こんにちは、たまっち先生です。
今回扱うのは、伝聞法則です。第12回の記事で扱った平成27年司法試験の続きとなりますが、違法な捜査に収集された証拠が供述証拠である場合には、違法収集証拠排除法則によって証拠能力が排除されないときであっても、別途伝聞証拠として証拠能力が否定されないかを論じる必要があります。そのため、今回は平成27年司法試験の記事の後半として、伝聞法則について扱いと思います。
B E X Aの考える合格答案までのステップとの関連性では、「5、基本的事例問題が書ける」との関連性が強いと思います。
伝聞法則は、司法試験では2〜3年に一度は問われるほど頻出論点であり、難易度も様々ですが、本問は基本的な問題に該当するといえるでしょう。もっとも、伝聞法則を解くには、受験生自らが要証事実を導き出し、当該要証事実との関係で供述証拠の内容の真実性が問題となるかどうかを分析する必要があるので、トレーニングを積んでいなければ足下をすくわれかねません。そのため、本問のような基本的な事例を解いていく中で、伝聞法則の解法をマスターしていただきたいです。
では早速、A答案とC答案を2つを見比べてみましょう。
本件文書及び本件メモのような書面が伝聞証拠に該当するか否かを判断するに当たっては、要証事実との関係で書面の記載内容の真実性が問題となるか否かを検討する必要があります。
具体的には、本件文書と本件メモを乙と丙との共謀を立証するための証拠として用いる場合に、各証拠によってどのような事実を立証しようとしているのかを具体的に考察し(要証事実)、その事実を立証するためには各書面に記載された記載内容が真実である必要があるかどうかを見極める必要がありました(採点実感も同旨)。
設問には、「想定される具体的な要証事実を検討して」と指示がありましがが、その意味は事例中に記載されている「乙と丙との共謀を立証するため」という検察官の証拠調べ請求の狙いを前提として、本件文書及び本件メモを用いて、乙と丙の本件詐欺に関する共謀を立証するために有用な間接事実を証明しようとすれば、それぞれどのような事実が想定されるのかを検討せよという意味です。
したがって、本件文書と本件メモは乙と丙の共謀そのものを示す直接証拠ではない以上、本件文書及び本件メモの要証事実は、検察官の立証趣旨通りに「乙と丙の共謀」とはならない点には注意する必要があります。
以上を前提としつつ、A答案とC答案を見てみましょう。
A答案は、「本件において検察官Rは乙丙間の共謀を立証しようとしている。
そこで、本件文書の存在と内容を立証することで乙丙間の謀議行為を推認し、そこから乙丙間の共謀を推認することができないか。本件文書の内容は本件振り込め詐欺事件に関する電話の内容と一致している。そして、本件文書には乙の筆跡でV方の電話番号が書かれている上、丙の指紋が検出されているため、乙も丙も上記内容が記載された本件文書を手にしたことがあるといえる。
そうすると、以上の事実及び本件文書の存在自体から、本件振り込め詐欺事件に関して乙丙間で謀議行為ひいては共謀があったと合理的に推認できる。」と論述を展開しています。適切に要証事実を設定した上で、かかる要証事実が乙と丙との間の共謀を推認する過程にまで言及できていたことから高く評価されたといえるでしょう。
これに対して、C答案についても、本件文書が非伝聞であることについては気づけているものの、推認過程を書きすぎているように思います。A答案のように、本件文書には本件詐欺の欺罔行為と一致する内容が記載されていること、及び本件文書には乙と丙が触れたことがあること、の2つからすれば、本件文書の存在自体が乙と丙の間に本件詐欺に関する共謀があったのではないかと推認することが可能になるので、その点を簡潔に指摘した方が採点官には伝わりやすかったように思います。
このことから、多く論述すれば良いというわけではなく、ポイントを押さえて最低限の論述をすることが高得点を取る上では必須となっていると分析することができるでしょう。
⑶ 本件メモについて
