未成年者略取罪 合格答案のこつ たまっち先生の「論文試験の合格答案レクチャー」第31回~平成26年 司法試験 刑法~

たまっち先生の「論文試験の合格答案レクチャー」 31回  
「未成年者略取罪
合格答案のこつ

平成26年度 司法試験 刑法から

第1 はじめに
…頻出頻度の高い重要論点を中心…試験本番が近づいてきている…マイナー論点のカバーもしておかなければならない…

 こんにちは、たまっち先生です。
 今回は、マイナー犯罪特集の第1弾として、平成26年司法試験刑法から「未成年者略取罪」について、実際のA答案とC答案の比較検討を通して、解説していきたいと思います。

 いつもは頻出頻度の高い重要論点を中心に解説していますが、試験本番が近づいてきていることもあり、そろそろマイナー論点のカバーもしておかなければならない時期になってきたということで、あえてマイナー犯罪を中心に扱っていきたいと思います。

| 目次
第1 はじめに
  …頻出頻度の高い重要論点を中心…試験本番が近づいてきている…マイナー論点のカバーもしておかなければならない…

第2 A答案とC答案の比較検討
第3 B E X Aの考える合格答案までのステップ「3、条文・判例の趣旨の知識」、「5、基本的な事例問題が書ける」との関連性
第4 関連論点の解説
  【問題文及び設問】
  ■ 未成年者拐取罪
    1 保護法益
    2 構成要件
      ⑴ 構成要件
      ⑵ 監護者は本罪の主体となりうるのか(=主体性)
      ⑶ 行為
      ⑷ 故意
    3 本問の検討
      ⑴ 構成要件レベル
      ⑵ 違法性レベル

第2 A答案とC答案の比較検討

【A答案とC答案】

 では早速、A答案とC答案を2つを見比べてみましょう。
 A ポイントC ポイントが分かり易いよう⇩表の記載方法としました(なお、デバイスやモニターの大きさで段がズレて表示される場合がございます。あらかじめご了承ください)。

A答案

A ポイント

乙がAを連れ去った行為について
⑴ 甲の上記行為につき、未成年者略取罪(刑法224条)が成立するか検討する。
⑵ 本件では、Aは生後4ヶ月の乳児であることから「未成年者」に当たる。
⑶ア「略取」とは物理力を行使し、対象を自己の支配下に置くことをいう
本件では、乙はAの親であることから、監護権の行使(民法820条)として、未成年者略取罪の主体とはなり得ないのではないか、検討する。
イ そもそも、未成年者略取罪の保護法益は、親の監護権だけではなく未成年者の身体の安全にある。そして、親であったとしても未成年者の身体の安全及び他方の親権者の監護権を害しうるため、親であっても未成年者略罪の主体となりうる。もっとも、未成年者を保護するために監護権を行使するなどした場合には、例外的に正当行為(35条)として違法性が阻却される。
ウ 本問では、乙はAの親ではあるものの未成年者略取罪の主体となりうる。そして、結果的に乙はAが衰弱しており、それを助けようとする契機にはなったものの、乙がAを連れ去る段階においては、Aを助ける目的はなく、正当な監護権の行使として連れ去ろうとしたものではない。そうだとすれば、Aを保護するために監護権を行使したとはいえず、違法性は阻却されない。
よって、乙の上記行為につき、未成年者略取罪は成立する。 

 

 

 

 

客体該当性も忘れずに指摘できています。細かい点ですが、上位答案はこのように一つ一つの要件を漏らさないという共通点があります。

あまり学習しない分野だと思いますが、「略取」の意義を概ね正確に指摘できています。

 

 

 

 

 

 

 

監護者本人も本罪の主体となりうることを、本罪の保護法益が監護権のみならず、未成年者の身体の安全にあることを踏まえて論じることができています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

連れ去りの目的に不当な点があったことを重視して結論を導くことができています

 

 

 

C答案

C ポイント

 

⑴ 乙がAを甲方から連れ去った行為について、未成年者誘拐罪(224条前段)が成立しないか。

「誘拐」とは、未成年者に対する支配を親権者のもとから自己の支配へ移転することをいうAは4ヶ月の乳児であり、誘拐はできない。また、乙はAを抱き抱えて甲方から連れ去っており、有形力の行使によりAの事実上の支配を獲得しているから、Aを「誘拐」している。
⑵ しかし、乙はAの親権者(民法818条1項、3項)である。そのため、そもそも誘拐罪の主体とならないのではないか問題となるが、親権者であって誘拐罪の主体とはなり、親権者であるという事情は違法性が阻却される場合の一要素となる。そこで、乙によるA誘拐の違法性が阻却されないかが問題となる。
まず、乙はAの親権者である。また、連れ去りの態様は生後4ヶ月の乳児を抱き抱えるという態様であり、態様としては穏当である。
よって、誘拐罪は違法性が阻却される。
⑶ よって、乙は未成年者誘拐罪の罪責を負う。

