こんにちは、たまっち先生です。
今回は、マイナー犯罪特集の第2弾として、平成30年司法試験刑法から「名誉毀損罪」について、実際のA答案とC答案の比較検討を通して、解説していきたいと思います。
いつもは頻出頻度の高い重要論点を中心に解説していますが、試験本番が近づいてきていることもあり、そろそろマイナー論点のカバーもしておかなければならない時期になってきたということで、あえてマイナー犯罪を中心に扱っていきたいと思います。
では早速、A答案とC答案を2つを見比べてみましょう。
A ポイントとC ポイントが分かり易いよう⇩表の記載方法としました(なお、デバイスやモニターの大きさで段がズレて表示される場合がございます。あらかじめご了承ください)。
「B E X Aの考える合格答案までのステップ」との関係では、「5、基本的な事例問題が書ける」との関連が強いです。
出題趣旨でも、『本問では、乙の罪責について、丙に対する名誉毀損罪の成否を検討することになる。そこで、同罪の客観的構成要件である「公然」、「事実の摘示」、「人の名誉」及び「毀損」という 各構成要件要素について、事実を指摘して具体的に論じる必要がある。』と指摘されており、名誉毀損罪の各構成要件の正確な意義を踏まえつつ、問題文の事実にあてはめていくことが求められています。上記の指摘からすれば、難易度自体は高くないと考えられるものの、本年の司法試験を受験した受験生の再現答案を見ると、「公然性」や「事実の摘示」の意義が書けていない答案や書けていても定義が不正確・不十分な答案が多く見受けられました。多くの受験生が対策できていなかった分野からの出題だったといえます。ですが、このことは、逆にいえば、マイナー論点に関しては基本的な対策さえしていれば、相対的に高得点が狙いやすいことを意味しています。そのため、これから受験する皆様は、マイナー論点については、基本的な定義だけでも押さえておき、仮に出題された場合であっても、「守りの答案」を書けるよう準備しておいていただきたいと思っています。
平成30年 司法試験 刑法の問題を読みたい方は、⇩⇩をクリック
https://www.moj.go.jp/content/001258874.pdf
名誉に対する罪として、刑法上、名誉毀損罪と侮辱罪が規定されています。これらの犯罪の保護法益はいずれも「名誉」ですが、名誉とは一般的に、
① 内部的名誉(他者による評価とは独立した絶対的な真実の人格的価値)
② 外部的名誉(社会がその人に対して与える評価、社会的な役割・名声)
③ 主観的名誉(名誉感情、その人が自分自身に対してもつ主観的な価値意義)
に区別されています。この点、判例及び通説は、名誉毀損罪、侮辱罪の保護法益を②の外部的名誉と解しています。
「人」には、自然人(当然ですが、幼児、精神障害者の方も含まれます。)のみならず、法人などの団体も含まれるとするのが判例・通説の立場です(大判大15年3月24日刑集5巻117頁)。ここは誤解している受験生が多いので要注意です。法人も日々社会的活動を行っており、一定の社会的評価を有していますから、その評価は法的評価に値すると考えられています。
名誉毀損罪の実行行為は、公然と事実を摘示して人の名誉を毀損することです。
ア 公然性
「公然と」とは、摘示された事実を不特定または多数人が認識しうる状態をいいます(最判昭和36年10月13日刑集15巻9号1586頁)。不特定と多数人の関係は、「または」であって、「かつ」ではありません。ここも誤解している受験生が非常に多いです。不特定であれば少数人であってもよく、多数人ならば特定人であっても良いが、特定かつ少数人ならば公然性はない、とするのが上記判例の趣旨であると考えられています。
もっとも、判例は、事実摘示の直接の相手方が特定かつ少数の人であっても、その者らを通じて不特定または多数人へと広がっていくときは、公然性が認められると解しています(最判昭和34年5月7日刑集13巻5号641頁)。いわゆる伝播性理論です。何も難しい話ではなく、特定かつ少数人であっても、その中に記者が含まれていたような場合には、不特定または多数人に伝わる可能性があるため、公然性を否定する必要はないよね、という単純なロジックになっています。上記昭和34年判決では、相手方7名がそれ自体で不特定または多数人であると判断されたというより、噂が実際に村中に広まったことが特に指摘されていることからすれば、7人からさらに多くの人に情報が伝わる可能性があったことが特に重視されたと考えられています。
