平成18年新司法試験公法系第2問(行政法)

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取消訴訟の訴訟要件 - 処分性
無効等確認訴訟 - 無効等確認訴訟の訴訟要件(訴えの利益)
行政事件訴訟法4条後段のいわゆる実質的当事者訴訟 - 実質的当事者訴訟の訴訟要件と本案主張

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〔第2問〕(配点:100)

  ○○県甲川市に土地を所有するAは,Aの所有する土地の一画にある通路について建築基準法第42条第2項にいう2項道路に該当するとの判断を甲川市の職員が表明したことから,当該通路及びこれに隣接するA所有の土地の価格評価が下落することになると考え,訴訟提起の可能性につき相談するため,J弁護士事務所を訪ね,弁護士K及びLと面談した。

  本件紛争及び紛争へと至る事実関係(資料1),及びA,K,Lの間のやり取り(資料2)を踏まえて,主任の弁護士Kから報告書を作成するよう指示を受けた若手弁護士Lの立場で,次の設問に具体的に解答しなさい。

 

 〔設 問〕

 1. 本件通路が2項道路に該当しないことをAが訴訟によって確定させるためには,どのような訴訟を提起し,どのような主張をすべきか。

 2. 土地の価格評価の下落による損害について市に対して賠償を求めるためには,Aは,だれのどのような行為に着目して,どのような主張をすべきか。

 

  なお,本件で問題となっている2項道路の制度については,資料3にその説明があり,建築基準法の抜粋は,資料4に掲げてあるので,適宜参照しなさい。

 

資料1 事実関係

 

(1) ○○県乙山町は,平成15(2003)年4月1日に建築主事を置いている近隣の甲川市と合併し,合併後の名称を甲川市とした(以下,合併前の甲川市を「旧甲川市」,合併前の乙山町を「旧乙山町」,合併後の甲川市を「新甲川市」という。)。

  ところで,旧乙山町には建築主事は置かれていなかったため,旧乙山町の特定行政庁は○○県(正確には,○○県知事)であった。そして,合併の時点まで旧乙山町に適用のあった○○県建築基準法施行細則第18条は,2項道路を一括して指定する方式を採用していた。具体的には,細則第18条は,「建築基準法第3章の規定が適用されるに至つた際現に存在する幅員4メートル未満2.7メートル以上の道で,道路の形態が整い,道路敷地が明確であるもの」と規定していた。

  これに対して,旧甲川市は,合併前から建築主事を置いており,独自の建築基準法施行細則を制定していた。そして,旧甲川市の中心市街地は整理が遅れ,戦前からの入り組んだ町並みが残されていたために,旧甲川市の建築基準法施行細則第18条は,2項道路の幅員を1.8メートル以上と規定して,2項道路の指定基準を県の基準より緩和し,建築基準法第42条第1項にいう道路(同法第43条参照)に接していない敷地の所有者に配慮する政策を採っていた。

  したがって,合併後の新甲川市において2項道路指定につきどのような立場が採られるかは,戦前からの町並みが古くから残っている地域に土地・家屋を有する者にとって,重要な関心事項となった。例えば,指定基準が緩和されることにより,現在は接道要件を満たしていない家屋が新たに接道要件を満たすこととなって,増改築等ができる可能性が出てくる。他方,緩和された指定基準に該当する通路の属する敷地の所有者にとっては,それまで2項道路ではなかった通路が今後は2項道路に指定されることとなり,自分が増改築しようとすると,当該通路の中心線から2メートルの線までセットバックする義務が新たに生ずる状態に陥ることになる。

  このため,合併前に開催された合併協議会の場においては,この問題について,旧甲川市,旧乙山町の区域について,それぞれの接道義務に関する規定を暫定的に適用し,本格的な検討は,合併後に行われる市長選挙等の結果を待って行うことで合意が成立した。

(2) 合併後に実施された新甲川市の市長選挙においては,旧甲川市長M,旧甲川市市議会議員N,旧乙山町長Pの3名が立候補し,激しい選挙戦の結果,Mが当選した。そして,当選後,Mは,2項道路の指定に関する新甲川市建築基準法施行細則(以下「新細則」という。)を制定して平成15(2003)年6月1日に公布した。新細則は,道の幅員等の要件は旧甲川市建築基準法施行細則と同じ内容であったが,適用地域の限定はされていない。市が配布したパンフレットによれば,そのような新細則を制定した理由は,「整備が遅れた地域の多い新甲川市の状況に照らし,接道要件を可能な限り緩和する政策を維持し,かつ,これを新市域全体に適用することが適当である」というものであった。

