横領罪における「占有」について

横領罪における「占有」について、特に、預金による金銭の占有について教えてください。
「占有」には、濫用の恐れのある支配力、法律的支配も含むとされています。そうだとすると、単にキャッシュカード等を所持している場合も、それを利用して預金債権を払い戻す可能性がある以上、濫用のおそれのある支配力があるといえ、法律的支配が認められるように思います。しかし、通説では、銀行に対する正当な払戻し権限がなければ、法律的支配を認めないとされているようです。
このように払戻し権限まで要求するのは、なぜなのでしょうか??
どうしても分からないのでご教授頂きたいです。お願いします。
未設定さん
2015年12月5日
その他 - その他
回答:1

ベストアンサー ファーストアンサー
加藤喬の回答

 横領罪における占有が認められるために、事実的支配又は法律的支配が、濫用のおそれのある支配力にまで達成している必要があります。
 例えば、平成24年の司法試験の採点実感では、「答案に見られた代表的な問題点の例」として、『業務上横領罪の「占有」解釈について、事実的支配のみを論じ、「濫用のおそれのある支配力」の観点が論じられていない答案』が挙げられたいます。
 ですので、物に対して支配を及ぼしているだけでは不十分であり、その支配濫用のおそれのある程度にまで達していなければなりません。

 キャッシュカードの所持については委託を受けているが、暗証番号については知らないという場合であれば、キャッシュカードの事実的支配は、濫用のおそれのある支配力に達していません。
 また、暗証番号について所有者から教えてもらっていないが、何らかの方法で知っているという場合には、キャッシュカードに対する事実的支配は、濫用のおそれのある支配力に達していますが、暗証番号の管理が委託関係に基づくものではないため、委託関係に基づく占有が認められません。
 反対に、所有者から暗証番号まで教えてもらっているのであれば、暗証番号の管理の委託により、正当な払戻権限が付与されているといえるのが通常です。なので、法律的支配による占有が認められることになります。
 
なお、『「占有」には、濫用の恐れのある支配力、法律的支配も含むとされています。』と書いておられますが、
正確には、『横領罪にける占有とは、濫用のおそれのある支配力を本質とするものであって、これには、事実的支配のみならず、法律的支配も含まれる』です。
質問者さんの表現から、濫用のおそれのある支配力=事実的支配という理解をしているのではないかと思いましたので、指摘させて頂きました。

2015年12月5日


未設定さん
加藤先生、さっそく回答してくださって、ありがとうございます。
また、表現についてのご指摘もありがとうございます。本質がどこにあるか分かっていませんでした。
キャッシュカード所持による預金の「占有」の有無は、カード所持や暗証番号を知っていることといった事実から考えて、その口座預金を濫用するおそれのある支配力の有無によって判断する。このような濫用のおそれのある支配力が認められたとしても、所有者から払戻し権限が付与されていない場合には、委託信任関係がないといえる。という理解でよいでしょうか?

2015年12月6日

すみません、回答が遅くなりました。

質問者様の検討過程で間違いというわけではありませんが、整理すると次のようになります。

①まずは、事実的支配と法律的支配のいずれで行くのかを決める。
 ⇒預金通帳と銀行届出印の管理を委託されたという場合を除いては、預金の占有の場合には、事実的支配を根拠として委託信任関係に基づく占有を認めることは無理なので、正当な払戻権限による法律的支配に基づく占有の肯否を検討する

2015年12月7日

[理由]
(1)キャッシュカードの管理を委託されただけでは、預金に対して事実的支配はあるが、その程度が濫用のおそれのある支配力に達しているとまではいえない。
(2)仮に、所有者との委託信任関係に基づかずに暗証番号を知っていたという場合には、事実的支配の程度が濫用のおそれのある支配力に達しているといえるが、暗証番号を知っていることによる事実的支配は委託信任関係に基づくものではないから、委託信任関係に基づく占有は認められない。

2015年12月7日

(3)預金通帳と銀行届出印の管理を委託されていたという場合には、管理委託の趣旨が正当な払戻権限を付与することまで意味するものでないとしても、事実的支配の程度が濫用のおそれのある支配力に達しているといえるので、事実的支配に基づく占有を肯定することができる(委託信任関係もあり)。

2015年12月7日

②次に、正当な払戻権限による法律的支配に基づく占有の肯否を検討する場合、問題文に、所有者が払戻権限を付与したということが明記されていないのであれば、通帳・キャッシュカード等の管理委託の事実、管理の態様、これまでの払戻しの有無といった間接事実から、払戻権限の付与の有無を認定をすることとなります。

あくまでも、①は頭の整理のためのものであって、②の検討に入るまえに必ず検討を要するというものではないので、そこは間違えないようにお願いします!

2015年12月7日


未設定さん
加藤先生

丁寧に教えてくださって、本当にありがとうございます!!優秀答案等をみても、思考過程がいまいち分からなかったので、すごく勉強になりました。
本当にありがとうございます。

2015年12月8日