令和8年(2026年)予備試験論文を、剛力大・荒井たかふみの両講師がYouTubeで解説。
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① 刑法|答案で差がつくポイント
今年の刑法は、検討すべき論点自体は不能犯・共犯・死者の占有と見慣れたAランク論点です。そのぶん、構成の組み方や、問題文の事実をどこまで拾って評価できるかで差がつきやすい問題だと考えられます。
不能犯は「看護師の経験」と「体が温かかった」を拾えるかで差がつく
事案は、甲と乙がAの殺害を共謀し、乙が先にナイフで刺し、甲が続いて包丁でとどめを刺したというものです。ところがAは、その前に吐しゃ物を喉に詰まらせて死亡していました。乙は刺す前にAの死亡に気づきましたが、甲には告げていません。甲はAがまだ生きていると思って刺しています。
甲の刺突が不能犯かどうかを具体的危険説で判断する場合、「一般人がAの死亡を認識し得たか」をどう評価するかがポイントです。
- 乙が死亡に気づいたのは、寝息が聞こえないことに「看護師としての経験」から異変を感じ、脈や拍動を確かめたからです。専門知識がなければ気づけなかったと評価できます。
- 乙は甲に何も告げていません。
- 甲が触れたとき、Aの体はまだ温かかったとされています。
一般人にAの死亡が認識できたかを論じるには、この3点に着目することが重要です。
共犯関係は各人の検討の後に「外出し」し、「共謀に基づく実行」で切ると書きやすい
甲と乙の行為はそれぞれ1つずつです。そこで、甲(殺人未遂)、乙(死体損壊)の順に単独で検討し、最後に共犯関係をまとめて論じる構成がすっきりしやすいでしょう。不能犯を共同正犯の中で論じると入れ子構造になり、字数も膨らみがちです。
共謀と正犯意思は認めてかまいません。そのうえで、行為時点で甲は殺人、乙は死体損壊を実現しようとしていたことを指摘します。殺人罪と死体損壊罪は保護法益が異なり、構成要件の重なり合いが認められません。したがって「共謀に基づく実行」とはいえないとまとめると、論理が崩れにくくなります。
死者の占有は「誰が死因を作ったか」と「時間・場所の離れ」を書き分ける
設問2では、甲が死体から物を持ち去った場面が3つあります。共通する要件はまとめて認定し、争点である「死者の占有」に字数を集中させるのがコツです。殺人罪や死体遺棄罪は数行で済ませてかまいません。
- Aの腕時計:Aは甲の刺突とは無関係に死亡しています。甲は占有を失わせる原因を作っていないため、生前の占有は保護されません。窃盗罪ではなく、占有離脱物横領罪にとどまると説明できます。
- 乙の指輪:殺害の約1時間後、同じ車内で移動もしていません。殺害の日時・場所と取った日時・場所を具体的に比べて書けば、短く認めて十分です。
- 乙のネックレス:ここが最大の悩みどころです。殺害から1日後で、約50km離れたキャンプ場まで移動しているので、時間的・場所的な近接性は認めにくくなります。一方で、その間ずっと、他人が入れない車内で甲が死体を管理し続けていました。この「排他的支配」をどう評価するかが問われています。
ネックレスの結論はどちらでもかまいません。裁判例も分かれています。差が出やすいのは、自分の結論に不利な事情(肯定するなら1日・50kmの離れ、否定するなら車内での排他的支配)にもきちんと言及できているかどうかです。
以上のように、それぞれはAランクの事項ですが、事実の摘示と評価が適切にできているか、論述量が多いので最後まで書ききることができたか、制限字数内に収められたかどうかといった点で差が付きやすい問題です。
② 刑事訴訟法|答案で差がつくポイント
今年の刑事訴訟法は、捜査機関による2つの「秘密録音」の適法性が問われました。結論は多くの受験生で共通すると思われます。そのぶん、2つの録音の違いを意識できているかや、事実の評価の厚みで差がつきやすいと考えられます。
まず「会話の当事者による録音」と「第三者による秘聴」を区別する
- 下線部①の録音:警察官Pが甲方の捜索の際、胸ポケットのボイスレコーダーで、自分と甲との会話をひそかに録音しました。目的は、詐欺の犯人の声と甲の声を照合する声紋鑑定です。
- 下線部②の録音:Pは共犯者と疑われる乙のリュックに小型録音機をこっそり貼り付けました。乙が帰宅した午後7時頃に遠隔操作で録音を始め、翌午前3時頃まで、自宅内での乙と同居人丙との会話を録音しています。
