既判力  合格答案のこつ たまっち先生の 「論文試験の合格答案レクチャー」 第 15 回~平成25年 司法試験の民事訴訟法の設問4~

たまっち先生の
「論文試験の合格答案レクチャー
第 15回
「既判力」合格答案のこつ
平成25年司法試験の民事訴訟法 設問4

第1 はじめに 
   既判力は民事訴訟法の中でも超頻出かつ重要論点  

 こんにちは、たまっち先生です。
 今回は、既判力についてです。既判力は民事訴訟法の中でも超頻出かつ重要論点です。既判力と一言でいっても、主観的範囲、客観的範囲、時的限界、争点効・信義則による遮断、など様々な論点があり、非常に難解な分野です。本記事では、平成25年司法試験の設問4を題材として、既判力の考え方をレクチャーしていきたいと思います。

| 目次

第1 はじめに 
  既判力は民事訴訟法の中でも超頻出かつ重要論点

第2 B E X Aの考える合格答案までのステップとの関連性
  条文の趣旨、判例の趣旨を正確に理解した上で、自説を展開

第3 A答案とC答案の比較
  【A答案とC答案】
  【比較検討】
第4 平成25年司法試験 民事訴訟法 設問4の考え方
  【問題文及び設問】
  1 既判力
    ⑴ 既判力の意義
    ⑵ 既判力の正当化根拠(趣旨)
    ⑶ 既判力の作用
    ⑷ 既判力の客観的範囲(「主文に包含するもの」(114条1項)
    ⑸ 既判力の縮小
  2 本問についての検討
    ⑴ Hの主張
    ⑵ Gの主張
第5 最後に
  出題範囲が広いときこそ、原理・原則に立ち返った検討

第2 B E X Aの考える合格答案までのステップとの関連性
   条文の趣旨、判例の趣旨を正確に理解した上で、自説を展開

 B E X Aの考える合格答案までのステップとの関係では、「7、条文・判例の趣旨から考える」との関連が強いです。

 本問は、既判力の客観的範囲に関する問題です。
 114条1項では、「主文に包含するもの」に既判力が生じるとされていますが、そのような原則論を貫いた場合に不都合が生じたときには、判例は既判力以外の信義則等に根拠を求めて後訴の主張を遮断するという処理をしています。このような判例の立場を参考にして、既判力の縮小が認められないかを考えるのが本問のポイントといえます。条文の趣旨、判例の趣旨を正確に理解した上で、自説を展開することが求められます。

第3 A答案とC答案の比較検討

【A答案とC答案】

では早速、A答案とC答案を2つを見比べてみましょう。

A答案

C答案

1⑴既判力とは、確定判決の判決主文の判断に与えられる後訴に対する拘束力のことである。そして、裁判所の審理の弾力性の確保と、当事者の争点処分の自由の確保のため、既判力は判決主文に生じる(民事訴訟法114条1項)。したがって、既判力が作用するのは、①前訴と後訴の訴訟物が同一である場合、②後訴の訴訟物が前訴の訴訟物と先決関係にある場合、③後訴の訴訟物が前訴の訴訟物と矛盾関係にある場合である。
⑵ 判例の事案において、前訴の訴訟物は一部請求した部分である。そして、後訴の残部請求は、①前訴とは訴訟物が異なり、②先決関係にもなく、③矛盾関係にもないから、前訴の既判力は作用しない。しかし、前訴で債権の全部について審理判断されているのであるから、前訴で全部解決済みの事案であった。それゆえ、前訴と後訴で訴訟物は違えども、蒸返しを防ぐために、訴訟物を超える部分で信義則を働かせ、後訴を認めなかったと考える。
2⑴ 本件において、前訴でG の本訴請求は棄却されている以上、土地乙につきGは所有権を有していないことに既判力が生じている。そして、共有持分権に基づく所有権一部移転登記手続を求める後訴は、前訴と③矛盾関係にあるので、前訴の既判力が作用する事案である。
⑵ しかし、本件は、前訴の判決理由中の判断で、土地乙がFの遺産であることが確認されている。とすれば、Gは法定相続分に応じた共有持分権を有しているはずであり、前訴において共有持分権の限度で、一部認容するべき事案であった。このような一部認容判決は、訴訟物のレベルでも主張のレベルでも何ら問題ない。にもかかわらず、前訴は全部棄却しており、紛争が前訴において全部解決をみていない事案であるといえる。
ここで、結論の具体的妥当性を図るために、判例は、前訴で全部解決をしたがゆえに、訴訟物を超える範囲で信義則を働かせた。一方で、前訴で全部解決を図れなかったがゆえに、信義則を理由に訴訟物よりも狭い範囲で既判力を作用させてもよいと考える。
このように考えても、前訴で乙土地はFの遺産であることが判決理由中の判断で示されており、Hにも不意打ちとならない。また、そもそもGが後訴を提起したのは、前訴後もHが単独所有を主張しているからである。前訴における反訴請求の事案で、Hにも土地乙の明渡請求権がないことに既判力は生じている。もっとも、Hに所有権がないことは判決理由中の判断であるから、既判力が生じていない。それゆえに、H自身は、単独所有を主張することは既判力には反しないことになるが、かかるHの主張は明らかに妥当性に欠ける。
⑶ 以上の事情から、事案の解決の具体的妥当性を図るために、本件において、信義則を理由として、既判力の作用を訴訟物より狭い範囲に止めることも可能であると主張する。

