薬事法違憲判決のついて

伊藤建先生
お世話になっております。早速ですが質問させてください。
薬事法違憲判決では、距離制限が職業選択の自由の制約にもなるという認定をしていたと思います。この考えは、法令違憲のみについて妥当するものなのでしょうか。つまり司法事実を対象とする場合には、現に職業を開始している者については、職業遂行の自由の対する制約にしかならないのか、という趣旨の質問です。よろしくお願いいたします。
未設定さん
2018年2月15日
法律系資格 - 司法試験
回答希望講師:伊藤たける
回答:1

ベストアンサー ファーストアンサー
伊藤たけるの回答

ご指名ありがとうございます。そこま様々な審査の方法があるところですね。

一般論としては、いわゆる「狭義の適用違憲」(第1類型)を論じるときは、当事者が具体的にどのような不利益を被っているのかを主張する「適用審査」をすることになります。
適用審査は、憲法上の権利について、制度論としてではなく、まさに権利論として論じるものです。アメリカ合衆国連邦最高裁では、適用審査が原則であり、法令を客観的に審査するのは例外的で、萎縮的効果を除去する必要がある場合、法目的の違憲性が認定できる場合、法令の構造それ自体の違憲性が明らかになった場合などに限定されるとすらいわれています(適用審査優先原則)。

もっとも、我が国の最高裁は、そもそも憲法上の権利について、基本的には主観的な権利侵害を問題せず、あくまでも法令の客観的構造に焦点を当てる「法令審査」を行います。そのため、適用審査優先原則を採用しているとはいえません。
その理由には様々なものがあるといわれていますが、たとえば、アメリカの場合は州法の解釈権限が州にあるため、連邦最高裁は、単に州法を本件には適用できないと判断すれば足り、それ以上をするべきではないが、日本の最高裁にはそのような制約はない、といった考え方もあるところです。
そのため、我が国においては、わざわざ狭義の適用違憲を主張したとしても、これを採用せずに、客観的なアプローチから法令審査が行われます。
実際に堀越事件判決も憲法適合解釈という方法を採用し、猿払事件第1審のような適用審査はしていません。

とはいえ、どうしても適用違憲を論じたいというのであれば、「あなたは既に薬局を営んでいるんだから職業選択の自由の制約ではない」という形式論ではなく、いわゆる新規参入規制であるから、単なる場所の制約とは区別するべきであり、制約の程度は、職業選択の自由の制約の場合と変わらないと主張するべきでしょうね。

2018年2月15日