株式発行無効の訴え 合格答案のこつ たまっち先生の「論文試験の合格答案レクチャー」第35回~令和2年 司法試験 会社法~

たまっち先生の「論文試験の合格答案レクチャー」  35回  
「株式発行無効の訴え
合格答案のこつ

令和2年 司法試験 会社法から

第1 はじめに

こんにちは、たまっち先生です。
今回は、非公開会社における募集株式の無効の訴えについて、令和2年の司法試験を題材として実際のA答案とC答案の比較検討を通じて合格答案のコツをレクチャーしていきたいと思います。

第2 A答案とC答案の比較検討

【A答案とC答案】

 では早速、A答案とC答案を2つを見比べてみましょう。
 A ポイントC ポイントが分かり易いよう⇩表の記載方法としました(なお、デバイスやモニターの大きさで段がズレて表示される場合がございます。あらかじめご了承ください)。

A答案

A ポイント

第1 設問1
1 Bは新株発行無効の訴え(会社法(以下略)828条1項2号)を提起して本件株式発行の効力を争うことが考えられる。
そして、Bは甲社「株主」(828条2項2号)であるし、本件株式発行は令和2年4月10日に行われているところ、「1年」の出訴期間(828条1項2号括弧書)内である。したがって、Bは甲社を「被告」(834条1号)として、甲社の「本店の所在地を管轄する地方裁判所」(835条1項)に上記訴えを適法に提起することができる。
2 では、本件新株発行に無効事由は存在するか。無効事由について定める銘文はないものの、新株発行の無効が多数の利害関係人の利益を害することに鑑みて、多数の利害関係人の利益を犠牲にしても無効とすべき重大な瑕疵に限って無効事由となると考える。以下、無効事由が存在するか検討する。
⑴ まず、本件株式発行は議決権のある剰余金配当優先株式という種類株式(108条1項1号)を発行するものであるから、種類株式を発行する旨の定款の「定め」が必要である旨の定款変更(466条)が行われている。もっとも、かかる本件決議1が取り消された場合、決議の効果が遡及的に消滅(839条反対解釈)し、本件株式発行には定款の定めなくなされたという瑕疵があることになるのではないか。
ア まず、本件招集通知書には本件議案1が記載されていなかったところ、本件決議1は目的外決議(309条5項本文)にあたり、「決議の方法が法令…に違反」しているといえ、本件決議1には取消事由たる瑕疵が存在している(831条1項1号)。
イ もっとも、本件定時総会には、株主全員が出席し、本件決議1は株主全員の賛成によって可決されているところ、全員出席総会が成立したとして、上記瑕疵は治癒されないか。
(ア)そもそも、株主総会の招集通知に目的の記載が要求される(298条1項2号)趣旨は、株主に出席するか否かの判断材料を与えるとともに、議決権行使に向けて情報収集などの準備期間を与えることにある。そうだとすれば、目的外決議であっても、①株主全員が出席、議決に賛成した場合には、②かかる賛成が株主の真意に基づくものではないことを疑わせる特段の事情がない以上、有効に決議が成立すると考える。
(イ)本件定時総会にはA及びBが出席しており、株主全員が出席している。また、AだけでなくBもCからの説明を受けて、自己の持株比率が下がるのもやむを得ないと考え、渋々ながらも本件議案1に賛成しているところ、株主全員が本件議案1に賛成しているといえる(①)。
もっとも、かかるCの説明の中には2万円という1株当たりの払込金額は中立的な専門機関が合理的な方法によって算定した評価額に相当するものであるという虚偽の説明が含まれている。そして、Bは中立的な専門機関が合理的な方法によって算定した本件優先株式の評価額が4万円であったことを知っていれば、その半分の払込金額で本件優先株式を発行するという本件議案2に賛成することはなかったと考えられる。そうだとすれば、本件株式発行の前提である定款変更を内容とする本件1にも賛成することはなかったと考えられる。したがって、Bは本件議案1に賛成したのはCが虚偽の説明をしたためであり、Bの賛成が真意に基づくものではないと疑うべき特段の事情が存在している(②不充足)。
