結論から述べると、紛争の成熟性論を持ち出して行政指導を「処分」と考えることは筋としてあまりいいとは考えられません。言い換えると、紛争の成熟性論を持ち出して行政指導を「処分」と考える答案が直ちに間違っているとはいえないと思います。
そして行政指導の処分性が認められない理由は、行政指導には法効果性がないからと考えるのが通説的な理解です。紛争の成熟性が行政指導の性分性にどう影響するかは、紛争の成熟性の位置づけにより変わってくるので、この問いは正直わかりません。可能ならば学者の先生に質問してみてください。
仮にこの設問で行政指導の処分性を認めるという答案を書くならば、第一に問題となるのは、紛争の成熟性ではなく法効果性との関係ですから、法効果性の問題とクリアできれば、処分性を肯定する答案としても問題ないと思います。その上で以下、ぼくの見解を書いておきます。
行政指導である勧告の処分性を認めた病院開設中止勧告事件(最判平成17.7.15)に設問の事案を引きつけて書けるならば、処分性を肯定できます。もっとも、同判例では、後続行為の保険医療機関指定拒否処分を争うためには多額の投資をして実際に病院を開設する必要があった、つまり勧告段階で争えなければ病院投資分の経済的不利益を原告が被るおそれがあったという特殊事情があります。他方で設問の事案では、後続行為の法14条2項に基づく監督処分を争うことになっても、同判例と異なり原告が経済的不利益を被るということはありません。(*刑事告発が特殊事情になる可能性も考えられる。)そのため、設問の事案では同判例に引きつけるのではなく、むしろ事案を区切って処分性を否定するのが筋としてはいいのかなと思います。
もちろん、同判例に引きつけたとしても直ちに間違いではありません。
2017年9月14日