捜索・差押え  合格答案のこつ たまっち先生の 「論文試験の合格答案レクチャー」 第 17 回~平成24年司法試験刑事訴訟法~

たまっち先生の
「論文試験の合格答案レクチャー
第 17回
「捜索・差押え」合格答案のこつ
平成24年 司法試験の刑事訴訟法  

第1 はじめに 
  令和3年司法試験、令和4年予備試験と続けて出題され、年々重要度が高まってきている  

 こんにちは、たまっち先生です。
 今回は、平成24年司法試験を題材として刑事訴訟法の捜索・差押えについて実際のA答案とC答案を比較検討し、レクチャーしていきたいと思います。個人的には捜索・差押えは、強制処分・任意処分の区別や伝聞証拠に比べれば、それほど重要論点であるというイメージはないですが、令和3年司法試験、令和4年予備試験と続けて出題され、年々重要度が高まってきているといえるでしょう。そのため、このタイミングで記事の題材とさせていただきました。

| 目次

第1 はじめに
  令和3年司法試験、令和4年予備試験と続けて出題され、年々重要度が高まってきている

第2 A答案とC答案の比較検討
  【A答案とC答案】
  【比較検討】
    1 捜査①
    2 捜査②
第3 平成24年司法試験・設問1を選んだ理由
  【問題文及び設問】平成24年 司法試験の刑事訴訟法
第4 B E X Aの考える合格答案までのステップ
 「5、基本的事例問題が解ける」との関連性

第5 本問の考え方~問題文の事情を丁寧に拾えていた答案が高く評価...
  1 出題趣旨・採点実感から見る本問の検討のポイント
    ⑴ 捜査1に関して
    ⑵ 捜査2に関して
  2 本問と関連する重要論点解説
    ⑴ 捜査①の適法性
      ア 捜索場所に捜索執行中に届いた荷物について捜索をすることの可否(上記①の問題点)
      イ 捜索場所に存在する第三者の荷物を捜索することの可否(上記②の問題点)
      ウ 捜索の一般的要件である被疑事実との蓋然性(上記③の問題点)
    ⑵ 捜査②の適法性
      ア 捜索差押え許可状に基づく捜索としての適法性
      イ 現行犯逮捕に伴う捜索(220条1項2号)としての適法性
第6 最後に・・・要件を正確に理解できている受験生が少ない分野

第2 A答案とC答案の比較検討

【A答案とC答案】
では早速、A答案とC答案を2つを見比べてみましょう。

A答案

C答案

1 捜査①の適法性

捜査①は適法か。

⑴ まず、捜査①は、T社への捜索が着手された後に、T社ないに届いた荷物に対して行われているため、捜索の対象が着手時点に存在していた物に限定されるのかどうか問題となる。

ア まず、刑事訴訟法(以下略)222条1項、110条の規定が、令状提示時にその場に存在していた物に、対象物が限定されることを定めた規定であるかどうか問題となるも、否定すべきである。なぜなら、同条の趣旨は、あくまで、被処分者に対し、捜索の対象範囲を知らせ、防御の機会を与えることにあるからである。

イ では、着手後にその場に存在する荷物について令状の効力は及びうるか。

捜索差押え許可状には、7日間の「有効期間」(219条1項、規則300条)が存在するため、その期間中はいつでも着手することができる以上、いつ捜索に着手したかどうかで、対象となる物の範囲が変わるのは妥当とはいえない。そしてそもそも、捜索差押えた適法とされるのは、その範囲に証拠物存在の蓋然性があると、令状裁判官が審査しことによる(憲法35条1項)。そして、令状裁判官は、有効期間の範囲で、「正当な理由」の有無を判断している以上、その範囲では、捜索差押えは正当化されると解される。また、新たに管理権等の侵害もない。

よって、着手後にその場に存在することに至ったものについては、令状の効力は及びうる。

⑵ では、令状の効力が及びうるとしても、本件荷物は乙宛であり、被疑者である「甲」のものではない。そこで、かかる場合であっても令状の効力は及びうるか。

ア あくまでも、令状裁判官は、被疑者たる「甲」についての証拠物存在の蓋然性を判断しており、それとは異なる第三者たる乙の所有物については審査していないため、令状の効力が及ばないのが原則である。

