株式交換契約 合格答案のこつ たまっち先生の「論文試験の合格答案レクチャー」第 28回 ~平成25年度 予備試験 会社法~

たまっち先生の
「論文試験の合格答案レクチャー
第 28回
「株式交換契約
合格答案のこつ

平成25年度 予備試験 会社法から

第1 はじめに
…組織再編分野が正面から問われたことはほとんどない…受験的にもいつ問われてもおかしくはない …

 こんにちは、たまっち先生です。
 第28回となる今回は、会社法における組織再編のうち、株式交換について実際のA答案とC答案の比較検討を通して合格答案のコツをレクチャーしていきたいと思います。

 これまでの司法試験、予備試験では組織再編分野が正面から問われたことはほとんどなく、勉強が疎かになっている受験生が多い分野であると思います。
しかし、実務的に組織再編分野の重要度は非常に高く、株式交換はキャッシュアウトの手段としてもよく使われる制度です。このように実務的に重要度が高い制度については、受験的にもいつ問われてもおかしくはないといえるでしょう。以上のような理由から、本記事では株式交換制度について皆様と一緒に考えていきたいと思います。

| 目次

第1 はじめに…組織再編分野が正面から問われたことはほとんどない…受験的にもいつ問われてもおかしくはない
第2 A答案とC答案の比較検討
第3 B E X Aの考える合格答案までのステップ「5、基本的な事例問題が書ける」との関連性
第4 本問に関連する論点
  【問題文及び設問】
  1 株式交換とは
  2 株式交換の手続
  3 株式交換の差止め
    3-⑴ 概要
    3-⑵ 本問の考え方
  4 株式交換における反対株主による買取請求
    4-⑴ 概要
    4-⑵ 本問の考え方
  5 株式交換の無効の訴え
    5-⑴ 概要
    5-⑵ 本問の考え方

第2 A答案とC答案の比較検討

【A答案とC答案】
では早速、A答案とC答案を2つを見比べてみましょう。
A ポイントC ポイントが分かり易いよう⇩表の記載方法としました(なお、デバイスやモニターの大きさで段がズレて表示される場合がございます。あらかじめご了承ください)。

A答案

A ポイント

第3 設問3について
1 効力発生前にとりうる手段

(1) まず、Aとしては、Y社における本件株式交換の承認決議の取消の訴えを提議するという手段をとることが考えられる。831条1項3号の取消事由があるかが問題となる。
「特別の利害関係を有する者」とは、会社の利益を離れた個人的利害関係を有する者を言うと考える。本件承認決議においてはX社も議決権行使をしているが、X社は本件株式交換契約の一方当事者であるためかかる契約を自己に有利に進めたいという考えを持つのが通常である。したがって、X社はY社の利益を離れた個人的利害関係を有するものといえ、「特別の利害関係を有する者」にあたる。
そして、X社が議決権を行使したことで、1対0.1という交換比率による株式交換契約が承認されている。X社とY社の株価や資産状況等が不明であるためかかる比率を承認することが著しく不当であるかは直ちに判断はできないが、X社がY社の発行済み株式の75%を有する株主でありY社の経営を支配できる状況にあることからすれば、上記比率を承認することは著しく不当なものである可能性が高い。したがって、具体的状況の下、上記交換比率の承認が著しく不当である場合には831条1項3号の取消事由があるといえる。
この場合には、Aは本件承認決議の取消の訴えを提議するという手段を採りうる。

(2) さらに、AはY社の株主であるため、株式買取請求(785条1項)をすることができる。もっとも、Aは事故及びZ社とY社との資本関係を継続したいと思っているため、この手段はAの要望に応えるものではない。

2 効力発生後にとりうる手段

(1)効力発生後はAとしては株式交換無効の訴え(828条1項11号)を提議することが考えらえる。

(2) まず、上記承認決議の取消事由がある場合にはこれを無効事由とすることができる。取消事由がある場合には承認決議が不存在ということであり、会社の所有者たる株主の承認を得ていないことになる。この瑕疵は決議の3ヶ月以内に主張しなければならない。

