採用内定の法的性質について

加藤先生の労働法速習講座を受講している者です。
採用内定の法的性質なのですが、私は今まで、採用内定の法的性質とは、就労の始期を大学卒業直後とし、内定通知書等に記載されてる採用内定取消事由に基づく解約権を留保した就労始期付労働契約である。と書いていました。先生が明示した採用内定の法的性質(p70 論点1)は初見で、採用内定の法的性質をどのように書いていいのか分からなくなりました。
先生が教えてくださった論点を抽象論として書き、その上で本文上の事情を引きつけながらあてはめとして就労始期付解約権留保付労働契約説を書く、という理解でよろしいでしょうか。
回答のほど、よろしくお願いします。
未設定さん
2016年1月10日
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加藤喬の回答

 労働法速修テキスト講義を受講していただき、誠にありがとうございます。

 採用内定の法的性質については、様々な学説があり、大日本印刷事件判決(最判S54.7.20)は、就労始期付解約権留保付労働契約であると認定しいます。

 しかし、最高裁判例の立場は、採用内定の法的性質について一律に就労始期付解約権留保付労働契約であると解しているのではなく、あくまでも、「当該企業の当該年度における採用内定の事実関係に即して」個別具体的に判断する立場です。

 大日本印刷事件判決は、個別的判断を経た結果として、就労始期付解約権留保付労働契約であるという認定に至ったにすぎません。

 ですので、採用内定であっても、大日本印刷事件の事案とは異なり、①入社誓約書の提出がなかったり、②採用内定を受けながら就職活動を継続している新卒者が少なくなく、③さらに、具体的労働条件の提示・確認や入社に向けた手続き等が行われていないなどの事情がある場合には、採用内定により労使間において労働契約の成立に向けた確定的意思の合致があるとはいえないので、労始期付解約権留保付労働契約の成立を認めることはできません。

 ですので、【論点1】の論証の判断枠組みを使って、本件における採用内定の法的性質について、「当該企業の当該年度における採用内定の事実関係に即して」個別具体的に検討していくのであって、この検討結果が必ず就労始期付解約権留保付労働契約になるわけではないので注意しなければいけません。

 特に、大日本印刷事件の事案では、(1)原告労働者は大学の推薦を得たうえで応募していること、(2)二社制限・先決優先主義が採用されていたという特殊な事情があります。この(1)・(2)ゆえに、採用内定後には他社での就職活動をストップしなけれないけないことになるのです。

 なので、採用内定であっても、(1)・(2)といった事情がなく、原告も含めてその年の新卒者が採用内定後にも他社での就職活動をばんばんやっているような状況であれば、労始期付解約権留保付労働契約を認めることは難しいでしょう(複数の内定を掛け持ちしているケースであれば、なおさらです)。

2016年1月11日