イ もっとも、本件では、乙は、甲の顔を見ながら「そうですね。仕方ないですね。」と言いながら、受け取った荷物を自分の下に置いている。そして、このことは自己の所有物を甲の管理権が及ぶ範囲に委ねたものと解される。そして、令状裁判官は、通常そこに存在する物について「正当な理由」の有無を判断している。そして、乙は、T社の従業員であることから、乙が甲に委ねた荷物は、通常そこに存在するものといえ、令状裁判官の審査を経ているといえる。

ウ よって、令状の効力は及びうるといえる。

⑶ しかし、あくまで甲ではなく、乙の物である以上、222条1項、102条2項の要件を満たす限りで、捜索は可能になると解される。そこで、「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況」があったといえるか。以下検討する。

たしかに、荷物の内容物は「書類」と記載されており、覚醒剤等に関連する物が入っている可能性は低いとも思われる。しかし、T社が覚醒剤を扱っているような情報を捜査機関は得ており、従業員が数名という少数であること、及びその取引の密行性からすれば、その従業員も覚醒剤事件に関与している可能性が高いことが推認される。そしてそれは、現に以前覚醒剤事件で検挙された者が出入りしており、その再犯性の高さ、及び職務質問に応じなかったことに証左されているといえる。また、差し押さえられた携帯の内容には「ブツ」「さばく」という表現がされており、これらの表現は、覚醒剤を販売するときに通常使われる単語であるため、かかる「ブツ」が覚醒剤を指していることが推認される。そして、その内容通りに10月5日の午後3時過ぎに甲宛の荷物と乙宛の荷物が届いた以上、本件の荷物がメールにおける「ブツ」を含んだ荷物である可能性は非常に高かったといえる。そして、たしかに差出人はメールの内容に記された「丙」ではない。しかし、覚醒剤事件の性質上足がつかないようにするために、別名を用いて表記することは普通であると考えられる以上、実在しないU社を差出人とし、電話番号も使用されていないことからすれば、これは、やましい内容であるために足がつかないようにそのような表記にしたのでだと考えられる。

以上より、証拠存在の蓋然性があるといえるので、「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況」にあったといえる。

⑷ 以上より、捜査①は適法である。

2 捜査②の適法性

⑴ 捜索差押え許可状に基づく捜索としての適法性

ア 上述のように、捜索差押え許可状の効力が及ぶのは、令状裁判官が審査した範囲、すなわち通常捜索すべき場所に存在する物であり、かつ、その管理権が委ねられている物である。

イ そして、これを本件についてみると、たしかに、ロッカーはT社の中になる以上、「捜索すべき場所」(219条1項)の範囲内にあるため令状の効力は及びそうである。しかし、ロッカーとはそれを利用する者のみが利用する場所である。そして、マスターキーがあるものの、それを勝手に開けることは想定できない。そして、ロッカーは施錠されていた以上、乙が甲に管理権を委ねていたとはいえない。

ウ よって、乙が管理権を委ねていたとはいえず、令状の効力はロッカーの中にある物に対して及んでいたとはいえないため、本件捜索は違法である。

⑵ 現行犯逮捕に基づく捜索としての適法性

本件捜索が、現行犯逮捕に基づく捜索として適法とならないか。220条1項の根拠と関連して問題となる。

ア 同条の根拠は、通常の現場位においては、証拠物存在の蓋然性が類型的に認められ、その場で令状を請求すれば、直ちに令状が発布される関係にあるため、例外的に無令状捜索を許容した点にある。そのため、「逮捕する場合」とは逮捕の直後だけでなく、その直前を含み、「逮捕の現場」(220条1項2号)とは、令状を請求すれば発付される範囲、すなわち管理権の単一性が及ぶ範囲を指すと解される。

