剛力: 初受験の方や、まだ短答を突破していない方は「短答全振り」でいくべきです。受験生の心理として「短答を突破しても、今の実力では論文で手も足も出ないから、直前まで論文対策をしたい」という気持ちは痛いほど分かります。しかし、まずは「客観と主観のズレ(自分の実力認識と本試験の要求レベルとの差)」を修正することが最優先であり、そのためには1年でも早く論文式試験に進む必要があります。今年は手も足も出なくていいので、短答突破だけを目標に周回速度を上げてください。
荒井: 私もほぼ同意見です。基本的には短答対策に集中してもらいたいです。どうしても論文に不安があるなら、週1回〜2週間に1回程度、論証集の復習や既済の過去問答案を読み返すといった、脳の負荷が低い勉強に留めてください。それ以上の論文対策には手を広げず、短答にリソースを集中すべきです。
荒井: 短答式試験に3〜4回連続で合格しているような層であれば話は別です。そういう方なら、短答対策の本格化は6月に入ってからでも十分に間に合います。
剛力: 短答は一度合格すると、その「合格のコツ」を体感として掴んでいるケースが多いです。ただ、注意すべきなのは「一般教養科目で40点オーバーして滑り込んだ人」は例外になり得るということ。指標にすべきは「前年の法律科目の得点」です。もし法律科目だけで150点を超えているのであれば、今の時期でも「短答:論文=5:5」くらいの比率で並行して走らせて良いと思います。
剛力: 一言で言えば、「本試験の過去問対策をなめている人」です。予備合格者は「2時間で司法試験の膨大な分量を処理し切る」というタイムマネジメントが上手くできていないケースがあります。特に今年はCBTが本格導入される年。手の動かし方、視線の動かし方、画面上での情報処理など、形式的な「慣れ」をどれだけ徹底できるかが勝負を分けます。基本の土台を固めた上で、徹底的に過去問演習に突き進んでください。
荒井: 予備試験合格のタイミングが「記憶のピーク」になってしまっている受験生が非常に多いです。司法試験に向けて、もう一度そのピークを2ヶ月後に持ってこなければなりません。基本的な判例知識や論証の再チェックを徹底してください。特にAランク論点を落としてしまうと、試験委員に「この人は法曹としての基本が身についていないな」と一発で見抜かれてしまいます。
伊藤: まず気になるのは、「7科目を1周する」と言っても、ただ問題に触れただけの勉強になっていないか、という点です。それでは効率が悪く、実質的な意味はありません。私自身の受験生時代は、完全に「単元(分野)ごと」にマスターするまでやり切るスタイルを取っていました。
1日2〜3時間でも集中すればまとまった時間は取れます。だったら「3時間でやり切れる単元(例:虚偽表示、表現の自由など)」を明確に決め、1日の目標を完全にやり切ることです。「何周回すか」ではなく、「自分の身になるまでやり切る」ことを目標にしてください。
荒井: 私も同じです。ある程度の期間(例:3週間など)、特定の科目を集中的にやることで、その科目の構造や体系の理解が一気に深まります。特に時間の限られる社会人受験生は、科目を絞って集中的に潰していく方法を絶対におすすめします。
吉野: 「覚えたのに忘れちゃう」という質問は非常に多いですが、僕の仮説としては、「そもそも最初から覚えていない」のだと思います。問題を解いて解説を読み、復習した段階で満足してしまい、そこから「何も見ずに頭に記憶させる時間」を確保していないのではないでしょうか。
たくさん問題を回すこと自体が目的化してはいけません。目的は「本番で解ける(アウトプットできる)ようになること」です。記憶の時間(=インプットから長期記憶へ移行させる作業)を必ず確保してください。
吉野: 一言で言えば、「何度も覚えては、頭の中で思い出す(=言語化する)作業」です。剛力講師もよく言っていますが、この「思い出すプロセス」が決定的に重要です。 寝る前、朝起きたとき、トイレに入っているとき、お風呂に浸かっているとき、あるいはコンビニへ買い物に行く歩行時間など、テキストからあえて視線を切った状態で「さっきやった問題の論理構成や規範を、自分の頭の中だけで言語化できるか」を繰り返す。この反復継続のプロセスがあって初めて長期記憶に切り替わります。
