こんにちは、たまっち先生です。
今回は、接見指定について、令和3年の予備試験の刑事訴訟法を題材として、実際のA答案とC答案の比較検討を通じて合格答案のコツをレクチャーしていきたいと思います。
では早速、A答案とC答案を2つを見比べてみましょう。
A ポイントとC ポイントが分かり易いよう⇩表の記載方法としました(なお、デバイスやモニターの大きさで段がズレて表示される場合がございます。あらかじめご了承ください)。
「BEXAの考える合格答案までのステップ」との関連では、「5、基本的な事例問題が書ける」との関係性が強いと思います。
接見指定や初回接見に関する判例を知らないという受験生は予備短答合格レベルの受験生であれば、ほとんどいないと考えられます。もっとも、規範は知っていても、答案に差が生まれるのは、「あてはめ力」に歴然とした差があるからです。本件における接見指定についても初回接見に関する接見指定だから直ちに違法、と安直に考えてしまっている受験生は多いのではないでしょうか。判例は、あくまで一事案に対するものでしかなく、あらゆる事案に妥当するものではありません。したがって、判例の事案が初回接見に対する接見指定を「違法」と述べていたからと言って、本件における接見指定が直ちに「違法」となるわけではありません。その点に十分注意して、判例の事案と本件における事実関係にどのような違いがあるかを踏まえて、適切な結論を導くことが重要です。
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設問を検討する上で、出題趣旨は司法試験委員会の公式見解を得ることができるため、非常に有用です。本問の出題趣旨は、「設問2では、逮捕された被疑者について、間近い時期に被疑者を未発見の凶器の投棄現場に案内させ、その立会の下で同書の実況見分を実施する確実な予定がある中で、弁護人となろうとする者から、被疑者との初回の接見を30分後から30分間行いたい旨の申出があったのに対し、接見の日時を翌日と指定した事例において、接見指定の要件である「捜査のため必要があるとき」(刑事訴訟法第39条第3項本文)の意義や、初回接見についての指定内容と同項ただし書の「指定は、被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限するようなものであってはならない。」との関係についての理解を踏まえて、当該指定の適否を検討させるものである。その検討においては、最高裁判所の判例(最高裁平成11年3月24日大法廷判決、最高裁平成12年6月13日第三小法廷判決等)を意識して自説を展開する必要がある。」とされています。
以上の記載からすれば、①接見指定の可否(39条3項)の問題と、②接見指定の適否の問題(39条3項ただし書)の問題を分けて論じることが求められていると考えられます。上記で見たC答案のように、①と②の論点を混同している受験生は多いですが、A答案をとるためには①、②の点を分けて論じることが必要となります。
接見指定の可否とは、そもそも接見指定をすることができるか否かという問題です。つまり、この要件を満たさないとそもそも接見指定をすることができないため、かかる要件を欠く場合に接見指定をしてしまうと直ちに違法ということになります。
ここで、刑訴法39条3項をみてみましょう。条文上、「検察官、検察事務官又は司法警察職員…は、…捜査のため必要があるときは、公訴の提起前に限り、第一項の接見…に関し、その日時、場所及び時間を指定することができる。」と規定されています。では、ここにいう「捜査のために必要があるとき」とはどのような場合を言うのでしょうか。
細かい学説の争いはありますが、平成11年判決によりその解釈は固まっているため、受験生的には平成11年の規範を覚えれば十分でしょう。
平成11年判決は、「捜査のために必要があるとき」の意義について、「取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合」をいうとした上で、弁護人等から接見等の申出を受けた時に、①捜査機関が現に被疑者を取調べ中である場合、②実況見分、検証等に立ち合わせている場合、③間近い時に右取調べ等をする確実な予定があって、弁護人等の申出に沿った接見等を認めたのでは、右取調べ等が予定どおり開始できなくなるおそれがある場合などは、原則として取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に当たると判示しています。
なお、上記①ないし③に掲げている例はあくまで例示に過ぎないため、答案上は「捜査のために必要があるときとは、取調べ中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合をいう」と規範のみを指摘すれば十分です。
接見指定の適否とは、接見指定が可能な場合であっても当該接見指定が妥当なものであったか否かという問題です。接見の要件が満たされていても、必ずしも接見指定ができるというわけではないことになります。その根拠は、刑訴法39条3項ただし書にあります。
また、平成11年判決も、接見指定要件が認められる場合であっても、「捜査機関は、弁護人等と協議してできる限り速やかな接見等のための日時等を指定し、被疑者が弁護人等と防御の準備をすることができるような措置を採らなければならない」としています。したがって、捜査の必要性の要件が認められる場合でも、指定された接見の日時場所が合憲性を欠き、弁護人及び被疑者の防御の権利を不当に制限する場合には、当該接見指定は違法となります。
この点に関して初回接見に関する重要判例として、最判平成12年6月13日民集54巻5号1635頁(以下、「平成12年判決」といいます。)があります。
接見の中でも、逮捕後の初回接見は、被疑者の防御の準備のために特に重要と考えられています。なぜなら、身体を拘束された被疑者にとって初回接見は、弁護人の選任を目的とし、かつ、今後捜査機関の取り調べを受けるにあたっての助言を受けるための最初の機会であり、直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ抑留又は拘禁されないとする憲法上の保障の出発点をなすからです。この点に関して、上記平成12年判決は、39条3項が定める接見指定の要件が具備された場合であっても、直ちに接見指定が認められるわけではなく、捜査機関又はその指定の際には、弁護人となろうとする者と協議し、「即時又は近接した時点での接見を認めても接見の時間を指定すれば捜査に顕著な支障が生じるのを避けることが可能かどうか」を検討すべきだとされています。
