『実行行為』性 合格答案のこつ たまっち先生の 「論文試験の合格答案レクチャー」 第 38回 ~平成23年 司法試験 刑法~

たまっち先生の「論文試験の合格答案レクチャー」  38回  
『実行行為』
合格答案のこつ
平成23年 司法試験 刑法から

第1 はじめに
典型的な行為ではなく、人が車の側面部に掴まった状態での蛇行運転行為についての殺人罪の実行行為性が問われている点に注意

 こんにちは、たまっち先生です。
 今回は、平成23年司法試験刑法を通して「実行行為」性について実際のA答案とC答案の比較・検討を通して解説していきます。今回問われて性いる論点は、殺人罪の実行行為性であり、誰もが一度は考えたことのある基本的な論点ですが、ピストルで人を撃つ、ナイフで胸部を突き刺すといった典型的な行為ではなく、人が車の側面部に掴まった状態での蛇行運転行為についての殺人罪の実行行為性が問われている点に注意して検討する必要があります。
 以下では、通常想定されていない行為の殺人罪の実行行為性をどのように検討すれば良いかという点を中心に解説をしていきたいと思います。

| 目次

第1 はじめに
 典型的な行為ではなく、人が車の側面部に掴まった状態での蛇行運転行為についての殺人罪の実行行為性が問われている点に注意

第2 A答案とC答案の比較検討
第3 BEXAの考える合格答案までのステップ「7、事実を規範に当てはめできる」との関連性
第4 本問に関連する論点
  【問題文及び設問】
  1 実行行為性
    1-⑴ 実行行為とは
    1-⑵ 本問における検討
  2 殺人罪の故意(殺意)
    2-⑴ 意義
    2-⑵ 本問における検討
  3 自招侵害と正当防衛の関係
    3-⑴ 判例(最判平成20年5月20日)の立場
    3-⑵本問における検討
  4 防衛行為の一体性
    4-⑴ 問題の所在
    4-⑵ 本問における検討

第2 A答案とC答案の比較検討

【A答案とC答案】

 では早速、A答案とC答案を2つを見比べてみましょう。
 A ポイントC ポイントが分かり易いよう⇩表の記載方法としました(なお、デバイスやモニターの大きさで段がズレて表示される場合がございます。あらかじめご了承ください)。

