債務超過の会社を吸収合併/423条の「損害」該当性

基本書では、この場合「包括承継」であることを理由に、423条の損害がないと書かれているのですが、債務超過の会社を合併により包括承継した場合、結果としてプラスの財産よりマイナスになる負債の方が多いから全体財産の見地からして「損害」はあると考えたのですが、そうならないのはなぜなんでしょうか?

また債務超過の会社を合併する場合は「損害」がないのにその対比として、債務超過の事業を事業譲渡で引き受けるのは423条の「損害」要件を満たし、経営判断の原則の話になるのはなぜなのでしょうか?勉強不足ですみません。教えてください。
未設定さん
2015年11月12日
民事系 - 商法・会社法
回答希望講師:加藤喬
回答:1

ベストアンサー ファーストアンサー
加藤喬の回答

おそらく、包括承継の場合には、債務超過分を上回るだけの将来利益が見込まれるのであれば、「損害」はないといえると思います。包括承継の場合には、債務承継を排除することができないので、債務超過状態の会社を吸収合併することにより利益を上げようとする場合に、差額説でいう任務懈怠がなければ会社が置かれていたであろう仮定的利益状態として、債務超過負担を引き受けることなく吸収合併により将来利益を獲得するという利益状態を観念することができないからです。ただし、この場合であっても、吸収合併により将来利益も見込めないようなときであれば、吸収合併をすること自体が任務懈怠となり、そうすると、差額説でいう任務懈怠がなければ会社が置かれていたであろう仮定的利益状態として、債務超過の会社を吸収合併しなければ会社が置かれていたであろう利益状態を観念することができますので、かかる利益状態と現実の利益状態との差額としての「損害」が認められることとなります。
 これに対し、事情譲渡は特定承継であり、事業によって生じた債務だけ承継しないとすることができますから、債務超過の事業を譲り受けることにより利益を上げようとする場合に、差額説でいう任務懈怠がなければ会社が置かれていたであろう仮定的利益状態として、債務超過負担を引き受けることなく事業譲受けにより将来利益を獲得するという利益状態を観念することができます。なので、債務超過負担を引き受けることなく事業を譲り受けた場合(仮定的利益状態)と、債務超過負担を引き受ける形で事業を譲り受けた場合(現実の利益状態)との差額分としての「損害」が認められるわけです。ただ、債務超過の事業の譲渡会社のニーズなどからして、債務超過の事業について債務超過負担を引き受けることなく事業だけ譲り受けるということは容易ではないですから、譲渡会社と譲受会社の関係性、債務超過額と事業価値の比較などの事情に照らして、債務超過の事業を債務承継を伴う形で譲り受けるという判断が、経営判断として合理的であったのかどうかが問題となるのだと考えられます。
 司法試験との関係では、上のように理解で十分であると思います。
 二回試験前ということもあり、リサーチの時間を十分にとることができず、申し訳ありません。非常に有益な問題意識であり、会社法の速習テキスト講義では、下調べをした上で、取り上げさせていただければと考えております!

なお、江頭先生・神田先生・リーガルクエストで大阪地判平成12年5月31日を調べましたが、合併条件が不公正である場合における423条1項責任に関する裁判例として紹介されていましたので、裁判例に沿った解説はできませんでした。

2015年11月13日


未設定さん
お忙しい中、非常に丁寧な回答ありがとうございます!

二回試験がんばってください!

2015年11月13日