本問の検討にあたっても、P T A役員会の限られた人の中から、どれだけ不特定または多数の人に対して情報が伝わる可能性があったのかの検討がポイントになるでしょう。
【本問のあてはめ】
本件発言行為は、乙を含む保護者4名及びA高校の校長という限定された特定かつ少数人に対してされたものであるため、公然性を満たさないのではないかという点が本問の検討の出発点です。ただ、伝播性理論に言及しなければならない点は明らかであるため、ここで簡単に公然性を否定してしまうと低評価を受けることは避けがたいでしょう。
伝播性理論を前提として考えれば、本件発言行為が行われたのはP T A役員会という学校内部における問題点を取り上げる場所であって、教師が生徒に対し暴行を加えたという発言はまさにP T A役員会が議題として解決すべき問題であると評価できます。また、乙がさらに「徹底的に調査すべきである」と発言していることから、学内で大々的な調査が行われ、それにより少なくともA高校の教員はもちろん生徒や保護者にまで当該発言が伝播する可能性が大きいといえるのではないでしょうか。
以上からすれば、公然性を肯定することはそう難しくはないと考えられます。
イ 事実の摘示
「事実の摘示」について、摘示される事実は、それ自体として人の社会的評価を低下させるような事実でなければならないと解されています。また、事実証明の対象となりうる程度に具体的でなければなりません。摘示された事実が特定の人の名前を伏せていても、一般人にとってあの人のことだ、と見当がつくところまで具体的であれば良いということになります。
【本問のあてはめ】
本件発言はあくまで「2年生の数学を担当する教員がうちの子の顔を殴った。」と発言をしているに過ぎません。このことだけに着目すれば、それ自体として人の社会的評価を低下させるような事実を摘示したとは言い難いようにも思えます。
もっとも、A高校は2年生の数学を担当する教員は丙だけでもあるため、A高校の関係者であれば、本件発言を聞いて丙を対象とした発言であることを容易に特定することが可能であるといえるでしょう。続いて、本件発言の内容についても、教職員が生徒の顔を殴るというのはまさに体罰であって、当該発言は丙の教職員としての信用、名誉が失墜させるに足りるものと評価することができるでしょう。
以上からすれば、本件発言は、「事実の摘示」にあたるといえます。
ウ 毀損すること
「毀損」とは、人の社会的評価を害する恐れのある状態を生じさせたということです。もっとも、本罪の法的性質は抽象的危険犯と介されていますから、現に被害者の外部的名誉が侵害されたことまでは必要ではなく、侵害される危険が生じれば足りると解されています(大判昭和13年2月28日刑集17巻141頁)。
【本問のあてはめ】
本件発言により、丙には聞き取り調査が実施されたことに加え、A高校の教員全体にも本件発言の内容が広まっていることからすれば、丙の外部的名誉が低下する危険が生じたと評価するには十分でしょう。
したがって、名誉を「毀損」したにあたるといえます。
故意とは、客観的構成要件の認識・認容をいいます。名誉毀損罪でいえば、公然性、事実の摘示、人の名誉を毀損した、に関して認識した上で認容していることが必要です。
【本問のあてはめ】
乙は本件発言に際して、丙が甲に暴力を振るったという事実を多くの人に広めてやろうと考えており、そのような発言をすれば丙の社会的名誉が低下することもわかっていたはずですから、公然生、事実の摘示、人の名誉を毀損した、のいずれについても認識・認容があるといえ、故意が認められることになります。
いつもBEXA記事「たまっち先生の論文試験の合格答案レクチャー」をお読みくださり、誠にありがとうございます。
第32回は平成30年司法試験 刑法から「名誉毀損罪」合格答案のこつ について解説いたしました。次回以降も、たまっち先生がどのような点に気をつけて答案を書けば合格答案を書くことができるようになるかについて連載してまいります。ご期待ください。
A答案を書くのに必要なのは「短答の知識を論文に活かせるようにすること」
2023年5月20日 たまっち先生
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