麹町中学校内申書事件と三菱樹脂事件について

二つの事件は記載内容から思想を推知できるか否かという点で矛盾しているとの指摘がありますが、これは記載されている内容という客観的事実からある思想を推認できるかという事実の評価の対立なのでしょうか?要件事実をかじったばかりで、思考訓練として憲法を見直していたところ、上記のような疑問を抱きました。
2017年9月4日
公法系 - 憲法
回答希望講師:伊藤たける
回答:1

ベストアンサー ファーストアンサー
伊藤たけるの回答

ご指名ありがとうございます。

そもそも要件事実論ではないのですが、両判決は、客観的事実と思想を区別できるか否かの評価に一貫性がないと批判されていますね。

とりわけ、三菱樹脂事件は昭和48年の大法廷判決ですから、その15年後の昭和63年になされた麹町中学校内申書事件判決が、第2小法廷限りで、15年前の大法廷判決と異なる判断をしてもよいのか、というのが問題だといえるでしょう。

三菱樹脂事件大法廷判決
「労働者を雇い入れようとする企業者が、労働者に対し、その者の在学中における右のような団体加入や学生運動参加の事実の有無について申告を求めることは、上告人も主張するように、その者の従業員としての適格性の判断資料となるべき過去の行動に関する事実を知るためのものであつて、直接その思想、信条そのものの開示を求めるものではないが、さればといつて、その事実がその者の思想、信条と全く関係のないものであるとすることは相当でない。元来、人の思想、信条とその者の外部的行動との間には密接な関係があり、ことに本件において問題とされている学生運動への参加のごとき行動は、必ずしも常に特定の思想、信条に結びつくものとはいえないとしても、多くの場合、なんらかの思想、信条とのつながりをもつていることを否定することができないのである。企業者が労働者について過去における学生運動参加の有無を調査するのは、その者の過去の行動から推して雇入れ後における行動、態度を予測し、その者を採用することが企業の運営上適当かどうかを判断する資料とするためであるが、このような予測自体が、当該労働者の過去の行動から推測されるその者の気質、性格、道徳観念等のほか、社会的、政治的思想傾向に基づいてされる場合もあるといわざるをえない。本件において上告人が被上告人の団体加入や学生運動参加の事実の有無についてした上記調査も、そのような意味では、必ずしも上告人の主張するように被上告人の政治的思想、信条に全く関係のないものということはできない。」


麹町中学校内申書事件判決
「原審の適法に認定したところによると、本件調査書の備考欄及び特記事項欄にはおおむね「校内において麹町中全共闘を名乗り、機関紙『砦』を発行した。学校文化祭の際、文化祭粉砕を叫んで他校生徒と共に校内に乱入し、ビラまきを行つた。大学生ML派の集会に参加している。学校側の指導説得をきかないで、ビラを配つたり、落書をした。」との記載が、欠席の主な理由欄には「風邪、発熱、集会又はデモに参加して疲労のため」という趣旨の記載がされていたというのであるが、右のいずれの記載も、上告人の思想、信条そのものを記載したものでないことは明らかであり、右の記載に係る外部的行為によつては上告人の思想、信条を了知し得るものではないし、また、上告人の思想、信条自体を高等学校の入学者選抜の資料に供したものとは到底解することができないから、所論違憲の主張は、その前提を欠き、採用できない。」

2017年9月4日