A答案

A ポイント

第1 甲の罪責
1 乙に対する罪
⑴ 甲は、乙の腹部を殴打し、髪を掴んだ上、その顔面を右膝で3回蹴ったことにより、乙は、加療役1k月間を要する怪我を負っている。かかる行為につき、乙の身体機能の障害を加えて「傷害」したといえ、傷害罪が成立する(204条)。
⑵ 次に、甲は、自車にしがみつく乙から逃れるため、自車のスピードを加速した上で蛇行運転をして、乙を振り落としている。かかる行為につき、殺人未遂罪が成立しないか(203条、199条)。
ア(ア)まず、殺人罪の実行行為性が認められるか検討する。
実行行為とは、構成要件的結果発生の現実的危険性を要する行為をいうから、殺人罪の実行行為性は、生命侵害の現実的危険性を有するか否かにより判断する。
本件甲の上記行為は、車の交通量が多いと考えられる片側3車線の地面が硬いアスファルト舗装された道路において、時速約50キロという猛スピードの蛇行運転により、車高の高い車から乙を振り落としたものである。乙が振り落とされれば、地面に頭を強く打ち付け、後続車に轢かれてしまう危険性があり生命侵害の危険性が非常に高い。現に乙は、意識が回復されず、その見込みも低い状態になっている。
よって、甲の上記行為は、乙の生命侵害の現実的危険が高く、殺人罪の実行行為性が認められる。
(イ)次に、甲の殺人の故意(殺意)が認められるか検討する。
故意とは、構成要件的結果発生の認識・認容することをいう(38条1項参照)。
本件甲は、「乙が地面に頭などを強く打ち付けてしまうだろう」と乙の生命侵害を認識し、「乙を振り落としてしまおう」とその結果を認容している。
よって、甲は殺人の故意があったといえる。
(ウ)以上より、乙は一命を取り留めていることも合わせれば、甲の行為は殺人未遂罪の構成要件に該当する。
イ もっとも、甲が上記行為に及んだのは、乙による侵害行為から逃れるためであった。
そこで、正当防衛が成立しないかを検討する(36条1項)。
(ア)まず、乙による侵害行為は、甲の第1・1・(1)の傷害罪に起因するものである。自ら招いた侵害行為(自招侵害)に対する正当防衛が成立するかが問題となるも、防衛行為自体が社会的相当性を有する場合には、正当防衛が成立しうる。
(イ)乙の侵害行為は、甲に対する生命・身体の危険があり「不正の侵害」がある。問題は、侵害の「急迫」性が認められるかである。
侵害の「急迫」性とは、法益侵害の危険性が現に存在しているかまたは間近に迫っていることをいう。
本件では、甲が蛇行運転を始める前に乙が持っていたナイフを車内に落としており、走行している車の外部から不安定な状態でしがみついていることから、侵害の急迫性はないとも思える。しかし、乙は、それでも車の窓ガラスを叩きながら「てめえ、降りてこい。」などと甲に言っており、攻撃意思が継続しており、ここで甲が車を止めれば乙からさらに侵害を加えられる可能性が高い。
よって、侵害の「急迫」性は認められる。
(ウ)次に、正当防衛が成立するためには、「やむを得ずにした行為」といえなければならない。
「やむを得ずにした行為」とは、防衛行為の必要性があり、かつ相当性を有する行為をいう。
本件では、上記のように乙の侵害行為の急迫性があるため防衛行為の必要性がある。もっとも、甲が蛇行運転という防衛行為をした時点では、乙は凶器であるナイフを車内に落としており、車に外部からしがみついており不安定な状態にあったことから侵害行為の急迫性やその危険性は小さい。他方で、甲の防衛行為は、車を高速度で蛇行運転して、乙を振り落とすような生命侵害の極めて高い危険性がある。よって、防衛行為の危険性が侵害行為のそれと比較してはるかに高いことから、防衛行為は相当性を逸脱したものである。
よって、甲の上記行為は、「やむを得ずにした行為」とはいえず、正当防衛は成立しない。
ウ もっとも、甲は、自己の生命・身体の安全を守るという防衛の意思をもって上記行為に及んでおり、相当性を逸脱したに過ぎないから、「防衛の程度を超えた行為」といえ、過剰防衛が成立し、刑の任意的減免を受ける(36条2項)。
エ 以上より、甲につき、乙に対する罪として傷害罪及び殺人未遂罪が成立するが、両行為が同一機会に同一被害者になされたものであることから傷害罪が殺人未遂罪に吸収され、殺人未遂一罪の罪責を負う。
(以下略) 

 

 

 

 

傷害罪が成立することは明らかであるため、左記のように簡潔な指摘で足ります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殺人罪の実行行為性について、判断基準を示すことができています。

 

 

 

 

 

①道路状況(「片側3車線」)、②道路の性質(「アスファルト舗装された道路」)、③車の速度(「時速50キロメートルの走行」)、④走行態様(「蛇行運転」)、⑤車の高さ(「車高の高い」)、⑥結果の重大性(「意識が回復されず、その見込みも低い状態になっている」)の事実を拾った上で、それぞれの事実に対する評価を加えることができています。コンパクトな記述ながらも見習うべき点は多いです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殺意について、問題文に落ちていているヒントを拾った上で的確に評価できています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最判平成20年5月20日が示した規範を指摘したかったです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナイフを車内に落としている事情を踏まえても、乙が甲に対し暴言を吐き続けている状況に鑑み、急迫不正の侵害は終了していないことを指摘できています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

侵害の急迫性は継続しているものの、乙がナイフを車内に落としていることから、侵害の急迫性の程度は低下している点を指摘できています。このように、侵害の急迫性の有無のみならず、その程度に着目できている点で問題文をよく分析できていると言えると思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

罪数処理も正確にできています。

 

 