  これに関し,ある地元新聞には,大要,次のような解説記事が掲載された。「都市近郊の高級住宅街として,区画が整理された地域の多い旧乙山町においては,合併前の○○県建築基準法施行細則においては幅員2.7メートル以上の道だけが2項道路指定を受けていたこともあって,指定基準の緩和には批判的な雰囲気が強く,特に,2項道路の指定を新たに受けることによって,2項道路の敷地,さらに,2項道路に指定された道の中心線より2メートル以内にかかる部分に突出している敷地について,その価格評価が下がることによる不利益等を受ける者は少なくない。他方,旧乙山町の有力者の中には,たまたま,賃貸している家屋について指定基準の緩和により新たに接道要件が満たされることによって利益を受ける人々が複数おり,Mは,選挙においてそれらの有力者の支持を取り付けるために指定基準の緩和を約束していたと証言する関係者もいる。」

(3) ①Aは,旧乙山町区域内に家屋及びその敷地を所有しているほか,敷地部分の東側に台形状の土地を所有している。この台形状の土地には隣人のEのための通路が南北に走っており,通路の幅員は2.0メートルから2.2メートルであって,道としての形態は縁石等により整えられており,いわゆる私道として利用されている(以下,通路を含む台形状の土地を「本件通路部分」,通路を「本件通路」という。)。

  ② 本件通路部分は,Aの家屋の敷地から分筆して登記されており,その際の地積測量図によるとその大きさは,南北に伸びる長さが約6.0メートル,東西に伸びる上辺の長さは約2.3メートル,下辺の長さは約3.0メートルである。

  ③ また,本件通路部分は,東西に伸びる長方形の土地(以下「本件長方形部分」という。)の東端部に対して直角に接続しており,接続部は曲がり角となっている。本件長方形部分の大きさは,東西方向の長さが約35メートル,幅員は3.6メートルであり,その全体が私道として利用されている。なお,本件長方形部分はA及びその隣人2名の共有であるが,この所有関係は本件と直接関係はない(①から③につき,後記「説明図1」参照)。

  ④ 紛争が生じた平成17(2005)年夏の時点において,本件通路部分及び本件長方形部分の周囲には,昭和25(1950)年の時点で既に存在していた5軒の家屋がある。

  これらの家屋のうち,まず,本件長方形部分の北側に位置するAの家屋の敷地及び本件長方形部分の南側に位置するBの家屋の敷地は,幅2メートル以上にわたり直接に公道に接している。次に,同じく本件長方形部分の南側に位置するCの家屋の敷地,本件長方形部分及び本件通路部分の東側に位置するDの家屋の敷地は,本件長方形部分に接し,これを経由して公道へとつながっている。そして,Eの家屋の敷地は,本件通路及び本件長方形部分を経由して公道へとつながっており,他に公道に出る手段はない。

  本件長方形部分の私道は従来から2項道路に該当すると認識され,かつ,C及びDの家屋の敷地はこの私道に幅2メートル以上接しており,従前より接道要件を満たしていると考えられてきた(④につき,後記「説明図2」参照)。

 

  説明図1

 

  説明図2

 

(4) 本件通路部分を所有するAは,Aの父親の代から,隣人Eに本件通路を生活道路として使用することを承認してきた。平成17(2005)年春ごろ,Eは,自宅を解体してこれまでの2倍以上の床面積を有する家屋を建築する計画を立て,そのため,容積率・建ぺい率の関係で敷地を大幅に拡張する必要が生じ,本件通路部分に隣接するDの敷地の一部を買い取る旨Dに申し入れたほか,本件通路部分及びそれに隣接するAの家屋の敷地の一部(以下「本件売却予定部分」とする。後記「説明図3」参照)も買い取ることにして,Aに買取りを申し入れた。Aは,亡父から土地家屋等を相続したことから生じた税金を支払う必要があったため,Eとの売買交渉に入ることにした。

 

  説明図3 本件売却予定部分

 

  そして,交渉の結果,AとEは,本件売却予定部分の価格を,その現状価格に関する不動産鑑定会社Fによる鑑定結果に基づいて決定することで合意し,この合意の時点においてAはEから手付金200万円を受領した。そこで,A及びEの依頼を受けたFの職員は,平成17(2005)年5月,新甲川市の建築指導課に出向いて,本件通路が2項道路に該当するか否かの照会をした。これに対し,担当課長Gは,「現地の状況を確認しないと何とも言えないので,詳細な調査をした上で回答する。」と返事をした。その後,Gは,課員に現地を見分させ,関係資料を調査させるなどし,その結果,本件通路は2項道路に該当するとの判断を得た。Gのこの判断は,①本件においては,本件長方形部分及び本件通路を一体的にとらえて2項道路該当性を判断すべきであり,そこには,現在のA,B,C,D及びEの各建築物が基準時において立ち並んでいたと認められること(ちなみに,「基準時」とは,建築基準法第42条第2項にいう「この章の規定が適用されるに至つた際」のことをいい,本件では昭和25(1950)年である。),又は,②仮に本件通路だけで2項道路該当性を判断すべきだとしても,同じく,現在のA,D,Eの各建築物が基準時において立ち並んでいたと認められること,かつ,③以上の①,②のいずれの考え方に立つにせよ,本件通路は最も狭いところでも幅員が2.0メートルあり,新細則による2項道路の指定要件に欠けるところはないことを根拠とするものであった。そこで,Gはその旨を平成17(2005)年6月にFに伝えた。

