平成24年新司法試験民事系第3問(民事訴訟法)

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[民事系科目]

 

〔第3問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,3.5:4:2.5〕)

 次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。

 

 【事例】

   Xは,Aに対し,300万円を貸し渡したが,返済がされないまま,Aについて破産手続が開始された。Xは,BがAの上記貸金返還債務を連帯保証したとして,Bに対し,連帯保証債務の履行を求める訴えを提起した(以下,この訴訟を「訴訟1」という。)。

 

   第1回口頭弁論期日において,被告Bは,保証契約の締結の事実を否認した。

   原告Xは,書証として,連帯保証人欄にBの記名及び印影のある金銭消費貸借契約書兼連帯保証契約書(資料参照。以下「本件連帯保証契約書」という。なお,その作成者は証拠説明書においてX,A及びBとされている。)を提出した。

   Bは,本件連帯保証契約書の連帯保証人欄の印影は自分の印章により顕出されたものであるが,この印章は,日頃から自分の所有するアパートの賃貸借契約の締結等その管理全般を任せている娘婿Cに預けているものであり,押印の経緯は分からないと述べた。Xが主張の補充を検討したいと述べたことから,裁判所は,口頭弁論の続行の期日を指定した。

 

 以下は,第1回口頭弁論期日の後にXの訴訟代理人弁護士Lと司法修習生Pとの間でされた会話である。

 弁護士L:証拠として本件連帯保証契約書がありますから,立証が比較的容易な事件だと考えていましたが,予想していなかった主張が被告から出てきました。被告の主張は,現在のところ裏付けもなく,そのまま鵜呑みにすることはできませんから,当初の請求原因を維持し,本件連帯保証契約書を立証の柱としていく方針には変わりはありません。もっとも,Xによれば,本件連帯保証契約書の作成の経緯は「主債務者AがCとともにX方を訪れた上,連帯保証人欄にあらかじめBの記名がされ,Bの押印のみがない状態の契約書を一旦持ち帰り,後日,AとCがBの押印のある本件連帯保証契約書を持参した」ということのようですから,こちら側から本件連帯保証契約書の作成状況を明らかにしていくことはなかなか難しいと思います。

 修習生P:二段の推定を使えば,本件連帯保証契約書の成立の真正を立証できますから,それで十分ではないでしょうか。

 弁護士L:確かに,保証契約を締結した者がB本人であるとの前提に立てば,二段の推定を考えていけば足りるでしょう。他方で,仮にCがBから印章を預かっていたとすると,CがBの代理人として本件連帯保証契約書を作成したということも十分考えられます。

 修習生P:しかし,本件連帯保証契約書には「B代理人C」と表示されていないので,代理人Cが作成した文書には見えないのですが。

 弁護士L:代理人が本人に代わって文書を作成する場合に,代理人自身の署名や押印をせず,直接本人の氏名を記載したり,本人の印章で押印したりする場合があり,このような場合を署名代理と呼んでいます。その法律構成については,考え方が分かれるところですが,ここでは取りあえず通常の代理と同じであると考え,かつ,代理人の作成した文書の場合,その文書に現れているのは代理人の意思であると考えると,本件連帯保証契約書の作成者は代理人Cとなります。

      そこで,私は,念のため,第2の請求原因として,Bではなくその代理人Cが署名代理の方式によりBのために保証契約を締結した旨の主張を追加し,敗訴したときには無権代理人Cに対し民法第117条の責任を追及する訴えを提起することを想定して,Cに対し,訴訟告知をしようと考えています。

 修習生P:訴訟告知ですか。余り勉強しない分野ですのでよく調べておきます。しかし,本件連帯保証契約書を誰が作成したかが明らかでないからといって,第2の請求原因を追加する必要までありますか。裁判所が審理の結果を踏まえてCがBの代理人として保証契約を締結したと認定すれば足りるのではないでしょうか。最高裁判所の判決にも,傍論ながら,契約の締結が当事者本人によってされたか,代理人によってされたかは,その法律効果に変わりがないからとして,当事者の主張がないにもかかわらず契約の締結が代理人によってされたものと認定した原判決が弁論主義に反しないと判示したもの(最高裁判所昭和33年7月8日第三小法廷判決・民集12巻11号1740頁)があるようですが。

 弁護士L:その判例の読み方にはやや難しいところがありますから,もう少し慎重に考えてください。先にも言ったとおり,本件連帯保証契約書の作成者が代理人Cであるという前提に立つと,本件連帯保証契約書において保証意思を表示したのは代理人Cであると考えられ,その効果がBに帰属するためには,BからCに対し代理権が授与されていたことが必要となります。そうだとすると,第2の請求原因との関係では,BからCへの代理権授与の有無が主要な争点になるものと予想され,本件連帯保証契約書が証拠として持つ意味も当初の請求原因とは違ってきますね。なぜだか分かりますか。

 修習生P:二段の推定が使えるかどうかといったことでしょうか。

 弁護士L:良い機会ですから,当初の請求原因(請求を基礎付ける事実)が,①XA間における貸金返還債務の発生原因事実,②XB間における保証契約の締結,③②の保証契約が書面によること及び④①の貸金返還債務の弁済期の到来であり,第2の請求原因(請求を基礎付ける事実)が,①XA間における貸金返還債務の発生原因事実,②代理人Cが本人Bのためにすることを示してXとの間で保証契約を締結したこと(顕名及び法律行為),③②の保証契約の締結に先立って,BがCに対し,同契約の締結についての代理権を授与したこと(代理権の発生原因事実),④②の保証契約が書面によること及び⑤①の貸金返還債務の弁済期の到来であるとして,処分証書とは何か,それによって何がどのように証明できるかといった基本に立ち返って考えてみましょう。

