ご指摘の通り、実行共同正犯と共謀共同正犯との区別では、実行行為とは「構成要件該当行為」と捉えるべきです。
構成要件結果発生の現実的危険を有する行為、という表現もされますが、これは、主として未遂の領域で用いられるものですので。
実行行為とは、構成要件に該当する行為ですので(cf実行の着手は、構成要件に該当する行為であることを要しない。by 実質的客観説)、共謀者が構成要件に該当する行為を行ったかどうかが基準となります。
横領罪についていえば、通説的な理解では、売買の申込みの意思表示が、不法領得の意思の外部的発現として「横領」(すなわち、構成要件に該当する行為)に当たることとなります。
したがって、乙が売買契約の意思表示を行っているかどうかで判断することになります。
確かに、平成24年の事案では、乙が、甲から交付された土地売却の必要書類(おそらく、契約書も含まれている)をEに交付しています。乙が売買契約を代理したとみるのであれば、代理人行為説からは、売買の申込みの意思表示を行っているのは乙ですから、乙は実行行為を行っているといえます。
しかし、平成24年の事案では、乙は、何ら交渉権限等がなく、単に契約書類の授受を仲介しているにすぎませんから、単に甲の売買の申込みの意思表示を伝達するための使者(使者のうち、完成した意思表示を伝達する伝達機関)にすぎません。
このように、乙は、売買契約の申込みの意思表示を行っているとはいえま
せんから、実行共同正犯とはならないこととなります。
2016年1月26日