(5) このような市の判断を不動産鑑定会社Fから伝え聞いたAは,本件通路が2項道路と判断されたことに対して,大きな不満を抱いた。そこで,Aは,平成17(2005)年6月,7月,8月の3度にわたって,自ら市役所に出向いて不満を述べる等の行動をとったが,市の立場は変わらなかった。

  Aは,市の判断になおも納得がいかないが,他方,相続税納付の期日が迫っており,Eから手付金を受領している等の事情もあることから,市の見解を前提としてEとの間に売買契約を結ばざるを得ないとも考えた。結局,Aは,あれこれ悩んだ末,平成17(2005)年9月初めにJ弁護士事務所を訪れ,相談した。第2回の面談では,A,主任の弁護士K及び若手弁護士Lとの間で,概略,資料2のような会話が交わされた。

 

資料2 A,主任の弁護士K及び若手弁護士Lの間のやり取り

 

A:私は父親の代からの家を大事に守ってきました。それに,父親からは,「古くからの知り合いのEさんだから通路として使わせてあげているけれども,あんな狭い通路は正式な道路とは認定されっこないから,安心していい。」と言われていたのです。それを,旧甲川市の基準を私たちに一方的に押し付けるなんて,M市長の方針は絶対に間違っています。大体,旧乙山町は旧甲川市とは事情が違うのです。今更,通路の中心線から2メートルのセットバック義務があるだなんて…。通路部分以外の売却予定地の現状価格もかなり下がってしまって,本当に困っているのです。しかも,通路を使っているのは,Eさんだけですよ。それ以外の人たちは,皆で共有している長方形の道しか使ってないのですから,Eさん一人のためだけに,あの通路が2項道路に指定されるなんてとても納得がいきません。

K:L君,Aさんが最後に言われた点は,建築基準法の解釈適用の問題としては…。

L:はい…。建築基準法の解説書,特に同法第42条の部分をチェックしたのですが,私は,市が本件通路を2項道路に当たるとしている根拠に問題があると思います。第1に,本件通路と本件長方形部分を一体的にとらえて判断するとしている点です。この二つの部分は,接続してはいますが,形状からすればそれぞれ別々に2項道路該当性を判断すべきものでしょう。
 そして,そのことを前提としてですが,第2に,建築基準法第42条第2項にいう「建築物が立ち並んでいる」という要件の解釈適用が問題になります。この第42条第2項は,一方で第43条によって厳しい接道要件が定められたことと,他方で,ある一つの道の周りに安定的に形成されている土地利用の現状を一定程度保護する必要があることとの兼ね合いで置かれた,政策的な規定だと考えられます。そうだとすれば,この要件は,その道が幅員4メートル未満であるために接道要件を満たさないことになるような建築物が立ち並んでいるという限定的な意味に解すべきものでしょう。本件通路に関しては,それに該当するのはEさんの家だけですから,この要件が満たされているとはいえないのではないでしょうか。

K:なるほど,それは主張として成り立つかもしれないね。ところで,Aさんは,そのほかに,旧甲川市の基準を旧乙山町の区域にも及ぼすという新市長の措置そのものにも御不満なのですよね。

A:そうです。

L:本件の場合,新市長が執った措置は,建築基準法施行細則による2項道路の一括指定というわけでして,これ自体が抗告訴訟の対象となる行政処分に当たることは,平成14年1月17日の最高裁判決で認められています。しかし,取消訴訟の出訴期間は既に経過しています。

K:要するに,問題は,一つには,Aさんの本件通路が2項道路に当たらないということを確定できるような訴訟のやり方だね。L君,さらに考えてみてください。もう一つには,Aさんは,本件売却予定部分の評価が低下することを御不満に思っておられるわけだけれども,Eさんとの関係では,実際上,低い評価価格で売却せざるを得ないという御事情もおありのようで,そうだとすると,そのような行政上の原因による不利益について原因者に損害賠償を請求するという方策も必要だね。普通の民事上の不法行為と対比して独特な問題も有り得るので,L君,注意して主張を整理してみてください。
 Aさん,次回の面談は一週間後ですから,行政相手の訴訟経験のあるL君に,だれに対してどのような訴訟を提起すれば,Aさんの御不満を適切にくみ取れるかを報告してもらいましょう。ただ,訴訟を提起するとなると,勝ち目というものを考える必要がありますから,彼の報告を聞きながら,方針をじっくり検討することにしませんか。

