こんにちは、たまっち先生です。
今回は、令和元年司法試験刑事訴訟法の設問1を通して「別件逮捕勾留」について実際のA答案とC答案の比較・検討を通して解説していきたいと思います。
では早速、A答案とC答案を2つを見比べてみましょう。
A ポイントとC ポイントが分かり易いよう⇩表の記載方法としました(なお、デバイスやモニターの大きさで段がズレて表示される場合がございます。あらかじめご了承ください)。
BEXAの考える合格答案までのステップとの関連では、「7、事実を規範に当てはめできる」との関連が強いと考えられます。
別件逮捕勾留について、別件基準説、本件基準説、実体喪失説等の学説を知っていたとしても、それぞれの説の違いを理解し、問題文の事実を適切に当てはめることができなければ高得点を狙うことは難しいでしょう。特に、本件の捜査は、一見すると本件の取調べが別件の取調べの2倍以上の時間を費やされており、単純に取調べ時間のみを比較して別件の取調べの実体を喪失していると判断した受験生が多かったように思います。このような受験生は、学説の理解が表面的に止まっており、問題文の事実を丁寧に当てはめる意識がやや足りていない可能性があります。捜査機関がなぜ本件の捜査を行っているのか、本件の捜査を行うに至ったことについてやむを得ない理由がなかったか等、問題文に落ちている一つ一つの事実の意味を考え、答案を作っていくことが重要といえるでしょう。
「いわゆる別件逮捕・勾留に関する捜査手法の適法性の判断基準については,大別すると,逮 捕・勾留の基礎となっている被疑事実(別件)を基準に判断する見解(別件基準説)と,実質的に当該被疑事実とは別の犯罪事実(本件)についての身体拘束と評価し得るかという観点から判断する見解(本件基準説)とに分かれており,さらに,どのような場合に逮捕・勾留が違法となるかという点をめぐり,別件についての逮捕・勾留の要件(犯罪の嫌疑,身体拘束の必要性)を充足しているかを重視する考え方,別件の起訴・不起訴の判断に必要な捜査がいつ完了したかを重視する考え方,逮捕・勾留に当たっての捜査官の意図・目的を重視する考え方, 逮捕・勾留の期間がいずれの事件の捜査のために利用されている(いた)かを重視する考え方などが主張されている。〔設問1-1〕では,まず,いわゆる別件逮捕・勾留の適法性について,いかなる基準ないし観点から判断するのか,そして,どのような場合に逮捕・勾留が違法となるのかについて,その根拠も含め,自己の理論構成を明示し,【事例】の具体的事実の中から重要な事実に自己の理論構成を当てはめて,甲の逮捕・勾留の適法性について論じることが求められる。」
➡︎ 出題趣旨からすれば、別件基準説、本件基準説、あるいはこれらの説から派生した実体喪失説等のいずれの説から答案を作成しても、点数的には大きな差は生じないと考えられます。そのため、いずれの説に立つかという点は重要ではありません。もっとも、例えば純粋な本件基準説に立ってしまうと、目的のみを見て本件目的で捜査が行われていれば、当該捜査を違法と判断することになるため、問題文の事情の多くを拾えないというデメリットがあります。このような点からすれば、少しでも問題文の事情を多く拾うことができる説に立つことが望ましく、個人的には実体喪失説に立って説明することがベターだと思います。
「〔設問1-2〕では,自己の結論と異なる結論を導く理論構成を示した上(ここでは, 結論と理論構成の双方が異なるものを示さなければならないことに留意する必要がある),その理論構成において着目・重視すべき考慮要素に関わる具体的事実を摘示しながら,甲の逮捕 ・勾留の適法性について論じることになろう。また,当該理論構成を採用しない理由については,いわゆる別件逮捕・勾留の適法性の判断基準に関する各見解に対し,それぞれ指摘や批判もあるところであり,そのような指摘や批判を踏まえつつ,具体的に論述することが求められる。」
➡︎ 本年度の刑事訴訟法の問題では、自己の結論と異なる結論への言及が求められています。平成30年司法試験を境に、このように2つの立場からの検討が求められることが散見されており、受験生としては、特に刑事系に関して、判例・通説のみを押さえるだけでは足らず、少数説まで正確に押さえる必要性が高まっていると考えられます。