イ これを本件についてみると、本件ではわずか現行犯逮捕した後の25分後に捜索を行っているので、逮捕の直後といえ、「逮捕する場合」といえる。

ウ では、「逮捕の現場」といえるか。

たしかに、社長室で乙は逮捕されており、その社長室が「逮捕の現場」に当たるとも思える。しかし、社長室でT社内の一室に過ぎず、T社を利用する者は、T車内を自由に行き来していると解される。とすれば、管理権はT社全体であると解される。そして、当初の捜索差押え令状が捜索すべき場所をT社としているのも同様の趣旨と解される。

よって、T社内に所在する本件ロッカーも「逮捕の現場」に当たる。

エ 以上より、本件捜索は適法であると考える。

1 捜査①について
(1)ア本問では、被疑者を甲とし、捜索場所をT株式会社とした、捜索差押え令状の執行中に、配達された荷物を捜索している。この捜索は、上記の捜索差押え令状の効力としてなしうるか。場所に対する令状で、令状執行中の搬入物を捜索できるかが問題となる。
イ ここで、法219条が捜索差押さえ令状に場所の記載を要求した趣旨は、捜索差押えのために制限される管理権の範囲を明示し、もって捜査機関の恣意を抑制する点にある。そうすると、捜索差押さえ令状の効力が及ぶか否かは、令状が制限すること許容ものと明示した管理権の範囲と別個の管理権侵害が生じたかによって判断するべきである。そして、この判断をするに当たっては、搬入物が捜索差押さえ対象物であることの蓋然性を考慮して判断するべきである。
ウ 本件では、たしかに内容物が書籍などと記載されていた。しかし、本問では、事前に覚醒剤事件検挙歴があるものからの情報提供があり、さらT株式会社の周辺には、覚醒剤の検挙歴があるものがうろついており、T株式会社は、覚醒剤事件と強い関係があることが伺われたのである。そして、捜索が始まると、電子秤、注射器といったT株式会社が覚醒剤取引に関与しているという物品が発見されていた。また、捜索では、甲の携帯電話から「ブツを送る」「三時過ぎには届く」といった内容のメールが発見され、これとほぼ同じころに本問の荷物が搬入されたのである。そのような状況のなかで、捜索差押さえの対象となっている甲の小包と同一人物が配送したことが伺われる小包が搬入されたのである。この場合、本問の小包の内容は覚醒剤である蓋然性が高いといえる。さらに、甲乙が搬入された小包をみて、甲と乙は、「仕方ないですね」などといい、不自然な行動をとっており、見られたくないものが運ばれて来たような態度をとっていることも、上記蓋然性を強めるものである。オよって、本問では、別個の管理権制約が生じているとはいえないから、令状の効力により行われた捜索であるといえる。 
(2)本問では、捜索差押さえに際して小包を開封しているが、これは小包が差押さえ対象物である覚醒剤が入っている可能性が高く捜索差押さえの必要性が高い一方、手段も穏当な内容で行われている。この場合、甲乙がたとえ拒否していても捜索の実効性を確保するための必要な処分(222条、111条)として適法である。
(3)よって、捜査①は適法である。
2 捜査②について
(1)捜索差押え許可状に基づく捜索としての適法性
ア 本問で、Kは捜索差押えの対象物である手帳などを押収するため、被疑者を甲とした捜索差押さえ令状で、乙のロッカーを捜索しようとしている。この場合の捜索は適法か。
イ ここで、前述のように219条の趣旨は、令状に捜索対象を明示することにより捜査機関の恣意を抑制する点にある。そうすると被疑者以外の第三者の管理権が成立しているであっても、令状が管理権制限を許容している場所については、捜索差押さえが許容されると考える。
ウ 本問では、確かに捜索対象は乙の管理権が成立したロッカーである。しかし、本問では、捜索場所は、甲の事務所であり、たとえその中に第三者乙の管理権が成立していても、令状の対象に含まれる。なぜなら、仮に含まれないとすれば、事前に第三者の管理権がある場所を設定することで、容易に捜索を回避することが可能になるところ、令状審査において、そのような事態を許容しているとはとうてい考えられないからである。 
エ また、マスターキーを使ってロッカーを開けること自体は、既に覚醒剤が発見され密売の全容を解明するためには、捜索を行う必要が高い一方、手段は穏当なものなので、必要な処分(222条、111条)として適法である。
オ よって、令状の効力による場合、捜査②は適法である。
(2)現行犯逮捕に伴う捜索としての適法性
ア 本問の捜索は、逮捕に伴う捜索差押さえ(220条1項2号)として適法か。この場合、捜索の現場が「逮捕の現場」に当たるかが問題となる。
イ ここで、法220条1項が逮捕に伴う捜索・差押えを認めた趣旨は、逮捕の現場に証拠物が存在する蓋然性が高い点にある。そうすると「逮捕の現場」とは、仮に捜索差押さえ令状が発付されていたとすれば、管理権が制限されていた場所を言うと考えるべきである 。
ウ 本件では、甲の事務所が乙の逮捕場所であり、仮に令状が発付されていたとすれば、甲の事務所全体が管理権制限の対象となっていたはずである。そうすると、乙のロッカーも、管理権制限の対象となっていたといえる。
エ よって、本件捜索は、220条1項2号の捜索として適法である。
オ 解錠については、前述と同様に必要な処分(222条、111条)として適法である。