 

「誘拐」とは、欺罔または誘惑を手段として、人を本来の生活環境から不法に離脱させ、自己または第三者の実力的支配下に移すことをいいます。そのため、本答案は「誘拐」の解釈についても誤っています。

 

「未成年者」という条文上の文言に当てはめたいです。

 

 

 

 

構成要件と違法性の2段階で問題となることに気づけています。

 

 

 

 

 

 

 

 

第3 B E X Aの考える合格答案までのステップ「3、条文・判例の趣旨の知識」、「5、基本的な事例問題が書ける」との関連性

 「B E X Aの考える合格答案までのステップ」との関係では、「3、条文・判例の趣旨の知識」、「5、基本的な事例問題が書ける」との関連が強いです。

 拐取罪のようなマイナー論点が出題された場合、上記のC答案をご覧いただいても分かるとおり、そもそも当該マイナー犯罪に対する理解自体が不十分であることから、低い評価にとどまった答案が少なくありません。逆にいえば、マイナー犯罪については高度な知識は要求されておらず、一つ一つの構成要件の定義を正確に指摘し、事実を当てはめるだけでも、高得点を狙うことができることになります。B E X Aでは、司法試験・予備試験受験生定番の刑法事例演習教材の解説講義が販売されているため、このような講座を活用して、マイナー論点の基礎的知識を養っておくべきでしょう

第4 関連論点の解説

【問題文及び設問】

平成26年 司法試験 刑法の問題を読みたい方は、⇩⇩をクリック
https://www.moj.go.jp/content/000123138.pdf

■未成年者拐取罪
1 保護法益

 保護法益は、判例によれば、「被拐取者の自由」と「監護者の監護権」の2つです。この立場からは、被拐取者と監護者の双方が被害者ということになるため、たとえ承諾能力のある被拐取者(未成年者)が承諾しても、監護者が承諾しないときは、監護権の侵害が観念できることから、本罪が成立しうることになります。

2 構成要件

⑴ 構成要件

(前提として主体性を満たすこと)
  (ⅰ)未成年者
  (ⅱ)略取 or誘拐すること
  (ⅲ)故意

⑵ 監護者は本罪の主体となりうるのか(=主体性)

 主体について、未成年者の監護者自らが同意している場合には、監護権を侵害し得ないため、本罪の主体とならないのではないか、問題となります。
 この点について、判例・通説は未成年者の監護者であっても、本罪の主体となるとしています。その理由としては、本罪の保護法益は、監護権と未成年者の身体の自由にあり(判例)、①親権者は複数人いる場合があり、一方の監護者が同意している場合であっても、他方の監護者が同意していない場合には、他方の監護権を侵害すると評価できること、②本罪の保護法益は監護権のみならず、未成年者の自由も含まれているため、未成年者の自由を侵害する場合には、本罪の成立を否定する必要はないこと、にあると考えられています。
 このように、本罪の保護法益に遡って考えることで、監護者であっても、本罪の主体に当たると考えることができます

⑶ 行為

 行為は二つあり、略取と誘拐です。いずれの行為を行っているかによって成立犯罪が異なることになります。
 まず、「略取」とは、暴行または脅迫を手段として、人を本来の生活環境から不法に離脱させ、自己または第三者の実力的支配下に移すことをいいます。
他方、「誘拐」とは、欺罔または誘惑を手段として、人を本来の生活環境から不法に離脱させ、自己または第三者の実力的支配下に移すことをいいます。
ご覧いただけますとお分かりいただけるとおり、「略取」と「誘拐」は単に連れ去るための手段に違いあるに過ぎません。
 したがって、問題を解く際には、どのような手段を用いて人を連れ去っているのかを判断すれば良いだけなので、行為の認定はそれほど難しいものではないでしょう。

⑷ 故意

 故意とは、客観的構成要件の認識・認容をいいます。本罪でいえば、客体が未成年者であること及び自己の行為が「略取」または「誘拐」に該当していることを分かっていながら(認識)、それでも構わない(認容)と思っていることをいいます。