前者は会話の一方当事者による録音、後者は会話の当事者でない者による録音(いわゆる秘聴・盗聴型)です。後述するように両者で力点を置くべき箇所が異なるので、この類型の違いを意識できたかどうかは差がつくポイントです。
下線部①の録音は、強制処分を否定した後の「任意捜査の相当性」で差がつく
最初に、なぜ強制処分該当性を論じるのかを一言書いておきます。強制処分に当たるなら「検証」に当たり、本問の場合は検証許可状がない以上は違法になるからです。
強制処分該当性は、相手に伝えた会話の秘密は相手方に委ねられる、という評価で比較的あっさり否定してかまいません。厚く書くべきなのは、その後の必要性と相当性です。
必要性は、視点を分けると書きやすくなります。
- 事件の性質:被害額1000万円の詐欺であり、SNSを使った同種被害が広がるおそれがあります。
- なぜ甲を捜査対象とするのか:SNSアカウントに甲の氏名・生年月日・住所が登録されていました。ただし、なりすましの可能性もあるという評価もあり得ます。
- なぜ録音なのか:被害者Vは犯人と直接会っていないので、顔では照合できません。一方、Vは犯人との通話を録音していたので、声紋鑑定で照合できます。
- 他の手段はないのか:警察官が耳で聞き比べる方法では、誤認のおそれがあります。
- 相当性は、会話の内容と場所を評価します。
- 内容:人定事項の確認や立会いの了承など、捜索手続上の受け答えにすぎず、秘匿性は低いといえます。
- 場所:問題文に明記はありませんが、甲方の中での会話とみられます。住居内でも、捜索差押許可状に基づいて警察官がすでに臨場している場面です。捜査機関に会話を聞かれないという合理的期待はない、と評価できます。
設問2との兼ね合いでは、「場所」まで掘り下げて評価することを求められている印象です(講師私見)。
下線部②の録音は「住居内の私的会話」を強調し、GPS判例との異同を示す
2つ目の録音は、会話の両当事者の承諾がありません。しかも、捜査官が臨場していない住居内での会話です。外部に聞かれないという合理的期待が強く、1つ目との違いをはっきり書いて強制処分と認定します。
そのうえで、令状主義違反なのか、強制処分法定主義違反なのかを、GPS捜査の判例と比べて論じることが期待されています。言い換えれば、本件のような録音が「検証」に当たるか、それとも「検証」ではとらえきれない性質を有しているのかを論じることが期待されます。
- 令状主義違反とする方向:録音は約8時間・1日未満で、数か月にわたって位置情報を把握したGPS事案ほど継続的・網羅的ではありません。取得するのも耳で聞ける音なので、検証の域を出ないと評価できます。
- 法定主義違反とする方向:事件と無関係な会話まで取得してしまうこと、令状を事前に示すことが想定できないことなど、GPS判例が挙げた問題点がここでも当てはまります。
結論はどちらでもかまいません。判例は「どんな事案で、何を理由にどう判断したか」というポイントを示せれば十分です。悩まずに「令状がないから違法」とだけ書く答案と、判例との異同を踏まえて悩みを示す答案とでは、評価に差が出やすいと考えられます。
③ 憲法|答案で差がつくポイント
今年の憲法は、子ども食堂への補助金を題材に、私的団体への公金支出、政治活動の制限、政教分離という3つの問題が問われました。それぞれの条文に結び付けて構成を決め、限られた時間・字数の中で、要綱や問題文の事情をどこまで評価できるかで差がつきやすい問題です。
私的団体への補助金は「公の支配」を要綱の仕組みから説明する
設問⑴では、まず憲法89条後段に気づけるかがポイントです。子ども食堂を運営する団体は自主的に組織・運営され、A市は活動への指示や人事への関与をしていません。それでも「公の支配」に属するといえるかを考えます。
公費濫用防止の趣旨から考えるなら、団体の活動全般を統制する必要はなく、公金が適正に使われるよう一定の監督が及んでいれば足りると説明できます。学説の対立を長く書くより、要綱の規定を具体的に使うことが大切です。
- 要綱4条・6条:事業計画書や収支予算書、事業報告書や決算書等の提出により、補助の必要性や使途を確認できます。
- 要綱7条:報告を求め、書類・帳簿等を検査できるので、不適切な支出がないか調べられます。
- 要綱9条:不正や目的外使用があれば、交付決定の取消しや返還命令ができます。
