本件は、定期預金の原資を出資したのはVであるにもかかわらず、自己が名義人であることを奇貨として、同定期預金を解約し、預り金500万円の交付を受けた事案です。
あくまで口座名義人には定期預金を解約する権限がありますから、口座名義人が定期預金の解約を申し出た場合、これを拒むことはできません。この点から、ご指摘のとおり、詐欺罪を否定することもできそうです。
他方で、銀行が定期預金の原資を出捐したのがVである(正確には、解約申出をしている人物が定期預金の原資を出捐したわけではない)と認識したならば解約申出には応じなかったであろう利益を重視し、刑法独自の評価として詐欺罪の成立を肯定するという方向性はあり得るかもしれません。
すなわち、本件で銀行が解約申出に応じた場合、銀行は真実の出捐者から民事上の請求を受ける等紛争に巻き込まれる可能性があり、それを避ける利益があると考えれば、あたかも自分が定期預金の原資を出資した者であるかのように振る舞い、預り金500万円の交付を受ける行為は、黙字の欺く行為といえるかもしれません。
2018年7月21日