こんにちは、たまっち先生です。
第5回となる今回は、行政法の超重要論点である処分性について、合格答案と不合格答案を比較検討した上で、受験生の皆様が答案作成の際に気をつけるべき点をレクチャーしていきたいと思います。
前回の原告適格に引き続き、行政法の超重要論点です。令和2年度の予備試験及び司法試験、令和3年度司法試験で出題されており、受験生の関心の高い分野だと思います。頻出分野であるからこそ、どの受験生もある程度の対策をしてきますので、書き負けないことが非常に大切です。本記事を通して、処分性のどの点に気をつけて論述を展開すれば、高得点が得られるのかを学んでいただきたいと思います。
上記の通り、処分性は行政法の中でも超重要論点かつ頻出論点です。本記事で扱う問題として、司法試験の過去問も考えましたが、近年の司法試験における処分性の問われ方は、これまでの問われ方とは若干変化しており、解答するのが非常に難しくなっています。このような応用問題は基礎が備わっていないと解答するのは困難であることは言うまでもありません。そのため、まずは、オーソドックスな問題を題材とすることで、処分性の基本的な書き方をマスターしていただこうと考え、平成23年度の予備試験を題材とすることにしました。オーソドックスな問題とはいえ、個別法の丁寧な解釈が求められている良問ですので、受験生の皆様が処分性の論述の演習をする際にはうってつけの問題といえます。
なお、平成23年度の予備試験を解いたことのない受験生の方は、ぜひ一度ご自身の力で起案した上で、復習がてら本記事を読んでいただけると、処分性に対する理解がより一層深まるかと思います。
本記事は、B E X Aの考える「合格答案までのステップ」との関係では、「7、条文・判例の趣旨から考える」との相関性が強いと思います。
本件不同意決定のような事実行為は平成7年判決のように処分性が否定されるのが一般的です。そのため、平成7年判決の理解をまずは答案に示す必要があります。判例をそもそも知らなければ、この時点で、他の受験生よりも相対的に低い評価にとどまってしまう危険がありますので、判例の理解は重要だとわかります。
次に、本件不同意決定に続く後続処分にはどのようなものがあるかについて個別法を解釈した上で、平成20年判決の射程が本問にまで及ぶかを検討する必要があります。これに関しては、判例の理解のみならず、条文を正確に理解することも求められているといえます。
処分性に関するリーディングケースは、最判昭和39年10月29日です。
同判決は、
としています。
これは、行政事件訴訟法特例法時代の判例ですが、現在に至るまで処分性の定義とされています。受験生の皆様は、この定義は絶対に暗記してください。
処分性の上記の定義は、以下の要素に分析することができます。4要件で考える立場と2要件で考える立場がありますが、私は問題によって使い分けていましたので、いずれの立場を選択してもらっても構わないと思います。
4要件で考える立場は、処分性の要件を①公権力性、②法的効果性、③外部性(直接性)、④成熟性(個別具体性)、に分けて検討することになります。他方で、2要件で考える立場は、①公権力性、②直接的かつ個別具体的な法的効果性、に分けて検討することになります。これを見てもおわかりいただけるように、検討する要件自体に一切差はありません。
論証例としては、以下の通りです。
【問題文及び設問】
平成23年予備試験問題は⇩⇩をクリック
https://www.moj.go.jp/content/000077123.pdf
平成23年度予備試験で問題となっているのは、乙町モーテル類似旅館規制条例(以下、「本件条例」といいます。)3条に基づく本件不同意決定の処分性です。条文を見てみますと、本件条例3条には、「モーテル類似旅館を経営する目的をもって、モーテル類似旅館の新築等(改築によりモーテル類似旅館に該当することとなる場合を含む。以下同じ)をしようとする者(以下「建築主」という)は、あらかじめ町長に申請書を提出し、同意を得なければならない)とされていますので、Aが工事を行う場合には、乙町長の同意を得る必要があることになります。そこで、問題は、Aが乙町長の同意を得なかった場合にAにはどのような法的効果が生じるのかという点です。