こうした仕組みから、公費の適正な使用に監督が及んでいると評価すれば、89条後段には反しないとまとめられます。条文を列挙するだけでなく、それぞれがどのように公費の濫用を防ぐのかまで書けるかが重要です。
政治活動の制限は「補助金を受けなければよい」で終わらせない
設問⑵では、候補者や政党の推薦・支持・反対を禁止する要綱8条1号と、表現の自由との関係が問題になります。違反しても刑罰を受けるわけではなく、補助金の取消し・返還の対象になるという仕組みです。そこで、そもそも表現活動の制約といえるのかを丁寧に説明します。
本件補助金の交付を通じて表現活動に影響を及ぼし、思想の自由市場をゆがめかねないという点から、間接的な制約を認める考え方があり得るでしょう。
そのうえで、次の事情を評価します。
- 禁止の対象:特定の政党だけを狙い撃ちする規定ではなく、あらゆる候補者・政治団体に対する推薦・支持・反対を一律に対象としています。行政が都合の悪い団体を恣意的に排除する危険をどう見るかがポイントです。
- A市の目的:市が候補者等を支援しているとの誤解を防ぎ、中立性・公平性を守るという説明には理由があります。一方、保護者の投票への影響という懸念が抽象的ではないか、という検討もできます。
- 制限の範囲:選挙期間中だけの禁止では足りないのかを検討します。有権者は選挙期間外にも情報を集めて投票先を考える、という反論も考えられます。
以上の事情から合憲の方向で検討していますが、違憲の結論もあり得ます。結論だけでなく、制約の態様を踏まえて審査の厳しさを考え、市の説明や代替手段に具体的に向き合えているかが差のつくところです。
政教分離は「宗教性を示す事情」と「それを弱める事情」を組み合わせる
設問⑶は、宗教法人B寺への補助金と、憲法20条1項後段・89条前段との関係です。
目的効果基準と総合考慮型の使い分けに紙幅を割くより、自分の枠組みに沿って事実を拾い、相当とされる限度を超える関わり合いかを評価することが重要です。
- 施設と食事:仏の教えや標語の掲示はありますが、一般的な集会施設で、食事も教義に沿ったものではありません。お祈りもない点を合わせて評価します。
- 宗教行事への参加:案内があり、利用する子どもや保護者の約半数が参加しています。ただし、檀家でなくても食堂を利用でき、行事への参加も利用条件ではありません。参加の事実だけから、信仰への誘導と決めつけないことが大切です。
- 補助の対象:同様に子ども食堂を運営するキリスト教の教会等も対象です。B寺や特定の宗派だけを援助していると一般人に受け取られるかを考えます。
宗教との関わりを示す事情にも触れたうえで、それを弱める事情を対応させると、政教分離に反しないという結論を説得的に説明できます。事実を並べるだけでなく、それぞれの事情がどのような意味を持つのかまで示すことが大切です。
④ 行政法|答案で差がつくポイント
今年の行政法は、都市計画道路の整備をめぐり、原告適格、都市計画決定の違法性、損失補償が問われました。問題文と参照条文の分量が多い一方、中心となるのは頻出の原告適格と裁量の問題です。検討の手順を固めておき、当事者の不満を条文に結び付けて事実を評価できるかが、差のつくポイントになります。
原告適格は「根拠条文→認可基準→保護される利益」の順にたどる
設問1は、事業地の外に住むEの立場から、事業認可の取消訴訟で原告適格を有することを主張する問題です。騒音がひどいから原告適格がある、とすぐに結論を出さず、その利益を法律が保護していることを条文から説明します。
- 都市計画法59条1項:本件の事業認可の根拠です。ここから検討を始めます。
- 同法61条1号:認可基準として、事業の内容が都市計画に適合することを求めています。
- 同法13条1項:都市計画の基準に進み、公害防止計画との適合や自然的環境への配慮、良好な都市環境の保持などから、騒音による被害を受けない利益の保護を読み取ります。
本問では、B市に公害防止計画が定められていない点に注意が必要です。計画が存在するかのように書かず、計画がある場合には適合を求めるという法の仕組み自体から、公害に配慮する趣旨を説明するのが良いでしょう。
次に、その利益が一般的な公益にとどまらず、個々人の利益としても保護されていることを論じます。騒音を繰り返し受ければ健康や生活環境への著しい被害につながり、事業地に近い人ほど被害が大きくなるという点を押さえます。