受験勉強が一番つまらなくなる原因が、まさにこの「覚えたはずなのに覚えていない」というイライラとの戦いですよね。でも、その泥臭いプロセスから逃げて、ただ問題集を回して「今日も充実した勉強ができた」と爽快感に浸っているだけでは、知識は本番で使えません。
吉野: それはもう、「1日に解く問題数を調整する」しかありません。残り時間から逆算して「来年受かるためには1日何十問解かなければいけない」と理想の計画を立てる気持ちは分かります。ただ残念ながら、計画通りに勉強が進むことなんてまずありません。
そのペースのまま「解きっぱなし」を続けても、1年後の本番には何も残りません。それならペースを落としてでも、今日やったことを少しでも長期記憶として残すべきです。「来年合格」が物理的に厳しいなら、計画を修正し、より確実な「再来年合格」にターゲットを切り替える冷静さも必要です。
伊藤: まとめるなら、まずは自分がこの2〜3時間で「完全に記憶に定着させられる問題数」を正確に把握することから始める。その上で、分厚い過去問集を最初から最後まで回すのがどうしても厳しいのであれば、「奇数番号だけ解く」などといった1個飛ばしの戦略もありです。間引いてでも、一通り頭から最後までやり切ったという成功体験が、最終的には自信と体系理解につながります。
伊藤: そのやり方で大正解です。知識が定着しない、あるいは解説のロジックが腑に落ちないときは、判決の原文をそのまま読むと一気に腑に落ちることが多々あります。
最高裁判所の判決というのは、エリート裁判官である「最高裁調査官」が下書き(民事・刑事の調査官解説の元となるもの)を作成し、審理を重ねて合議で決めていくものです。つまり、あらゆる学説や実務の議論を極限まで精査して作られています。受験生が分厚い調査官解説を隅から隅まで読み込むのはオーバースペックですが、簡潔にまとめられたジュリストに掲載されている『時の判例』や判例タイムズの解説が非常に有効です。短答式試験の肢の解説(「最高裁は何々と言って判断した」とだけ書かれた一文)を丸暗記しようとしても、論文には活きません。判例というものは、条文が想定していない「病理現象(事故)」が起きた際、第一審と控訴審で結論が割れた末に、裁判所がどう決着をつけたかという「実益」があるものです。その判例の「実益」や「背景にある争点」を掴むためにも、分からないときは基礎講座のテキストや判例の原文に立ち返ってください。世界の見え方がガラリと変わります。
荒井: 代表的な「処分性」や「原告適格」の問題を検討する際、必ず「個別法の参照条文(別表などを含む)」を確認する癖をつけてください。判例から個別法の解釈を学ぶためには、そもそも個別法がどのような条文なのかを確認した上で、判例がその個別法をどのように解釈しているかを学ぶ必要があります。
吉野: 最高裁の行政法判例が長く引用される理由は、まさに最高裁自体が判決文の中で徹底的に「仕組み解釈」をやっているからです。条文を具体的に挙げて、制度の趣旨や文言を精査している。そこを読み飛ばして「仕組み解釈が分からない」というのは、勉強の順序が違います(例:旭川学力テスト事件などでは教育基本法関係の個別規定の仕組みをめちゃくちゃ詳細に説明しています)。最高裁の説明以上に、正しく美しい仕組み解釈の教科書はありません。
伊藤: 私からの具体的なアドバイスとしては、橋本博之先生の『行政法解釈の基礎』を1冊読み込んでください。この本は、橋本先生がかつて慶應義塾大学ロースクールの講義などで扱っていた高度な仕組み解釈の論文を、受験生向けに極めて分かりやすく噛み砕いて書き直した名著です。これさえマスターすれば、仕組み解釈の作法は完全にクリアできます。
伊藤: 予備試験(実質70分)を想定するなら、答案構成にかける時間は最大で20分〜25分が限界です。これを超えたら、どんなに構成が途中であっても「見切り発車」で書き始めなければ、物理的に途中答案になります。
そもそも、後半の設問に手がつけられないということは、「設問1の答案構成をして、設問1を書き、それが終わってから設問2の答案構成をしている」という、設問ごとの細切れ処理をやってしまっていませんか? そのやり方自体が根本的な間違いです。最初に20〜25分時間を測り、設問1も設問2も「全体の答案構成」を終わらせる。その上で時間配分(例:設問1は簡単だから15分、設問2は重いから30分)を確定させてから書き始めるのが鉄則です。