【比較検討】
1 捜査①
 まず、A答案について見ると、出題趣旨の詳細は第5・1・⑴で後述するとおり、ほぼ出題趣旨通りの記述ができている点で圧巻といえます。このように取りこぼしがないというのが上位答案に共通する要素だということができます。そして、一つ一つの論点の論述が非常に丁寧であるという点も共通しています。
 例えば、後述②の問題点に関して、『本件では、乙は、甲の顔を見ながら「そうですね。仕方ないですね。」と言いながら、受け取った荷物を自分の下に置いている。そして、このことは自己の所有物を甲の管理権が及ぶ範囲に委ねたものと解される。そして、令状裁判官は、通常そこに存在する物について「正当な理由」の有無を判断している。そして、乙は、T社の従業員であることから、乙が甲に委ねた荷物は、通常そこに存在するものといえ、令状裁判官の審査を経ているといえる。よって、令状の効力は及びうるといえる。』と指摘しており、乙の荷物に対して甲の管理権が及ぶ結果、本件差押え許可状の効力が及ぶことを丁寧に論じることができています。
 しかも、拾っている事実もまさに出題趣旨で指摘が求められている事実であり、拾う事実からその事実に対する評価まで高く評価されたといえるでしょう。

 次にC答案を見てみると、捜索対象物に被疑事実に関する物が存在する蓋然性さえ認められれば、当然に捜索が可能である旨の指摘になってしまっています。これは、まさに採点実感で厳しく指摘されているところであり、減点は避けられないでしょう。被疑事実に関連する物が存在する蓋然性が高いかどうかを論じる以前に、まずは捜索対象物のプライバシー侵害について、令状裁判官が事前に審査できていたかという点が問題となります。令状に基づく捜索の問題である以上は、そもそも当該捜索差押え許可状の効力が捜索対象物に及んでいるのかという点を論じなければならないという点は意識しておく必要があるでしょう。
2 捜査②
 捜査②に関しても、A答案は、令状に基づく捜索、逮捕に伴う捜索の論点についてほぼ出題趣旨通りの論述を展開できています。そして、ロッカーに乙の管理権を認めることができるかという問題に関し、マスターキーが存在していたというマイナス要素にも触れた上で、ロッカーが私物を管理するための場所であるというプラス要素を指摘することができていた点が非常に高く評価されたと思われます。

 他方で、C答案はロッカー内部に乙の管理権が認められるとしても、令状による捜索が可能であるという誤った指摘になっており、減点は避けられません。これは、102条2項を誤解するものであり受験生の皆様は注意が必要です。
加えて、本件ロッカーがT社の管理権に属するのか、乙の管理権に属するのかという点に関しては、何ら言及がされておらず、問題文の事実を拾えていないという点でも減点がされていると思われます。
 A答案と比較すると、その差は歴然であると言わざるを得ません。