まずA答案は、本件メモの内容が真実でなければ乙と丙の間の本件詐欺に関する共謀を立証するための証拠として無意味であることを踏まえ、本件メモの内容の真実性が問題となることから、本件メモは伝聞証拠に該当すると指摘できています。その際、要証事実を「乙と丙との共謀」と立証趣旨をそのまま指摘するのではなく、乙と丙の謀議行為それ自体と自分なりに要証事実を整理できていた点も採点者に好印象を与えたと考えられます。
その上で、伝聞例外として321条1項3号該当性に言及できており、その内容も概ね良好であったことから、得点の取りこぼしがない点も良かったと思います。
他方で、C答案はそもそも本件メモを非伝聞として整理してしまっています。
しかし、本件メモは本件文書とは異なり、乙と丙が触れたという客観的事実は認定できていないので、その存在自体から乙と丙の共謀があっただろうと推認することはできません。そのため、本件メモを本件乙と丙との共謀を推認するための証拠として用いるためには、本件メモの内容が真実であって初めて証拠としての価値を有するわけですので、要証事実たる乙と丙との謀議行為を立証する上でメモの内容の真実性が問題となるといえ、本件メモは伝聞証拠であることになります。
したがって、C答案の指摘は誤っており、加えて本件メモを非伝聞としてしまったことにより伝聞例外該当性の点数も落としてしまっていることになります。非常に勿体ないといえるでしょう。
検察官が証拠請求するもので、供述が含まれた書面には、その記載内容の意味が問題となる供述証拠として用いられる場合と、その書面の存在・記載自体が証拠としての価値を持つ非供述証拠として用いられる場合との2つの場合があります。
そして、伝聞法則の趣旨は、供述証拠は人の知覚・記憶・表現・叙述という供述過程を経るところ、その各過程に誤りが介在するおそれがあり、証人の法廷における供述であれば宣誓をした上で偽証の罪の警告があり、反対尋問による信用性チェックや供述態度の観察によって供述の真実性を確認することができますが、書面の供述証拠はそのようにして真実性を確認することができませんので、原則として証拠能力を否定するというものです。
このことからすれば、伝聞法則の趣旨が及ぶ場合にのみ伝聞証拠に当たると考えれば、上記の危険を排除できることになります。したがって、当該書面に伝聞法則の適用があるかは、要証事実との関係で決まり、要証事実との関係で供述内容の真実性が問題となる場合に伝聞法則の適用があるといえます。以上からすると、伝聞証拠とは、公判廷外の供述を内容とするもので、要証事実との関係で供述の内容の真実性が問題となるものをいうと整理できます。
当事者が証拠調べを請求する際には、立証趣旨を明示しなければならないとされています(刑事訴訟規則189条1項)。しかし、この立証趣旨はあくまで証拠請求をする当事者が(勝手に)設定したものに過ぎないので、裁判所は拘束されません。ここが立証趣旨と要証事実の違いを考える上でのポイントになります。
以上を前提にすると、裁判所が証拠上認定できると考える事実が要証事実であり、検察官または被告人の一方当事者が設定するのが立証趣旨であると整理することができます。
例えば、検察官が領収書の証拠調べ請求をした場合を考えてみましょう。検察官の立証趣旨には「領収書の存在」と記載されていたとしても、結局のところは、領収書に書かれている金額を受け取ったという事実を立証するために使わなければ、証拠として意味をなしません。したがって、この場合の要証事実は、「領収書に記載されている金額を受け取ったという事実」ということになるわけです。
本件文書は、パソコンで作成されたマニュアルであり、右上には乙の手書きによる電話番号が記載されており、これはV方の電話番号と一致していました。そして、本件文書から丙の指紋が検出されていました。
検察官Rは、丙と乙との詐欺の共謀を立証するために証拠調べを請求しており、本件文書から丙と乙との共謀を立証するためには、本件文書に記載された手口がVに対する欺罔行為と一致していること、本件文書はVに対する欺罔行為のマニュアルでありそれに丙が触れたことがあり、かつ、乙の手書きの文字の記載があることから、丙と乙とが本件文書を手にしたことがあるといえます。
