H21の刑法の問題について

甲が乙に頼んで甲の雄興費を乙に振り込ませた問題についての質問です。甲が乙に200万円の振り込みを頼んだ時点で不法領得の意思の発現行為があり、乙の間接正犯性を検討することなく横領の既遂に達すると思ってしまいました。模範答案で乙が気づいた後に「入金がされた時点でAの所有権侵害が確定的になり、既遂に達する」と書かれていたのですが、「横領」該当性判断において、不法領得の意思の発現のみならず、このような所有権侵害の時期も考慮にいれて判断すべきなのでしょうか?また乙に入金を頼んだ時点ではなぜ既遂にならないのでしょうか?
2016年3月19日
刑事系 - 刑法
回答希望講師:加藤喬
回答:1

ベストアンサー ファーストアンサー
加藤喬の回答

 横領罪の成立には、所有権侵害の実質が必要ですから、ある行為が不法領得の意思の発現であるかどうかは、所有権侵害も考慮する必要があります。ただ、所有権侵害の結果が厳密に要求されるわけではありません。
 おそらく、甲が乙に振り込みを指示した時点で横領を認めているのは、二重売買の事案で売買契約申込みの意思表示をした時点で横領既遂を認める判例の立場を意識したものであると考えられます。
 しかし、売買契約の申込みの意思表示は、相手方の承諾があれば直ちに所有権移転が生じ得る性質のものであるからこそ、それ自体を不法領得の意思の発現行為と言えるのです。
 これに対し、甲の乙への振り込み指示は、それ自体が預金の移動を生じさせ得る性質のものではなく、乙による振り込みが現実に行われることをもってはじめて預金の移転が生じるという性質のものですので、指示の時点で所有権侵害の実質があるとはいい難いです。
 なお、採点実感では、「甲の乙に対する指示時点で預金の横領が既遂に達するとする答案」が問題のある答案の例として挙げられています。

2016年4月7日