第3  平成24年司法試験・設問1を選んだ理由

 平成24年司法試験の設問1では、司法警察員がT社事務所を捜索すべき場所とする捜索差押え許可状に基づき、捜索実行中に同事務所社長室に届いた従業員乙宛の宅配便荷物を開封したこと(捜査①)及びその荷物の中から覚醒剤を発見し、乙を現行犯逮捕した後に同事務所更衣室に設置された乙の使用するロッカー内を捜索したこと(捜査②)に関しての適法性が問われています。

【問題文及び設問】
平成24年 司法試験の刑事訴訟法を読みたい方は、⇩⇩をクリック

https://www.moj.go.jp/content/000098337.pdf

 

第4 B E X Aの考える合格答案までのステップ
  「5、基本的事例問題が解ける」との関連性

B E X Aの考える合格答案までのステップとの関係でいえば、「5、基本的事例問題が解ける」との関連性が強いと思います。

 捜索・差押えの一般的要件を理解できていれば、本問を解答することはそれほど難しくありません。乙の荷物に捜索令状に記載されたT社の管理権が及んでいるかという検討に関しても、捜索差押えをするためには、憲法35条が要求する「正当な理由」が必要であるという原則論を理解していれば、令状裁判官による事前の審査を経ているかどうかをメルクマースとすべきであるということに気づくことができます。
このように、基礎が身に付いていれば、その応用で本試験の問題にも対応することができますので、受験生の皆様にはまずは基礎力を身に付けていただきたいと思います。

第5 本問の考え方・・・問題文の事情を丁寧に拾えていた答案が高く評価

1 出題趣旨・採点実感から見る本問の検討のポイント
⑴ 捜査1に関して
 出題趣旨では、「捜査1の事例への適用に当たっては、 ①捜索場所に捜索実行中に届いた荷物であることと有効期間内における捜索が許可されたこととの関係、②乙宛ての荷物であることとT株式会社の管理する場所内の捜索が許可されたこととの関係、③平成23年10月5日に捜索場所に新たに持ち込まれた乙宛ての物であることと被疑事実(同日2日の甲による覚せい剤の営利目的所持)に関連する覚せい剤等の捜索が許可されたこととの関係に分けて論ずることが必要であり、いずれの検討においても、事例中に現れた具体的事実を的確に抽出、分析しながら評価、検討すべきである。」(①〜③の番号は筆者による)と指摘されており、①〜③の検討をすることが必須であることが分かります。

 簡単に解説すると、①は捜索差押え許可状の執行中に届いた物に対しては、令状裁判官の審査(=正当な理由)が及んでいないのではないか、という問題です。②は、捜索差押え許可状で執行対象となっているのはT社の管理する場所に限定されているため、乙の荷物を捜索することは許されないのではないか、という問題です。③は、捜索の要件として被疑事実との蓋然性が要求されますが、乙宛荷物には被疑事実に関連する物が存在する蓋然性が認められないのではないか、という問題です。

 続いて採点実感を見てみましょう。採点実感では、「設問1の捜査1では、令状に基づく捜索の適法性について問われているのであるから、令状裁判官が捜索差押許可状により捜査機関にいかなる捜索を許可したのかについて意識し、捜索場所に捜索実行中に届いた荷物であることと有効期間内における捜索が許可されたこととの関係、乙宛ての荷物であることとT株式会社の管理する場所内の捜索が許可されたこととの関係、平成23年10月5日に捜索場所に新たに持ち込まれた乙宛ての物であることと被疑事実(同2日の甲による覚せい剤の営利目的 所持)に関連する覚せい剤等の捜索が許可されたこととの関係に分けて論ずる必要があるが、捜索場所に捜索実行中に届いた荷物の問題点については、多くの答案においておおむね適切な論述がなされていたものの、乙宛ての荷物T株式会社の管理権との関係及び被疑事実と対象物との関連性については全く言及しない答案が数多く見受けられ、特に証拠物(覚せい剤)が存在する蓋然性さえあれば、侵害することが許可された管理権(T株式会社の管理権)の範囲を超えて捜索できるといった誤った理解を前提としているかのように思われる答案が目立った。」と指摘されており、多くの答案が②の点について検討できていなかったことが示唆されています。このことから、平成24年司法試験の受験生は、②の点について検討できていたかどうかで大きな差が開いたと分析することができます。