本問は、本件条例における不同意決定が問題となっていますが、類似判例として、都市計画法上の開発許可申請に対する公共施設管理者の同意が問題となった判例があります(最判平成7年3月23日、以下「平成7年判決」といいます)。
都市計画法上の開発許可申請に対して公共施設管理者が同意を拒否した行為について、
「この同意が得られなければ、公共施設に影響を与える開発行為を適法に行うことはできないが、これは、法が・・・(開発行為の法33条1項各号適合性と申請手続の法令適合性といった)要件を満たす場合に限ってこのような開発行為を行うことを認めた結果にほかならないのであって、右の同意を拒否する行為それ自体は、開発行為を禁止又は制限する効果をもつものとはいえない。したがって、開発行為を行おうとする者が、右の同意を得ることができず、開発行為を行うことができなくなったとしても、その権利ないし法的地位が侵害されたものとはいえないから、右の同意を拒否する行為が、国民の権利ないし法律上の地位に直接影響を及ぼすものであると解することはできない。」
として、同意を拒否する行為それ自体は、申請者の権利ないし法的地位を侵害することがないことを理由に、処分性を否定しました。
したがって、本問を解答する上では、平成7年判決の理解が出発点となります。ですが、平成23年度予備試験の設問1を見てみると、本件不同意決定は、抗告訴訟の対象たる処分(以下、「処分」という。)に当たるか。Aが乙町長の同意を得ないで工事を開始した場合に本件条例に基づいて受けるおそれがある措置及びその法的性格を踏まえて、解答しなさい。」と本件不同意決定のみを検討するのではなくて、Aが不同意決定を無視して工事を開始してしまった場合に、その後に行われることになる措置やその法的性格を踏まえつつ、それらを加味した上での本件不同意決定の処分性が問われている、ということが分かります。したがって、平成7年判決にしたがって、簡単に処分性を否定してしまう答案は本設問との関係では高い評価を受けられないことが分かります。
そこで、続いて本件不同意決定に無視した場合に考えうる措置について見ていく必要があります。ここからが本設問で高評価を得るためのポイントになってきます。
本件条例の規定を丁寧に見ますと、Aが乙町長の同意を得ないまま工事を行った場合に、Aが乙町長から受ける措置として考えられるものは3つあります。
まずは、工事の中止の勧告です(本件条例7条1号)。次に、工事の中止命令です(同号)。そして、最後に、公表です(本件条例8条本文)。
このうち中止命令に関しては、命令という文言からもお分かりいただけるように、Aに対して工事を継続してはならないという法的義務を課すものですので、処分性を肯定することが可能だと思われます(罰則がないことを強調すれば、処分性を否定する余地もありますが)。他方で、中止勧告や公表は、上記で検討した都市計画法上の同意拒否行為と同様に、あくまで事実上の行為に過ぎないという理由から処分性が否定されるのが一般的な理解かと思います。
これらの検討からすれば、本件不同意決定の処分性を検討する上でポイントとなるのは、本件不同意決定とそれに続く工事の中止命令との関係にあることが分かります。
これを考えるにあたっては、参考にすべき判例があります。それは、土地区画整理事業計画決定の処分性が問題となった最大判平成20年9月10日(以下、「平成20年判決」という。)です。
平成20年判決は、都市区画整理事業計画決定について、
「土地区画整理事業の事業計画の決定の公告がされると、換地処分の公告がある日まで、施行地区内において、土地区画整理事業の施行の障害となるおそれがある土地の形質の変更若しくは建造物その他の工作物の新築、改築若しくは増築を行い、又は政令で定める移動の容易でない物件の設置若しくはたい積を行おうとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならず(法76条1項)、これに違反した者がある場合には、都道府県知事は、当該違反者又はその承継者に対し、当該土地の原状回復等を命ずることができ(同条4項)、この命令に違反した者に対しては刑罰が科される(法140条)。