(ウ)よって、本件定時株主総会に株主全員が出席し、株主全員の賛成によって本件決議1がなされたとしても、瑕疵は治癒されない。
エ そして、上述の株主総会招集通知に目的の記載が要求される趣旨に鑑みれば、目的外決議は「重大」な法令違反であり裁量棄却はされない(831条2項)。
オ そして、種類株式について定める定款変更の株主総会承認決議は、種類株式発行について株主の意思を反映させる重要な手続であるところ、かかる手続に取消事由たる瑕疵が存在することは、新株発行についての重大な瑕疵にあたり、新株発行無効事由を構成する。
なお、本件決議1は令和2年3月25日になされているところ、未だ決議から「3月」は経過していたいため、本件決議1の取消事由を争うことも、株主総会決議取消しの訴えの出訴期間制限(831条1項柱書本文)との関係においても問題はない。
⑵ また、本件決議2にも本件決議同様、目的外決議であるという瑕疵が存在する。そして、上述の通りかかる瑕疵は、本件定時株主総会に全株主が出席し、全株主が賛成していたことをもっても治癒されない。そして、10持株比率維持への機体が特に強く保護されるべき非公開会社においては、新株発行の株主総会承認決議に瑕疵があることは重大な手続違反に当たるというべきである。したがって、本件決議2が目的外決議であるという瑕疵は重大な瑕疵にあたり、本件株式発行の無効事由を構成する。
⑶ さらに、上述の通り、Cは本件株式発行についての虚偽の説明を行なっているところ、本件決議2には積極的説明義務(199条3項)違反という瑕疵が存在しないか。
ア まず、11中立的な専門機関が一応合理的な方法によって算定した本件優先株式の評価額は4万円であったところ、その半額である2万円を1株当たりの払込金額とする本件株式発行は「特に有利な金額」での新株発行にあたる。
イ そうだとすれば、Cは「当該払込金額でその者の募集をすることを必要とする理由」を説明する義務を負う。もっとも、本件定時株主総会ではCは有利発行が必要な理由について説明をしないだけでなく、本件優先株式の評価額について虚偽の説明を行い、本件株式発行が有利発行にあたることさえ説明していない。したがって、本件決議2には積極的説明義務違反という瑕疵が存在している。
ウ そして、上述の通り、非公開会社で持株比率維持に対する期待の保護が強く要請されること、株式の発行が有利発行に当たるか否かは株主が株式発行に賛成するか否かを判断する際の重油な考慮要素であることに鑑みれば、新株発行の際の株主総会において積極的説明が尽くされなかったという瑕疵は重大な瑕疵にあたると考えるべきである。したがって、本件決議2に際して、Cが虚偽の説明をしたことは本件株式発行の無効事由となる。
⑷ よって、本件株式発行には種類株式を定める定款変更決議に瑕疵があること、本件株式発行を行う旨の議案の決議が目的外決議であったこと、同決議に際してCが積極的説明義務を尽くさなかったという無効事由が存在している。
3 以上より、上記訴えは認められ、Bは本件株式発行の無効を主張できる。

 

 

 

 

 

 

 

訴訟要件を漏れなく検討することができており好印象です。当たり前ですが、訴訟要件を充足しなければ本案の審査に入ってもらえないため、訴訟要件充足性についても答案に示す必要があります。

 

 

 

 

 

 

 

株式発行無効の訴えにおける無効事由を簡潔に指摘できています。
無効事由のように学説上もほとんど争いがない点については、本答案くらい簡潔な論証で足ります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出題の意図を掴めています。
株主総会の取消しの訴えが認容された場合、当該株主総会は遡及的に無効となるため(会社法839条反対解釈)、その結果、本件決議1の決議事項である定款変更についても無効ということになります。現場でこの点に気づけた受験生は多くはなかったと考えられますが、本答案は非常によく書けています。

