こんにちは、たまっち先生です。
今回は経済的自由の一つである財産権について、平成29年の予備試験を題材として実際のA答案とC答案の比較検討を通じて合格答案のコツをレクチャーしていきたいと思います。
では早速、A答案とC答案を2つを見比べてみましょう。
A ポイントとC ポイントが分かり易いよう⇩表の記載方法としました(なお、デバイスやモニターの大きさで段がズレて表示される場合がございます。あらかじめご了承ください)。
「BEXAの考える合格答案までのステップ」との関係では、「6、条文・判例の趣旨から考える」との関連性が強いと考えられます。
財産権を書いたことがない又は書いたことがほとんどないという受験生は多いと思いますが、基本的には他の人権と答案の型自体は変わりません。むしろ、ここで重要なことは、書いたことがない又は書いたことがほとんどない分野であるからこそ、関連判例のロジックを意識して答案を作成することであると考えられます。採点官側に立って考えてみると明らかで、何の根拠もない当てずっぽうな答案と四苦八苦しながらも関連判例を踏まえた答案では、後者の方に高い評価を与えたくなります。実務家登用試験であることを踏まえて、分からない論点こそ基本に立ち返って、判例を踏まえた検討を行うことが重要であると考えます。
29年 予備試験 憲法の問題を読みたい方は、⇩⇩をクリック
https://www.moj.go.jp/content/001229925.pdf
「財産権」とは、「財産権的価値を有する全ての権利を意味し、所有権その他の物権、債権のほか、著作権・特許権などの無体財産権、鉄業権・漁業権などの特別法上の権利も含む」とされています。
憲法29条の保障内容について、29条1項は「侵してはならない」としており、同条2項は「法律で定める」としています。この点、最高裁は、憲法29条1項と2項の保障内容について、「私有財産精度を保障しているのみでなく、社会的経済的活動の基礎をなす国民の個々の財産権につきこれを基本的人権として保障する」としています(最大判昭和62年4月22日民集41巻3号408頁・森林法判決)。このことから、いったん法律により「国民の個々の財産権」として認められた財産権について、憲法上保障しようと考えていることがわかります。
財産権の制約に関して、前記森林法判決は、「社会全体の利益を考慮して財産権に対し制約を加える必要性が増大するに至ったため、立法府は公共の福祉に適合する限り財産権について規制を加えることができる」、財産権は、「それ自体に内在する制約」があるほか、「立法府が社会全体の利益を図るために加える規制により制約を受ける」としています。
このことから、最高裁は、職業選択の自由と同様に、経済的自由の一つである財産権には、「公共の福祉」による制約が加えられることができると考えていることがわかります。
では、財産権を制約する法令の合憲性についてはどのように考えれば良いのでしょうか。以下では、財産権制約の合憲性についての判断枠組みを提示するとともに、憲法29条2項に反するとして意見判断を下した森林法違憲判決を中心に最高裁の考え方を検討してみたいと思います。
父から生前贈与を受けた山林を2分の1ずつ共有していた兄弟の一方が、仲違いしたことを機に、共有物の分割請求権について定める民法256条に基づいて持分に応じた山林の分割を求めて提訴したところ、「民法・・・256条1項の規定にかかわらず、その共有にかかる森林の分割を請求することができない。ただし、各共有者の持ち分の価格に従いその過半数をもって分割の請求をすることを妨げない」と定める森林法の旧186条の規定により分割請求が認められなかったため、同規定が憲法29条に違反し無効であるとして争った事案です。
最高裁はまず、薬事法判決(最大判昭和50年4月30日民集29巻4号572頁)で示された裁判所の自由の規制に対する裁判所の一般的立場を引用して、
「財産権に対して加えられる規制が憲法29条2項にいう公共の福祉に適合するものとして是認されるべきであるかどうかは、規制の目的、必要性、内容、その規制によって制限される財産権の種類、性質及び制限の程度等を比較考量して決すべき」としています。
その上で、同時に立法裁量を広く認め、立法の規制目的が公共の福祉に合致しないことが明らかであるか、または規制手段が規制目的を達成するための手段として必要性もしくは合理性に欠けていることが明らかであって、そのため立法府の判断が合理的裁量の範囲を超えるものとなる場合に限り、当該立法は憲法29条2項に違反する、という一般論を展開しています。
次に、あてはめについては、共有物分割請求権を認める民法256条の立法の趣旨・目的について考察し、次のように述べています。
「共有物分割請求権は、各共有者に近代市民社会における原則的所有形態である単独所有家の移行を可能ならしめ、右のような公益的目的をも果たすものとして発展した権利であり、共有の本質的属性として、持分権の処分の自由とともに、民法において認められるのに至ったものである」。「したがって、当該共有物がその性質上分割することのできないものでない限り、分割請求権を共有者に否定することは、憲法上、財産権の制限に該当し、かかる制限を設ける立法は、憲法29条2項にいう公共の福祉に適合することを要するものと解すべきところ、共有森林はその性質上分化することのできないものに該当しないから、共有森林につき持分価額2分の1以下の共有社に分割請求権を否定している森林法186条は、公共の福祉に適合するものといえないときは、意見の規定として、その効力を有しない。」