最後に、Eは新設道路と国道の交差点から北西に約10メートルの場所に住み、両方の道路から騒音を受けるおそれがあると当てはめます。小田急訴訟の判例を思い出すだけでなく、法が当該利益を一般的公益として保護しているか➡上記利益を個別的利益として保護しているか➡原告が個別的利益を有するか、の順に検討できるようにしておくことが大切です。
裁量は「広いから適法」で終わらせず、DとEの不満に答える
設問2は、都市計画決定が違法かどうかを、反対の立場にも言及して論じる問題です。都市計画法13条1項の基準には幅のある文言が使われ、土地利用や交通、将来の見通しなどを総合的に判断する必要があります。そこから広範な政策的裁量を認めたうえで、具体的な判断に逸脱・濫用がないかを検討します。
Dの不満は、C地区の歴史ある静穏な生活環境が失われることです。これに対し、次の事情を比較します。
- 道路整備の利益:医療センターと国道を最短で結び、救急搬送時間を短縮できます。単に便利になるだけでなく、住民の生命・健康にも関わる利益と評価できます。
- 迂回する場合の負担:工事区間が長くなり、収用対象の土地・建物も増えます。別の経路なら解決する、とだけ書くのでは不十分です。
- 保全の必要性:歴史のある地区ですが、法令上の保存地区には選定されていません。生活環境の価値を認めつつ、どの程度重く評価するかを示します。
Eの不満は、騒音被害と、計画案に防音措置がないことです。専門業者の調査では、防音壁を設置すれば昼夜とも環境基準を超えない見込みが示され、審議会も供用開始後の調査と必要な対策を求めています。
ただし、適法とするなら「調査済みだから問題ない」で終わらず、具体的な防音措置が計画に盛り込まれていない点にも触れ、反論する必要があります。
供用後の実際の騒音を調べて設置区間を決めることには合理性があり、計画段階で必要な配慮をしていると評価できます。
比例原則や考慮不尽のどちらから整理するにしても、結局は問題文の事実を使って判断の合理性を説明する必要があります。設問1と違って結論は指定されていないので、自分の結論に不利な事情への応答が重要です。
損失補償は「精神的損失まで含むか」を答える
設問3では、Dが補償金を受け取ることを前提に、住み慣れたC地区を離れる精神的損失も補償されるかが問われています。
まず、損失補償は、適法な公権力の行使によって財産上の特別の犠牲を受けた者に、公平の見地からその損失を補填する制度であると説明します。そのうえで、土地収用法88条の「通常受ける損失」に、Dの主張する精神的損失が含まれるかを考えます。
住み慣れた場所を離れるつらさは理解できますが、それ自体は財産上の損失ではなく、感じ方も人によって異なります。損失補償の趣旨から財産的損失を対象と捉え、精神的損失は含まれないと簡潔にまとめるのが良いでしょう。
見慣れない問いでも、設問が求める概念と条文の文言から考えることが大切です。原告適格と裁量の検討で時間・字数を使い切らず、最後の設問まで答え切れるかも問われています。
⑤ 民法|答案で差がつくポイント
今年の民法は、ビニールハウスの施工をめぐる保証と相続、詐欺取消し後の保証の範囲、登記のない通行地役権が問われました。見慣れない設問で考える力と、基本的な知識を使って確実に処理する力の両方が必要です。難しい論点に気を取られず、請求の根拠となる条文から順に説明し、問題文の事情を結論につなげられるかが差のつくポイントになります。
「自分で施工すること」と「業者を手配すること」を分けて考える
設問1⑴では、保証人Cの相続人であるDに対し、ビニールハウスを完成させるよう請求できるかが問われています。まず、AとCの連帯保証契約に基づく債務をDが相続した、という請求の出発点を、民法446条・454条、896条本文などに結び付けて示します。見慣れない問題だからこそ、この基本部分を省略しないことが大切です。
そのうえで、Cには施工の能力・経験があった一方、IT関係の企業に勤めるDには十分な能力・経験がない、という違いを評価します。Aが求めているのは、次の2通りの履行です。
- D自身による施工:Cと同じようにDも工事ができる、と当然に扱うことはできません。Dの能力・経験を踏まえ、履行不能による履行請求の制限を定める412条の2第1項などから検討します。