C答案

Cポイント

(前略)
4 事実3における乙に対する行為
⑴ 甲は自己の運転する車の側面にしがみついている乙を、自車を高速で走らせながら蛇行運転を繰り返すことによって、乙を地面に繰り返した行為により、乙に頭蓋骨骨折及び脳挫傷等の大怪我を負わせている。
ここで、甲の故意として、「乙が路面に頭を強く打ち付けられてしまうだろうが、乙を振り落としてしまおう」と思って上記行為に及んでいる。
したがって、猛スピードで走行する車から、打ち所が悪ければ即死に直結するであろう頭から落ちるだろうことを認識し、それでも構わないと思っている甲には、乙の死についての認識・認容が存在するといえる。
よって、甲の行為は殺人未遂罪(199条、203条)の構成要件に該当する。
では、正当防衛として違法性を阻却しないか。ここで、前述の事実1における暴行と一連一帯の行為と見られる場合には、防衛行為が社会的相当性を欠くとして正当防衛の成立が認められないところ、事実1における行為と事実3における行為が分断しているといえるか問題となる。
この点、行為が分断しているか否かは、2つの行為の時間的・場所的近接性及び行為者の意思、行為態様等から総合的に判断する。
本件では、甲は乙に追いかけているものの、事実1の現場と事実3の現場は300メートルと場所的に離隔している。また、甲は専ら乙から逃走する意思で、車を使って逃走しようとしている。
したがって、繁華街での暴行と一連一体の行為であるとはいえない。
⑶ では、その他の正当防衛の要件を満たすか。
この点、ナイフを持った乙に運転席の窓ガラスから手を突っ込まれて、これを突きつけながら「やくざ者なめんな、降りてこい。」等と脅されていることから、急迫不正の侵害は認められる。
また、そのような乙からなんとか逃げおおせようとして車を発進させた行為は自己の身体の防衛の意思が認められる。
そして、乙は車を発進させた後にナイフを車内に落としていることから侵害が終わったのではないかと考えられるところ、ナイフを落とした後も乙の気勢は荒く、「てめえ降りてこい」などの怒号を挙げていることから、未だ急迫不正の侵害は継続しているといえる。
しかし、乙の行為が執拗であり、さらにナイフで切り付けてきた上、ヤクザものである可能性が存在したとしても、防衛行為として高速で走行する車から振り落として地面に頭から落とし、上記傷害結果を生じさせたことは、防衛行為としての相当性を欠く。
よって、過剰防衛(36条2項)に当たる。
⑷ よって、乙に対する殺人未遂罪が成立し、過剰防衛となる。 

殺人の実行行為性が問題となっているにも関わらず、拾っている事実が非常に少ないですし、簡単に実行行為性を認めてしまっています。
出題趣旨では、「行為の客観面として殺人の実行行為性を検討し、問題文中に表れている甲車の高さ、速度、走行距離、路面状況及び行為によって生じた結果等の事実を丁寧に拾い上げ、それらが行為の危険性判断においてどのような意味を持つのかを明らかにする必要がある。」と述べられており、本件の行為が当然に殺人の実行行為性を有するわけではないという前提のもとで、受験生がどれほど事実を拾って、当該事実をどのように評価しているかを採点のポイントに置いていることが分かります。このような点からすれば、本C答案のように、そもそも殺人の実行行為性を論点とすら認識できていない答案は低い評価を受けるのはやむを得ないように思われます。

 

 

殺意については丁寧に検討できています。

 

 

 

 

 

 

 

 

自招侵害の論点に気づくことができていません。

 

 

行為の一体性については拾うことができています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

客観面については行為の一体性を肯定する方向で検討するべきであり、本答案の論述には若干疑問を感じます。

 

主観面についても検討が不十分です。第1場面の暴行がどのような意思に基づいて行われたものであり、第3場面の暴行がどのような意思に基づいて行われたものであるかを認定しなければ、答案としては不十分でしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナイフを落としたという事情を踏まえても、いまだ侵害の急迫性は継続していると言える点を検討できています。​

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なぜ相当性を欠くのか、論拠が不明です。

 

 

 

 

 

 

第3 B E X Aの考える合格答案までのステップ「7、事実を規範に当てはめできる」との関連性

 BEXAの考える合格答案までのステップとの関係では、「7、事実を規範に当てはめできる」との関連が強いと考えられます。

 

