こんにちは、たまっち先生です。
第28回となる今回は、会社法における組織再編のうち、株式交換について実際のA答案とC答案の比較検討を通して合格答案のコツをレクチャーしていきたいと思います。
これまでの司法試験、予備試験では組織再編分野が正面から問われたことはほとんどなく、勉強が疎かになっている受験生が多い分野であると思います。
しかし、実務的に組織再編分野の重要度は非常に高く、株式交換はキャッシュアウトの手段としてもよく使われる制度です。このように実務的に重要度が高い制度については、受験的にもいつ問われてもおかしくはないといえるでしょう。以上のような理由から、本記事では株式交換制度について皆様と一緒に考えていきたいと思います。
【A答案とC答案】
では早速、A答案とC答案を2つを見比べてみましょう。
A ポイントとC ポイントが分かり易いよう⇩表の記載方法としました(なお、デバイスやモニターの大きさで段がズレて表示される場合がございます。あらかじめご了承ください)。
B E X Aの考える合格答案までのステップとの関係では、「5、基本的な事例問題が書ける」との関連性が強いと思います。
株式交換分野は平成26年改正により、株式交換無効の訴えが新設されたので、改正を踏まえて論述をする必要があります。また、平成26年改正では、株式交換の差止めの訴えに言う法令違反や無効事由には、株式交換の交換比率の不当性は含まれないとされた点を意識する必要があります。本件では、交換比率の不当性が認められますが、かかる事由は差止め事由、無効事由のいずれにも該当しない点に注意しましょう。これらは、いずれもどの基本書にも記載されている基本的知識です。基本的知識を押さえて確実に得点できるよう準備しておきましょう。
平成25年予備試験 会社法の問題を読みたい方は、⇩⇩をクリック
https://www.moj.go.jp/content/000112696.pdf
株式交換とは、ある株式会社(株式交換完全子会社)がその発行済株式の全部を他の会社(株式交換完全親会社)に取得させることをいいます(会社法2条31号)。
株式会社が株式交換をするには、当事会社間で株式交換契約を締結し(767条、768条)、原則として各当事会社の株主総会の特別決議が必要です(309条2項12号)。とりわけ上場会社では、市場に大量の株式が流通していることから、それら全ての株主から株式を譲り受けることは現実的に困難です。その点、株式交換を利用すれば、株主総会の特別決議さえ通すことができれば、反対する株主の保有株式を含めて全ての株式を取得することができることになります。そのため、株式交換制度は、キャッシュアウトの手段として用いられることが多いです。
株式交換では、株式交換契約上で定めた効力発生日にその効力が生じ、株式交換完全親会社は、株式交換完全子会社の発行株式全てを取得します。これにより、株式交換親会社は完全子会社化、つまりキャッシュアウトを行うと形での組織再編です。
なお、補足ですが、従来は金銭を対価とする組織再編は、税務上、非適格組織再編とされ、税務面で不利が多かったですが、平成29年の税制改正により、金銭を高いとすると合併及び株式交換も、一定の場合には適格組織再編と認められ、評価益課税が避けられることになったと言う経緯があります。そのため、今後は金銭対価の株式交換によるキャッシュアウトの利用が増えることが予想され、このような動きがある以上、受験的にも重要度が高まっているといえると考えられると思います。
紙幅との関係上、本記事では組織再編分野全体の解説はせずに、本問に関係する株式交換のうち会社法に関係する部分に絞って以下解説をしていきます。
株式交換をするためには、会社法上、以下のような手続をしなければならないとされています。
① 株式交換契約の内容の契約を締結することについて取締役会決議(取締役会設置会社の場合)
② 株式交換契約の締結または株式交換計画の作成(767条1項。なお、768条1項各号記載の事項を定 める必要があります)
③ 株式交換に関する事前開示(782条、794条)
④ 株主総会の承認(原則特別決議ですが、簡易組織再編、略式組織再編の場合は株主総会の承認は不 要です。783条、784条、795条、796条)
⑤ 債権者保護手続(789条1項3号、799条1項3号)
⑥ 反対株主の株式買取請求(785条〜788条、797条、798条)
⑦ 事後開示(株式交換完全親会社については801条、株式交換完全子会社は791条)
受験的に重要なのは、④、⑤、⑥であり、それ以外は手続として必要であることを知っておいてもらえれば十分です。また、本記事では株式交換を扱っていますが、その他の組織再編でもほぼ同様の手続が要求されていますので、合わせて押さえておきたいです。
なお、本記事では、④、⑥の論点に加え、株式交換無効の訴えに絞って検討していきます。
株式交換が法令または定款に違反する場合に、株主が不利益を受ける恐れがあるときは、株主は会社に対して当該株式交換をやめることを請求することができます(784条の2第2号、796条の2第2号)。平成26年改正以前の会社法では、略式組織再編についてのみ差止め請求権が存在し、通常の組織再編には組織再編が規定されていませんでした。そこで、平成26年改正では、略式組織再編以外についても差止め請求権を規定されましたが、対価の著しい不当性については組織再編の効力が生ずるまでの短期間に裁判所が公正な価格を審理することが困難であるという理由から、差止め事由とはされていません。また、差止め事由は法令違反とされているものの、これには取締役の善管注意義務違反や忠実義務違反は含まれないと解されています。
もっとも、特別利害関係の議決権行使により著しく不当な対価で組織再編が承認された場合には、差止めを否定する理由はなく、そのような場合には株主は差止めの仮処分を申し立てることができると考えられています。