A:よろしくお願いします。

 

資料3 2項道路の制度について

 

(1) 建築基準法(以下「法」という。)第43条第1項によれば,法第3章(第8節は除く。法第41条の2から第68条の8まで)の規定が適用される区域(主として都市計画区域がこれに当たる。)においては,建築物の敷地は同法に規定する道路に2メートル以上接していなければならず(以下,これを「接道要件」あるいは「接道義務」という。),その要件を満たしていない敷地の建築物は違法建築物として建築基準法上の取締りの対象となる(法第9条)。そして,この場合に取締りの権限を有しているのは,特定行政庁である(特定行政庁については,法第2条第32号参照)。

  また,法第6条第1項各号に該当する建築物の建築(新築,増築,改築又は移転をいう。),大規模な修繕,大規模な模様替えをしようとする場合には,同条第2項に定める例外を除き,建築主事等に対して建築確認の申請をし,確認を受け,確認済証の交付を受けなければならず(法第6条第1項等),申請に係る建築物の計画が「建築基準関係規定に適合しない」等の場合には確認を受けることはできない(法第6条第5項等)。さらに,建築確認を受け工事を実施した建築主は,建築主事等による検査を受け,検査済証の交付を受ける必要があり(法第7条第1項等),この場合においても,建築物及びその敷地が建築基準関係規定に適合していない場合には検査済証の交付を受けることはできない(法第7条第5項等)。

(2) 以上のような接道要件を満たすための「道路」として,どのようなものがあるのかを規定しているのが,法第42条である。同条第1項によれば,まず,接道要件を満たすために必要となる道路には,①国道,県道等の道路法上の道路(同項第1号),②都市計画法,土地区画整理法等による道路(同項第2号),③「都市計画区域等における建築物の敷地,構造,建築設備及び用途」に関する法第3章の規定が適用されるに至った際現に存在する道(同項第3号)等であって,幅員4メートル以上のものが含まれる。したがって,幅員4メートル未満の道路に接しているだけでは法第43条第1項の接道義務を果たしたことにはならない。

  しかしながら,都市計画制度が未整備であった時期が長く続いた我が国にあっては,上記の接道要件を満たすことができない敷地は多く存在している。特に,建築基準法の前身である市街地建築物法においては,昭和13(1938)年改正前は,接道要件を満たし得る道路は幅員9尺(約2.7メートル)以上のものとされていた経緯があり,法第43条第1項の規定を厳格に適用すると,古くからの土地家屋を所有してきた者に対して酷な結果となりかねない。これらの土地家屋の所有者は,法第3条第2項の規定により,これまでの利用を維持できるものの(これを「既存不適格」という。),増改築や大規模の修繕等の行為をすることは許されなくなるからである。

(3) そこで,①交通,避難,防火,衛生上安全な状態に都市環境を保つために十分な道路への接合を敷地建物について要求する必要性と,②未整備な都市計画制度の下で以前より土地建物を所有してきた者の既存の利益を保障する必要性とを調和させる見地から設けられた制度が,法第42条第2項に規定する2項道路である。

  まず,同項によれば,①法第3章の規定が適用されるに至った際現に建築物が立ち並んでいる幅員4メートル未満の道であって,②特定行政庁が指定したものは,第1項の道路であるとみなされる(これを「2項道路」という。)。この規定により,狭あいな通路にのみ接道する敷地の所有者も,特定行政庁の指定を受ければ接道要件を満たすものとして取り扱われることになる。その一方,同項は,2項道路の中心線からの水平距離2メートルの線をその道路の境界線とみなす旨の規定を同時に置いているので,境界線の内側に現に存在している建築物等は2項道路に突出していることになる。

  そして,2項道路内に突出している建築物については,直ちに違法建築物として取り扱われることはない(法第44条第1項,法第3条第2項)ものの,いわゆるセットバック義務,すなわち,建築物の増改築,大規模の修繕等をしようとするときには,2項道路内の部分を除却する義務が生ずる(法第3条第3項第3号及び第4号)。

(4) 以上に述べてきたように,2項道路は,未整理で入り組んだ所有関係にある地域に古くから土地家屋を有してきた者の既得の利益を尊重しつつ,将来において良好な都市環境が形成されることを期待して設けられた制度である。

  なお,2項道路の指定の方法としては,道路を個別に指定する方式と,一定の条件(例えば,「幅員2.7メートル以上」)を満たす道路を一括して指定する方式とがあり,いずれも適法な指定方式であると考えられている。

