懲戒事由該当性と客観的合理的理由については、区別して論じるべきです。
ほとんどの基本書では、客観的合理的理由が懲戒事由該当性の判断に相当するという説明がされていますが、平成23年第1問の採点実感では、解雇権濫用法理についてではありますが、解雇事由該当性と客観的合理的理由を区別して論じるべきことが明確に指摘されています。
解雇権濫用法理と懲戒権濫用法理の基本的構造は同じですから、司法試験委員会の理解としては懲戒権濫用法理についても、懲戒事由該当性と客観的合理的理由を区別して論じるべきという考えであると思われます。
そのうえで、どのように論じるべきかですが、
(1)一般的には、懲戒事由該当性の段階では、企業秩序侵害・危険の「程度」には立ち入りません。
客観的合理的理由の段階で、企業秩序侵害・危険の「程度」が、これに対する制裁としての懲戒処分をすること、更には当該種別の懲戒処分をすることに相応するほどのものかについて検討します。
(2)ただし、①就業規則の解雇事由が企業秩序侵害・危険の程度を取り込んだ規定ぶりになっている場合、及び②私生活上の非違行為などのように判例が企業秩序侵害・危険の程度にまで立ち入る形で懲戒事由を限定解釈している場合については、当該行為に対する制裁として懲戒処分をすることが自体が妥当かという限度で、懲戒事由該当性の段階で企業秩序侵害・危険の程度についても立ち入ります。
しかし、これらの場合(上記(2)①②)であっても、当該行為による企業秩序侵害・危険の程度が、それに対する制裁として「当該種別の懲戒処分」をすることに相応するほどのものに達しているかどうかについてまでは、懲戒事由該当性の判断では立ち入らず、かかる観点からの検討は客観的合理的理由の判断の際に行います。
なお、社会通念上の相当性では、企業秩序侵害・危険の程度自体は問題とされません。
以上のような整理でよいかと考えています。
2015年8月23日