平成27年予備試験論文刑法

今年の予備試験論文の刑法にて、横領と背任のどちらを認定するかで、迷ったのですが、どちらの方が正しいと思われますか?
未設定さん
2015年8月1日
刑事系 - 刑法
回答希望講師:加藤喬
回答:1

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加藤喬の回答

回答が遅くなりまして、申し訳ございません。

結論としては、横領が正しいと考えています。

1.犯罪事実
 甲は、建設会社A社の総務部長として総務部を統括し、用度品購入用現金について、使途を用度品購入に限定された上で業務上の占有を有していたところ、同社先輩である営業部長乙と共謀のうえ、専ら乙の営業成績を向上させることで乙を助けるという意図の下で、B市職員として公共事業の業者選定等に従事している丙を介して、B市との間で公共工事の受注する旨の契約を締結し、契約締結の謝礼として、用度品購入用現金の中から50万円を取り出して、これを丙の妻丁に交付した。

2.争 点
 業務上の占有については認められますので、問題は、丙の妻に対し、公共事業受注の謝礼として、使途を用度品購入に限定された上で業務上占有していた用度品購入用現金の中から50万円を交付したことが、所有者であるA社でなければできないような処分に当たるかどうか(=不法領得の意思の発現の有無)です。

3.判 断
(1)名義・計算等により形式的に判断する場合
 横領と背任の区別について、①本人の利益を図る目的であれば、横領でも背任でもない、②自己の利益を図ることが明らかであれば横領、③それ以外の場合には、本人の名義・計算か自己の名義・計算かで判断する、という見解があります。
 本問では、公共工事の受注は、建設会社であるA社にとってものすごく重要な利益でありますが、問題文に、「乙に対して恩義を感じていたことから,専ら乙を助けることを目的として」とあります。これを、どう評価するかです。
 形式的に見れば、A会社の利益ではなく、乙の利益のためなので、③に場合に該当するとともに、甲個人名義で、乙の計算で50万円を交付したのですから、横領となります。
 ただ、本問では、「乙を助けるため」⇒営業成績の向上⇒A社の利益となりますので、「乙を助けるため」という目的が、A会社の利益のためともいえるのではないかが問題となります。
 しかし、「専ら」「乙を助けるため」という目的であり、その目的を達成するための手段の中の一部に、たまたま公共事業の受注というA社にとって利益になる行為が含まれていたにすぎません。「乙を助けるため」の手段として、A社にとって利益となるかどうかは甲にとって重要ではありません。
 そうすると、A社の利益を図る目的があったとは言えず、やはり③の場合に該当し、上記で述べた理由から、横領に当たります。
(2)より実質的に判断する場合
 この場合、「丙の妻に対し、公共事業受注の謝礼として、使途を用度品購入に限定された上で業務上占有していた用度品購入用現金の中から50万円を交付したこと」について、所有者であるA社でなければできないような処分(=甲の権限の範囲外)であるかどうかという観点からダイレクトに判断します。名義・計算等の補助公式のようなものは使いません。
 ここでは、「用度品購入用現金の使途が用度品購入に限定される趣旨」を実質的に検討した上で、その趣旨と甲の上記行為を比較して、使途限定の趣旨からして甲の行為が許されないものであるかを検討します。
 使途の範囲がもっと広ければ背任もありえますが、①使途が用度品購入だけに限定されており、しかも、②用度品購入という事務的な行為と公共事業受注の謝礼という営業色の強いとでは行為の性質・規模が大きく異なります。加えて、③公共事業受注の謝礼は、正規の業務行為ではない上に、違法なものでもありますから、そのような行為が、用度品購入用現金の使途が用度品購入に限定されている趣旨に照らして、甲に許されているとは到底考えられません。
(3)よって、横領となります。
 なお、(1)(2)は、所有者でなければできないような処分をする意思(不法領得の意思)の有無についての説明の違いにすぎず、結論に差を来すようなものではありません。

4.ただ、委託物横領と背任が法条競合の関係にあるという理解を前提に、委託物横領から検討を経た上で、背任を肯定しているのであれば、あまり問題はないかもしれません。

2015年8月3日