[徹底検証] 憲法の流儀は令和5年司法試験(生存権)に対応できたのか!?

 

【憲法の流儀】伊藤先生自らが徹底検証!

1.憲法の新傾向に対応するために「知識」はいらない

令和5年司法試験(憲法)では、まさかの生存権からの出題がなされました。
生存権については、平成22年司法試験(憲法)でも出題がなされておりましたが、多くの受験生は「出ないだろう」と思って、対策が手薄だったのではないでしょうか。

もっとも、令和4年司法試験(憲法)でも、学問の自由と大学の自治という個別のテーマから出題がなされておりますし、令和4年予備試験(憲法)でも、労働基本権というマイナーテーマからの出題でした。
このように、予備試験や司法試験においては、残念ながら、旧来的な予備校型の「人権処理パターン」だけでは対策ができない事態となっています。

一方で、私が観測する限り、新興予備校においては「人権処理パターン」だけでなく、判例知識をベースにしたテキストを構築するような動きもあるようです。
具体的には、判例ベースの論証集や、判決文を長く引用するタイプのテキストを用いて、「知識」を増やすようなアプローチがとられているようです。

しかし、これらの新興予備校のテキストでは、少なくとも憲法の対策としては十分ではありません。
憲法の事例問題を解くにあたって必要なのは「知識」ではなく「思考プロセス」だからです。
ましてや、予備校本なのにもかかわらず、憲法だけで500頁近いテキストなどでは、「知識」が余りにも多すぎます。

2.生存権の思考プロセス

憲法上の権利には、ざっくりいうと、自由権と請求権の2つがあります。他には、いずれにも属さない平等原則もあります。
自由権とは、国家に対して何もしないこと(不作為)を要求する権利なのに対し、請求権とは、国家に対して何らかの行為(作為)を要求する権利です。

自由権と請求権の大きな違いは、自由権の場合は、通常は「ある自由」が憲法上保障されると、それを国が制約してはならないという、比較的シンプルな考え方ができます(ただし、財産権のように権利の内容が問題となる場合は別です。)。

請求権の場合、国に対して「何を保障しているのか」、「どのような手段で保障するのか」という2点が、憲法上は確定していません。
請求権それ自体が行使できない場合は、内容はさておき、これを憲法上の権利侵害ということはできますが、請求権の内容がおかしいというためには、1つのハードルがあるのです。

請求権であっても、憲法上の原則が確定できる場合には、そことのかい離を「制約」と捉えることは可能です。
たとえば、憲法17条は、故意または過失により生じた損害につき国家賠償責任を認めているところ、法律で国の責任を制限したり、軽過失を免責したりする場合は、国家賠償請求権に対する「制約」といえます。

もっとも、こうした憲法上の原則が確定できない場合、通常は、立法裁量ないし行政裁量の範囲内として、憲法上問題にすることは難しいところがあります。それでも、既に取得していた権利を制限する場合、現状の保障を憲法上の権利として保障することで(制度後退禁止原則)、これよりも不利益な変更をする場合を、憲法上の権利に対する「制約」と捉えることもできるでしょう。

また、仮に、制度後退禁止原則なるものまでは保障されなくとも、堀木訴訟最判のように広い立法裁量を認める「明白の原則」が適当だともいえません。
立法裁量や行政裁量があるとしても、これらは「高度の専門技術的な考察に基づく政策的判断」でなければなりません。そのため、裁判所が、立法裁量や行政裁量が「高度の専門技術的な考察」に基づくものであるか否かにつき、裁量判断の過程を検討することで、各種統計との合理的関連性、専門的知見との整合性を審査することは可能でしょう。

これをまとめると、次の図表と思考プロセス図のとおりです。


【図表】

【思考プロセス図】

 

3.令和5年司法試験(憲法)を解いてみる

それでは、令和5年司法試験(憲法)をこの思考プロセスに基づいて解いてみましょう。
問題文はこちら※法務省HPより参照
この問題文では、①年齢による制限、②性別による区別、③旧制度の受給者の受給資格喪失の3点が問題となりますが、ここでは③のみを取り上げます。

ステップ1を検討すると、請求権を制約されているものの、請求権自体の行使が制約されているわけではありません。
次に、ステップ2を検討すると、憲法25条からは憲法上の原則形態を確定することは難しいところですが、制度後退禁止原則を適用すれば、旧制度の受給資格とのかい離を「制約」とすることは可能です。
そのため、違憲とする主張の立場からは、制度後退禁止原則を採用し、目的手段審査をすることになります。

もっとも、制度後退禁止原則に対しては、実務上は批判も強いところです。
なぜ、一度、立法府や行政庁が決定したことが「憲法上の保障」にまで格上げされるのか、現状保障としては強すぎるのではないか、といった批判がなされています。
この立場からは、制度後退禁止原則を批判たうえで、広い立法裁量を認めるべきであるとして、制度準拠審査を摘要すべきことになります。

 

4.目的手段審査と制度準拠審査

ここで「目的手段審査」と「制度準拠審査」の違いを簡単に説明しておきます。
目的手段審査とは、憲法上の権利を「制約」していることを前提に、「制約」をした目的と、制約という「手段」の関連性等を審査するものです。そのため、「制約」が観念できなければなりません。

これに対し「制度準拠審査」とは、憲法上の権利に対する「制約」を観念できない場合に活用されます。というのも、上記のとおり、憲法上の権利の内容が確定できない場合、その「制約」を観念することはできません。そのため、その憲法上の権利の内容をどのような目的で定めるのか、という、いわば制度の目的が問題となります。目的と手段を審査する点では同じなのですが、ここでの目的とは、ある制度の目的である点で大きく異なります。

この違いを令和5年司法試験(憲法)の遺族年金の受給者の受給資格喪失について当てはめると、よりわかりやすいでしょう。
いわゆる「制約」があるとすれば、その制約の目的は「新旧制度の不公平感」となりますが、単なる不公平感で憲法上の権利を制約することが正当化できるかが問われます(なお、不公平感を解消するための手段としては適合しているため、目的審査がメインとなります。)。
これに対し、「制約」がないとすれば、その制度の目的である「遺族の生活の安定が損わねらにようにすること」や「就労によって自ら収入を確保することを促進すること」といった目的と手段が問題となります。こちらで捉えられてしまうと、目的自体を否定することは難しいでしょうし、手段も適合しているといわれてしまいます。

5.憲法の流儀なら司法試験の新傾向にもバッチリ対応!

このように、憲法の流儀の思考プロセスを経ていれば、令和5年司法試験(憲法)にもばっちり対応することができました。

また、令和4年司法試験(憲法)についても、東大ポポロ事件判決が「大学の自治」を保障しなかった理由を知っていれば、問題点に気が付くことができたでしょう。
憲法の流儀では、基礎編のほか、平成21年新司法試験(憲法)、平成25年司法試験(憲法)の解説等において、これらの論点を扱っていました。

 

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予備試験や司法試験の憲法に対しては、従来型の予備校では対応できないと言われているばかりでなく、新興予備校についても「判例そのまま」であり、使い方がわからないとの声も耳にします。

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2023年8月17日   伊藤たける 

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