このような意味で、組織再編には適法な株主総会承認決議が要求されていると解し、株主総会承認決議に瑕疵がある場合には、適法な承認決議が行われていないという意味で法令違反があると解釈することになるでしょう。
本問では、株式交換手続に関し一見何ら問題がないように思われます。ただ、本件では、Xグループ各社が株主総会において議決権を行使していることからしますと、831条1項3号の違法事由を認めることができないかを想起することができるでしょう。
そこで、本件では、831条1項3号の違法事由が認められるか否かを検討していくことになります。
ア 「特別の利害関係を有する者」
「特別の利害関係を有する者」とは、他の株主とは共通しない利害を有する者をいいます。
X社グループ各社は、本件株式交換契約が成立すれば、X社はY社株を1対0.1という著しく有利な比率で取得し、Y社の行う事業を自社グループに統合できるという利益を得るのに対し、他のY社株主はこれらの利益を享受できないという不利益を被ることになります。
以上からすれば、X社グループは、「特別の利害関係を有する者」に当たるということができるでしょう。
イ 「議決権を行使したことによって」
これは、因果関係を規定したものですから、当該特別利害関係人が議決権を行使したことと総会決議が可決(否決)されたこととの間で因果関係が要求されています。
本件で、X社グループはY社株式のうち75%を保有しているわけですから、X社グループが議決権を行使する=決議が可決される、という関係にあります。したがって、X社グループが議決権を行使したことによって、決議がされたということができます。
ウ 「著しく不当な決議」
著しく不当な決議とは、他の株主が享受しない利益を得、または他の株主が受ける不利益を免れることをいいます。
株式交換に反対する株主(反対株主)は、株式会社に対し、自己の保有株式を公正な価格で買い取ることを請求することができます(785条。反対株主の株式買取請求権)。これは、反対株主に保有株式の公正な価格を受け取って会社から退出する機会を保障する趣旨で規定された権利です(最決平成23年4月19日民集65巻3号参照)。ただし、組織再編に総株主の同意を要する場合や、簡易組織再編の場合については、例外とされています。
ア 株式交換に株主総会の承認を要する場合
当該株主総会に先立ち株式交換に反対する旨を会社に通知し、かつ、当該株主総会で実際に反対の議決権を行使した株主が「反対株主」となります(785条2項1号イ)。
イ 株式交換に株主総会の承認を要さない場合
特別支配会社が株式交換を行う場合を除き、全ての株主が「反対株主」になります。
本件においてAは本件株主総会承認決議に際して、反対票を投じていることから、「反対株主」(785条2項1号イ)にあたるということができるでしょう。
したがって、Aは反対株主の株式買取請求権を行使することができると考えられます。
株式交換の無効の訴えについては、828条1項11号に規定があります。ただ、無効原因については定めがありませんので、解釈に委ねられていることになります。
組織再編には多数の利害関係人がいることから、軽微な手続的瑕疵については無効原因とはならないと考えられており、一般的には、組織再編手続の瑕疵のうち重大なものに限り無効原因を構成すると解されています。
重大な手続違反と言ってもピンとこない受験生も多いかと思いますので、具体例を示しておくと、組織再編契約・計画の必要的記載事項の欠缺または意思表示の瑕疵による無効、組織再編の承認総会決議の不存在・無効・取消し、債権者異議手続の不履践、組織再編に関する開示などが挙げられます。特に承認総会決議の取消しについては頻出(本問もまさにこれに該当する)であるため、受験生は頭に叩き込んでおくべきです。
上記したように、株式交換の無効原因は重大な手続的瑕疵です。そして、本件では、対価の不当性が認められるものの、この点については差止め事由にならないことと同様に無効原因を構成しません。そうすると、一見本件株式交換にはなんら瑕疵がないようにも思えます。
しかし、前記したように、X社グループが本件株式承認決議において議決権を行使した結果、同承認決議が可決されたこと自体が承認決議の取消事由を構成することになりますから、本件株式交換承認決議には取消事由があるといえます。
したがって、重が大な手続違反が認められ、本件株式交換には無効原因が認められることになるでしょう。
なお、株主総会取消しの訴えを提起することができるのは決議の日から3ヶ月以内であるのに対し、株式交換無効の訴えを提起することができるのは株式交換の効力が生じた日から6ヶ月以内であるため、出訴期間にズレがあります。この点については、株主総会取消しの訴えが出訴期間を限定した趣旨が株主総会の早期安定にあることを重視して、株式交換無効の訴えにおいて株主総会の取消事由を主張することができるのは、当該決議の日から3ヶ月以内に限るとするのが有力説の立場です。細かい論点ですが、確実に指摘できるように準備しておきましょう。
いつもBEXA記事「たまっち先生の論文試験の合格答案レクチャー」をお読みくださり、誠にありがとうございます。
第28回は平成25年司法試験 会社法から「株式交換契約」合格答案のこつ について解説いたしました。次回以降も、たまっち先生がどのような点に気をつけて答案を書けば合格答案を書くことができるようになるかについて連載してまいります。ご期待ください。
A答案を書くのに必要なのは「短答の知識を論文に活かせるようにすること」
[インプットとアウトプットを並行して学べるBEXAの基礎講座]
2023年3月18日 たまっち先生
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