 特に、出題趣旨では、②の点に関して、「T株式会社の管理権との関係においては、被疑事実は代表者甲に対するものであること、荷物の宛名は乙であるが、送付先はT株式会社であること、同社は人材派遣業を営んでおり、裁判官にとっても同社事務所に従業員がいると当然予想されたところ、現に令状発付前から同社事務所で従業員が働いていることが判明していたこと、乙は同社の従業員であること、甲の携帯電話に残されたメール内容等によれば、甲と乙は共同して覚せい剤を密売しており、 丙から甲が乙宛ての荷物の中身を分けるように指示されていて甲が乙宛ての荷物の管理・支配を委ねられているとうかがえること等を検討し、乙宛ての荷物にT株式会社の管理権が及んでいるかどうか論ずる必要がある。」と指摘があり、乙の荷物に対して捜索差押え許可状の対象であるT社の管理権が及んでいるかどうかを問題文に落ちている具体的な事実を踏まえて丁寧に検討することが要求されているといえるでしょう。
 つまり、この点に関して問題文の事情を丁寧に拾えていた答案が高く評価され、乙の荷物とT社の管理権との関係への言及を欠いたり、言及はできていても問題文の事実を拾えていなかったりした答案は低い評価にとどまったということができます。

⑵ 捜査2に関して
 出題趣旨では、「捜査2のうち捜索差押許可状に基づく捜索も同様に、乙使用のロッカーであることとT株式会社の管理権との関係、乙使用のロッカーであることと被疑事実と関連する乙の携帯電話や手 帳等が存在する蓋然性との関係に分けて論ずることが必要である。」と指摘されており、捜査1で検討したのと同様に②と③の点が問題となっていることが分かります。加えて、捜査2は捜査1とは異なり、現行犯逮捕に伴う捜索が問題となっています。この点、出題趣旨では、『捜査2のうち現行犯逮捕に伴う捜索については、なぜ「逮捕する場合において」令状なくして捜索を行うことができるのかという制度の趣旨に立ち返り、「逮捕の現場で」の解釈を明確にした上で、各自の見解とは異なる立場を意識して事例中に現れた具体的事実を的確に抽出、分析しながら論ずるべきである。 例えば、更衣室は同じT株式会社事務所にあるだけでなく、社長室の隣室であること、同じ同社の管理権が及んでいること、逮捕された被疑者は乙であり、 ロッカーも乙以外の他人が使用するものではなかったこと等を検討し、逮捕の現場といえるかどうか論ずる必要がある。』 

 続いて採点実感を参考に、答案作成上のポイントを見ていきましょう。
 採点実感では、「捜査2のうち令状に基づく捜索も同様に、乙使用のロッカーであることとT株式会社の管理権との関係、乙使用のロッカーであることと被疑事実と関連する乙の携帯電話や手帳等が存在する蓋然性との関係に分けて論ずる必要があるが、被疑事実と対象 物との関連性について全く言及しない答案が数多く見受けられた。
 また、T株式会社の管理権の問題を論ずるに当たっても、会社事務所という場所に対する令状の効力がその場所内に設置されている乙使用のロッカー内に及ぶかという捉え方をせず、被疑者甲に対する令状の効力が乙にも及ぶかという誤った捉え方をした答案が相当数見受けられ、捜査1と同様に証拠物が存在する蓋然性さえあれば、T株式会社の管理権の範囲を超えて捜索できると考えているかのような答案も目立った。そして、捜査1ではT株式会社の管理権の点を検討しないまま乙宛ての荷物を開封することについて適法とし、捜査2では乙による事実上のロッカーの使用を重視して乙使用のロッカーを開錠することについて違法とした答案が相当数見受けられたが、これは乙の個人宛での荷物と乙の個人使用のロッカーで法的論理構成や取扱いを全く異にするものであり、 厳しい評価をすれば、事実分析能力及び論理的思考能力の欠如を露呈するものと言わざるを得ない。」とかなり厳しい指摘がされています。
 捜査2についても捜査1との関係に乙のロッカーとT社の管理権との関係について問題文の事実を踏まえて論じることが求められています。もっとも、答案作成上注意すべきは、後半の指摘です。それは、捜査1と捜査2とで矛盾する答案を書いてしまうと大減点の恐れがあるという点です。時間的に余裕があれば、論理矛盾というミスをすることはないのでしょうが、本番の緊張と時間に追われているという焦りから思わず論理矛盾を犯してしまう受験生は少なくありません。採点実感の指摘を他人事と捉えず、論理矛盾を生じさせないよう事前の答案構成を丁寧にするなどの対策が必要だといえるでしょう。