1 前訴の本訴請求についての判決により、土地乙はGの所有でないことにつき既判力が生じているものの、信義則を理由とする遮断効の縮小が認められないか。
2 思うに、既判力とは確定判決の判断内容の後訴における通用性ないし拘束力をいう。
また、既判力の趣旨は、手続保障が充足されたことに対する自己責任と、紛争の蒸し返し防止である。そして、既判力が生じない場合であっても、紛争が解決されたと信頼する相手方の合理的期待を保護する必要がある場合は、紛争の蒸し返しを防止する必要があり、信義則上後訴の主張は封じられる。これに対し、紛争の蒸し返し防止を図る必要はない場合は、信義則を理由とする遮断効の縮小が認められると解する。
そして、紛争が解決したと当事者が合理的に期待する事情がなく、紛争解決の必要があると認められる場合は、相手方の紛争が解決されたとの信頼を保護する必要はなく、紛争の蒸し返し防止を図る必要はないといえる。
3⑴ 本件では、後訴においてGの本訴請求、Hの反訴請求のいずれも棄却されている。すなわち、土地乙についてのGの所有権確認及び所有権移転登記手続と、Hの明渡請求も認められていない。また、土地乙がGとHの共有であることも認められていない。
よって、紛争が解決したと当事者が期待する事情はないといえる。
⑵ また、その後のHは贈与によって土地乙の単独所有権を取得したと主張しており、H自身も紛争解決の必要性を求めているといえる。
⑶ 以上のことから、紛争が解決されたとのHの信頼を保護する必要はなく、紛争の蒸返し防止を図る必要はない。よって、信義則を理由とする遮断効の縮小が認められる。

【比較検討】

 A答案は、本件Gの後訴における主張には、既判力が作用するという原則論を指摘した上で、例外論として既判力の縮小について論じることができています。このように原則論から指摘することで既判力制度の理解を示すことができているといえます。他方で、C答案は、本件Gの主張が既判力が作用する場面であるかどうかを指摘できておらず、規範も定立することなく既判力の縮小について論じています。


 他方で、A答案、C答案に共通していえることですが、採点実感では「前訴でFからHへの贈与の事実が否定されているにもかかわらず、後訴についてHがなお贈与を主張して土地乙が自己の所有に属すると主張するのは信義則違反である」旨論じている答案を「問題文をよく読んでいない答案」と評しており、この点ではA答案とC答案のいずれも減点されたと考えられます。また、採点実感は続けて「Hは、Gによる土地乙についての共有持分権確認訴訟は土地乙についてのGの所有権確認請求を棄却した前訴確定判決の既判力に反すると主張しているのであって、問題文はこの主張が信義則違反であることの論証を求めているのである」と指摘しており、このような指摘からすれば、A答案もC答案も出題の意図から外れた記述になってしまっていると言えるでしょう。


 ただ、それでもA答案が高く評価されているのは、平成10年判決が信義則を用いて判決効の範囲を拡大した趣旨を踏まえつつ、平成10年判決の論理を参考に既判力の縮小が認められるための要件を定立できているからだと考えられます。既判力の縮小という議論を平成10年判決から考えるというのは現場思考であり、難易度も高かったと考えられますが、さすがの論述といえるでしょう。