 

資料4 建築基準法(昭和25年5月24日法律第201号)(抜粋)

 

(用語の定義)

第2条 この法律において次の各号に掲げる用語の意義は,それぞれ当該各号に定めるところによる。

一~三十一 (略)

三十二 特定行政庁建築主事を置く市町村の区域については当該市町村の長をいい,その他の市町村の区域については都道府県知事をいう。(以下略)

 (適用の除外)

第3条 (略)

2 この法律又はこれに基づく命令若しくは条例の規定の施行又は適用の際現に存する建築物若しくはその敷地又は現に建築,修繕若しくは模様替の工事中の建築物若しくはその敷地がこれらの規定に適合せず,又はこれらの規定に適合しない部分を有する場合においては,当該建築物,建築物の敷地又は建築物若しくはその敷地の部分に対しては,当該規定は,適用しない。

3 前項の規定は,次の各号のいずれかに該当する建築物,建築物の敷地又は建築物若しくはその敷地の部分に対しては,適用しない。

一,二 (略)

三 工事の着手がこの法律又はこれに基づく命令若しくは条例の規定の施行又は適用の後である増築,改築,大規模の修繕又は大規模の模様替に係る建築物又はその敷地

四 前号に該当する建築物又はその敷地の部分

五 (略)

 (建築物の建築等に関する申請及び確認)

第6条 建築主は,第1号から第3号までに掲げる建築物を建築しようとする場合(増築しようとする場合においては,建築物が増築後において第1号から第3号までに掲げる規模のものとなる場合を含む。),これらの建築物の大規模の修繕若しくは大規模の模様替をしようとする場合又は第4号に掲げる建築物を建築しようとする場合においては,当該工事に着手する前に,その計画が建築基準関係規定(この法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定(以下「建築基準法令の規定」という。)その他建築物の敷地,構造又は建築設備に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定で政令で定めるものをいう。以下同じ。)に適合するものであることについて,確認の申請書を提出して建築主事の確認を受け,確認済証の交付を受けなければならない。当該確認を受けた建築物の計画の変更(国土交通省令で定める軽微な変更を除く。)をして,第1号から第3号までに掲げる建築物を建築しようとする場合(増築しようとする場合においては,建築物が増築後において第1号から第3号までに掲げる規模のものとなる場合を含む。),これらの建築物の大規模の修繕若しくは大規模の模様替をしようとする場合又は第4号に掲げる建築物を建築しようとする場合も,同様とする。

一 別表第1(い)欄に掲げる用途に供する特殊建築物で,その用途に供する部分の床面積の合計が100平方メートルを超えるもの

二 木造の建築物で3以上の階数を有し,又は延べ面積が500平方メートル,高さが13メートル若しくは軒の高さが9メートルを超えるもの

三 木造以外の建築物で2以上の階数を有し,又は延べ面積が200平方メートルを超えるもの

四 前3号に掲げる建築物を除くほか,都市計画区域(都道府県知事が都道府県都市計画審議会の意見を聴いて指定する区域を除く。),準都市計画区域(市町村長が市町村都市計画審議会(当該市町村に市町村都市計画審議会が置かれていないときは,当該市町村の存する都道府県の都道府県都市計画審議会)の意見を聴いて指定する区域を除く。)若しくは景観法(平成16年法律第110号)第74条第1項の準景観地区(市町村長が指定する区域を除く。)内又は都道府県知事が関係市町村の意見を聴いてその区域の全部若しくは一部について指定する区域内における建築物

2 前項の規定は,防火地域及び準防火地域外において建築物を増築し,改築し,又は移転しようとする場合で,その増築,改築又は移転に係る部分の床面積の合計が10平方メートル以内であるときについては,適用しない。

3 (略)

4 建築主事は,第1項の申請書を受理した場合においては,同項第1号から第3号までに係るものにあつてはその受理した日から21日以内に,同項第4号に係るものにあつてはその受理した日から7日以内に,申請に係る建築物の計画が建築基準関係規定に適合するかどうかを審査し,審査の結果に基づいて建築基準関係規定に適合することを確認したときは,当該申請者に確認済証を交付しなければならない。

5 建築主事は,前項の場合において,申請に係る計画が建築基準関係規定に適合しないことを認めたとき,又は申請書の記載によつては建築基準関係規定に適合するかどうかを決定することができない正当な理由があるときは,その旨及びその理由を記載した通知書を同項の期限内に当該申請者に交付しなければならない。

6 第1項の確認済証の交付を受けた後でなければ,同項の建築物の建築,大規模の修繕又は大規模の模様替の工事は,することができない。

7 (略)

 (建築物に関する完了検査)