3 本問の検討

⑴ 構成要件レベル

ア 本問の主体乙はAの親権者であり、原則としてAに対する監護権を有していますから、監護権者にあたります。そこで、監護権者にも未成年者略取罪が成立するのか、問題となります。
この点、判例と同様、本罪の保護法益を監護権と未成年者の身体の自由にあると考えれば、本件のような生後4ヶ月のAが一人で自由に行動できるとは考え難く、未成年者の身体の自由について積極的に侵害したとまではいえないとしても、乙は甲に無断でAを連れ去っており、甲と乙が通常の夫婦なら何ら問題がないのかもしれませんが、本件では、甲と乙は離婚はしていないものの別居状態にあり、甲が乙によるAの連れ去り行為を許容するとは到底言い難いでしょう。したがって、乙の行為は甲のAに対する監護権を侵害しているということができ、乙は監護権者であるものの、本罪の主体に該当することになると考えられます。

イ 行為
Aは生後4ヶ月であり、超天才スーパーベイビーでもない限りは、欺罔や誘惑をできる対象に当たりません。問題文のどこを見渡しても、そのような事情はないですから、基本的には略取該当性を検討していくことになります。
この点、乙の行為は一人では身動きの取れないAを抱き抱えるという強制的に身体に有形力を行使する形でAを本来的な生活環境である甲方から、監護者甲の承諾なくして不法に連れ去っているわけですから、「略取」していると評価することができるでしょう。

ウ 故意
乙は、Aの親権者ですから当然A が未成年者であることについて認識があり、甲と別居中であることからすれば、甲がAの連れ去りを許容するはずがないことも当然分かっていたはずです。それにもかかわらず、乙はAの連れ去りを行っているわけなので、本在Vは,故意を認めることができます。

⑵ 違法性レベル

 親権者乙の上記略取行為が構成要件に該当するとしても、親権者は子に対する監護権を有していますし、そもそも本問では甲の行為によってAに生命侵害の現実的な危険が生じているわけなので、乙の行為は正当行為(刑法35条)として違法性が阻却されるのではないか、問題となります。
 ここで、違法性とは、社会倫理規範に反する法益侵害またはその危険にあるとされているため、乙の行為が社会的相当性がある(=社会倫理規範に反しないものである)場合には、正当行為として違法性が阻却されることになります(この部分も答案で書いてくださいね。)。

 この点については、考え方が分かれる可能性はありますが、最決平成17年12月6日は、監護権者が離婚係争中の他方親権者の下から長男を連れ去った事例に関し、(ⅰ)監護養育上それが現に必要とされるような特段の事情がないこと、(ⅱ)連れ去り行為の態様が強引なものであったこと、(ⅲ)被害者の年齢から常時看護教育が必要とされるにもかかわらず、略取後の監護教育について確たる見通しがあったとも言い難いこと、が重視され家族間における連れ去り行為であったとしても、社会通念上許容され得る枠内にとどまる行為とは言い難いとして、違法性が阻却されず、未成年者略取罪の成立を認めています。
 本問についても上記の判例を踏まえて解答すれば足りると思います。

 本問では、乙がAを連れ去る客観的な事情としては、Aが衰弱して今にも死亡する危険があった点が挙げられると思います。しかし、ここで注意しないといけない点として、乙はAの連れ去り時点では、Aの衰弱を認識していたわけではないという点です。このことから、乙の連れ去りの動機は、Aを衰弱死(餓死)から助けるためではなく、単に自分の手でAを育てたいという身勝手なものに過ぎないと評価することができます。また、略取後の監護教育についての見通しが立っていないことも身勝手さを補強する事情として使うことができると思います。さらに、連れ去りの態様としても、立ち入ることのできないはずの甲方に無断で立ち入った上で連れ去るというものであり、一定の悪質性が認められることも否定しがたいでしょう。

 以上の事情を踏まえれば、乙がAの監護権者であることをもってしても、当該連れ去り行為は社会通念上相当なものとして許容されるとはいえず、違法性が認められると評価することになるでしょう。
 よって、乙には未成年者略取罪が成立することになります。

 いつもBEXA記事「たまっち先生の論文試験の合格答案レクチャー」をお読みくださり、誠にありがとうございます。
 第31回は
平成26年司法試験 刑法から「未成年者略取罪」合格答案のこつ について解説いたしました。次回以降も、たまっち先生がどのような点に気をつけて答案を書けば合格答案を書くことができるようになるかについて連載してまいります。ご期待ください。

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2023年5月2日   たまっち先生 

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