改正前では、[Aが、真実は男性であるVを、女性であるWであると誤信し、襲った]という場合、客観的に実現した罪(強制わいせつ罪)と、主観的に実現しようとした罪(強姦罪)とが異なる構成要件にまたがっているため、重なり合いの問題となります。そして、両罪は前者が後者に含まれる関係(包含関係)にあるといえますから、上記行為には軽い方の罪である前者(強制わいせつ罪)が成立します。
さらに、上記行為に強制わいせつ罪しか成立しない以上、Aの故意はいまだ完全に評価し尽くされたとはいえませんから、不能犯を検討することができます。そして、ここで具体的危険説を採用した場合は、上記行為には強姦未遂罪も成立します。
他方、改正後では、先ほどの例の場合、客観的に実現した罪は強制性交等未遂罪であるのに対し、主観的に実現しようとした罪も強制性交等未遂罪であり、主観と客観に構成要件をまたぐようなずれはありません(たしかに女性だと思って、男性を襲ったという点をみると、主観と客観に不一致はあります。しかし、強制性交等未遂罪の客体には男性も含まれますから、男性を襲ったという客観を前提としても強制性交等未遂罪が成立します。そうだとすれば、女性だと思ったという不一致は、同一構成要件内の錯誤といえます)。そこで、改正後では、構成要件的に同一の評価を受ける事実について認識があったかを検討すれば足り、結論として上記行為には強制性交等未遂罪が成立します。
なお、上記行為に強制性交等未遂罪が成立する以上、Aの故意は完全に評価がし尽くされたといえますから、ここでさらに不能犯の問題を取り上げる必要はありません。
このような立論でいかがでしょうか。
2018年4月11日