(3) では、Aは交換比率の不公正自体を無効事由として主張することができるか。
 4この点については、契約で定められた交換比率は一応独立の当事者が真摯に交渉をした結果であるため直ちに不公正であるとはいえない。また、反対株主は株式買取請求権を行使することも可能である。よって、交換比率の不公正自体は重大な瑕疵とはいえず、無効事由にはならないと考える。
 したがって、Aは本件交換比率を無効事由として主張することはできない。

(4) 以上より、Aは承認決議から3ヶ月以内に限り、決議の取消事由を株式交換無効事由として株式交換無効の訴えを提議するという手段を採りうる。

 

 

 

 

一見法令違反が見当たらない事案については、831条1項3号が使えないかを検討する必要があります。この点、A答案は831条1項3号該当性を検討できています。

 

 

 

 

本件株式交換により直接的に利益を得る者であることを指摘することができています。
なお、他の株主も利益を受けるのであれば、特別利害関係人該当性を否定する余地があると思われますが、本件のようにX社グループのみが利益を受けるような場合には、他の株主と共通しない利益を受ける点で不当性が認められるため、特別利害関係人に該当することになるでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3組織再編の無効の訴えと株主総会決議取消しの訴えの関係性について正確に言及できています。無効の訴えの出訴期間は6ヶ月間となりますが、その中で総会取消し事由を主張する場合には決議の日から3ヶ月以内に主張する必要がある点に注意が必要です。

 

 

 

 

 

 

4平成26年改正が株主交換の交換比率の不当性を無効原因と規定しなかった点を意識できています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

C答案

C ポイント

3 設問3

 

(1)①について
本件交換比率の不当が「法令に違反する」という株主総会決議無効の訴え(830条2項)を提起するという手段が考えられる。

 

(2)②について
4本件株式交換比率が不当であるとして、株式交換無効の訴え(828条1項11号)を提起するという手段が考えられる。

 

時間切れになっていると考えられますが、時間配分には要注意です。

 

株式交換において交換比率の不当性は法令違反ではないので、差止め原因とはなりません。厳しい言い方にはなりますが、基本的な理解が不足しています。

 

訴訟選択についても誤っています。効力発生前ですから株式交換の差止めの訴えを提起すべきです。

 

株式交換比率の不当性は無効原因を構成しません。

 

無効原因について明文上規定されておらず、解釈によることになりますが、時間不足との関係からか無効原因を解釈することができていません。​

 

第3 B E X Aの考える合格答案までのステップ「5、基本的な事例問題が書ける」との関連性

B E X Aの考える合格答案までのステップとの関係では、「5、基本的な事例問題が書ける」との関連性が強いと思います。

 株式交換分野は平成26年改正により、株式交換無効の訴えが新設されたので、改正を踏まえて論述をする必要があります。また、平成26年改正では、株式交換の差止めの訴えに言う法令違反や無効事由には、株式交換の交換比率の不当性は含まれないとされた点を意識する必要があります。本件では、交換比率の不当性が認められますが、かかる事由は差止め事由、無効事由のいずれにも該当しない点に注意しましょう。これらは、いずれもどの基本書にも記載されている基本的知識です。基本的知識を押さえて確実に得点できるよう準備しておきましょう。