荒井: 「スピードの問題ではなく、単純に「覚えるべき規範や論証の暗記が不十分であること」が原因であることも多いです。現場で「この論証の理由付けは何だっけ?」と脳のリソースを使って止まっているから、文章化のタイムロスが生じるのです。
剛力: まさにその通りです。答案構成から文章に書き起こす際、理論上は「1分間に自分が何文字タイピングできるか(または筆記できるか)」という物理的な速度の勝負になるはずで、そこに思考の迷いがあってはいけません。 本番で脳のメモリを使うべきは、「問題文の生の事実をどう評価するか(当てはめ)」の1点のみです。事前準備できる論証や定義のパーツは、あらかじめ完璧に暗記しておき、現場ではノータイムで吐き出せる状態にしておかなければ、時間内に書き切ることは不可能です。
剛力: 削るべきは、「無駄に長い論証(抽象論の理由付け部分)」です。司法試験・予備試験において、論証の理由付けをダラダラと長く書いたところで、周囲の受験生と差はつきません。論証部分は必要最小限に留め、その分、問題文の具体的な「生の事実」を拾って評価するスペースに充ててください。
伊藤: 一文が冗長である可能性も高いです。答案でよく見かける「第1、設問1について」「〜ではないかと考えられる」といった無駄なつなぎ言葉や、規範の不必要な修飾語は徹底的に削りましょう。「一文を短く、簡潔に(ショートセンテンスで)書く」という意識を持つだけで、文字数は大幅に削減でき、事実の引用と評価に割けるスペースが生まれます。自分が書いた文章を、後から「もっと短く表現できないか」と削る訓練を普段からやってみてください。
吉野: 私は慶應ローの出身なので慶應と言わざるを得ませんが(笑)、客観的な「司法試験合格率」という数字の面で見ても、やはり慶應に軍配が上がる傾向があります。
伊藤: 私も慶應ローを強くおすすめします。慶應ローの最大の強みは、「実務家(三田法曹会)が主導して作った法科大学院である」という点です。大学側が当初ローの設置に消極的だったところを、OBの実務家たちが猛烈に動いて立ち上げた経緯があります。 そのため、教壇に立つ実務家教員の質が極めて高く、司法試験の「現場のルール(何を書けば点になり、何が実務で求められるのか)」を完全に理解した指導が行われています。ロー全体に「全員で一発合格しよう」という強力な団結力があり、企業法務系をはじめとする実務界でのネットワーク(就職活動における強さ)も圧倒的です。
伊藤: だらけた気持ち、つまり心のどこかで「まあ最終的には受かるだろう」と甘えを持っていると、マジで落ちます。そして、落ちた後にまた「次の合格発表まで丸1年間、あの苦しい受験生活を待たなければならない」という精神的苦痛を、もっとリアルに想像してください。
私は自分が司法試験に合格した発表の日、一緒に死ぬ気で勉強してきた自主ゼミの仲間たちと法務省前へ見に行きました。慶應ローの優秀なメンバーでしたが、結果は僕以外の全員が不合格(落ちていた)でした。 あらかじめ予約していた祝賀会の居酒屋にみんなで行きましたが、僕だけが合格していて、他の仲間たちは全員落ちている。あの時の、周りのメンバーの絶望に満ちた表情、そして僕自身も30分と席にいられなくなって店を先に出た時の空気は今でも忘れません。あの時の痛烈な空気は、今でも脳裏に焼き付いて離れません。
「仲間が実務に出る中で、自分だけが1年遅れる」というその時の精神的泥沼は、今思えば人生の通過点かもしれませんが、当事者にとっては本当に生き地獄のような辛さがあります。 今、その光景をリアルに思い浮かべてください。死に物狂いでやらなければ、2ヶ月後、その絶望の当事者になるのはあなたです。あとたったの2ヶ月、死ぬ気で勉強にすべてを捧げてください。以上です。
吉野: 「あと1年、この生活が延びる」ということの絶対的な重さを、今一度自分の胸に突きつけてください。残りの期間を死ぬ気でやれば終わるんです。今日から、今この瞬間から、完全にエンジンを点火してやり切りましょう!
2026年6月26日 荒井たかふみ 伊藤たける 剛力大 吉野勲
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