横領罪における占有が認められるために、事実的支配又は法律的支配が、濫用のおそれのある支配力にまで達成している必要があります。
例えば、平成24年の司法試験の採点実感では、「答案に見られた代表的な問題点の例」として、『業務上横領罪の「占有」解釈について、事実的支配のみを論じ、「濫用のおそれのある支配力」の観点が論じられていない答案』が挙げられたいます。
ですので、物に対して支配を及ぼしているだけでは不十分であり、その支配濫用のおそれのある程度にまで達していなければなりません。
キャッシュカードの所持については委託を受けているが、暗証番号については知らないという場合であれば、キャッシュカードの事実的支配は、濫用のおそれのある支配力に達していません。
また、暗証番号について所有者から教えてもらっていないが、何らかの方法で知っているという場合には、キャッシュカードに対する事実的支配は、濫用のおそれのある支配力に達していますが、暗証番号の管理が委託関係に基づくものではないため、委託関係に基づく占有が認められません。
反対に、所有者から暗証番号まで教えてもらっているのであれば、暗証番号の管理の委託により、正当な払戻権限が付与されているといえるのが通常です。なので、法律的支配による占有が認められることになります。
なお、『「占有」には、濫用の恐れのある支配力、法律的支配も含むとされています。』と書いておられますが、
正確には、『横領罪にける占有とは、濫用のおそれのある支配力を本質とするものであって、これには、事実的支配のみならず、法律的支配も含まれる』です。
質問者さんの表現から、濫用のおそれのある支配力=事実的支配という理解をしているのではないかと思いましたので、指摘させて頂きました。
2015年12月5日