第7条 建築主は,第6条第1項の規定による工事を完了したときは,国土交通省令で定めるところにより,建築主事の検査を申請しなければならない。

2 前項の規定による申請は,第6条第1項の規定による工事が完了した日から4日以内に建築主事に到達するように,しなければならない。ただし,申請をしなかつたことについて国土交通省令で定めるやむを得ない理由があるときは,この限りでない。

3 前項ただし書の場合における検査の申請は,その理由がやんだ日から4日以内に建築主事に到達するように,しなければならない。

4 建築主事が第1項の規定による申請を受理した場合においては,建築主事又はその委任を受けた当該市町村若しくは都道府県の吏員(以下この章において「建築主事等」という。)は,その申請を受理した日から7日以内に,当該工事に係る建築物及びその敷地が建築基準関係規定に適合しているかどうかを検査しなければならない。

5 建築主事等は,前項の規定による検査をした場合において,当該建築物及びその敷地が建築基準関係規定に適合していることを認めたときは,国土交通省令で定めるところにより,当該建築物の建築主に対して検査済証を交付しなければならない。

 (違反建築物に対する措置)

第9条 特定行政庁は,建築基準法令の規定又はこの法律の規定に基づく許可に付した条件に違反した建築物又は建築物の敷地については,当該建築物の建築主,当該建築物に関する工事の請負人(請負工事の下請人を含む。)若しくは現場管理者又は当該建築物若しくは建築物の敷地の所有者,管理者若しくは占有者に対して,当該工事の施工の停止を命じ,又は,相当の猶予期限を付けて,当該建築物の除却,移転,改築,増築,修繕,模様替,使用禁止,使用制限その他これらの規定又は条件に対する違反を是正するために必要な措置をとることを命ずることができる。

2~15 (略)

 (道路の定義)

第42条 この章の規定において「道路」とは,次の各号の一に該当する幅員4メートル(特定行政庁がその地方の気候若しくは風土の特殊性又は土地の状況により必要と認めて都道府県都市計画審議会の議を経て指定する区域内においては,6メートル。次項及び第3項において同じ。)以上のもの(地下におけるものを除く。)をいう。

一 道路法(昭和27年法律第180号)による道路

二 都市計画法,土地区画整理法(昭和29年法律第119号),旧住宅地造成事業に関する法律(昭和39年法律第160号),都市再開発法(昭和44年法律第38号),新都市基盤整備法(昭和47年法律第86号),大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法(昭和50年法律第67号)又は密集市街地整備法(第6章に限る。以下この項において同じ。)による道路

三 この章の規定が適用されるに至つた際現に存在する道

四,五 (略)

2 この章の規定が適用されるに至つた際現に建築物が立ち並んでいる幅員4メートル未満の道で,特定行政庁の指定したものは,前項の規定にかかわらず,同項の道路とみなし,その中心線からの水平距離2メートル(中略)の線をその道路の境界線とみなす。ただし,当該道がその中心線からの水平距離2メートル未満でがけ地,川,線路敷地その他これらに類するものに沿う場合においては,当該がけ地等の道の側の境界線及びその境界線から道の側に水平距離4メートルの線をその道路の境界線とみなす。

3~6 (略)

 (敷地等と道路との関係)

第43条 建築物の敷地は,道路(次に掲げるものを除く。第44条第1項を除き,以下同じ。)に2メートル以上接しなければならない。ただし,その敷地の周囲に広い空地を有する建築物その他の国土交通省令で定める基準に適合する建築物で,特定行政庁が交通上,安全上,防火上及び衛生上支障がないと認めて建築審査会の同意を得て許可したものについては,この限りでない。

一 自動車のみの交通の用に供する道路

二 高架の道路その他の道路であつて自動車の沿道への出入りができない構造のものとして政令で定める基準に該当するもの(第44条第1項第3号において「特定高架道路等」という。)で,地区計画の区域(地区整備計画が定められている区域のうち都市計画法第12条の11の規定により建築物その他の工作物の敷地として併せて利用すべき区域として定められている区域に限る。同号において同じ。)内のもの

2 (略)

 (道路内の建築制限)

第44条 建築物又は敷地を造成するための擁壁は,道路内に,又は道路に突き出して建築し,又は築造してはならない。(以下略)

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 本問は,新司法試験の理念に基づき,第一に,時間内に問題文と資料から具体的事実関係及び法令の趣旨を的確に読み取って把握する能力が備わっているか否かを試すことに主眼を置いた。そして,第二に,行政法総論及び行政訴訟に関する知識を踏まえ,具体の事案に含まれた法的問題の所在を把握した上で適切な訴訟方法を選択し,及びそれと結び付いた本案の主張を整合的に展開することができるか,第三に,国家賠償法上の基礎的な知識を踏まえ,具体の事案において的確な主張を組み立てる力があるか,を試そうとしたものである。