 

〔設問1〕

  ⑴ Xが当初の請求原因②の事実を立証する場合と第2の請求原因③の事実を立証する場合とで,本件連帯保証契約書が持つ意味や,同契約書中にBの印章による印影が顕出されていることが持つ意味にどのような違いがあるか。弁護士Lと司法修習生Pの会話を踏まえて説明せよ。

  ⑵ Xが第2の請求原因を追加しない場合においても,裁判所がCはBの代理人として本件連帯保証契約書を作成したとの心証を持つに至ったときは,裁判所は,審理の結果を踏まえて,CがBの代理人として保証契約を締結したと認定して判決の基礎とすることができるというPの見解の問題点を説明せよ。

 

 【事例(続き)】

   第2回口頭弁論期日において,原告Xは,第2の請求原因として,被告Bではなくその代理人Cが署名代理の方式によりBのために保証契約を締結した旨の主張を追加した。Bは,第2の請求原因に係る請求原因事実のうち,保証契約の締結に先立ちBがCに対し同契約の締結についての代理権を授与したこと(代理権の発生原因事実)を否認し,代理人Cが本人Bのためにすることを示してXとの間で保証契約を締結したこと(顕名及び法律行為)は知らないと述べた。

   第3回口頭弁論期日において,Xは,第3の請求原因として,Xは,Cには保証契約を締結することについての代理権があるものと信じ,そのように信じたことについて正当な理由があるから,民法第110条の表見代理が成立する旨の主張を追加した。Bは,表見代理の成立の要件となる事実のうち,基本代理権の授与として主張されている事実は認め,その余の事実を否認した。

   同期日の後,Xは,Cに対し,訴訟告知をし,その後,BもCに対して訴訟告知をしたが,Cは,X及びBのいずれの側にも参加しなかった。

 

   裁判所は,審理の結果,表見代理が成立することを理由として,XのBに対する請求を認容する判決を言い渡し,同判決は確定した。

   Bは,CがBから代理権を与えられていないにもかかわらず,Xとの間で保証契約を締結したことによって訴訟1の確定判決において支払を命じられた金員を支払い,損害を被ったとして,Cに対し,不法行為に基づき損害賠償を求める訴えを提起した(以下,この訴訟を「訴訟2」という。)。

 

〔設問2〕

   訴訟2においてBが,①CがBのためにすることを示してXとの間で保証契約を締結したこと,②①の保証契約の締結に先立って,Cが同契約の締結についての代理権をBから授与されたことはなかったこと,を主張した場合において,Cは,上記①又は②の各事実を否認することができるか。Bが訴訟1においてした訴訟告知に基づく判決の効力を援用した場合において,Cの立場から考えられる法律上の主張とその当否を検討せよ。

 

【事例(続き)】

 以下は,訴訟1の判決が確定した後に原告Xの訴訟代理人弁護士Lと司法修習生Pとの間でされた会話である。

 弁護士L:今回は幸いにして勝訴することができましたが,私たちの依頼者Xとしては,仮にBに敗訴することがあったとしても,少なくともCの責任は問いたいところでした。そこで,B及びCに対する各請求がいずれも棄却されるといういわゆる「両負け」を避けるため,今回は訴訟告知をしましたが,民事訴訟法にはほかにも「両負け」を避けるための制度があることを知っていますか。

 修習生P:同時審判の申出がある共同訴訟でしょうか。

 弁護士L:そうですね。良い機会ですから,今回の事件の事実関係の下で同時審判の申出がある共同訴訟によったとすれば,どのようにして,どの程度まで審判の統一が図られ,原告が「両負け」を避けることができたのか,整理してみてください。例えば,以下の事案ではどうなるでしょうか。

     (事案)XがB及びCを共同被告として訴えを提起し,Bに対しては有権代理を前提として保証債務の履行を求め,Cに対しては民法第117条に基づく責任を追及する請求をし,同時審判の申出をした。第一審においては,Cに対する代理権授与が認められないという理由で,Bに対する請求を棄却し,Cに対する請求を認容する判決がされた。

 

〔設問3〕

   同時審判の申出がある共同訴訟において,どのようにして,どの程度まで審判の統一が図られ,原告の「両負け」を避けることができるか。上記(事案)の第一審の判決に対し,①Cのみが控訴し,Xは控訴しなかった場合と,②C及びXが控訴した場合とを比較し,控訴審における審判の範囲との関係で論じなさい。

 

【資料】

金銭消費貸借契約書兼連帯保証契約書

平成○○年○月○日

  住   所  ○○県○○市・・・(略)

  貸   主  X  印

 

  住   所  ○○県○○市・・・(略)

  借   主  A  印

 

  住   所  ○○県○○市・・・(略)

  連帯保証人  B  印

 

1 本日,借主は,貸主から金三百萬円を次の約定で借入れ,受領した。

 弁済期  平成○○年○月○日

 利 息  年3パーセント(各月末払)

 損害金  年10パーセント

2 借主が次の各号の一にでも該当したときは,借主は何らの催告を要しないで期限の利益を失い,元利金を一時に支払わなければならない。

 ⑴ 第三者から仮差押え,仮処分又は強制執行を受けたとき

・・・・(略)

3 連帯保証人は,借主がこの契約によって負担する一切の債務について,借主と連帯して保証債務を負う。

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