抽象的事実の錯誤について

占有離脱物横領罪の認識で窃盗罪を犯した場合、占有離脱物横領罪の実行行為性は、法定的符号説を持ち出して(持ち出さないで?)、軽い罪の限度で重なり合うなら認められるとします。
にもかかわらず、器物損壊罪の認識で殺人罪を犯した場合、未遂犯が認められるが器物損壊罪の未遂犯はないから不可罰、と説明されており、器物損壊罪の実行行為性が認められることが前提となっています。しかき、器物損壊罪と殺人罪では構成要件の重なり合いがなく、そもそも実行行為性が認められないから(例え未遂犯類型のある犯罪の場合でも)不可罰、とはならないのでしょうか?平仄が合わない気がして悩んでいます。
2021年1月31日
刑事系 - 刑法
回答希望講師:中山涼太
回答:1

ベストアンサー ファーストアンサー
中山涼太の回答

ご参照されている資料が何かを教えてください。
なお,理由づけの良し悪しはひとまず置いておきますが,まずは主観(故意)と客観(実行行為)を分けて考えて下さい。錯誤は主観(故意)の問題であり,実行行為性の有無はこれとは別に「構成要件的結果を発生させるに足りるものか(結果発生の現実的危険性を帯びているか)」を客観的に判断することになります。

2021年2月1日


匿名さん
ご回答ありがとうございます。
軽い罪の認識で重い罪を犯した場合、軽い罪について故意があるのは当然なので、判例は麻薬と覚せい剤が問題になった事案(たしか)で「故意が認められる」としているけれど、実際にここで問題になっているのは実行行為性の重なり合いである、という説明は、山口厚の判例から学ぶ刑法総論にも書いてありますし、その他の基本書や予備校本にも記載してありました。
そうだとすれば、抽象的事実の錯誤=故意の問題なのは重々理解していますが、実行行為性のところで書くしかないのではないかという点も疑問に思っています。
質問の平仄については、私が2つの類型の結論を比較して不思議に思った次第です。

2021年2月1日

すみません,資料のお願いをしたのは器物損壊と殺人未遂との関係についてでした。
実行行為について私がお伝えしたのは,「実行行為の重なり合い」ではなく,そもそも当該実行行為があるかないかということです。
そのうえで,錯誤の論点をどこに位置付けるかは,お任せします。
ただ,個人的な見解をお伝えすると,刑法の問題検討は客観→主観の順に行うのがセオリーなので,まずは実行行為の有無を検討することになると思います。
殺人未遂と器物損壊であれば,例えば「甲が横たわる乙の脇腹を踏みつけた」という事実がまずあり,同行為に殺人の実行行為性があるかを検討します。実行行為性があれば,次に故意の検討を行うことになり,器物損壊の故意しかないので抽象的錯誤が問題になります。そこで初めて錯誤論を展開します。

2021年2月1日


匿名さん
ご教示ありがとうございます。
器物損壊罪と殺人罪のところは、辰巳やベクサの講座に同じように書いてあったので、正しいと思っておりました。
殺人罪については仰るとおりだと思います。その次に器物損壊罪も検討する必要があるのかなと思ったのですが、不要なのでしょうか。
器物損壊罪を検討する中で、客観(実行行為性)について検討し、実行行為性が否定されるから不可罰、なら分かりやすく納得なのですが、「器物損壊罪の認識で殺人罪を犯した場合、未遂犯が認められるが器物損壊罪の未遂犯はないから不可罰」と書いてあったので、それだとそもそも実行行為性が認められる前提となり、

2021年2月1日


匿名さん
それを認める理由は①具体的事実を見て器物損壊罪の実行行為と認定できるか、もしくは、②実行行為性について構成要件の重なり合いが認められるからということになると思ったのですが、占有離脱物横領罪で窃盗罪を犯した場合とパラレルに考えると、そもそも①も②も認められないのではないか(①も、構成要件の行為態様・保護法益が重ならないのに、事実を見て器物損壊罪の結果発生の危険性を認定することはできないのではないか)と思いました。

先生はいかが思われますか(どのように処理されますでしょうか)?

2021年2月1日


匿名さん
あ、ベクサ→lecの間違いでした。いずれも過去に受講したときの資料です。
中山先生の質問回答がいつも分かりやすいので、中山先生のご意見をお伺いしたいと思いました。ご検討のほど、よろしくお願い致します。

2021年2月1日

ご教示ありがとうございます。刑法の受験本については流石に記憶がおぼろげですが,こちらは本当に抽象的事実の錯誤の問題なのでしょうか?
改めて整理をし直すと,器物損壊についてのその肢は錯誤について論じたものじゃないのではないかと思います。
例えば,犬を殺そうとしてピストルを撃ったが,弾が飼い主に当たってしまった場合です。この場合,ピストルを撃った時点で器物損壊の現実的危険性を有する行為が行われたといえ,実行に着手していますので,実行行為性は認められますが,器物損壊(財物である犬の死亡)という結果は生じていないので未遂に終わる,ということです。
強いて錯誤に引き付けるならば,具体的事実の錯誤のうち方法の錯誤ということになるでしょうか。

客体が始めから人であれば,器物損壊については仰る通り不可罰になり,あとは過失致傷罪の検討になると考えます。

2021年2月2日