施行地区内の土地所有者は、事業計画の決定がされることによって、前記のような規制を伴う土地区画整理事業の手続に従って換地処分を受けるべき地位に立たされるものということができ、その意味で、その法的地位に直接的な影響が生ずるものというべきであり、事業計画の決定に伴う法的効果が一般的、抽象的なものにすぎないということはできない。」と法的効果性について指摘した上で、
「もとより、換地処分を受けた宅地所有者等やその前に仮換地の指定を受けた宅地所有者等は、当該換地処分等を対象として取消訴訟を提起することができるが、換地処分等がされた段階では、実際上、既に工事等も進ちょくし、換地計画でも具体的に定められるなどしており、その時点で事業計画の違法を理由として当該換地処分等を取り消した場合には、事業全体に著しい混乱をもたらすことになりかねない。それゆえ、換地処分等の取消訴訟において、宅地所有者等が事業計画の違法を主張し、その主張が認められたとしても、当該換地処分等を取り消すことは公共の福祉に適合しないとして事情判決(行政事件訴訟法31条1項)がされる可能性が相当程度あるのであり、換地処分等がされた段階でこれを対象として取消訴訟を提起することができるとしても、宅地所有者等の被る権利侵害に対する救済が十分に果たされるとはいい難い。そうすると、事業計画の適否が争われる場合、実効的な権利救済を図るためには、事業計画の決定がされた段階で、これを対象とした取消訴訟の提起を認めることに合理性があるというべきである。」と実効的な権利救済という点にも着目することで、結果として、土地区画整理事業計画決定の処分性を肯定しました。
このように平成20年判決は、事業計画決定の段階で換地処分を受けるべき地位に立たされるということができ、その意味で、その法的地位に直接的な影響が生じること、及び換地処分段階で取消訴訟を提起しても事情判決がされる可能性が相当程度認められることから、実効的な権利救済を図るためには、事業計画決定の段階で取消訴訟を提起する必要があること、を理由として、事業計画決定の処分性を肯定したのです。
平成20年判決を参考に本問を考えると、以下のような場合には本件不同意決定に処分性が認められることになります。すなわち、①本件不同意決定の段階で、特段の事情のない限り工事中止命令が発せられるのが確実であること、②中止命令に対する取消訴訟を行ったとしても、Aの実効的な権利救済が期待できない事情があること、が認められる場合には、本件不同意決定段階で、Aは本件工事の中止命令を受けるべき地位に立たされていると評価でき、本件不同意決定に処分性を肯定することができるわけです。
設問1はまさに上記に指摘したような本件不同意決定とその後に控えている中止命令との関係を踏まえた検討を求めていますので、上記の流れで検討できれば、高得点が得られることになるでしょう。
【①本件不同意決定の段階で、特段の事情のない限り、本件工事中止命令が発せられるのが確実であるといえるか】
本件条例7条1号をみると、本件条例3条の同意を得ずにモーテルの新築等の工事を行った場合には、「・・・中止の勧告又は命令をすることができる」と規定しています。このように、本件条例7条が「することができる」と行政庁に一定の判断の余地を認めており、しかも行政庁は中止命令以外にも中止の勧告をすることができるわけです。また、モーテルの新築等を認めるかどうかは、工事を行う区域の周辺の生活環境を考慮しながら判断する必要があり、行政庁の専門的な判断が要求される事項だといえます。したがって、本件条例7条の中止命令は裁量処分に該当するということができます。そうすると、本件不同意決定がされたとしても、Aが工事の中止命令を受けるべき地位に立っているとは評価できず、事後的な中止命令の存在を考慮しても、本件不同意決定段階で法的効果性を認めることは困難でしょう。
【②中止命令に対して取消訴訟を提起しても、Aの実効的な権利救済を期待できない事情があるか】
中止命令に対する取消訴訟を提起しても、Aの実効的な権利救済が期待できないかを考えてみますと、平成20年判決が換地処分に対して取消訴訟を提起しても実効的な権利救済ができないとしたのは、換地処分の性質上、原告の換地だけを元に戻すことはできず、施行区域全体を元に戻さざるを得ないことから、換地処分を取り消することは公共の福祉に適合しないとして事情判決がされる可能性が高かったことになります。他方で、本問では工事の中止命令が発せられるのはA一人であり、他者の権利は問題となりません。そのため、中止命令が出された段階で取消訴訟を行っても、事情判決が出される危険はないといえます。