そして、森林法186条の立法目的は、「森林の細分化を防止することによって森林経営の安定化を図り、ひいては森林の保続培養と森林の生産力の増進を図り、もって国民経済の発展に資すること」にあり、この目的は「公共の福祉に合致しないことは明らかであるとはいえない」としつつ、そのために森林法186条が共有森林につき持分価額2分の1以下の共有者に民法256条1項所定の分割請求権を否定するのは、立法目的との関係において、「合理性と必要性のいずれをも肯定することのできないことが明らか」と判断し、森林法186条は、憲法29条2項に違反し無効であると結論づけています。
上記森林法判決は、立法府の広範な裁量を認めながらも結論として違憲構成をとった理由はどこにあるのでしょうか。
森林法判決が比較的厳しく合憲性を判断した理由としては、私有財産制度そのものの否定ではないものの、それに準ずる「近代市民社会における原則的所有形態である単独所有」(権利の重要性)が一律に制限された(制約の強度性)という「事の性質」が機能したものと考えられます。
つまり、経済的自由の一つである財産権には、29条2項を根拠とした立法裁量が認められるものの、対象となる権利が重要であり、かつ、制約が強度であったがために、「事の性質」上立法裁量の範囲が狭められ、裁判所は比較的厳しめの審査基準(必要性及び合理性で判断していることから、中間審査基準に近い基準を採用したと分析可能です)で合憲性を判断したということができるわけです。
なお、上記の考え方は、薬事法判決と同様のロジックが用いられており、薬事法判決の考え方が森林法判決にも踏襲されていると分析することができるでしょう。
森林法判決や出題趣旨でも引用されている証券取引法判決は、いずれも既得権制約の事案ではありませんでした。もっとも、財産権特有の問題として、すでに取得した財産を、法律によって事後的に制約したり、不利益に変更したりする場合はどのように考えるべきなのでしょうか。
この点のリーディングケースとして、国有農地売払特措法事件判決(最大判昭和53年7月12日民集32巻5号946頁)があります。
最高裁は、まず、「法律でいったん定められた財産権の内容を事後の法律で変更しても、それが公共の福祉に適合するようにされたものある限り、これをもって違憲の立法ということができないことは明らかである。そして、右の変更が公共の福祉に適合するようにされたものであるかどうかは、いったん定められた法律に基づく財産権の性質、その内容を変更する程度、及びこれを変更することによって保護される公益の性質などを総合的に勘案し、その変更が当該財産権に対する合理的な制約として容認されるべきものであるかどうかによって、判断すべきである。」としています。
同判決は判断基準の定立部分において、財産権が事後法により変更される場合には、①従来の財産権の性質、②財産権の内容変更の程度、③内容変更が実現する公益の性質の総合衡量を通じて、内容変更の合理性を審査すべきであるとしています。既得権侵害であることが直ちに違憲審査基準を厳格にすることを決定づけるというわけではないものの、少なくとも厳格に審査すべき根拠の一つとはなるでしょう。
財産権が問われることは非常に珍しく、対策が十分でないという受験生も少なくないと思いますが、基本的には他の人権と同様「憲法答案の型」にしたがって論じることになります。
そのため、
の形式で書いていれば、基本的には沈むことはないと考えられます。
ただし、財産権は、「法律でこれを定める」と規定されており、財産権それ自体が法制度の存在を前提にした権利であるため、当該財産権の制約にあたっては立法裁量が認められるという点に注意が必要です。この点ついては、前記森林法判決においても「立法府の判断が合理的裁量の範囲を超えるものとなる場合に限り、当該規制立法が憲法29条2項に違背する・・・と解するのが相当である。」と指摘しており、同判決も財産権に課せられる制約について立法裁量が認められることを前提としていると分かりますよね。
したがって、財産権における「憲法答案の型」は以下のように修正することができます。
【財産権の「答案の型」】
本件で問題となるのは、Xに対する「所有権」です。財産権と書く答案も見受けられますが、財産権も多種多様の種類があり、その種類によって権利の重要性も当然異なりますから、答案では所有権という権利の具体的内容まで特定するように注意してください。
最大許容生産量を超えたXについては、強制的に廃棄命令が下されることになりますから、上記Xの所有権に対する制約が認められることは明らかでしょう。
前記森林法判決では、「近代市民社会における原則的所有形態である単独所有」というワードを用いて、所有権の重要性が強調されていたこと、財産権の中でも所有権は中核的な役割を有していること、からすれば、本件で問題となっている所有権の重要性は非常に高いということができると考えられます。
⑴ 被告側から想定される反論
被告側の反論の主軸となるのは、立法裁量でしょう。また、規制目的二分論を用いて本件の立法目的が積極的目的規制である点を主張する可能性が考えられます。
⑵ 私見
