処分違憲と行政裁量

たける先生は以前(2018年11月22日)の質問対応で、処分違憲で憲法論を展開する場合、「裁量判断とするよりは…要件を憲法の趣旨に照らして限定解釈するとよいでしょう。たとえば泉佐野事件判決はこの類型に当たり得ますね。」という回答をなされています。
でも、エホバ剣道事件や司法試験H26年度過去問(表現の自由)などのように、法律要件の該当性が問題とならない行政処分もありますよね?某演習書では、そのような事案では裁量統制の判断に被侵害権利の憲法上の価値等を組み込めば、十分憲法論となる、と書かれています。
やはり、要件解釈の問題にできない設問では、このような処分裁量の審査をするしかないでしょうか?
2019年2月22日
公法系 - 憲法
回答希望講師:伊藤たける
回答:1

ベストアンサー ファーストアンサー
伊藤たけるの回答

ご質問ありがとうございます。
まず、裁量統制の判断において、被侵害利益に憲法上の価値判断を組み込むことは、広い意味では憲法上の主張といいえるでしょう。
ただし、民事訴訟法や刑事訴訟法の絶対的上告理由に該当する憲法上の主張とはいえないでしょう。

次に、エホバの証人剣道受講拒否訴訟判決は、そもそもの訴訟構造の理解が不足しているようですね。
あの事件では、控訴審で生徒側が勝訴したため、上告したのは学校側です。
学校側は、憲法20条1項前段の信教の自由違反を主張していません。
問題となったのは、行訴法の法令解釈の違法性と、政教分離規定違反です。
したがって、最高裁は、信教の自由違反の主張を判断することはありません。

なお、要件を憲法の趣旨に照らして限定解釈をするほか、要件がないケースであっても、憲法条項から規範を導き出すことも十分あり得るでしょう。
たとえば、目的効果基準なども、要件解釈ではなく、憲法から直接導かれた規範ですよね。

2019年2月22日


匿名さん
回答ありがとうございます。
エホバ事件はもう一度勉強しなおします。
さて、「要件がないケースであっても、憲法条項から規範を導き出す」とのことですが、では、よど号記事訴訟で最高裁が憲法から「相当の蓋然性」という規範を導き出したのと同じようなことを、要件のない設問で受験生もやってよいということでしょうか。
司法H27(先の質問の「H26」は誤りでした。)も、要件該当性を理由に処分がなされたという事例ではないのに、「「業務に支障を来すおそれ」の有無についての検討も必要となる。」との記載が出題趣旨にあります。これも、自ら規範を立て限定解釈等してよいことを示唆しているのでしょうか。

2019年2月22日

やってもよい、というよりも、それが求められているという認識です。
基本憲法Ⅱの下書きでも書こうと思っていますが、判例は、憲法から直接規範を導き出し、それに合致するように法律の要件を解釈しなおしているだけです。
そのため、要件がなかったとしても、当然、憲法から直接規範を導き出すべきなのです。
平成27年の出題趣旨についても、ご指摘の通りでしょうね。

2019年2月22日


匿名さん
非常によくわかりました、ありがとうございます!
問題で出てくる要件を限定解釈する答案例や学者本はよく見るのですが、自ら憲法条項から要件を立てるという解説を見たことが無かったので、とても勉強になりました!!

2019年2月22日

ありがとうございます。
とはいえ、いきなり自分で作るのは大変ですから、違憲審査論や目的手段審査のフレームワークによるとよいでしょう。
たとえば、立法目的などから正当化される範囲で目的を固定したうえで、手段の関連性の程度ないし危険の発生の程度で限定するというパターンが使いやすいですね。
平成27年司法試験でも、目的を業務遂行の確保としたうえで、手段としての採用拒否の理由として、業務への支障がどの程度あるかという、危険の発生の程度を問うことになっています。

2019年2月22日


匿名さん
 何から何までありがとうございます。とりあえず自分なりに以下のようにに考えてみたのですが、こういう要件の立て方でだいたい問題ないでしょうか?
 “政治的主義主張にかかる表現の高位の価値を不当に侵害することは許されないし、処分により生じる表現萎縮効果も重大である。したがって、能力の十分なものを不採用とする理由・要件は限定的であるべきである。具体的には、適正な業務遂行の確保という目的達成のために当該処分が必要不可欠な場合、すなわち、その採用により業務への支障が生ずる恐れが客観的根拠に照らして明らかに認められる場合のみ、処分は合憲・適法である。”
 添削じみた質問になってしまい、恐縮です…

2019年2月22日


匿名さん
「業務への支障」を「業務への著しい支障」とさらに限定した方がいいかもしれません(送信後に気づきました)...