- Dが選んだ適切な業者による施工:D自身が工事をできなくても、業者を手配することまで不可能とは限りません。他方、施工の知識がないDに適切な業者を選べるのか、という問題もあります。
保証する債務の性質から考える構成や、相続後の履行不能から考える構成などがあり得ます。大切なのは、CとDの能力の違いをどう評価し、どこまでの履行を求められると考えたかです。「Dは素人だから無理」と一括りにせず、請求の内容を分けて筋を通せるかが問われています。
詐欺取消し後の返還義務まで保証するかを、保証契約の内容から考える
設問1⑵は、AがBとの請負契約を詐欺により取り消し、前払いした200万円の支払をDに求める問題です。詐欺取消しが認められることは設問の前提なので、96条1項の要件を論じる必要はありません。
取消しによってBが200万円の原状回復義務を負うことと、その義務までCの保証の範囲に含まれることは、分けて説明します。施工を内容とする債務と、契約の取消しによって生じる金銭返還義務は同じものではありません。「保証人なのだから払う」で済ませず、447条1項の保証債務の範囲と、保証契約の合理的な意思解釈につなげることがポイントです。
保証の目的を、請負契約に関してAが受ける不利益を担保することと捉えれば、特段の事情がない限り、取消し後の原状回復義務も保証の対象に含めると考えられます。
本問で一言触れたいのは、Cの施工能力・経験が考慮されていたという事情です。これはCによる施工を重視していたことを示しますが、それだけで金銭の返還義務を保証の対象から外す合意があったとまではいえません。CはBの資金事情と前払いを求めた目的も知っていました。こうした契約締結時の事情を踏まえ、200万円の返還義務も保証の範囲に含まれ、その債務を相続したDへの請求が認められると整理できます。設問1⑴で時間を使いすぎず、こちらは着実に答えたいところです。
通行地役権は、登記の有無だけでなく「通路の外形」と「買主の確認」を評価する
設問2では、FがHに対してフェンスの撤去を求めています。まず、地役権に基づく妨害排除請求であることを示し、Aが取得した地役権が、要役地である甲土地の譲渡に伴ってFに移転することを281条1項から説明します。
中心となるのは、地役権設定登記がないFが、承役地である乙土地を買ったHに地役権を主張できるかです。177条の原則を示したうえで、Hが登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者に当たるかを考えます。
通行地役権では、継続的に通路として使われていることが位置・形状・構造等から客観的に明らかで、買主がそれを認識し、又は認識できた場合、特段の事情がない限り、登記なしで対抗できるという判例の枠組みを使います。本問では、次の事情を対応させます。
- 通路の外形:Aが舗装などの整備をし、Fも通路として維持しながら頻繁に自動車で通行していました。
- Hの認識:Hは通路の存在に気づき、Gに駐車してよいか尋ね、Fが通行しているとの説明も受けています。
- Gの説明とHの確認:GはEから通行の約束を聞いていないと答えていますが、それは約束が存在しないことを確認した説明ではありません。Hは実際に通行しているFには問い合わせていません。
「Gに確認したからHは保護される」と直ちに結論づけず、何を、誰に確認したのかまで評価することが大切です。通行の実態を知るHがFに照会しなかった点を踏まえ、特段の事情を否定して、Fのフェンス撤去請求を認める方向で説明できます。
⑥ 商法|答案で差がつくポイント
今年の商法は、取締役の再任をめぐる株主総会での説明義務と、株主代表訴訟の手続が問われました。設問1は、会社法314条に気づくだけでは差がつきません。質問と回答の内容をそれぞれ評価し、必要な説明があったか、説明義務があるかを具体的に論じる問題です。一方、設問2は条文を押さえて簡潔に答えたいところです。事実を厚く評価する部分と、条文で処理する部分の配分が重要になります。
説明義務は「義務があるか」と「十分に説明したか」を分けて考える
設問1では、IがBの再任決議の取消しを求めています。訴えが適法に提起されたことは前提なので、出訴期間や原告適格に紙幅を使う必要はありません。314条の説明義務違反が、831条1項1号の決議の方法の法令違反に当たるかを検討します。