 

 

 

 

 

 

本来決議できない事項を決議した点から、会社法309条5項違反を指摘できています。309条5項は株主総会の違法事由を検討する際にはよく使う条文であるため、受験生は必ず知っておきたいです。

 

 

 

最判昭和60年12月20日民集39巻8号1869頁を意識し、全員出席総会による瑕疵の治癒について言及することができています。

 

 

 

 

 

 

 

単に判例を指摘するだけではなく、招集通知制度の趣旨を踏まえ、全員出席総会によっても瑕疵が治癒されない場合が考えられることを検討できています。
判例の射程を意識できていることが伝わる論述であり、非常にレベルが高いということができます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

判例の事案との違いを意識して、株主が瑕疵を認識しつつ、株主総会の開催に「同意」しているわけではないという点を丁寧に検討できています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

裁量棄却の検討は忘れがちですが、上位答案はこのような細かい論点もきちんと拾っているという特徴があります。また、メイン論点ではないため、簡潔に指摘している点も参考になります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

非公開会社における株式発行無効の訴えは、株式発行の効力発生時点から1年以内とされていますが、株主総会の取消事由を主張する際には、当該株主総会の決議の日から3ヶ月以内の主張制限が課せられる点に注意が必要です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10公開会社とは異なり、非公開会社においては、特に既存株主の保護が重視される点を意識できています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

11本来非公開会社の株価は評価するのが非常に難しいですが、本問では中立機関が1株4万円と算定しているため、これを公正価額と扱って良いことになります。
採点実感でも指摘されている通り、本件株式発行が有利発行に該当することはほぼ明らかですから、有利発行該当性は左記のように簡潔な指摘で十分です。

 

 

C答案

Cポイント

Bは、甲社の「株主」として、「招集手続」及び「決議の方法」に瑕疵があることを理由に、本件決議1及び本件決議2を取消した(会社法831条1項1号)上、新株発行無効の訴え(828条1項2号)を提起し、本件株式発行の効力を争うことが考えられる。
2 総会決議取消事由
⑴ 299条4項違反
株主総会の招集通知には、株主総会の「目的である事項」(298条1項2号)を記載しなければならない(299条4項)。本件招集通知には「計算書類の報告の件」及び「事業報告の報告の件」という目的事項が記載されていたが、「定款変更の件」及び「新株発行の件」という、本件議案1及び本件議案2の目的に関する記載がされていなかった。したがって、299条4項に違反するため、「招集手続」の「法令」「違反」があるといえる。
314条違反
取締役は株主総会において株主から説明を求められた場合、「必要な説明」をしなければならない(314条)。ここで、「必要な説明」とは、平均的な株主が議決権を行使するために必要な説明をいう。
本件で、CはBに対して、本件議案1及び本件議案2について、1株当たりの払込金額2万円は中立的な専門機関が合理的な方法によって算定したものであると説明している。しかし、実際の評価額は4万円であり、Cによる説明はBを説得するための虚偽であった。それによりBは渋々賛成しているため、本当の評価額が4万円であると分かっていれば反対していたことが予想され、Cは議決権行使のために必要な説明を尽くしたとは言えない。したがって、314条に違反するため、「決議の方法」の「法令」「違反」があるといえる。
⑶ もっとも、裁判所による裁量棄却(831条2項)がありうる。
299条4項違反について、同条の趣旨は、株主に株主総会の決議事項の準備の機会を確保しようとするものであるところ、本件招集通知の記載ではBに準備の機会を確保したことにはならず、違法は「重大」であるといえる。したがって、裁量棄却されない。
また、314条違反について、払込金額が適正評価額の2分の1であることを知っていれば、Bは反対していた可能性が高く、「決議に影響を及ぼす」違反であるといえる。したがって、裁量棄却はされない。
⑷ よって、各違反は取消事由にあたり、本件決議1及び本件決議2は取り消されるべきである。
株式発行無効事由
⑴ 本件決議1及び本件決議2が取り消された場合、総会決議取消は遡及効(839条参照)ため、本件株式発行は総会決議(199条2項)なく行われたことになる。では、非公開会社において総会決議を欠く手続的瑕疵は株式発行の無効事由に当たるか。828条1項2号に規定がないため問題となる。
⑵ 828条が株式発行の効力の否定を訴えのみで認めていること、出訴期間に制限を設けていることから、同条は無効事由についても規定していると解すべきである。そこで、無効事由は重大な法定定款違反に限られると解する。
⑶ では、非公開会社において、株式発行の総会決議を得ていないことは重大な法令違反に当たるか。この点、非公開会社においては、株式発行の出訴期間は1年に延長していること(828条1項2号かっこ書)、株式発行には株主総会の特別決議が必要的であること(199条2項、309条2項5号)から、法は持株比率に関わる既存株主の保護を重視しているものと考えられる。だとすれば、非公開会社において総会決議を得ていない株式発行は法令違反に当たると解する。したがって、無効事由に当たる。
4 よって、Bは株式発行無効の訴えにより、本件株式発行の効力を否定することができる。