「解答に当たっては,これら(=別件基準説・本件基準説等を刺しています。筆者)の主要な考え方を踏まえて自説・反対説の理論構成を提示した上で(なお,これには,適法性の判断基準のみならず,その基準を導く理論的根拠を示すことも含まれる。),それぞれの理論構成の下で重視すべきであろう具体的事実を本事例の中から的確に抽出して,結論を導くことが求められる。なお,自説の理論構成の提示と具体的事実への当てはめのみならず,反対説の理論構成の提示とその当てはめをも求めている趣旨は,別件逮捕・勾留の適法性の論点に関する諸学説を闇雲に暗記することを求めるものではなく,別件逮捕・勾留の適法性について,視座を異にする二つの考え方を検討するよう求めることで,両者の考え方にdのような違いがあり,なぜそうした違いが生じるのか,すなわち別件逮捕・勾留の問題が議論される本質的理由がどこにあるのかについて深く理解できているかを問う趣旨である。さらに,そのような理解を前提に,自己の拠って立つ理論構成を示すに当たって,自説の正当性のみならず,反対説に対する批判・反論を論じさせることにより, 別件逮捕・勾留の問題への対処についての理解の深さも問う趣旨である」
➡︎採点実感からすれば、自説と反対説にただ言及すれば足りるというわけではなく、その説の根拠は何か、なぜあなたがその説を採用するのか、等一歩踏み込んだ理解が求められていると考えられます。また、反対説に対しても単に批判を示して採用しない旨を述べるだけでは足りず、あなたの立つ説の方がなぜ反対説よりも妥当であると考えるのか、まで言及することが求められています。
「設問は,本件業務上横領事件による逮捕・勾留及び3月20日までの身体拘束の適法性についての検討を求めるものであるから,身体拘束の理由となっている業務上横領事件について逮捕・勾留の要件を満たしているか,また,10日間の勾留延長がなされていることから勾留延長の要件を満たしているかについての論述が必要であるが,この点の検討を欠く答案が少なくなかった。特に本件基準説に立つ場合,別件の逮捕・勾留の要件の具備以外の事情を考慮して適法性を判断するため,理論的には,上記要件の検討を経ることなく違法の結論を導くことも可能であり,実際にも本件基準説を自説とする答案にはこの点の検討を行わないものが多かった。しかし,別件逮捕・勾留の問題についていかなる立場に立とうとも,身体拘束の理由となっている被疑事実について刑事訴訟法上の逮捕・勾留の要件が満たされていなければ 違法であることは明らかである以上,法律実務家としては,まずはその点の検討を行うことが適切であると思われるし,また,本問において,自説として本件基準説に立ち,かつ違法の結論を採る場合でも,自説と異なる結論を導く反対説を検討する際には,上記要件の具備の点の検討は不可欠であろう。」
➡︎問われているのは、あくまでも件業務上横領事件による逮捕・勾留及び3月20日までの身体拘束の適法性である点を踏まえ、業務上横領事件に関する逮捕、勾留、勾留延長、これらと並行して行われた身体拘束の適法性について検討することが求められている旨が指摘されています。受験生の答案を読んでいると、別件逮捕勾留の論点に飛びつき、逮捕、勾留、勾留延長の要件を一切検討することなく、永遠と別件逮捕勾留の論点を検討する答案が見受けられますが、そのような答案は高い評価を得られないことが上記の採点実感の記載からも読み取ることができるでしょう。
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https://www.moj.go.jp/content/001293667.pdf
別件逮捕・勾留とは、「本件」について逮捕するだけの証拠が揃っていない場合に、「本件」について取り調べる目的で、証拠の揃っている「別件」で被疑者を逮捕・勾留し、その身体拘束期間を利用して「本件」の捜査をする捜査手法をいいます。
このような別件逮捕・勾留が問題となる事案では、令和元年司法試験のように、①「別件」による逮捕・勾留(第一次逮捕・勾留)、②その間の「本件」に関する取調べ(余罪取調べ)、③「本件」による逮捕・勾留(第二次逮捕・勾留)という経過をたどるのが一般的です。
したがって、別件逮捕・勾留が問われた際は、①第一次逮捕・勾留の適法性、②余罪取調べの限界、③第二次逮捕・勾留の可否、の順序でそれぞれの要件該当性を検討していく必要があります。
「別件」に逮捕・勾留の理由と必要性があれば、第一次逮捕・勾留は適法と考える見解です。別件基準説では、主として本件の取調べを目的とする場合であっても、別件について身体拘束の要件が具備されている以上、裁判官の令状発付及びそれに基づく逮捕・勾留は適法であり、あとは別件逮捕・勾留中に本件(=余罪)の取調べが許されるか否か、つまり、余罪取調べの限界の問題として処理することになります。なお、下級審裁判例の多くが別件基準説に立っていると考えられています。
「別件」に逮捕・勾留の理由と必要性があったとしても、捜査機関においてこれを「本件」の捜査のために利用する意図がある場合には、当該逮捕・勾留を違法と考える見解です(多数説)。この説の根拠としては、①実質的には「本件」で逮捕・勾留しているのに、裁判官は「別件」についてのみ司法審査をしており、司法審査のない「本件」での逮捕・勾留を認めることによって、令状主義を潜脱する、②第一次逮捕・勾留の期間中に「本件」の捜査を行い、さらに「本件」で第二次逮捕・勾留を認めれば、厳格な身体拘束期間の制限も潜脱される、等が挙げられています。他方で、裁判官は神ではないため、捜査機関の上記のような意図を見抜くことは困難であるし、「別件」について客観的な逮捕・勾留の理由と必要性があるにもかかわらず、捜査機関の意図という客観的な事情で違法となる根拠が明らかではないとの批判があります。