 実行行為性については、刑法総論の前半で学習する超基本的な論点の一つであり、実行行為性の定義が分からないという受験生はほとんどいないでしょう。ただ、いくら定義がわかっても、事実を当該定義に当てはめることができなければ司法試験の合格ラインには到底到達することはできません。特に、本件の蛇行運転行為のような殺人罪が本来想定していないような行為について殺人罪該当性を検討する場合には、問題文に落ちている一つ一つの事実の意味を慎重に評価し、結論を導かなければなりません。これまで多くの受験生の答案を見てきましたが、事実の抽出が雑になったり、事実が抽出できていてもその法的評価が不十分だったりすることが非常に多いです。基本的論点だからこそ、落とすことができないですし、他の受験生よりに書き負けない答案を作成することが合否を決める上で重要なポイントになってきます。今一度ご自身の答案を見返し、事実の抽出が甘くないか、事実に対する適切な法的評価を指摘することができているか、を確認していただきたいです。

第4 本問に関連する論点

【問題文及び設問】

平成23年司法試験刑法の問題を読みたい方は、⇩⇩をクリック

https://www.moj.go.jp/content/000073974.pdf

1 実行行為性
1-⑴ 実行行為とは

 実行行為とは、構成要件的結果を発生させる現実的危険性を有する行為をいいます。これを殺人罪に置き換えて考えると、殺人罪における構成要件的結果とは人の死亡にあるため、殺人罪の実行行為は、人を死に至らしめる現実的危険性を有する行為をいうと解することができます。検討する際のポイントは、生命侵害の危険性が「現実的な」ものといえるほど高いのか否かという点です。本問に置き換えて考えると、①甲車の高さ、②乙が乗っていた場所、③車の速度、④走行態様、⑤走行距離、⑥路面状況、⑦発生した結果(打ちつけた場所、傷害結果等)、等の事実を踏まえた上で、当該行為が人が死亡する程度の「現実的な」危険性があったのか否かを検討することになります。

1-⑵ 本問における検討

甲車は四輪駆動の車高の高いものであり(※ジープやメルセデス・ベンツのGクラスみたいな車種をイメージして欲しい)、乙が乗っていたのは車の走行中に人が乗ることが想定されていない車のステップ部分であり、そのような状態で甲が車を走行させれば、乙が道路に体を打ち付ける危険性は高いといえることに加えて、車高が高いので体を打ち付けることによる衝撃は強いものであると考えることができます(①、②)。

次に、時速約50キロメートルで約200メートルに渡って蛇行運転させれば、車のステップに乗った不安定な状態の乙が道路上に落下する危険性は高いといえます(③、④、⑤)。

そして、片側3車線の通行量が多い道路であり、乙が車から振り落とされて路上に倒れれば後続車に轢かれる危険があります。また、道路はアルファルト舗装されていることから、道路に頭部等の枢要部を打ち付けることで致命傷を負う危険があります(⑥)。さらに、上記ア、イの事情を踏まえて考えれば、乙は体勢を崩して転落するため受け身をとれずに頭部等の枢要部を打ち付ける危険性は高度であると評価することができるでしょう。

現に乙は頭蓋骨骨折、脳挫傷により意識回復せず、その見込みも低い状態になっており重大な結果が生じています(⑦)。

以上からすれば、甲の行為は、人を死に至らしめる危険性が「現実的な」ものと評価でき、殺人罪の実行行為に当たるということができると考えられます。

2 殺人罪の故意(殺意)
2-⑴ 意義

 構成要件的故意とは、客観的構成要件の認識・認容をいいます。本件でいえば、人が死亡する危険性を有する行為であることを認識しつつ、それ(=人が死亡すること)を構わないと認容するという未必的な殺意があることを検討することになります。

2-⑵ 本問における検討

 殺意については、ほとんど検討が不要とされています。なぜなら、問題文の事情の中で甲の内心に関する事実が落ちているからです。それは、問題文中の甲が「乙が路面に頭などを強く打ち付けてしまうだろう」、「乙を振り落としてしまおう」と考えている点です。この点を踏まえれば、乙が死ぬことを認容しているといえる。
 また、甲は乙が車のステップに乗った不安定な状態であることを認識しつつ、上述のような危険な蛇行運転行為をしているのであるから、自己の行為が人を死亡させる危険性を有する行為であることを認識していることは明らかです。
 これらの事情を踏まえれば、甲は自己の行った上記の行為が乙が死亡する危険性を有する行為であることを認識しつつ、乙が死んでも構わないと認容しているといえ、乙に対する未必的な殺意を肯定することができるでしょう。