そのことからすれば、本件文書の内容が真実であるかどうかは問題とはならず、本件文書の存在自体が乙丙間のVに対する詐欺の共謀の存在を推認することになります。したがって、本件文書は、非伝聞として証拠能力が認められることになります。このように、伝聞証拠か非伝聞証拠かを見分ける際には、当該供述証拠の内容が真実でないとしても、証拠としての価値を有するかどうかがポイントとなります。
4 本件メモに対する伝聞法則の適用の有無
⑴ 伝聞証拠該当性
本件メモには、乙の筆跡による手書きの文字で、丙から電話があった旨が記載されています。そして、本件メモには、丙から乙に電話で欺罔行為の内容を変更する指示があった旨が記載がされています。そして、本件メモは丙と乙とのVに対する詐欺の共謀を立証するために使われており、乙が丙から電話で本件メモに記載された内容通りの電話があったことがいえなければ証拠として無意味であることになります。なぜなら、本件メモ通りの電話でなかったとすれば、それは本件詐欺とは関係のないメモであり、その存在自体を立証したとしても、丙と乙との共謀を推認することはできないからです。
したがって、本件メモの要証事実は、丙から乙に対して本件メモ通りの指示があったことであり、本件メモに記載された内容の真実性が問題となりますので、本件メモは伝聞証拠といえることになります。
⑵ 伝聞例外該当性
丙の弁護人は本件メモの証拠請求に対して、不同意意見を述べていますので、同意書面(326条1項)として用いることはできません。そこで、乙の供述書として321条1項3号の要件に該当するかどうか問題となります。
321条1項3号の要件は、①供述不能、②必要不可欠性、③絶対的特信情況、④署名・押印、の4つです。
①の供述不能は、例示列挙と解されています。本件では、乙は供述拒否権を行使して供述を拒否しているので、供述不能要件を充足します。
②の必要不可欠性(「犯罪事実の存否の証明に欠くことができない」)とは、その供述を証拠とするか否かによって事実認定に著しい差異を生じさせる可能性がある場合とか、当該事案の解明に実質的に大きく役立つと考えられる場合をいうと解されています。本件では、乙と丙の共謀を推認する資料として、本件文書の他に本件メモしか存在しないので、本件メモの存否によって共謀の事実認定に著しい差異が生じると評価できるでしょう。
③の絶対的特信情況は、証拠能力の要件であることから、供述がされた際の外部的・付随的事情に基づいて判断されなければならないですが、副次的に外部的事情を推認する資料として、供述の内容自体を考慮することは許されると解されています。本件では、乙が丙との電話内容を聞き取ってそくじあるいは近接した時点で書き留めたものであれば、その時点でメモに虚偽の内容を記録するといった動機はないであろうため、特信情況も肯定することができます。
以上より、321条1項3号の要件を充足するので、本件メモは伝聞例外に該当し、例外的に証拠能力が認められるということができることになります。
いかがでしたでしょうか。今回は、伝聞法則を扱いました。
伝聞法則は出題頻度が高く、どの受験生もある程度の質の答案を作成してくる論点なので、書き負けないように入念な対策が必要です。証拠構造から要証事実を適切に分析し、適切な処理ができるように過去問検討を通してトレーニングを積んでおきましょう。
今回もBEXA記事「たまっち先生の論文試験の合格答案レクチャー」をお読みくださり、誠にありがとうございます。
今回は平成27年司法試験の刑事訴訟法から「伝聞法則」合格答案のこつ について解説いたしました。次回以降も、たまっち先生がどのような点に気をつけて答案を書けば合格答案を書くことができるようになるかについて連載してまいります。ご期待ください。
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