 設問1は,判例の動向及び行政事件訴訟法の改正を踏まえて,市長の規則制定行為と,規則を前提とした2項道路該当性とについて,抗告訴訟及び当事者訴訟等の可能性を検討し,また,各訴訟形態にふさわしい本案の主張の可能性を検討して,それぞれ解答することを求めたものである。

 まず,訴訟方法に関しては,2項道路の一括指定について処分性は認められるが,出訴期間が経過していること(この点は資料に明示されている。)を前提として,いかなる形態の抗告訴訟が考えられるか(一括指定の無効確認訴訟等),及びセットバック義務不存在確認等の公法上の当事者訴訟は可能か,などを検討していることが求められる。

 次に,本案の主張に関しては,①規則自体が,財産権ないし既得の権利を侵害するものでないか,建築基準法における2項道路制度の趣旨に照らし同法の委任の範囲を超えるものでないか,合併後の新規則制定に当たって旧市町それぞれの特殊事情につき公正な考慮が尽くされたか等々の論点が考えられ,資料の記載を用いながらそれらの違法性の主張を一定程度理由付けることができているか否かが問われる。また,②2項道路該当性に関する職員の回答の中で,独立した二つの通路を一体ととらえて2項道路該当性を判断していること,及び建築基準法に規定された「立ち並んでいる」という要件を充足していると判断していることの適否が論点となることを,資料から読み取ることができるかが問われる。

 以上のほか,2項道路該当性に関する職員の上記の判断が誤りであるとの本案の主張は,一括指定処分の無効確認訴訟においては失当であることに気付いていること,行政事件訴訟法第36条の原告適格要件を本件に当てはめることができていることなども含めて,総合的に評価される。

 なお,本問は,問題文に引用された2項道路の処分性に関する最高裁判決そのものについて詳しく知っていることを,不可欠のものとして要求する趣旨ではない。

 設問2は,国家賠償法第1条の「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたとき」という諸要件の意義を正確にとらえ,それを本問の事案(市長の規則制定行為と,2項道路該当性についての照会に対する職員の回答)に具体的に当てはめることを求めたものであり,上記諸要件の本件への当てはめがどの程度できているかが,採点の対象となる。例えば,職員による回答行為の「公権力の行使」該当性,故意過失・違法性等について,資料の記載から一定程度具体的に理由付けることができているかなどは,評価に差が生ずるポイントとなる。

ヒアリング

新司法試験考査委員(公法系科目)に対するヒアリングの概要

(◎委員長,○委員,□考査委員)

◎考査委員の先生方は新司法試験の採点を終えられた直後であるので,採点の実感等について,率直な感想を聞かせていただきたい。司法試験委員会では,平成20年以降の新旧司法試験合格者数の一定の目安を示すための議論を行うことになっているが,その際にも先生方の御意見を参考とさせていただくつもりでいる。それでは,憲法担当の先生からお願いしたい。