 

 

株主総会決議取消しの訴えの訴訟要件については言及できているものの、株式発行無効の訴えの訴訟要件については言及できていません。本件では株式発行無効の訴えを提起し、その中で株主総会取消事由を主張する、という構図になりますから、検討しなければならないのは、むしろ株式発行無効の訴えの訴訟要件であると考えられます。
なお、本案のみならず、訴訟要件にも配点があることは確実です。検討漏れのないように注意したいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

314条ではなく、199条3項の問題として処理すべきでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

有利発行である点には気づけているだけに、199条3項に言及できていない点が悔やまれます。
なお、なぜCが虚偽の説明をしたのか、という点も検討したいです。資金調達が急務であり、虚偽の説明をしてでも資金調達を実現しなければならない事情があったことは事実であるため、かかる事実を踏まえても虚偽の説明を行ったことが正当化されないかという点まで踏み込んで検討したかったです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

裁量棄却がないことも簡潔に言及できています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

314条は論点にならないため、結果的に299条の招集通知に関する法令違反があることしか違法事由を指摘できていないことになります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最判平成24年4月24日の理解を示すことができています。

 

 

 

 

 

 

第3 B E X Aの考える合格答案までのステップ「6、条文・判例の趣旨から考える」との関連性

 BEXAの考える合格答案までのステップとの関係では、「6、条文・判例の趣旨から考える」との関連性が強いと考えられます。

 

 特に全員出席総会による瑕疵の治癒については、そもそも指摘できている答案が少なかった上に、指摘できていた答案でも、判例の結論に何の根拠も示さず従っているものが多かったようです(採点実感参照)。重要判例の知識はもちろんですが、重要判例がなぜそのような結論をとったのか、という当該結論に至った過程を踏まえて論述することが重要です。上記のA答案は、その点の意識ができているため、結果的に非常に高い評価を受けていると考えられます。

第4 本問に関連する論点

【問題文及び設問】

令和2年 司法試験 会社法の問題を読みたい方は、⇩⇩をクリック

https://www.moj.go.jp/content/001326057.pdf

1 問題の所在

 本件株主総会の招集通知には、議案1及び2の記載がなく、また、「定款変更の件」、「神株式発行の件」という目的が記載されていません。株主総会の招集通知には目的事項の記載が要求されているところ(会社法298条1項2号)、本件招集通知は同号違反が認められることになります。他方で、本件決議2は全員出席総会であるため、上記招集手続に関する瑕疵が治癒されないかという点も論じる必要があります。
 また、本件株式発行は1株当たりの払込金額が2万円とされているところ、専門機関の算定額は1株4万円であり、有利発行に該当すると考えられます。この点、有利発行をする際には有利発行をすることにつき合理的な説明をすることが求められていますが(会社法199条3項)、本件Cは虚偽の説明を行っていることから、かかる説明が199条3項違反を構成しないか問題となります。
 また、決議1が取り消されれば、定款変更がなかったことになるため、定款の定めのない種類株式を発行したとして、無効事由が認められないかという点もあわせて問題となります。
 以下それぞれの論点について詳述します。