整理したいのは、そもそも説明義務を負う質問なのかという問題と、義務を負う場合に必要な説明をしたかという問題です。説明の十分さを先に検討してから、説明を拒める理由があるかを考える構成でもかまいません。この2つを混同しないことが大切です。
本問の3つの質問は、一括りにせず分けて評価します。
- 質問⑴・取引をした理由:遊休地を売却し、資金を事業拡大に使って資本効率を高めるという回答です。取引の目的は説明されており、必要な説明があったと評価できます。
- 質問⑵・具体的な代金額や交渉内容、相見積りの有無:数十件の取引について詳細を求めています。その場で答えるには調査が必要ではないか、という点が問題になります。
- 質問⑶・乙社が転売した際の代金額:「他社の事情だから本件株主総会に関係しない」で済むかが問題です。Bが甲社の不動産を乙社に安く買わせ、転売で利益を得ていたなら、Bを再任してよいかという判断に関わります。
質問⑵で引きたいのが、314条ただし書を受けた会社法施行規則71条1号です。説明のために調査を要する場合を定める一方、相当の期間前に株主が通知していた場合などは例外としています。問題文の「事前に通知していなかった」という一文を、ここで使います。取引の件数や質問の具体性も踏まえ、質問⑵については説明義務を負わないと考えられます。
質問⑶では、平均的な株主が議案について合理的に判断するために、客観的に必要な範囲の説明があったかを考えます。1円単位の転売額をすべて示す必要があるかと、転売益の有無やおおよその価格差を説明できるかは別です。Aには分からなくても、乙社の代表取締役でもあるBに答えさせる余地があります。質問⑵には「相場に照らして適正」と概括的な回答をしている点と比べても、質問⑶への応答を全面的に拒んだことは不十分と評価できます。
Bへの質問にAが答えたこと自体から、直ちに違法とはいえません。説明義務の趣旨は、株主が適切に議決権を行使するための情報を得られるようにすることです。誰が答えたかだけでなく、必要な情報が提供されたかまで検討し、説明義務違反と決議の取消しにつなげます。Bの資質という再任判断の核心に関わる説明なので、裁量棄却についても短く触れておきたいところです。
提訴請求は、宛先の誤りだけで終わらず「監査役が判断できたか」を見る
設問2⑴では、Iが取締役Aらの責任を追及するため、代表取締役A宛てに提訴請求書を送っています。ここでは、会社法386条2項1号に気づけるかが出発点です。甲社のような監査役設置会社では、この提訴請求を受ける場面で、監査役が会社を代表します。
取締役に対する責任追及を、その取締役側の判断だけに委ねると、会社と取締役との間で馴れ合いが生じるおそれがあります。監査役に判断させるのは、そのような事態を防ぐためです。
ただ、本問ではAが請求書を受け取った翌日に、監査役Fに渡して対応を求め、Fも提訴請求について検討しています。宛先がAだったという形式だけで不適法とするのではなく、実際には監査役が判断する機会を得ていたことを評価します。この趣旨が満たされている以上、宛先の誤りを理由に本件訴えを不適法とすることはできない、と整理するのがポイントです。
補助参加は「必要な手続」を条文どおりに答え切る
設問2⑵が聞いているのは、甲社がAらを補助するため訴訟に参加する際の、会社法上の手続です。補助参加の利益に関する民事訴訟法の議論を広げすぎないことが大切です。
会社法849条3項1号は、この場合の参加について監査役の同意を求め、監査役が複数いるときは各監査役の同意を必要としています。本問では、常勤監査役Fだけでなく、G・Hも含めた全員の同意が必要です。
ここでも、会社が責任追及を受けている取締役を安易に助け、馴れ合いの訴訟追行になることを防ぐという趣旨を押さえます。設問1の当てはめに時間を使いすぎず、最後の小問まで、求められた手続とその理由を簡潔に答えられるかが重要です。
⑦ 民事訴訟法|答案で差がつくポイント
今年の民事訴訟法は、鉄材の売買残代金をめぐり、管轄、被告を追加する方法、弁論主義が問われました。配点は3:3:4です。基本事項を条文に沿って処理し、問題文の指示から検討の範囲をつかめるかがポイントです。
管轄は事物管轄と土地管轄について、条文上の根拠を明示して論じる
設問1では、事件の種類と訴訟の目的の価額に留意するよう指定されています。売買残代金の支払を求める通常の民事訴訟であり、人事訴訟として家庭裁判所が扱う事件ではないことを押さえます。