初回の取調べに臨む被疑者は不安でいっぱいでしょうから、取り調べに対する対応(ex.黙秘し続ける、自白をしてはならない等)のアドバイスを受けることで少しでも被疑者を安心させると意味でも、紹介接見は非常に重要な手続です。また、初回の取調べで自白を取られてしまえば、後になって当該自白の証拠能力を争うことは非常に難しく、被疑者にとって非常に不利益の大きい証拠として扱われることになると考えられますから、取調べで自白を取られるよりも前に被疑者に対してアドバイスを与える機会としても重要といえます。
平成12年判決は、続けて、初回接見を認めることが可能な時は、「留置施設の管理運営上支障があるなど特段の事情」がない限り、被疑者の逮捕引致後に直ちに行うべきとされる手続(犯罪事実の要旨の告知等)や、それに引き続く「指紋採取、写真撮影等所用の手続」を終えた後において、「たとい比較的短時間であっても、時間を指定した上で即時又は近接した時点での接見を認めるようにすべき」だとしました。
以上の平成12年判決があることを踏まえて、本件の具体的事情のもとで、初回接見を翌日に指定したことの適否を論じる必要があります。
⑴ 接見指定の可否
ア 前記の通り、「捜査のため必要があるとき」とは、接見を認めることで捜査に顕著な支障が生じる場合をいいます。
イ 本件では令和2年10月2日午後4時30分からI署で行われた弁解録取手続の際に、甲が凶器のナイフを投棄した場所を供述しています。なお、甲は「捨てた場所は、地図で説明することはできないが、近くに行けば案内できると思う。」と供述しており、ナイフの投棄場所へ行くためには甲を連れていく必要があったと評価することができます。
そして、凶器は本件事件に関連する証拠物であり、本件被疑事実である強盗傷人罪を立証する上で必要不可欠な重要な証拠となります。また、ナイフはそれほど大きな刃物ではないため、周囲が暗くなってからでは発見することが困難になるものと予想され、日があるうちに回収する必要性がありますから10月は日没時刻が早い季節であり、弁解録取手続が終了した午後5時に直ちに回収に向かわなければ、ナイフの発見が困難になる可能性があると評価できます。
加えて、甲は上記のようにナイフの投棄場所については自供したものの、「もう1人の男の名前などは言いたくない。」と言っており、共犯者の一人が逮捕されていないことからすれば、本日中にナイフの回収に向かわなければ、かかる共犯者にナイフを回収され証拠を隠滅される可能性も否定できない状況にあったといえます。
さらにいえば、甲は現時点ではナイフの投棄場所を自供していますが、気が変わってナイフの投棄場所を教えてくれなくなる可能性も否定できず、捜査機関の側に立てば、甲の気が変わらないうちにナイフを回収に行く緊急性が高かったと評価することができるでしょう。
以上からすれば、弁解録取手続が終了した後、直ちに証拠回収のために甲を引き連れて実況見分を実施する必要性・緊急性があったといえ、かかる捜査を中断して接見を認めることは、証拠品であるナイフの回収を困難にする危険性が現実的に認められたと評価でき、これらを踏まえれば、「捜査のため必要があるとき」に該当するということができるでしょう。
よって、原則として捜査機関は接見指定をすることが可能です。
⑵ 接見指定の適否
では、実際に行われた接見指定は適切なものだったと言えるでしょうか。本件は逮捕後の初回接見が問題となっているため、平成12年判決を踏まえ、39条3項ただし書との抵触を慎重に検討する必要があります。
本件では、Sは、弁解録取手続後の午後5時30分から30分間接見することを求めていますが、これに対して、Rは接見を翌日の午前9時に接見しており、一見すると直ちに防御権侵害を肯定できる事案であるようにも思えます。
もっとも、Rが翌日の午前9時という時間に接見をしたのは、捜査機関側の事情だけではなく、Sが実況見分に支障が生ずる時間帯以外に接見の時間が取れないという弁護人としてあり得ないようなスケジュールで行動しているという特殊事情が挙げられます。この点からすれば、捜査機関は実況見分さえ行った後であれば、接見指定を行うことが可能であったにもかかわらず、むしろSの個人的事情のせいで翌日にしか接見を指定することができず、やむなく翌日午前9時に接見指定しているという点に注意が必要です。
なお、実況見分を中断してまで、初回接見を認めるべきだったのではないかという点については、確かにこのように考えることが不合理とまではいえないと思います。ただし、接見終了後の午後6時から実況見分に向かうと、10月の日没時刻を過ぎてしまう可能性が否定できず、上記した通り、本件被疑事件におけるナイフの証拠としての重要性が高いこと、このタイミングで実況見分に行かなければ甲の気が変わったり、または共犯者がナイフを回収したりするなどして未来永劫ナイフの回収が不可能になる可能性すらあったこと等を踏まえると、初回接見が重要性を踏まえても、実況見分を優先したこと自体は違法とはならないと考えられます。
以上からすれば、本件の接見指定は、防御権を「不当に」侵害したとまでは評価できず、適法ということになるでしょう。
いつもBEXA記事「たまっち先生の論文試験の合格答案レクチャー」をお読みくださり、誠にありがとうございます。
第34回は令和3年 予備試験 刑事訴訟法から「接見指定」合格答案のこつ について解説いたしました。次回以降も、たまっち先生がどのような点に気をつけて答案を書けば合格答案を書くことができるようになるかについて連載してまいります。ご期待ください。
A答案を書くのに必要なのは「短答の知識を論文に活かせるようにすること」
2023年6月26日 たまっち先生
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