2 全員出席総会による瑕疵の治癒
⑴ 最判昭和46年6月24日の考え方

 まず、原則的な考え方として、一部の株主が集まって何かを決定したとしても、それは法的には株主総会とは評価される、何の法的効力も生じることはありません(これは当然でしょう)。一部の株主しか参加していないのであれば、株主「総会」とは言い難いからです。
 もっとも、招集手続を欠いた場合にも、株主全員が株主総会の開催に同意して出席したときは(これを全員出席総会といいます。)、招集手続の不履行によって不利益を被る株主はいないから、株主総会は適法に成立すると解されています。(最判昭和46・6・24民集25巻4号596頁、以下昭和46年判決といいます)。

 このような考え方ができるのは、招集通知制度の趣旨を考えれば明らかです。招集通知制度の趣旨は、株主に株主総会の情報を与えて、株主総会に出席するための準備の機会を与えることにあります。そうだとすれば、全ての株主に株主総会への準備の機会、出席の機会が確保されていた場合には、わざわざ招集通知をする必要はないということができます。

⑵ 本問の検討

 上記昭和46年判決がそのまま本問にも妥当するか、慎重に検討していくことになります。上記の通り、昭和46年株主全員が株主総会の開催に同意して出席したときは、瑕疵が治癒されるというロジックを用いています。つまり、全員出席総会であれば常に瑕疵が治癒されるというわけではなく、株主全員が招集手続がされないことについて「同意」している場面に限り、招集手続の瑕疵が治癒されるというわけです。
 したがって、本問の検討にあたっては、Bが招集手続に瑕疵があることについて「同意」していたといえるのかが問題となります。
この点、確かにBは本件株主総会の決議に何の異議も唱えず参加しており、招集手続に関する瑕疵が治癒されるようにも思えます。
 もっとも、招集通知に本件株式発行が有利発行であることは記載されていなかったため、Bは株主総会に出席して初めて本件議案1の存在を知っています。また、Cから本件株式発行本件株式は中立的な算定期間が合理的方法により算定した額が2万円であった旨の虚偽の説明を受けており、実際の算定額が1株4万円という事実を知っていれば、決議において賛成票を投じることはなかったと考えることができます。

 以上からすれば、Bとして招集通知の瑕疵について「同意」していたとは評価し難く、全員出席総会による瑕疵の治癒は認められないというべきでしょう。このように、判例の結論のみを指摘するのではなく、判例との事案の違いを踏まえ、本問ではどのような結論を導くことが妥当かを意識して論述するようにしましょう。

3 有利発行
⑴ 非公開会社における募集株式の発行

 公開会社が募集株式の発行等をする場合は、原則として取締役会決議で足りますが(201条1項)、非公開会社が募集株式の発行等をするには、原則として株主総会の特別決議により募集事項を決定しなければならないとされています(199条1項・2項、309条2項5号)。非公開会社の株主は、通常経営支配権に関わる議決権比率の維持に強い関心を持っていると考えられるからです。非公開会社では、公開会社よりも、株主の判断が重視されていることになります。

 なお、受験的には重要度は高くはないですが、募集事項とは、
① 募集株式の数(種類株式発行会社の場合には、募集株式の種類及び種類ごとの数)
② 募集株式の払込金額(募集株式1株と引き換えに引受人が出資すべき金額)またはその算定方法
③ 現物出資をするときは、その旨ならびに出資財産の内容および価額
④ 払込期日または払込期間
⑤ 募集株式の発行をする場合は、増加する資本金および資本準備金に関する事項
をいいます(199条1項各号)。