次に、訴額は契約全体の代金300万円ではなく、請求している残代金150万円です。簡易裁判所が扱う140万円以下の請求を超えるので、裁判所法33条1項1号から、第一審は地方裁判所の管轄となります。民事訴訟法だけでなく、裁判所法の条文を引けるかもポイントです。
そのうえで、どこの地方裁判所かを検討します。
- 乙地方裁判所:被告Y社の本店が乙市にあるため、普通裁判籍による管轄があります(民事訴訟法4条1項・4項)。
- 甲地方裁判所:売買代金をXの住所地で支払う約定があり、甲市が義務履行地になるため、財産権上の訴えの管轄があります(5条1号)。
結論は甲・乙の地方裁判所ですが、「原告の住所地でもよい」とだけ書かず、義務履行地とのつながりを示すことが大切です。
被告の追加は、判例の方法と「確実に実現できるか」をセットで答える
設問2では、Xが、買主はZだというY社の主張を受け、同じ手続でZへの請求も判断してもらいたいと考えています。問題文は、昭和62年7月17日判決の立場と、その判決が示した方法を説明するよう指定しています。
判例は、第三者への請求を後から追加すれば当然に従来の訴訟と併合される、という主観的追加的併合を認めていません。明文の規定がなく、従来の訴訟状態をそのまま新たな請求に利用できるとは限らず、訴訟の複雑化・遅延や濫訴のおそれもあるからです。
そこで、Zに対する別訴を提起したうえで、152条1項に基づく口頭弁論の併合を裁判所に促す、という方法を示します。ただし、併合するかどうかは裁判所の裁量です。同じ手続内で判断を得ることが、確実に実現するわけではありません。方法を挙げるだけでなく、この限界まで答えることが重要です。
41条の同時審判の申出に触れる場合も、買主の候補が2人いるから使える、と飛びつかないことが大切です。同条は、請求が「法律上併存し得ない関係」にあることを求めています。本問は、誰が買主かという事実上の択一関係にとどまるとして、適用を否定するのが通説の立場です。
さらに自説を述べるなら、第1回口頭弁論期日という早い段階であることや、証拠の共通性から、判例が挙げた弊害が本件でも生じるかを検討できます。その場合も、判例の立場と自分の判断を区別して示します。
弁論主義は「主張がない」で止めず、事実のずれと不意打ちの有無を考える
設問3では、裁判所がY社とZの共同買受けを認定できるかが問われています。当事者が主張していない主要事実を判決の基礎にできないという、弁論主義の第1テーゼの問題です。
まず、主張と認定しようとする事実を並べます。XはY社が買主だと主張し、Y社はZが買主だと主張しています。どちらも、Y社とZが共同で買ったとは主張していません。したがって、形式的な食い違いはあります。
ただ、設問は食い違いの「有無及び程度」と、弁論主義の「根拠や機能」を踏まえるよう求めています。私的自治の訴訟上の反映という根拠や、当事者への不意打ちを防ぐ機能を示したうえで、この違いがどれほどのものかを評価します。
- 買主の候補:共同買主とされるY社とZは、いずれも当初から訴訟の中に現れている人物・会社です。
- 契約と引渡しへの関与:商談にはX・Z・Y社代表者Aが立ち会い、引渡しもAとZの両者が求めています。
- 鉄材の行方:全部がZの倉庫に運ばれた後、一部はY社の工場へ、残りはZの取引先へ渡っています。
これらを踏まえると、共同買受けは、訴訟に全く現れていなかった別の取引を突然持ち出す認定ではありません。主張とのずれはあっても、社会通念上同一性のある事実の範囲内で、不意打ちにもならないとして、弁論主義に反しないと考える余地があります。
一方、Y社は自分が買主であることを全面的に争っています。単独の買主かどうかを争っていたところに、共同買主としての責任を認めるなら、防御の前提が変わり、不意打ちになるという評価もあり得ます。結論だけでなく、この違いをどの程度重く見るのかを具体的に示すことが重要です。
「証拠に出てきたから認定できる」だけでは不十分です。主張された事実との共通点・相違点を示し、弁論主義の趣旨が損なわれない理由まで説明できるかが差のつくところです。主要事実に限って検討するという前提を守り、不要とされた釈明権・釈明義務の議論に紙幅を使わないことも大切です。
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