刑訴 要証事実について(ロー過去問)

殺人罪の被告人Xの犯人性が論点となっている時に、被害者Aの友人(既に死亡)が被害者から「X最悪、むかつく」と聞かされたという事案(検面調書)で、立証趣旨は恋人関係の破綻とされている際の証拠能力を聞く問題が出ました。
周りに、XがAに何をしたかを推認させる発言だから、要証事実はXの動機であり、伝聞証拠となると言われましたが、上記発言からなぜ動機が問題になるのか分からず、また「嫌らしいことをする」と比べると「最悪・むかつく」の真実性って何だろう?と思ってしまいます。むしろ上記発言自体からXとAの敵対関係→敵意(精神状態)を推認する方が自然な気がします。
先生はどのように思われますか?
2016年9月20日
刑事系 - 刑事訴訟法
回答希望講師:田澤康二
回答:1

ベストアンサー ファーストアンサー
田澤康二の回答

ご質問いただき,ありがとうございます。

ご質問を読ませていただいた限り,たとえば,
精神状態に関する供述のうち,いわゆる,
「すかんわ。」事件の要証事実が,和姦であった場合などもご理解しているように見受けられ,
実力を感じました。

さて,殺人罪の犯人性が要証事実であれば,
そのような推認過程もあり得ると思います。
ですが,殺人の動機には,(弱いながらも)犯人性との関係では,一定程度の推認力があることも事実です。
むしろ,大切なことは,やはり,他の証拠関係などから,何が要証事実とされているのか,思考過程を答案に明示することです。

ご質問に対する回答としては,ご指摘の理解も十分ありうる,ということです。「最悪・むかつく」も,具体的な立証との関係では,推認力を有すべき動機ともなりうることはありえます。







2016年9月20日


匿名さん
早速のご回答ありがとうございます!
先生のお話ですと、両方あり得るとのことでしたが、伝聞と考えた場合、被害者の最悪・むかつくという発言から、被告人が被害者に何か殺人の動機になるようなことを過去にしたことが推認でき、そこから殺人の動機を推認できる(可能性がある)ということでしょうか?
被害者の気持ちが何故被告人の過去の行為推認に繋がるかがどうしてもイメージ出来ません。
また、事実嫌らしいことをしたか、とパラレルに考えると、事実Xが最悪な人間かが真実性の対象になってしまう気がして、違和感を感じます。
繰り返しになり恐縮ですが、再度ご教示願えませんでしょうか。

2016年9月20日

大変丁寧なご対応を賜り,感謝申し上げます。

さて,両方ありうるというのは,争点との関係で,
なにが要証事実になっているかは相対的に決せられるわけです(ご存知のように,このように規範を立てるでしょう)。
ご指摘の理解をさらに,敷衍すると,
少なくとも,被告人の悪感情というのは,殺人罪の犯人性が問題となっている局面では,
弱いながらも推認力を有しているというべきでしょう。
ご指摘のように,殺人罪の犯人として浮上するだけの「動機」が存在する,
という意味では積極方向に働きます。ご指摘のように,これを伝聞と理解すると,
『なぜ,そんな動機を有するに至ったのか』の点について,原因となるべき行為が存在したのかなど,
真実性が問題となってきますね。

もちろんご指摘の判例のように,強姦致死罪の犯人性が問題となっている事案で,
伝聞と判断された例を考えると,違和感をもつのはもっともです。
ですが,その事案の証拠上の立証構造からすると,伝聞であった,ということです。

イメージを持つには,個々の事案の証拠構造に触れるのが一番ですが,
『なぜ,そんな動機を有するに至ったのか』真実,原因となるべき行為が存在したのかなどをそう適してみると,少し見え方が変わったりしないでしょうか。

2016年9月21日


匿名さん
ご回答ありがとうございます。先生のような方がいてくれて、独学の身としてとても有り難く思います。

ご回答の趣旨が段々分かってきた気がします。
私は、Aの「Xむかつく、最悪」という言葉から推認できる範囲を狭く(『A』がXをどう思っていたかのみ推認可)考えていました。また、これを伝聞と考えた場合の真実性の内容は、Xの発言内容、即ち「Xが真にむかつく最悪な人間なのか」になると思っていました。
ですが、もう少し広く考えて、『X』の感情(Aへの悪意=動機)も推認出来るということですね。この場合、発言そのものだけではなく『なぜ』Aがそう言ったかが真実性の対象になると理解しました。

伝聞法則はやっぱり奥が深いです……。先生の講座を受講したらクリアになりますか?
※別立てでお伺いしている3ステップ講座についてもご回答頂ければ幸いです。

2016年9月21日

こちらこそ!
ご質問者様は,ずいぶん実力者であると思料いたしました。私の講座なんざ,不要かもしれません(それが本来あるべき姿ですしね)。
さて,ご指摘のように,
たしかにAの「Xむかつく、最悪」という言葉から推認,というよりは,その言葉の真実性,というものの内実,実質的意味を想起できると,いいかもしれません。というのは,結局,「なぜ,むかつく,最悪なのか」という命題を問題とするとき,その言葉の真実性はやはり問題になっていると理解できますね。

殺人罪の犯人性が要証事実となっている事案では,そこまで分析しなければ,嫌悪の動機が,犯人性立証にも結び付かないのが事実だと思います。
スリーステップでは,どうしても時間の関係上,このように踏み込んでお話しできずだったのですが,
質問としてはこれからも大歓迎です。

2016年9月21日