2 本問と関連する重要論点解説
⑴ 捜査①の適法性
 ア 捜索場所に捜索執行中に届いた荷物について捜索をすることの可否(上記①の問題点)
 令状提示後の捜索執行中に搬入された物について捜索差押許可状の効力が及ぶのかが問題となります。
 この点については、最決平成19年2月8日が参考となります。平成19年決定は、捜索執行中に搬入され被告人が受領した荷物に対して警察官が行った捜索につき、捜索差押令状の効力が及ぶことを根拠に適法と判断しています。ただ、平成19年決定からはその理由付けが明らかではないので、答案では受験生自信が自分なりの理由付けを指摘する必要があります。

 捜索の要件には、「正当な理由」(憲法35条)がありますが、令状執行中に搬入された物に対して捜索を実施できるかどうかは、捜索差押許可状を発布した令状裁判官の審査の時間軸がいつの時点まで及んでいるのか、すなわち、裁判官がどの時点における捜索の「正当な理由」を審査しているのかとなります。
 裁判官は通常その捜索すべき場所に存在する物に着いても捜索すべき場所と一体のものとして併せて捜索する「正当な理由」の判断を行っていること、捜索差押許可状には7日間の「有効期限」(219条1項、規則300条)が存在するためその期間はいつでも着手できる以上、いつ捜査に着手したかで対象となる物の範囲が変わるのは妥当ではないことから、裁判官は捜索差押許可令じょうの有効期間内までに捜索場所に押収すべき物が存在する蓋然性を審査しているとする見解があります。受験生としては、かかる理由を指摘できれば答案としては十分でしょう。

 イ 捜索場所に存在する第三者の荷物を捜索することの可否(上記②の問題点)
 令状記載の場所は、「T株式会社」となっており、令状審査は捜査の必要性とそれに伴うプライバシー侵害を衡量した上で行うところ、プライバシー権の単位は管理処分権であることから、本件令状で行う捜索は、原則としてTの管理処分権が及んでいるかが問題となります。
 この点、本件被疑事実はT社代表者甲に対するものであるところ、乙はT社の従業員であり、そのことは令状審査の段階で判明していたことからすれば、令状裁判官は令状審査の段階で乙の荷物を侵害することも事前に判断していたということができます。そして、乙は現に当該荷物をT社内に置いており、同荷物の管理を甲に委ねています。また、甲の携帯電話に残されていたメールからすれば、甲と乙が共犯関係にあることは明らかであり、乙宛の荷物というのは形だけに過ぎず、実質的には乙宛の荷物には甲の管理権が及んでいるとすら捉える余地もあると思います。

 これらの事情を総合すれば、乙の荷物にはT社の管理権が及んでいると評価することができるでしょう。
以上より、本件捜索差押え許可状の効力は乙宛の荷物に及んでいるということができます。あくまでこの段階は、捜索差押え許可状の効力が乙宛の荷物に及ぶかどうかという段階の問題に過ぎず、これにより直ちに乙宛の荷物に捜索が可能であるというわけではないので注意してください。

 ウ 捜索の一般的要件である被疑事実との蓋然性(上記③の問題点)
 開封行為については、「必要な処分」(222条1項、111条1項)と捉える見解もありますが、ここでは捜索差押え許可状の効力として当然に認められる捜索行為である見解に立って検討することにします。

