となることができないことになります。
ここで、譲渡担保の要件事実は、①債務の発生原因事実、②①の債務の担保のために甲土地に譲渡担保権を設定する旨の合意(譲渡担保の合意)です。①についてはすでにXの主張によって現れていますが、X、Y1のいずれも②について主張していません。そうすると、本件裁判所は主要事実について当事者の主張がないにもかかわらず認定していることになるので、弁論主義の第1テーゼに反するという結論を導くことが可能となります。
2 設問1⑵
⑴ 釈明権と釈明義務
裁判所は、当事者の主張や立証を正確に受領するためや当事者にできるだけ十分な手続保障の機会を与えるために、当事者に対して事実上または法律上の事項について問いを発し、または立証を促すことができます。この裁判所の権能のことを釈明権といいます。民事訴訟法では149条に規定があります。他方、明文なないものの、裁判所は釈明権を有するとともに適切に釈明権を行使すべき釈明義務を負っていると解されています。
このような釈明権は弁論主義を形式的に適用すると当事者の不注意や力不足などによって不当な結果が生じ、適正かつ公平な裁判の実現が阻害される恐れがあることから、そうした弁論主義に伴う不都合を補完するものです。
この点からすれば、釈明権の趣旨とは、当事者の弁論権ないし手続保障を実質化し、訴訟の結果に対する当事者の納得や受容を確保することにあると整理できます。
本問は釈明義務の違反が問われていますから、釈明義務について詳細に見ていきましょう。
⑵ 釈明義務の範囲
釈明義務違反が問題となる際に、目安となる基準として消極的釈明と積極的釈明があります。消極的釈明とは、当事者の申立てや主張が不明瞭または矛盾している場合に、その趣旨を問いただす釈明をいいます。これに対し、積極的釈明とは当事者が申立てや主張をしていない場合に、これを積極的に示唆する釈明をいいます。このうち、消極的釈明がされない場合には釈明義務違反が認められやすく、積極的釈明がされない場合には釈明義務違反が認められにくい傾向にあります。なぜなら、消極的釈明は当事者の主張の趣旨が不明確なものを正す点で弁論主義の補完としての役割を果たす一方、積極的釈明は一方当事者に裁判所がいわば新たな武器を与えることになりかねないからです。もっとも、消極的釈明と積極的釈明という基準はあくまで目安に過ぎず、当該事案との関係で具体的な主張関係を検討しながら釈明義務違反が認められるか否かを結論づけることが重要となります。
⑶ 法的観点指摘義務
法的観点指摘義務とは、裁判所が当該事案に関して採用を考えている法的観点について、そのことを当事者に示すべき義務をいいます。当事者が事実の主張や立証に際してある法的観点を前提としている時に、裁判所が別の法的構成の方が妥当であると考えた場合には、裁判所がこれを当事者に示すことによって当事者に裁判所と議論する機会や再考の機会を与えるべきです。これをせずに、裁判所がいきなり判決で当事者と異なる法的観点を採用すると当事者に不意打ちをすることになり手続保障の点からも問題があります。また、弁論主義との関係でも攻撃防御を行うのに十分な情報がないことになるため問題があるといえます。
⑷ 本問の考え方
本件では、Xが甲土地を買い戻したと主張し、Y1らはY1がY2に甲土地を売却したのち、Y2がXとの間でXが1000万円の売却代金を払うことにより甲土地をXに売却する合意をしたが、Xが1000万円を支払わなかったため、Y2に甲土地の所有権が帰属したとの主張をしています。そのため、XがY2のために甲土地の譲渡担保を設定したとの法律構成は採っていないことになります。もっとも、X、Y1らの主張を前提としても、XがY2に対し1000万円の債務を負っていることや甲土地の所有権の買戻しを受けようとしていた事実についてはすでに現れていますので、X、Y1らとしては譲渡担保の法的構成を法的知識の不足によって採っていないに過ぎず、裁判所が譲渡担保の法的構成を促すことによる関与の程度は低いといえます。
そうすると、裁判所がこの法律構成に基づいて判決をするためには、その前提として当該譲渡担保の法律構成をX、Y1らに示す旨の法的観点指摘義務(ないし釈明義務)を負っていたと解することができるでしょう。
それにもかかわらず、裁判所は上記義務を怠っていますから、本件判決をすることは法的観点義務に反するものとして違法となります。
以上
今回もBEXA記事「たまっち先生の論文試験の合格答案レクチャー」をお読みくださり、誠にありがとうございます。
今回は平成28年度予備試験 民事訴訟法から「弁論主義」合格答案のこつ について解説いたしました。次回以降も、たまっち先生がどのような点に気をつけて答案を書けば合格答案を書くことができるようになるかについて連載してまいります。ご期待ください。
A答案を書くのに必要なのは「短答の知識を論文に活かせるようにすること」
2022年12月27日 たまっち先生
役に立った:1