第4 本問に関連する論点

【問題文及び設問】

平成25年予備試験 会社法の問題を読みたい方は、⇩⇩をクリック


https://www.moj.go.jp/content/000112696.pdf

 
1 株式交換とは

 株式交換とは、ある株式会社(株式交換完全子会社)がその発行済株式の全部を他の会社(株式交換完全親会社)に取得させることをいいます(会社法2条31号)。

 株式会社が株式交換をするには、当事会社間で株式交換契約を締結し(767条、768条)、原則として各当事会社の株主総会の特別決議が必要です(309条2項12号)。とりわけ上場会社では、市場に大量の株式が流通していることから、それら全ての株主から株式を譲り受けることは現実的に困難です。その点、株式交換を利用すれば、株主総会の特別決議さえ通すことができれば、反対する株主の保有株式を含めて全ての株式を取得することができることになります。そのため、株式交換制度は、キャッシュアウトの手段として用いられることが多いです。
 株式交換では、株式交換契約上で定めた効力発生日にその効力が生じ、株式交換完全親会社は、株式交換完全子会社の発行株式全てを取得します。これにより、株式交換親会社は完全子会社化、つまりキャッシュアウトを行うと形での組織再編です。
なお、補足ですが、従来は金銭を対価とする組織再編は、税務上、非適格組織再編とされ、税務面で不利が多かったですが、平成29年の税制改正により、金銭を高いとすると合併及び株式交換も、一定の場合には適格組織再編と認められ、評価益課税が避けられることになったと言う経緯があります。そのため、今後は金銭対価の株式交換によるキャッシュアウトの利用が増えることが予想され、このような動きがある以上、受験的にも重要度が高まっているといえると考えられると思います。
 紙幅との関係上、本記事では組織再編分野全体の解説はせずに、本問に関係する株式交換のうち会社法に関係する部分に絞って以下解説をしていきます。

2 株式交換の手続

 株式交換をするためには、会社法上、以下のような手続をしなければならないとされています。

① 株式交換契約の内容の契約を締結することについて取締役会決議(取締役会設置会社の場合)
② 株式交換契約の締結または株式交換計画の作成(767条1項。なお、768条1項各号記載の事項を定 める必要があります)
③ 株式交換に関する事前開示(782条、794条)
④ 株主総会の承認(原則特別決議ですが、簡易組織再編、略式組織再編の場合は株主総会の承認は不 要です。783条、784条、795条、796条)
⑤ 債権者保護手続(789条1項3号、799条1項3号)
⑥ 反対株主の株式買取請求(785条〜788条、797条、798条)
⑦ 事後開示(株式交換完全親会社については801条、株式交換完全子会社は791条)

 受験的に重要なのは、④、⑤、⑥であり、それ以外は手続として必要であることを知っておいてもらえれば十分です。また、本記事では株式交換を扱っていますが、その他の組織再編でもほぼ同様の手続が要求されていますので、合わせて押さえておきたいです。
なお、本記事では、④、⑥の論点に加え、株式交換無効の訴えに絞って検討していきます。

3 株式交換の差止め
3-⑴ 概要

 株式交換が法令または定款に違反する場合に、株主が不利益を受ける恐れがあるときは、株主は会社に対して当該株式交換をやめることを請求することができます(784条の2第2号、796条の2第2号)。平成26年改正以前の会社法では、略式組織再編についてのみ差止め請求権が存在し、通常の組織再編には組織再編が規定されていませんでした。そこで、平成26年改正では、略式組織再編以外についても差止め請求権を規定されましたが、対価の著しい不当性については組織再編の効力が生ずるまでの短期間に裁判所が公正な価格を審理することが困難であるという理由から、差止め事由とはされていません。また、差止め事由は法令違反とされているものの、これには取締役の善管注意義務違反や忠実義務違反は含まれないと解されています。
 もっとも、特別利害関係の議決権行使により著しく不当な対価で組織再編が承認された場合には、差止めを否定する理由はなく、そのような場合には株主は差止めの仮処分を申し立てることができると考えられています。
このような意味で、組織再編には適法な株主総会承認決議が要求されていると解し、株主総会承認決議に瑕疵がある場合には、適法な承認決議が行われていないという意味で法令違反があると解釈することになるでしょう。

3-⑵ 本問の考え方

 本問では、株式交換手続に関し一見何ら問題がないように思われます。ただ、本件では、Xグループ各社が株主総会において議決権を行使していることからしますと、831条1項3号の違法事由を認めることができないかを想起することができるでしょう。
そこで、本件では、831条1項3号の違法事由が認められるか否かを検討していくことになります。

ア 「特別の利害関係を有する者」
「特別の利害関係を有する者」とは、他の株主とは共通しない利害を有する者をいいます。
X社グループ各社は、本件株式交換契約が成立すれば、X社はY社株を1対0.1という著しく有利な比率で取得し、Y社の行う事業を自社グループに統合できるという利益を得るのに対し、他のY社株主はこれらの利益を享受できないという不利益を被ることになります。
以上からすれば、X社グループは、「特別の利害関係を有する者」に当たるということができるでしょう。