3 自招侵害と正当防衛の関係
3-⑴ 判例(最判平成20年5月20日)の立場

 最判平成20年5月20日は、「相手方の攻撃に対して被告人が反撃行為を行った場合であっても、相手方の攻撃が、被告人が相手方に対して先に加えた暴行に触発された、その直後における近接した場所での一連、一体の事態ということができるときには、被告人は不正の行為により自ら侵害を招いたものといえるから、相手方の攻撃が被告人の暴行の程度を大きく超えるものでない事実関係の下においては、被告人において何らかの反撃行為に出ることが正当とされる状況にあるとはいえず、正当防衛は成立しない。」と判示しています。
 この判例のポイントは、「反撃行為に出ることが正当といえる状況」における行為とはいえないとして、総合的判断により正当防衛を否定している点です。つまり、判例は自招侵害の場合には、刑法36条1項の要件論の中で正当防衛状況該当性を否定するのではなく、自招侵害の場合には反撃行為に出ることが正当とはいえないという正当防衛が違法性を阻却する趣旨を踏まえて正当防衛状況該当性を否定していると解釈することができます。受験生としては、この点に注意して答案を作成する必要があるでしょう。

3-⑵ 本問における検討

 上述したように、判例は36条1項の要件とは別個に正当防衛に出ることが相当といえるか否かという検討をしているため、受験生としてはまず正当防衛が成立しうる状況にあるのかという点を社会的相当説に立って説明する必要があります。その際、平成20年判決が示した①相手方の攻撃が被告人が相手方に対して先に加えた暴行に触発された、②一連一体の事態、③相手方の攻撃が被告人の暴行の程度を大きく超えるもの、であることを踏まえて、反撃行為に出ることが社会的に正当(相当)といえるか否かを検討することが重要です。そして、反撃行為に出ることが正当であると言えれば、その後に36条1項の要件該当性を検討すれば足りると考えられます。

4 防衛行為の一体性
4-⑴ 問題の所在

 乙が甲の前腕部をナイフで切りつけた行為(第2行為)が、第1場面における乙の反撃行為(第1行為)と一体のものとして1個の過剰防衛となるのか、それとも第1行為暴行と第2膀胱を別個の行為として前者には正当防衛を成立させ、第2暴行は単純な傷害罪とするのか、すなわちどこまでを防衛行為とするのかという防衛行為の一体性が問題となります。

4-⑵ 本問における検討

 防衛行為の一体性は、行為の一体性の問題です。行為とは主観と客観の統合体であるから、①法益侵害の同一性、②時間的・場所的接着性、③意思の連続性から一体性を判断すべきです。そうすると、本件では第1行為と第2行為は甲の生命身体という同一の法益に向けられた行為であり、かつ、乙は第1行為を行った後、逃げようとする甲を追いかけて第2行為に及んでいることからすれば、時間的場所的な接着性が認められることになります(①、②)。
 他方、乙が第1行為を行ったのは、甲からの侵害行為を避けるためという防衛の意思に基づくものでしたが、第2行為時点では甲は逃げようとしていることからも分かるように乙に対する侵害行為を行っていないから、すでに急迫不正の侵害は終了しており、乙は専ら攻撃意思に基づいて暴行を行っています。したがって、意思の連続性が欠けることから第1行為と第2行為は別個のものとして検討すべきことになるでしょう(③)。

 いつもBEXA記事「たまっち先生の論文試験の合格答案レクチャー」をお読みくださり、誠にありがとうございます。
 第38回は
令和元年 司法試験 刑事訴訟法から「実行行為」性 合格答案のこつ について解説いたしました。次回以降も、たまっち先生がどのような点に気をつけて答案を書けば合格答案を書くことができるようになるかについて連載してまいります。ご期待ください。

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2023年9月15日   たまっち先生 

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