不作為による暴行罪は成立し得るのか

 不真正不作為犯を認めるには、結果を防止すべき作為義務があることが必要です。なので、挙動犯である暴行罪の場合、そもそも防止すべき結果というものが観念できないために作為義務を設定できず、不作為の暴行罪は理論上成立し得ないという理解は正しいでしょうか。
 そうすると、(単独犯の場合に、何もしていない者に暴行罪を認めるべき場面というのはおよそ存在しないとしても、)甲がAに暴行を加えているが傷害結果は発生していないとき(例えば髪を引っ張っているだけの場合)に傍にいただけの乙には作為義務をそもそも設定できず、乙に暴行罪の共犯は成立しえない、ということになるでしょうか。
2018年10月28日
刑事系 - 刑法
回答希望講師:国木正
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国木正の回答

挙動犯であるということと、作為犯における作為義務を観念できるかという問題は、連動しないように思えます。

挙動犯は、結果犯の対概念ですが、その意味するところは、「一定の結果の発生を必要とせず、何らかの身体的挙動そのものが犯罪とされるもの」にすぎません。
たしかにご指摘のとおり、単独犯において、不作為の形式によって暴行罪を実現することはなかなか困難ですが、困難だからといっても、理論的に成立しえないわけではないと考えられます(例えば、一定の時間おきに、実子Vに対しボールを射出する機械が存在し、それを実父Aが停止することが可能かつ容易であるにもかかわらず、立ち去ったというような場合には、不作為形式による暴行罪が肯定できるようにも思えます)。

また、例えば、実母Bが実子Vに対し、殴る蹴るの暴行を加えているにもかかわらず(生理的機能障害はいまだ生じていないと仮定)、それを実父Aが特段止めることなく、ただ静観していたというような場合は、AとBが、Vを被害者とする暴行罪の共同正犯となると考えられます。

2018年10月29日