上記2説は、令状審査段階における捜査官の内心の意図・目的で対立していましたが、近年はこのような令状審査段階における捜査官の内心の意図・目的ではなく、令状発付・身体拘束後の別件による身体拘束期間を本件の捜査に利用したという「身体拘束中の捜査の実態」にこそ存在すると捉える見解が強くなっています。
このような流れから、近年実務的にも有力となっているのは、第一次勾留期間中の本件に対する余罪取調べを含む客観的な捜査状況を踏まえ、本罪の勾留としての実体を喪失していたかを検討し、その違法性を判断する見解です(実体喪失説、東京地決平成12年11月13日判タ1067号283頁)。第一次勾留期間中は、本件について適正な処分のために捜査活動を行うべきであるのに、専ら余罪についての捜査活動が行われていたと認められる場合には、第一次拘留は本罪による勾留としての実体を喪失し、実質上、余罪のための身体拘束と評価さあれる結果、余罪については裁判官による事前の司法審査を経ていないから、当該身体拘束は令状主義に反し違法であるとともに、余罪取調べについても違法な身体拘束を利用したものとして違法となると考えるわけです。この見解の特殊な点としては、①捜査機関の意図のみではなく、②本罪及び余罪それぞれの取調べの程度、③余罪と本罪との関係、④取調べの態様及び供述の自発性、⑤捜査全般の進行状況等を総合的に考慮して身体拘束の実態を判断するという点です。
なお、本見解に立った場合には、実体を喪失したと認められる時点から、当該勾留が違法と判断されることになるため、第一次勾留は全部違法となるわけではなく、その一部が違法と判断される点に注意する必要があります。
本件の捜査の流れを見ると、別件の捜査と本件の捜査が入り交じっており、3月10日頃の捜査から本件の捜査の比重が高くなっていっているのが分かります。そうすると、当初の身体拘束は別件目的の捜査といえる可能性がある一方で、3月10日以降の捜査については本件目的の捜査に至っている可能性があることが分かります。このような点に気づければ、本件は実体喪失説の立場から3月10日以降の身体拘束を本件捜査目的の身体拘束に至っているとして、違法とする方向で検討していけば良いと整理することができます。
なお、設問1⑵では、反対説からの検討が求められていますから、純粋な本件基準説あるいは純粋な別件基準説の立場から、論じることができれば足りるでしょう。
ア 通常逮捕の要件は、逮捕の理由及び逮捕の必要性です。
イ X社社長の供述調書及びAの供述調書、Aから集金した3万円がX社に入金されたことを裏付ける客観的な証拠が存在しないことからすれば、甲が本件業務上横領罪を行ったことが推認され、「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある」と認められます(逮捕の理由)。
ウ また、逮捕の必要性(199条2項ただし書、規則143条の3)とは、罪証隠滅及び逃亡の恐れが認められることをいうところ、業務上横領罪は、10年以下の懲役に処せられる重大犯罪であり、甲はアパートで単身生活をしており無職であることから、罪証隠滅及び逃亡の恐れがないとは言えず、逮捕の必要性も認められると考えられます。
エ したがって、業務上横領罪の逮捕の理由及び逮捕の必要性が認められるため、下線部①の逮捕は適法といえるでしょう。
ア 勾留の要件は、勾留の理由及び勾留の必要性です(207条1項、87条1項)。
イ 上述したとおり、甲には業務上横領罪の嫌疑があり、「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある」(207条1項本文、60条1項柱書)といえます。上述したとおり、甲には「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」(207条1項、60条1項1号)及び「逃亡すると疑うに足りる相当な理由」(207条1項、60条1項2号)も認められます。したがって、勾留の理由が認められます。
ウ そして、勾留は逮捕よりも身体拘束期間が長く、甲に与える不利益の程度は小さいとはいえないものの、上記勾留の理由が強く認められることからすれば、上記不利益を上回っていると評価でき、勾留の必要性も認められるといえるでしょう(207条1項、87条1項)。
エ 以上より、本件勾留は要件を満たしており、適法といえるでしょう。
ア 勾留延長には、「やむを得ない事由」がなければなりません(208条2項)。
