民法平成30年短答過去問講義 司法試験第20問 設問オ解説

本選択肢の解説では、債務の額に不足した弁済でも有効となる。そこから考えると、本選択肢の供託についても、債務の額に満たなくても有効、よって選択肢はバツとのことです。
不足した弁済で供託が有効となると考えるのであれば、選択肢オは合っていることになるのではないでしょうか?
2018年12月30日
法律系資格 - 予備試験
回答希望講師:中村充
回答:1

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中村充の回答

「本選択肢の解説」なお書きの判例(最判平6.7.18)は、「交通事故によって被った損害の賠償を求める訴訟の控訴審係属中に、加害者が被害者に対し、第一審判決によって支払を命じられた損害賠償金の全額を任意に弁済のため提供した場合」に、その提供額が損害賠償債務の全額に満たないことが控訴審における審理判断の結果判明したときであっても、原則として、その弁済の提供はその範囲において有効なものであり、被害者においてその受領を拒絶したことを理由にされた弁済のための供託もまた有効なものと解すると述べているものです。

 しかし、「本選択肢の解説」末尾に書いたように、本記述が「交通事故によって被った損害の賠償を求める訴訟の控訴審係属中に、加害者が被害者に対し、第一審判決によって支払を命じられた損害賠償金の全額を任意に弁済のため提供した場合」であるとの事情はありません。

 また、上記判例は、「交通事故の加害者が被害者から損害の賠償を求める訴訟を提起された場合において、加害者は右事故についての事実関係に基づいて損害額を算定した判決が確定して初めて自己の負担する客観的な債務の全額を知るものであるから、加害者が第一審判決によって支払を命じられた損害賠償金の全額を提供し、供託してもなお、右提供に係る部分について遅滞の責めを免れることができず、右供託に係る部分について債務を免れることができないと解するのは、加害者に対し難きを強いることになる。他方、被害者は、右提供に係る金員を自己の請求する損害賠償債権の一部の弁済として受領し、右供託に係る金員を同様に一部の弁済として受領する旨留保して還付を受けることができ、そうすることによって何ら不利益を受けるものではない。以上の点を考慮すると、右提供及び供託を有効とすることは債権債務関係に立つ当事者間の公平にかなうものというべきである。」と、同判例の事案特有の要素を多く挙げて理由としています。

 よって、「本選択肢」に上記判例は使えない(「本選択肢」は上記判例の射程外)と考えるべきでしょう。

2018年12月30日