2019年2月22日

個別の添削は控えさせていただきますが、萎縮効果が生じることは、どちらかといえば「制約」の段階でしょうね。
そもそも、当該事件では、発言自体に対する制約をしたり、禁止をしたりしているわけではありません。
しかし、萎縮効果が生じるため、将来の表現活動が差し控えられる点で、制約があるといい得るという話ですね。
また、平成27年の事案は、表現内容規制であるとすれば、原告側としては、厳格審査基準の適用を求めるでしょうし、被告側としては、禁止の事例とは区別した上で、三菱樹脂事件のように採用の自由を主張して、そもそも制約をしているわけではないとなるのではないでしょうか。
いずれの違憲審査基準をとるにしても、目的審査では、採用の段階で部署の業務内容に関する事項のみが正当化されるのか、それ以外の目的も考慮し得るのかを特定し、手段審査では、業務への支障がどの程度あれば適法となるのかが問題となるでしょう。

2019年2月22日


匿名さん
難しいですね…
要するに、①目的②手段という要件を立てることも、立派な「憲法条項から要件を立てる」方法、ということですよね?
私が昨日考えたみたような、権利の重要性や規制態様等を考慮して正当化しうる目的とそのための手段(関連性)を絞り、「業務に支障を生じるおそれ」のような要件を立てる方法とはどう異なるのでしょうか…
前者の方が受験生の思考様式に馴染みやすい、というのは分かったのですが。

2019年2月23日

自分なりによく考えているようで、大変好感が持てる質問の方法ですね。

ご指摘のあった2つの考え方を「接合」する方法が、私のイメージに最も合致します。
すなわち、目的手段審査のフレームワークや、違憲審査基準論の考え方に基づき、具体的な規範を導き出す方法です。

たとえば、厳格審査基準なのであれば、やむにやまれぬ目的のために、必要最小限度の手段という違憲審査基準を適用することになりますが、平成27年の事案であれば、目的は、業務遂行の確保に特定されますよね。
そうすると、業務遂行の支障が生じるおそれがある場合には、正式採用しないという手段をとることも正当化され得ますが、その手段は必要最小限度でなければなりません。
この「おそれ」を判断するにあたって、厳格審査基準と同程度と明白かつ現在の危険の基準を適用するという主張が考えられます。
具体的な規範としては、業務に著しい支障が生ずる明白活現在の危険があることが明らかなような場合に限られる、といったように論じる余地があるでしょう。

なお、違憲審査基準は、権利の重要性や規制態様等も考慮要素ではあるものの、そこから勝手に発明するべきものではありません。
学説やアメリカの判例法理が適用する原則的な事案類型と違憲審査基準から「選ぶ」のが原則であり、例外的に修正するのであれば、なぜ原則の事案類型と「区別」できるのかを論じるべきですね。

2019年2月24日


匿名さん
ありがとうございます。
今まで適当に書いていた処分違憲の判断方法がだいぶ頭の中でクリアになりました。

最後にもう一つお聞きしたいのですが、原告側での厳格な要件の主張に対し、被告の反論としては、原告よりも緩やかな要件を立てるという方法と、(厳格な要件によるとしても)広範な裁量権に基づく判断として合憲であると主張する方法の2種類があり得るという認識は正しいでしょうか。

2019年2月24日

後者もあり得ないことはないですが、前者がメインでしょうね。
その際は、原告の主張する原則論の事案類型と「区別」する説得的な理由づけが必要ですね。

2019年2月25日


匿名さん
確かに後者の主張は受け入れられる見込みは薄いですよね。

長々とお付き合い頂き本当にありがとうございました!!

2019年2月25日