イ 本件において、別件の犯行日を特定したり、被害金額の裏付けをとったりするためにもYの取調べを行う必要がありましたが、Yの出張の都合により平成31年3月16日までYの取調べを行うことができない状況にありました。また、3月7日の甲の「事件当日は、終日、パチンコ店のH店かI店にいたような気もする」との供述の裏付け捜査に関し、I店の防犯カメラが同日14日にならなければその画像を確認することができず、また、3月10日の時点では甲が否認を続けていたことから十分な証拠収集が完了しているとはいえず、勾留を延長してでも更に甲を取り調べる必要性があったといえると考えられます。
ウ 以上からすれば、本件については勾留を延長する「やむを得ない事由」があったといえ、勾留延長は適法といえるでしょう。
ア 勾留延長の前後で、捜査の目的に変化が生じていますから、①3月2日〜3月10日までの身体拘束と②3月10日〜3月20日までの身体拘束とに分けてそれぞれ検討していきたいと思います。
イ 3月2日〜3月10日までの身体拘束
(ア)たしかに、Pは、3月4日から6日にかけて、甲に対して本件たる強盗致死事件の取調べを行っていますし、8日〜10日も本件の取調べを行っており、別件たる本件業務上横領事件の取調べ時間よりも長く行っているという事情はあります。
・本件の取調べ:18時間
・別件の取調べ:11時間
(イ)しかし、取調べの時間はあくまで判断要素の一事情に過ぎないという点に注意が必要であり、取調べの時間だけではなく、捜査機関の意図、取調べの目的、本件の取調べの方が多くなってしまった経緯等も踏まえて検討する必要があります。
この点、Pは取調べにあたり、甲に対して任意の取調べである旨を説明しており、甲も特段これに対して反対する態度をとっておりません。また、Pは、2日、3日、5日は別件の取調べを行っており、専ら本件の取調べだけを行った、というわけでもありません。そして、特に3月8日〜10日の3日間連続の本件の取調べについては、3月7日に甲が事件当日のアリバイを主張し、その裏付けが取れるかをパチンコ店に確認するための捜査を行う必要があったため、むしろ別件については捜査を進めることができない状況にありました。そのため、別件の取調べをする実効性がない以上、やむを得ず本件の取調べをしていたという経緯があると考えることができるでしょう。
(ウ)以上のことからすれば、当該期間の身体拘束については、本件の取調べの方が別件の取調べよりも時間としては長いものの、別件の捜査も継続されており、別件の身体拘束の実体が喪失したとまではいえないことから、適法というべきでしょう。
ウ 3月10日〜3月20日までの身体拘束
(ア)たしかに、3月10日以降は、別件の取調べが合計9時間しかされていないのに対して、本件の取調べは6日間にわたって合計22時間も行われており、やはり時間だけを見れば、本件の捜査の方に多くの時間を費やしていることが分かります。また、甲が居住するアパートの大家の取調べや原動機付自転車に関する操作など本件に関する具体的な捜査も行っており、もはや別件の身体拘束の実体を失ったと評価する余地がないわけではないと思います。
(イ)他方、この間、Qは、Aの供述を客観的に裏付けるために、甲がX社の業務で使用していた甲所有のパソコンのデータを精査したり、14日にはI店の防犯カメラを確認し、甲のアリバイの裏付けがあるかを確認したり、甲の嫌疑を担保する供述をしていたYに対し取調べを行ったりするなど、別件の捜査も並行して行っています。そして、これらの捜査の結果を踏まえて、その都度、甲に対して別件に関する取調べを行っています。そして、ここで重要なのは、捜査機関があえてこのような捜査の順序を採用したわけではなく、YやI店側の都合上、このような捜査順序にならざるを得なかったのであり、そこに捜査機関の違法な意図が介在しているわけではありません。
(ウ)これらの事情からすれば、Pらは、別件の捜査が滞っている時間を活用して甲に対し本件の取調べを行っていたに過ぎず、別件の捜査も並行して行われていた以上は、本件の捜査のために別件の逮捕・勾留が利用されていたとはいえず、別件の身体拘束の実体が喪失したとまでは評価できないと考えられます。
いつもBEXA記事「たまっち先生の論文試験の合格答案レクチャー」をお読みくださり、誠にありがとうございます。
第37回は令和元年 司法試験 刑事訴訟法から「別件逮捕」合格答案のこつ について解説いたしました。次回以降も、たまっち先生がどのような点に気をつけて答案を書けば合格答案を書くことができるようになるかについて連載してまいります。ご期待ください。
A答案を書くのに必要なのは「短答の知識を論文に活かせるようにすること」
2023年9月4日 たまっち先生
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