こんにちは、たまっち先生です。
今回は、マイナー犯罪特集の第1弾として、平成26年司法試験刑法から「未成年者略取罪」について、実際のA答案とC答案の比較検討を通して、解説していきたいと思います。
いつもは頻出頻度の高い重要論点を中心に解説していますが、試験本番が近づいてきていることもあり、そろそろマイナー論点のカバーもしておかなければならない時期になってきたということで、あえてマイナー犯罪を中心に扱っていきたいと思います。
では早速、A答案とC答案を2つを見比べてみましょう。
A ポイントとC ポイントが分かり易いよう⇩表の記載方法としました(なお、デバイスやモニターの大きさで段がズレて表示される場合がございます。あらかじめご了承ください)。
「B E X Aの考える合格答案までのステップ」との関係では、「3、条文・判例の趣旨の知識」、「5、基本的な事例問題が書ける」との関連が強いです。
拐取罪のようなマイナー論点が出題された場合、上記のC答案をご覧いただいても分かるとおり、そもそも当該マイナー犯罪に対する理解自体が不十分であることから、低い評価にとどまった答案が少なくありません。逆にいえば、マイナー犯罪については高度な知識は要求されておらず、一つ一つの構成要件の定義を正確に指摘し、事実を当てはめるだけでも、高得点を狙うことができることになります。B E X Aでは、司法試験・予備試験受験生定番の刑法事例演習教材の解説講義が販売されているため、このような講座を活用して、マイナー論点の基礎的知識を養っておくべきでしょう。
平成26年 司法試験 刑法の問題を読みたい方は、⇩⇩をクリック
https://www.moj.go.jp/content/000123138.pdf
保護法益は、判例によれば、「被拐取者の自由」と「監護者の監護権」の2つです。この立場からは、被拐取者と監護者の双方が被害者ということになるため、たとえ承諾能力のある被拐取者(未成年者)が承諾しても、監護者が承諾しないときは、監護権の侵害が観念できることから、本罪が成立しうることになります。
主体について、未成年者の監護者自らが同意している場合には、監護権を侵害し得ないため、本罪の主体とならないのではないか、問題となります。
この点について、判例・通説は未成年者の監護者であっても、本罪の主体となるとしています。その理由としては、本罪の保護法益は、監護権と未成年者の身体の自由にあり(判例)、①親権者は複数人いる場合があり、一方の監護者が同意している場合であっても、他方の監護者が同意していない場合には、他方の監護権を侵害すると評価できること、②本罪の保護法益は監護権のみならず、未成年者の自由も含まれているため、未成年者の自由を侵害する場合には、本罪の成立を否定する必要はないこと、にあると考えられています。
このように、本罪の保護法益に遡って考えることで、監護者であっても、本罪の主体に当たると考えることができます。
行為は二つあり、略取と誘拐です。いずれの行為を行っているかによって成立犯罪が異なることになります。
まず、「略取」とは、暴行または脅迫を手段として、人を本来の生活環境から不法に離脱させ、自己または第三者の実力的支配下に移すことをいいます。
他方、「誘拐」とは、欺罔または誘惑を手段として、人を本来の生活環境から不法に離脱させ、自己または第三者の実力的支配下に移すことをいいます。
ご覧いただけますとお分かりいただけるとおり、「略取」と「誘拐」は単に連れ去るための手段に違いあるに過ぎません。
したがって、問題を解く際には、どのような手段を用いて人を連れ去っているのかを判断すれば良いだけなので、行為の認定はそれほど難しいものではないでしょう。
故意とは、客観的構成要件の認識・認容をいいます。本罪でいえば、客体が未成年者であること及び自己の行為が「略取」または「誘拐」に該当していることを分かっていながら(認識)、それでも構わない(認容)と思っていることをいいます。
ア 本問の主体乙はAの親権者であり、原則としてAに対する監護権を有していますから、監護権者にあたります。そこで、監護権者にも未成年者略取罪が成立するのか、問題となります。