 加えて、A答案は、当てはめの中で「このように考えても、前訴で乙土地はFの遺産であることが判決理由中の判断で示されており、Hにも不意打ちとならない。また、そもそもGが後訴を提起したのは、前訴後もHが単独所有を主張しているからである。前訴における反訴請求の事案で、Hにも土地乙の明渡請求権がないことに既判力は生じている。もっとも、Hに所有権がないことは判決理由中の判断であるから、既判力が生じていない。それゆえに、H自身は、単独所有を主張することは既判力には反しないことになるが、かかるHの主張は明らかに妥当性に欠ける。」と指摘しており、Hの態度に問題があることに着目した検討ができています。これはまさに本問の出題者が聞いている部分ですので、高く評価されたと考えられます。
 他方で、C答案は、「・・・Hは贈与によって土地乙の単独所有権を取得したと主張しており、H自身も紛争解決の必要性を求めているといえる。」との指摘にとどまっており、Hの後訴での態度に問題があることには全く気づけていません。そのため、出題の意図には沿わない論述にとどまっています。

 このような点から、A答案とC答案には大きな差が生じたと分析することができます。

第4 平成25年司法試験 民事訴訟法 設問4の考え方

【問題文及び設問】
平成25年 司法試験の民事訴訟法の設問4を読みたい方は、⇩⇩をクリック

https://www.moj.go.jp/content/000111058.pdf
1 既判力
⑴ 既判力の意義

既判力とは、確定判決の判断内容の後訴での通用力ないし拘束力をいいます。

⑵ 既判力の正当化根拠(趣旨)

既判力の正当化根拠は、紛争の一回的解決及び前訴で手続保障が与えられたことによる自己責任であるとされます。

⑶ 既判力の作用

 既判力の作用は、①当事者は既判力の生じた判断を争うことは許されず、後訴裁判所はこれを争う当事者の申立てや主張・抗弁を排斥しなければならないという消極的作用と、②裁判所は既判力で確定された判断に拘束され、これを前提として後訴の判断をしなければならないという積極的作用の2つから成り立っています。

 なお、既判力は、具体的には以下の3場面で作用します。

 ① 前訴と後訴の訴訟物が同一である場合
(ex.ある土地の所有権確認訴訟において敗訴した原告が、再び同一土地の所有権確認訴訟を提起した場合)

 ② 後訴の訴訟物が前訴の訴訟物と先決関係にある場合
(ex.ある建物の所有権確認請求訴訟において勝訴した原告が、同一の被告に対して、所有権に基づいて当該建物の明渡請求の後訴を提起した場合)。

 ③ 後訴の訴訟物が前訴の訴訟物と矛盾関係にある場合
(ex.ある土地がXの所有であることを確認する前訴判決の確定後に、前訴の被告であったYが同一土地についてのYの所有権確認を求めて後訴を提起した場合)。

⑷ 既判力の客観的範囲(「主文に包含するもの」(114条1項))

 114条1項によれば、既判力は「主文に包含するもの」に限って生じるものとされます。本案判決の場合には、「主文に包含するもの」とは、訴訟物たる権利義務関係の存否についての判断を意味します。

 これに対して、判決理由中の判断、言い換えれば、訴訟物たる権利義務関係の存否の前提となる先決的法律関係や攻撃防御方法についての判断については、原則として既判力は生じません。例えば、所有権に基づく建物明渡請求訴訟における請求認容判決の既判力は、原告が被告に対して当該建物明渡請求権を有することを確定するにとどまり、原告がその建物の所有権を有することまでを確定するわけではありません。

   ⑸ 既判力の縮小

 既判力の正当化根拠は、紛争の一回的解決及び前訴で手続保障が与えられたことによる自己責任であることからすれば、前訴で十分な手続保障が及んでいないと評価できる場合には、既判力を及ぼす根拠を欠くわけですから、既判力の範囲を縮小できるのではないかと考えることができます。

