長崎地裁の判決を読みました。しかし、同判決は少なくとも「原因において自由な行為」の典型ではありません(同判決を原因において自由な行為に分類する見解もあるようですが)。なぜならば、同判決では、実行行為時に完全な責任能力が認められるケース、すなわち、行為と責任の同時存在の原則を満たすケースだからです。ご存知かと思いますが、「原因において自由な行為」は行為と責任の同時存在の原則を満たさないケースで用いられる理論です。
長崎地裁平成4・1・4引用
「被告人は、心神耗弱下において犯行を開始したのではなく、犯行開始時において責任能力に問題はなかったが、犯行を開始した後に更に自ら飲酒を継続したために、その実行行為の途中において複雑酩酊となり心神耗弱の状態に陥ったにすぎないものである」
ですから、質問への回答としては同判決を根拠に「原因において自由な行為」を用いるような場合に早すぎた構成要件の実現を論じることはできないと考えます。そもそも、早すぎた構成要件の実現は構成要件該当性の話で、責任レベルの話ではありませんから、他方をもう一方に流用するということはありえないと思います。他方をもう一方に流用するような答案は刑法の体系的理解を疑われますから、試験的にはオススメしません。(指導教員等のお墨付きがあれば別ですが、その場合は自己責任で答案を書いてください。)
同判決の論評として、前田先生の解説が参考になると思うので、ご一読ください。
『刑法判例百選Ⅰ総論 第5版 66頁』
2018年2月18日