この点、判例と同様、本罪の保護法益を監護権と未成年者の身体の自由にあると考えれば、本件のような生後4ヶ月のAが一人で自由に行動できるとは考え難く、未成年者の身体の自由について積極的に侵害したとまではいえないとしても、乙は甲に無断でAを連れ去っており、甲と乙が通常の夫婦なら何ら問題がないのかもしれませんが、本件では、甲と乙は離婚はしていないものの別居状態にあり、甲が乙によるAの連れ去り行為を許容するとは到底言い難いでしょう。したがって、乙の行為は甲のAに対する監護権を侵害しているということができ、乙は監護権者であるものの、本罪の主体に該当することになると考えられます。
イ 行為
Aは生後4ヶ月であり、超天才スーパーベイビーでもない限りは、欺罔や誘惑をできる対象に当たりません。問題文のどこを見渡しても、そのような事情はないですから、基本的には略取該当性を検討していくことになります。
この点、乙の行為は一人では身動きの取れないAを抱き抱えるという強制的に身体に有形力を行使する形でAを本来的な生活環境である甲方から、監護者甲の承諾なくして不法に連れ去っているわけですから、「略取」していると評価することができるでしょう。
ウ 故意
乙は、Aの親権者ですから当然A が未成年者であることについて認識があり、甲と別居中であることからすれば、甲がAの連れ去りを許容するはずがないことも当然分かっていたはずです。それにもかかわらず、乙はAの連れ去りを行っているわけなので、本在Vは,故意を認めることができます。
親権者乙の上記略取行為が構成要件に該当するとしても、親権者は子に対する監護権を有していますし、そもそも本問では甲の行為によってAに生命侵害の現実的な危険が生じているわけなので、乙の行為は正当行為(刑法35条)として違法性が阻却されるのではないか、問題となります。
ここで、違法性とは、社会倫理規範に反する法益侵害またはその危険にあるとされているため、乙の行為が社会的相当性がある(=社会倫理規範に反しないものである)場合には、正当行為として違法性が阻却されることになります(この部分も答案で書いてくださいね。)。
この点については、考え方が分かれる可能性はありますが、最決平成17年12月6日は、監護権者が離婚係争中の他方親権者の下から長男を連れ去った事例に関し、(ⅰ)監護養育上それが現に必要とされるような特段の事情がないこと、(ⅱ)連れ去り行為の態様が強引なものであったこと、(ⅲ)被害者の年齢から常時看護教育が必要とされるにもかかわらず、略取後の監護教育について確たる見通しがあったとも言い難いこと、が重視され家族間における連れ去り行為であったとしても、社会通念上許容され得る枠内にとどまる行為とは言い難いとして、違法性が阻却されず、未成年者略取罪の成立を認めています。
本問についても上記の判例を踏まえて解答すれば足りると思います。
本問では、乙がAを連れ去る客観的な事情としては、Aが衰弱して今にも死亡する危険があった点が挙げられると思います。しかし、ここで注意しないといけない点として、乙はAの連れ去り時点では、Aの衰弱を認識していたわけではないという点です。このことから、乙の連れ去りの動機は、Aを衰弱死(餓死)から助けるためではなく、単に自分の手でAを育てたいという身勝手なものに過ぎないと評価することができます。また、略取後の監護教育についての見通しが立っていないことも身勝手さを補強する事情として使うことができると思います。さらに、連れ去りの態様としても、立ち入ることのできないはずの甲方に無断で立ち入った上で連れ去るというものであり、一定の悪質性が認められることも否定しがたいでしょう。
以上の事情を踏まえれば、乙がAの監護権者であることをもってしても、当該連れ去り行為は社会通念上相当なものとして許容されるとはいえず、違法性が認められると評価することになるでしょう。
よって、乙には未成年者略取罪が成立することになります。
いつもBEXA記事「たまっち先生の論文試験の合格答案レクチャー」をお読みくださり、誠にありがとうございます。
第31回は平成26年司法試験 刑法から「未成年者略取罪」合格答案のこつ について解説いたしました。次回以降も、たまっち先生がどのような点に気をつけて答案を書けば合格答案を書くことができるようになるかについて連載してまいります。ご期待ください。
A答案を書くのに必要なのは「短答の知識を論文に活かせるようにすること」
2023年5月2日 たまっち先生
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