私見では、森林法判決を意識して森林法判決のロジックを本問にも使えないかを考えることが重要です。なぜなら、森林法判決は、立法裁量を前提としつつも比較的厳格な審査基準を用いて結論として違憲判決を下しているからです。このような観点から森林法判決と本問の事案とを比較すると、
のように整理することができます。このように見ると、森林法判決と同様のロジックを本問に用いることも可能であると考えられます。
森林法判決は、
(ⅰ)経済的自由の一つである財産権には、29条2項を根拠とした立法裁量が認められるものの、
(ⅱ)対象となる単独所有権という重要な権利であること
(ⅲ)制約態様が単独所有権の一律否定という強度な態様であること
➡︎ (ⅱ)、(ⅲ)を理由として、「事の性質」上立法裁量の範囲が狭めた。
➡︎ 実質的関連性の基準に近い審査基準を採用
というロジックを用いたわけですから、本問でもこれと同様に考えて、
(ⅰ)経済的自由の一つである財産権には、29条2項を根拠とした立法裁量が認められる
(ⅱ)対象がXの所有権という重要な権利であること
(ⅲ)制約態様が一律に廃棄させるという強度な制約であること
➡︎ (ⅱ)、(ⅲ)を理由として、「事の性質」上立法裁量の範囲を狭める
➡︎ 実質的関連性の基準を採用
➡︎ あてはめ
という形で論じていくことになると思います。
以上の議論を前提とすると、本件では、実質的関連性の基準(中間審査基準)を採用することになると考えられます。
⑴ 立法目的
本件の立法目的は、「X のブランド価値の維持」にあります。立法目的の重要性の検討に際しては、立法事実を踏まえることがポイントになります。この点、問題文第1段落を見ると、「A県の特定地域で算出される農産物Xは、1年のうち限られた時期にのみ産出され、同地域の気候・土壌に適応した特産品として著名な農産物であった。Xが特別に豊作になる等の事情があると、価格が下落し、そのブランド価値が下がることが懸念された」とあります。
また、問題文真ん中あたりには、「条例の制定過程では、Xについて一定割合を一律に廃棄することを命ずる必要があるのか、との意見もあったが、Xの特性から、事前の生産調整、備蓄、加工等は困難であり、迅速な出荷調整の要請にかなう一律廃棄もやむを得ず、また、価格を安定させ、Xのブランド価値を維持するためには、総流通量を一律に規制する必要がある、と説明された。この他、廃棄を命ずるのであれば、一定の補償が必要ではないか等の議論もあったが、価格が著しく下落したときに出荷を制限することはやむを得ないものであり、また、本件条例の措置によってXの価格が安定することにより、X のブランド価値が維持され、生産者の利益となり、ひいてはA県全体の農業振興にもつながる等と説明された」とあります。
これらの事実が本件条例の立法事実となります。国民の権利に対して何らかの制約を加えるための立法が行われる際には、それなりの理由が必要です。これが立法事実と呼ばれるものになります。この立法事実が国民の権利義務に対して制約を加える合理性が認められる場合に、当該立法目的が重要ということができるわけです。
本件条例の目的は、Xの流通量を調整し、一定以上の価格で安定して流通させ、もってA県産のXのブランド価値を維持し、Xの生産者を保護することにあります。
Xの特性からして、特別に豊作になる等の事情があり、かつ、事前の生産調整、備蓄、加工等が困難であったことからすれば、一定以上の価格を保つためには、流通量を調整してブランド価値を維持する必要があったという点は合理的なものということができると考えられます。このように考えれば、本件条例の目的は、国民の権利義務に対して一定の制約を加える上で不当なものとまではいえず、目的の重要性を肯定することができると考えられます。
⑵ 手段適合性
手段適合性については、森林法判決に従い、①必要性、②合理性という2つの視点から検討していくことになります。
一律廃棄命令を課せば、強制的に市場に出回るXの流通量を調整することができるため、価格が調整され、ブランド維持を図ることができると考えられます。そのため、必要性については問題なく認められると考えることができるでしょう。
他方で、Xのブランド価値を維持するためには廃棄する他手段がないのかという視点から考えると、Xの保存や加工が難しければXの市場を拡大して、需要を拡大すれば、値段を一定以上に維持することは十分可能であると考えられます。そうすると、各生産者の事情を一切無視して、一律かつ強制的に廃棄命令を課すという手段は、目的達成の観点からは行き過ぎた手段といえ、合理性が認められないと評価することができるでしょう。
以上からすれば、手段が目的との関係で、実質的関連性を欠いており、手段適合性が否定されることになるでしょう。
いつもBEXA記事「たまっち先生の論文試験の合格答案レクチャー」をお読みくださり、誠にありがとうございます。
第33回は平成29年 予備試験 憲法から「財産権」合格答案のこつ について解説いたしました。次回以降も、たまっち先生がどのような点に気をつけて答案を書けば合格答案を書くことができるようになるかについて連載してまいります。ご期待ください。
A答案を書くのに必要なのは「短答の知識を論文に活かせるようにすること」
2023年5月31日 たまっち先生
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