⑵ 有利発行

 1株の払込金額が、募集株式を引き受ける者にとって特に有利な金額である場合には、既存株主が持株比率の希釈化による経済的な損失を被る恐れがあります。そのため、取締役は、株主総会において、当該払込金額でその者の募集をする理由を説明しなければならないとされています(199条3項)。
 同項の趣旨は、有利発行は既存株主の持株比率の希釈化を招く恐れがあるため、既存株主に有利発行を行う必要性を判断させるための情報を与えることにありますから、ここにいう「説明」とは、平均的な株主を基準として、有利発行をする必要性を判断するのに客観的に必要な情報をいうと解することができます。
 なお、非公開会社が株主総会の特別決議を経て募集株式の発行等をする場合に、それが有利発行に当たるのに取締役が理由の説明をしなかった場合には、手続に違法があるとして、取締役の任務懈怠の問題となります(東京高判平成25年1月30日)。

⑶ 本問の検討

 本件では、甲社は資金調達の必要性が急務であったこと、また、Cが本件株主総会において、本件優先株式1株当たり2万円という払込金額が中立的な専門機関が合理的な方法によって算定した評価額である旨を説明しています。これらの事情を踏まえれば、一見合理的な説明がされているようにも思えます。
 しかし、Cの上記の説明は虚偽の説明であり、本来の算定額は1株あたり4万円という株価でした。そうすると、実際の株価よりも50%のディスカウントをする必要性まで説明しなければならないはずですが、Cはかかる説明どころから本来の株価が1株あたり4万円であるという事実すら説明を行っておりません。そのため、1株あたり2万円という「特に有利な金額」で発行されることの必要性を合理的に判断することは到底できず、必要な説明がされたと評価することは困難でしょう。

 以上からすれば、1株あたり2万円が公正な払込金額であると虚偽の説明をして本件株式発行を決議したことは、「決議の方法が法令…に違反」(831条1項1号)しているといえます。
なお、裁量棄却(831条2項)の検討も忘れないよう注意しましょう。

4 株主総会取消事由と新株発行無効事由
⑴ 新株発行の無効原因

 会社法上、新株発行無効の訴えにおける無効事由については何ら規定がされておらず、無効原因は解釈により決されることになります。この点、株式発行の効力発生により一定の法律関係が形成されているため、法律関係の安定性・取引安全を図るため、無効原因は重大な法令・定款違反などの特に重大な瑕疵がある場合に限られると解されています。

 株主発行の無効原因は、判例及び学説上限定的に解されている一方で、株主総会の決議の取消事由は、株主総会の決議の瑕疵の中でも比較的軽微な事由であるとされていることに注意して、本件における株主総会取消事由がなぜ新株発行の無効原因まで構成することになるのかを丁寧に論じていく必要があります。

⑵ 本問の検討

ア 本件決議1が取消されることにより本件決議1は遡及的に無効となります(839条参照)から、本件株式発行は定款の定めのない種類の株式発行となり、108条1項・2項違反となります。そして、定款は会社の根本規範であり、定款違反が特に重大な瑕疵であることから、かかる瑕疵は新株発行の無効原因を構成することになります。

イ 次に、本件決議2に関しては、最決平成24年4月24日が非公開会社で株主総会の特別決議を経ずに新株発行を行った場合を無効原因としていることを踏まえて論じれば足ります。その際、単に結論のみを指摘するのではなく、非公開会社では持株比率の維持に対する既存株主の利益を尊重することが会社法の趣旨であると解されている点や、株式取引の安全に対する保護の必要性が自由取引が保証されている公開会社ほどは強くない点等を踏まえて論じることが必要となります。

 いつもBEXA記事「たまっち先生の論文試験の合格答案レクチャー」をお読みくださり、誠にありがとうございます。
 第35回は
令和2年 司法試験 会社法から「
株式発行無効の訴え」合格答案のこつ について解説いたしました。次回以降も、たまっち先生がどのような点に気をつけて答案を書けば合格答案を書くことができるようになるかについて連載してまいります。ご期待ください。

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2023年7月10日   たまっち先生 

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