 捜索の一般的要件は、(ⅰ)被疑事実との関連性(証拠存在の蓋然性)、(ⅱ)捜索の必要性、(ⅲ)特定性、です。本件ではそのうち、(ⅰ)の被疑事実との関連性、本件では捜索が問題となっていますから証拠存在の蓋然性が要求されることになります。
 この点に関して、メールの内容や甲及び乙の不審な態度からすると乙は本件被疑事実の共犯者である可能性が高いといえます。そして、甲宛の荷物と乙宛の荷物を見ると伝票の筆跡が酷似しており、差出人の所在地が実在せず、電話番号も未使用であったことが共通しており、甲宛の荷物と乙宛の荷物が同一内容であることが推認できます。これらの事情からすれば、乙宛の荷物には本件被疑事実に関連する証拠物が存在する蓋然性が高いといえ、被疑事実との関連性を肯定することができるでしょう。

⑵ 捜査②の適法性
 ア 捜索差押え許可状に基づく捜索としての適法性
 捜査①と同様、令状に基づく捜索が適法といえるためには、前記②の問題点(=捜索対象物に令状の効力が及ぶか)と③の問題点(=捜索対象物に被疑事実に関連する物が存在する蓋然性が認められるか)をクリアすることが必要となります。
 この点、捜索対象は乙がT社の従業員として個人的に使用していると考えられるロッカーであるところ、乙の個人的な管理権に属すると考えるか、T社の管理権が及んでいると考えるかで結論が変わってきます。捜査①と検討が重複する部分が多いので、詳細は割愛しますが、問題文の事実を丁寧に当てはめることが必要です。

 次に、ロッカー内に証拠物が存在する蓋然性についてですが、この点いついては捜査①により乙宛の荷物から覚醒剤が発見され、乙が甲の共犯者であることが確定的となったことは見落とすことができません。このように、捜査の適法性を論じる際には捜査の流れを念頭に置き、乙に対する被疑事実の嫌疑が徐々に高まっていることを意識して当てはめることができれば良いでしょう。その他の事情は捜査①と重複するのでここでは割愛します。

 イ 現行犯逮捕に伴う捜索(220条1項2号)としての適法性
 無令状捜索差押えが認められている趣旨は、逮捕現場には証拠が存在する蓋然性が高いことが挙げられます(相当説)。かかる趣旨から、「逮捕する場合」とは、逮捕との時間的接着性は要するが、逮捕の先後で証拠存在の蓋然性に変わりはない以上、逮捕との先後関係は問わないと解されています。また、「逮捕の現場」とは、仮に令状が発付された場合に捜索が認められる範囲、すなわち管理処分権の同一性が認められる範囲をいうと解されています。本件では、特に「逮捕の現場」該当性が問題となります。
 乙のロッカーがある更衣室はT社内であり、なおかつ、覚醒剤が発見された社長室の隣室です。したがって、T社の管理権が及んでいたと考えることができますから、「逮捕の現場」ということができるでしょう。
 また、これまでの事情を総合すれば、ロッカーないに携帯電話等の証拠物が存在する蓋然性が高いといえ、被疑事実との関連性も肯定することができると思われます。

第6 最後に・・・要件を正確に理解できている受験生が少ない分野

 いかがでしたでしょうか。今回は、捜索・差押えについて扱っていきました。問われることが少ない分、要件を正確に理解できている受験生が少ない分野になります。この機会に正確な要件を把握し、具体的事例においてどの要件のどの部分が問題となっているかを適切に指摘できるよう準備しておきましょう。本記事が少しでも皆様の学習に役立つと幸いです。

 今回もBEXA記事「たまっち先生の論文試験の合格答案レクチャー」をお読みくださり、誠にありがとうございます。
 今回は
平成27年司法試験の刑事訴訟法から「捜索・差押え​」合格答案のこつ について解説いたしました。次回以降も、たまっち先生がどのような点に気をつけて答案を書けば合格答案を書くことができるようになるかについて連載してまいります。ご期待ください。

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2022年10月2日   たまっち先生 

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