イ 「議決権を行使したことによって」
 これは、因果関係を規定したものですから、当該特別利害関係人が議決権を行使したことと総会決議が可決(否決)されたこととの間で因果関係が要求されています。
 本件で、X社グループはY社株式のうち75%を保有しているわけですから、X社グループが議決権を行使する=決議が可決される、という関係にあります。したがって、X社グループが議決権を行使したことによって、決議がされたということができます。

ウ 「著しく不当な決議」
 著しく不当な決議とは、他の株主が享受しない利益を得、または他の株主が受ける不利益を免れることをいいます。

4 株式交換における反対株主による買取請求
4-⑴ 概要

 株式交換に反対する株主(反対株主)は、株式会社に対し、自己の保有株式を公正な価格で買い取ることを請求することができます(785条。反対株主の株式買取請求権)。これは、反対株主に保有株式の公正な価格を受け取って会社から退出する機会を保障する趣旨で規定された権利です(最決平成23年4月19日民集65巻3号参照)。ただし、組織再編に総株主の同意を要する場合や、簡易組織再編の場合については、例外とされています。
ア 株式交換に株主総会の承認を要する場合
当該株主総会に先立ち株式交換に反対する旨を会社に通知し、かつ、当該株主総会で実際に反対の議決権を行使した株主が「反対株主」となります(785条2項1号イ)。

イ 株式交換に株主総会の承認を要さない場合
特別支配会社が株式交換を行う場合を除き、全ての株主が「反対株主」になります。

4-⑵ 本問の考え方

 本件においてAは本件株主総会承認決議に際して、反対票を投じていることから、「反対株主」(785条2項1号イ)にあたるということができるでしょう。
したがって、Aは反対株主の株式買取請求権を行使することができると考えられます。

5 株式交換の無効の訴え
5-⑴ 概要

 株式交換の無効の訴えについては、828条1項11号に規定があります。ただ、無効原因については定めがありませんので、解釈に委ねられていることになります。
組織再編には多数の利害関係人がいることから、軽微な手続的瑕疵については無効原因とはならないと考えられており、一般的には、組織再編手続の瑕疵のうち重大なものに限り無効原因を構成すると解されています。
 重大な手続違反と言ってもピンとこない受験生も多いかと思いますので、具体例を示しておくと、組織再編契約・計画の必要的記載事項の欠缺または意思表示の瑕疵による無効、組織再編の承認総会決議の不存在・無効・取消し、債権者異議手続の不履践、組織再編に関する開示などが挙げられます。特に承認総会決議の取消しについては頻出(本問もまさにこれに該当する)であるため、受験生は頭に叩き込んでおくべきです。


5-⑵ 本問の考え方

 上記したように、株式交換の無効原因は重大な手続的瑕疵です。そして、本件では、対価の不当性が認められるものの、この点については差止め事由にならないことと同様に無効原因を構成しません。そうすると、一見本件株式交換にはなんら瑕疵がないようにも思えます。
 しかし、前記したように、X社グループが本件株式承認決議において議決権を行使した結果、同承認決議が可決されたこと自体が承認決議の取消事由を構成することになりますから、本件株式交換承認決議には取消事由があるといえます。
したがって、重が大な手続違反が認められ、本件株式交換には無効原因が認められることになるでしょう。
 なお、株主総会取消しの訴えを提起することができるのは決議の日から3ヶ月以内であるのに対し、株式交換無効の訴えを提起することができるのは株式交換の効力が生じた日から6ヶ月以内であるため、出訴期間にズレがあります。この点については、株主総会取消しの訴えが出訴期間を限定した趣旨が株主総会の早期安定にあることを重視して、株式交換無効の訴えにおいて株主総会の取消事由を主張することができるのは、当該決議の日から3ヶ月以内に限るとするのが有力説の立場です。細かい論点ですが、確実に指摘できるように準備しておきましょう。

 いつもBEXA記事「たまっち先生の論文試験の合格答案レクチャー」をお読みくださり、誠にありがとうございます。
 第28回は
平成25年司法試験 会社法から「
株式交換契約」合格答案のこつ について解説いたしました。次回以降も、たまっち先生がどのような点に気をつけて答案を書けば合格答案を書くことができるようになるかについて連載してまいります。ご期待ください。

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2023年3月18日   たまっち先生 

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