労組法上の「労働者」と「使用者」概念について

お世話になっております。労組法上の「労働者」と「使用者」概念について2つ質問です。一つ目として、以下の理解が正しいか確認させてください。労組法上の「労働者」で問題(論点)となるのは、INAX事件のように、原告が事業者っぽくみえる場合。労組法上の「使用者」で問題となる場合は、プラクティス労働法304頁における、使用者に近似する事業主の場合(プラクティス労働法304頁にて、山川先生が、第2の場合(朝日放送事件のような場合)としてあげられています。)。以上の理解のご確認をお願いいたします。
なお、字数の関係で2つ目の質問は、別にさせていただきます。
未設定さん
2015年8月25日
選択科目 - 労働法
回答希望講師:加藤喬
回答:1

ベストアンサー ファーストアンサー
加藤喬の回答

第1 はじめに
 1つ目と2つ目のご質問は関連性が強いので、こちらでまとめて回答させて頂きます。質問投稿の制限字数が少なくて申し訳ございません。

 以下では、労働組合法上の労働者概念を「労働者概念」、労働組合法上の使用者概念を「使用者概念」「使用者性」と略させていただきます。
また、質問者様の言う原告は、「役務提供者」と表示させていただきます。


第2 労働者概念が問題となる場合
 労働者概念が問題となるのは、役務提供者について、ある事業主に対する関係で、団体交渉助成のための労働組合法の保護を及ぼすことが必要・適切であるといえるだけの経済的依存性・交渉力劣位があるかどうか問題となる場合です。質問者様の挙げる、役務提供者に事業者的側面がある場合が典型です。
 
 なお、労働組合法上の労働者概念は使用関係を要件としないので、事業主との間に契約関係が存在しているかどうかは問いません。
 
 例えば、甲が乙との契約に基づき、丙の下で役務提供をしていたという事案で、丙の使用者としての責任が問題となる場合には、(1)甲に事業者的側面がある場合には、まずは労働者概念が問題となり、これとは別に、(2)甲・丙間に直接の契約関係がなため、丙の使用者概念も問題となります。


第3 使用者概念が問題となる場合
 使用者概念が問題となるのは、役務提供者と使用者としての責任が問われる事業主との間に、現時点で直接の契約関係がない場合です。

 ①例えば、派遣労働者と派遣先、子会社労働者と親会社の関係のように、役務提供者と使用者としての責任が問われる事業主との間の事実上の何らかの関係があるが、その事実上の関係が、役務提供者と他の事業主(派遣元や子会社)との間の契約関係に基づくものである場合です。
 このように、役務提供者と使用者としての責任が問われる事業主との間に
人的距離がある場合(契約関係の一方当事者として他の事業主が介在している場合)に、人的距離を埋めるために援用されるのが、使用者の拡張概念のうち、「労働契約関係に近似する関係」というものであり、これは朝日放送事件判決の判断枠組みにより判断されます。

 ②また、採用前や労働契約終了後のように、役務提供者と使用者としての責任が問われる事業主との間に人的距離はない(契約関係の一方当事者として他の事業主が介在していない)が、現時点で両者間に契約関係が存在しないという場合に、当該事業主と労働契約関係との間の時間的な距離を埋めるために援用されるのが、使用者の拡張概念のうち、「労働契約関係に隣接する関係」というものです。
 これについては、朝日放送事件判決の判断枠組みは適用されません。関係裁判例としては、国・中労委[クボタ]事件・東京地判H23.3.17・大内192があり、同判決は、派遣労働者の直接雇用を決定していた派遣先について、近い将来において労働契約が成立する現実的かつ具体的な可能性が存する者に当たるとして、使用者性を肯定しています。

 ③さらに、偽装解散の場合における、譲渡会社労働者と譲受会社の関係です。

 なお、労働組合法上の労働者概念は、使用関係を必要としないので、①~③の場合であっても、他の事業者(子会社・派遣元)や、過去又は将来の契約関係の一方当事者たる事業主(解雇前の勤務会社、直用化決定後の派遣先)に対する経済的依存性・交渉力劣位があれば、労働者性は認められるので、事業者的側面があるような場合でない限り、INAXメンテナンス事件判決等の判断枠組みを展開する必要はありません。


第4 労働者概念と使用者概念の関係
 上記のとおり、労働者概念は役務提供者について事業者的側面がある場合にそれをカバーするために問題となるものであり、これに対し、使用者概念は事業主と契約関係の人的距離・時間的距離をカバーするためのものであり、それぞれ対象領域を異にするものとなります。

 なので、前記第2の具体例のように、双方が問題となることもあります。


第5 将来・過去の労働契約関係、偽装解散
 ①少なくとも、過去に労働契約関係にあった場合については、契約終了から相当長期間が経過しているなどの特殊な事情がない限り、使用者性が認められることは明らかですので、論点として取り上げる必要はありません。

 ②これに対し、将来労働契約関係に入るという場合については、過去に労働契約関係があったという場合と異なり、将来的に労働契約関係に入ることが確実に担保されているとはいえません(これに対し、過去に労働契約関係にあったという事実は動かせません)。
 なので、例えば、将来的に労働契約関係に入る可能性が低い場合には、当事業主の使用者性を肯定して団交拒否の不当労働行為等の成立を認める実益が乏しいのです。それゆえに、前掲国・中労委[クボタ]事件東京地裁判決は、「近い将来において労働者と労働契約関係に入る現実的かつ具体的な可能性が存する」場合に限定しています。
 したがって、労働契約関係に入る可能性がどれだけあるのかを吟味するべく、論点として取り上げる必要があります。

 ③偽装解散の場合については、判断枠組みについて言及している文献を見たことがないのではっきりとしたことは言えませんが、偽装解散であるかどうかの検討で、解散法人と使用者としての責任が問われる別法人との実質的同一性が問題とされる場合が多いので、その限りにおいて、使用者性における検討事項が既に検討されていることになります。このような場合には、使用者性について別途論点として取り上げることは不要ではないかと思います。

2015年8月25日


未設定さん
詳細にお答えいただきありがとうございます。労組法上の労働者性と使用者性は表裏の問題にすぎないのではないかと思っておりましたが、ご説明していただき、理解の誤りを直すことができました。がんばります。

2015年8月26日