違憲審査基準(行政行為による場合)について

ロースクールの授業において、行政行為による場合には違憲審査基準を使わないという説明が教授からありました。適用違憲の場合も使ってはいけないのでしょうか?解答の際には、適用類型を設定し、違憲審査基準で審査するものだと思っていたので混乱しています。
2021年1月30日
公法系 - 憲法
回答希望講師:伊藤たける
回答:1

ベストアンサー ファーストアンサー
伊藤たけるの回答

ご質問ありがとうございます。
そのような指導がなされていることは承知しております。

本来は、行政作用であっても、処分それ自体を違憲とする「処分違憲」の手法があり得ます。
この場合、通常は、憲法から違憲審査基準を定立し、司法事実を当てはめることになります。
たとえば、津地鎮祭事件判決、立川反戦ビラ事件判決などが、この類型になります。
前者は、憲法から直接、目的効果基準を導き出し、これに司法事実を当てはめています。
後者も、住居侵入罪により処罰することにつき、憲法適合性について、合理性の基準により当てはめています。

もっとも、憲法判断回避原則があることから、いきなり処分違憲の審査をするのではなく、まずは法令の要件を憲法に適合するように解釈するべきことになります。
とりわけ、法律に基づく処分の場合は、法令に対する憲法適合解釈(あるいは合憲限定解釈)を行うことになりましょう。
この場合、憲法から導き出した違憲審査基準を参照しながら、法令の要件を憲法により読み替えます。
その読み替えた要件に、司法事実を当てはめることになります。
たとえば、「よど号」記事抹消訴訟大法廷判決(最大判昭和58年6月22日民集37巻5号793頁)は、憲法から「相当の蓋然性」基準を導き出し、監獄法の要件を読み替え、司法事実を当てはめています。
泉佐野市民会館訴訟判決(最3小判平成7年3月7日民集49巻3号687頁)も、憲法から「明らかな差し迫った危険」の基準を導き出し、条例の「公の秩序を害するおそれ」を読み替え、司法事実を当てはめています。

したがって、違憲審査基準を直接定立する場面もありますし、これにより法律要件を読み替える場面もあります、というのが実務的な回答ではないかと思います。
学説上は、そうではなく、処分違憲では違憲審査基準は不要とする立場もありますから、見解の相違ではないかと思います。
ただし、そのような学説を採用している方に対しては、上記の判例をどのように説明するのかを尋ねてみるといいかもしれません。

2021年1月31日