2 本問についての検討
   ⑴ Hの主張

 Hは、前訴の本訴請求についての判決により、土地乙はGの所有でないことについて既判力が生じているから、Gは相続による土地乙の共有持分権の取得を主張することができないと主張しています。この点、前訴判決の本訴請求については棄却判決がされていますから、Gが土地乙の所有権を有しないことについて既判力が発生しています。したがって、裁判所はGが土地乙の所有権を有しないことを前提として(既判力の積極的作用)、前訴判決で示された判断に反する主張・抗弁を排斥しなければなりません(既判力の消極的作用)。
 そして、前訴の訴訟物はGの土地乙の所有権及び土地乙の所有権移転登記手続請求権であるのに対して、後訴の訴訟物は土地乙の共有持分権に基づく所有権一部移転登記手続請求権です。土地乙の移転登記手続請求権に関して、全部登記と一部登記とでは、重なる限度において訴訟物が同一であるといえます。同時に、移転登記手続請求権は、土地の所有権を前提とするものであるところ、前訴で先決関係たる土地乙の所有権の不存在が確定されれば、後訴においても移転登記手続請求権の前提要件たる土地乙の共有持分権の不存在が確定されますから、Gの相続による土地乙に関する共有持分権の取得の主張は、上記前訴確定判決の既判力に抵触して許されないことになります。

   ⑵ Gの主張

 ア  Gとしては、既判力によっては妨げられない訴えを信義則に基づいて却下した最判昭和51年9月30日(以下、昭和51年判決、といいます。)、最判平成10年6月12日(以下、平成10年判決、といいます。)と関連付けた上で、Hの後訴での態度には問題があるとして、Hの主張を排斥することが考えられます。

 イ  昭和51年判決も、平成10年判決も、既判力の範囲は、訴訟物に限定されるという原則論を守った上で、信義則を用いることで判決の効力を訴訟物以外の理由中判断にまで拡張していると整理することが可能です。そこで、信義則を理由として訴訟物の範囲以上に蒸し返しを禁じることができるのであれば(既判力の拡張)、逆に考えて、信義則を理由として既判力の作用を訴訟物よりも狭い範囲に止めることも認められるのではないかと考えることができます(既判力の縮小)

 ウ  平成10年判決は、信義則により後訴を遮断する根拠として、①実質的に前訴を蒸し返すものであること、かつ、②被告の合理的期待に反すること、を理由としています。したがって、後訴におけるHの主張が①②を満たす場合には、既判力を縮小してHの主張を遮断することができます。

 エ  本問においてGは前訴では、G J売買による単独所有を主張するのみで、相続による共有持分を有する旨の主張はしていませんでした。
単独所有権と相続に基づく共有持分権が実体的に包含関係にあるならば、本来Gの本訴請求は相続分に応じた共有持分権の限度で一部認容されるべきだったといえます。そのため、裁判所としては、それに必要な請求原因事実が当事者から主張・立証されていないときは、適切に釈明権を行使してGの主張・立証を促し、Gの請求を一部認容すべきであるかどうかについて審理判断すべきだったといえるでしょう。そうだとすれば、Gが後訴で共有持分権を主張したとしても紛争の蒸し返しには該当しないということができます。

 これに対して、前訴でHは、反訴請求原因事実としてJ F売買・F H売買を主張し、裁判所は前者を認め後者を否定しているため、前訴判決には土地乙がFの遺産であるとの裁判所の判断が示されています。それにもかかわらず、Hは前訴では認められなかった単独所有を主張しています。このような事情からすれば、紛争の蒸し返しをしているのはむしろHであって、Hの主張はHの単独所有が認められないことについて期待を抱いているGの合理的な期待を蒸し返すものですから、信義則に反することになります。

 以上より、Gの土地乙の所有権確認訴訟を全部棄却した確定判決の既判力は、後訴におけるGの共有持分権を有する旨の主張を遮断しない限度で縮小されることになります。

第5 最後に
   出題範囲が広いときこそ、原理・原則に立ち返った検討

 いかがでしたでしょうか。今回は、既判力について扱いましたが、既判力は出題頻度が高く、重要論点であることは周知されていますが、捻り方によっては問題が無限に作成できるため、対策が難しいです。ですが、そのような出題範囲が広いときこそ、原理・原則に立ち返った検討ができているかという点が非常に重要です。
 本記事を通して、受験生の皆様の既判力に対する理解が少しでも深まれば幸いです。

 今回もBEXA記事「たまっち先生の論文試験の合格答案レクチャー」をお読みくださり、誠にありがとうございます。
 今回は
平成25年司法試験の民事訴訟法から「既判力」合格答案のこつ について解説いたしました。次回以降も、たまっち先生がどのような点に気をつけて答案を書けば合格答案を書くことができるようになるかについて連載してまいります。ご期待ください。

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2022年9月9日   たまっち先生 

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