したがって、中止命令に対して取消訴訟を提起しても、Aの実効的な権利救済を期待できない事情はないことになります。
【結論】
以上の検討からすれば、平成20年判決の射程は及ばず、かかる判例の論理は、本件不同意決定には妥当しないことになります。
したがって、本件不同意決定に続く本件工事の中止命令との関係を考慮しても、本件不同意決定には法的効果性が認められず、実効的な権利救済の点からも問題がないことからすれば、本件不同意決定の処分性は否定されることになります。
それでは、最後にA答案とC答案の実際の論述を比較した上で、どのような点に気を付けて論述をすれば高得点が得られるのかを一緒に検討していきましょう。
【検討】
⑴ まず、A答案もC答案もリーディングケースである昭和39年判決を踏まえた規範を定立することができています。この点については両答案に差はないでしょう。
⑵ 次に、検討要素の分析ですが、A答案は特に検討要素を示していないのに対して、C答案は2要件説っぽい立場に立ちつつも、実効的な権利救済まで要件に含んだ3要件説に立っていることがわかります。実効的権利救済の必要性を要件に含むか否かは、判例上明らかではありませんが、学説の一般的な理解では、実効的権利救済の必要性はあくまで処分性の要件を検討する上での補強要素にとどまると考えられています。そのため、独立の要件として実効的権利救済の必要性を挙げる必要はないでしょう。
⑶ 当てはめ部分を見ていきましょう。まず、C答案もA答案も法的効果性が問題となる点は理解できているように思います。ですが、C答案の論述は、「しかし、命令に従わない場合には、相当の蓋然性をもって公表がなされることにより、事実上新築を続行することが困難になるといった具体的な不利益が建築主に生じると考えられる。」と指摘するにとどまり、なぜ命令に従わない場合に、相当の蓋然性をもって公表がなされるのかを指摘することができていません。他方で、A答案の論述では、「本件条例7条は「することができる」という文言から、Aが同意を得ずに工事を行ったとしても、中止命令が確実に発せられるとは限らない。また、中止勧告という中止命令に比して強度の弱い手段が用意されていることから、本件不同意決定がされた時点でAが中止命令を受ける蓋然性が高いとはいえない。」とされており、後続処分である中止命令が確実に発せられるとは限らないことや勧告と中止命令が選択裁量にあることを指摘できています。その上で、A答案は平成20年判決を意識して「Aが工事の中止命令を受けるべき地位」というワードを出せており、判例を意識した答案であることをアピールできています。このような点から、両答案は内容面で評価に差がついたといえるでしょう。
なお、A答案についても、実効的な権利救済の必要性には触れられておらず、平成20年判決の理解をもう少し丁寧に指摘できていれば、さらに高得点が狙えたと考えられます。
いかがでしたでしょうか。今回は前回の原告適格に続いて行政法の超重要論点である処分性について扱っていきました。
いずれも超重要論点で受験生の皆様は規範は正確に暗記していると思いますが、これらの重要論点は規範段階よりも当てはめ段階で勝負が決まる分野です。そのため、判例の理解をどのような形で答案に落とし込んでいくかという点を理解できているかどうかが重要になってきます。
本記事を通して、そのような点に対する理解が少しでも深まれば幸いです。
今回もBEXA記事「たまっち先生の論文試験の合格答案レクチャー」をお読みくださり、誠にありがとうございます。
今回は「平成23年 予備試験 行政法 処分性」について解説いたしました。次回以降も、たまっち先生がどのような点に気をつけて答案を書けば合格答案を書くことができるようになるかについて連載してまいります。ご期待ください。
2022年5月29日 たまっち先生
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