□まず,短答式の試験結果についてである。昨年のプレテストの短答式は,公法系は全体の平均点は約40パーセント台であった。憲法は50点満点の60パーセント台,行政法は50点満点の20パーセント台という成績であった。しかし,たまたまよかったという可能性もあることを考慮して,憲法の考査委員としては本試験の短答式の問題作成に当たっては,出来るだけやさしくすることを心がけつつ作成した。実際,本試験が終わった後,いくつかの法科大学院の先生からは,「憲法の短答式問題はやさしかったですね。」と言われていた。しかし,第1回新司法試験の短答式では,全体の平均点が58パーセントだったが,行政法よりも憲法の方が悪かった。
 この結果を受けて,出題内容・方式等について検討した。判例を正確に読んでいるかなどを問う問題が中心であり,法科大学院において教育されているべき内容に沿った問題といえるので,出題の方向性や出題内容という点では間違っていなかったと思っている。平均点が思ったよりも悪かった原因は,例えば,出題形式にあったと思われる。正しいものに1,誤っているものに2を付けなさいという形式の出題が,全20問のうち9問あった。この出題形式の場合,枝問は4つあり,4つ全部出来て3点,3つ出来て部分点1点を与えている。しかし,4つの枝問すべてを正解するのがなかなか難しかったのではないか,また,3つ以上正解しないと点数に結びつかない形式なので,この出題形式が点数が伸びなかったひとつの原因ではないかと考えている。このような形式で出題する場合の枝問の作り方等,来年に向けて検討したいと思っている。
 次に,論文に関してであるが,これからお話しする印象は憲法の考査委員全体で話し合った共通の見解ではなく,私の個人的な印象であることをお断りしておきたい。私は,全体答案の約4分の1に当たる420通を採点した。憲法の論文問題で問うている最も核心的問題をきちんととらえ,論じている答案が1通もなかった。今回の論文問題の基礎には,「自由とは何か」という極めて根本的な事柄に関する問いがある。それをとらえた上で,個別・具体に検討する答案が,私が採点したものの中にはなかった。出題側としては,極めて残念であった。ただ,執筆するのに十分時間があり,執筆するのに参考文献も読むことができる法科大学院の教員が法律雑誌に解説を書いている中にも,不適切,不十分な解説がある。そのことを考慮すると,限られた時間の中で,考え,資料を読み,書かなければならない受験生が出来なかったとしても,責めることはできないようにも思われる。出題した問題に直接かかわる判例はないが,受験生が問題を自ら発見し,その問題にどういうアプローチがあり得るのか,何を論じなければならないのかを自ら考えることを求めた問題である。そして,資料を読んで,事実に関わるところも踏まえて,机上の空論だけではない憲法論を考え抜いてほしいという「おもい」で作った問題である。本年の論文問題におけるそのような基本的姿勢は,間違っていなかったと思っている。ただ,受験生が問題を解く時間との関係で資料の分量が多かったのではないかとは思っており,この点は来年に向けた反省点である。
 最終合格者の決定を終えた今,旧司法試験考査委員でもあったが,そのときと同じ危惧を抱いている。つまり,予備校や受験にかかわる雑誌では,採点者からすると優秀答案(模範答案)とはいえない,合格者が書いた再現答案が「優秀答案」として扱われる。受験生は,それを「模範答案」として暗記する。こうして,優秀とはいえない答案が,しかもパターン化して蔓延することになる。今回も,採点して,実際の答案は,出題者の意図からずれてしまっていたことから,そのような答案が蔓延することになるのではないかと危惧している。旧司法試験と同様の現象が起これば,法科大学院教育の「崩壊」を,ひいては新しい法曹養成制度自体への疑問を呼び起こすことになるのではないか,と懸念する。法科大学院教育の「崩壊」を防止するためには,なお一層,教える側に広く,深い研究に裏付けられた教育を行うことが求められる。そのような教育とは,私見を押し付けるのではなく,豊かな感受性でもって問題を発見し,深い理性と温かい心をもって多面的に問題を検討し,そして筋の通った結論を導き出す能力を養成する教育であると思われる。

□私の方から,出席していない行政法の各委員の意見について報告する。まず,出題趣旨について簡単に申し上げる。行政法としては,時間内に問題文と資料から具体的事実関係及び法令の趣旨を的確に読み取って把握する能力が備わっているか否かということを試すというのを主眼に置いた。その上で設問1は,主として訴訟方法の選択の問題であるが,行政法総論及び行政訴訟に関する知識を踏まえて,具体の事案に含まれた法的問題の所在を把握した上で,適切な訴訟方法を選択し,それと結び付いた本案の主張を整合的に展開できるかということを試している。それから設問2は,国賠法の問題であり,国家賠償法上の基礎的な知識を踏まえ,具体の事案において的確な主張を組み立てる力があるかということを試そうとしたものである。
 以上を前提にして,採点実感のうち,設問1と2の出題意図に即した答案の存否,多寡,それから出題時に予定していた解答水準と実際の解答水準の差異について説明する。各委員の共通の認識として,設問1については,答案の多くは出題者が想定していた基本的な枠組みに沿って解答を組み立てることが出来ていたということである。それから設問2については,設問1に比べると記述の厚みに欠ける答案が多かったものの,答案の多くは基本的には的確な理解を示す記述をしていたということである。各個別の委員の感想について,いくつか紹介すると,「高得点を得た答案がかなりの割合で存在し,白紙に近い答案や適切な記載がわずかしかない答案も少ない割合ながら見られた。」,「全体としてまあまあの出来,しかし,明らかに時間切れと思われる答案も多い。」,「ほぼ例外なく一般論,抽象論に終始することなく具体的事案に当てはめて,答えようとする答案であったためよい印象を受けた。その前提としてどの答案も資料をよく読み込んでいた。」,「予定した解答水準であったと言ってよい。」,「実務にこれから出ようとする時点で行政法について最低限知っておくべきこと,あるいは,当てはめ能力としては多くの答案が十分な資格を有している。」などとかなり肯定的な意見であった。他方,「一部白紙に近い答案や適切な記載がわずかしかない答案もあった。」とか,「第2問の国賠法の方が若干記述の厚みに欠ける。」という指摘がある。この辺の原因についての各委員の見解についてであるが,出題の意図と実際の解答に差異がある場合の原因については,「憲法と行政法との間の時間配分に失敗し,行政法に十分な時間を割くことが出来なかったのではないか。」,「行政法の中でも設問2の方,国賠法の方は,出来,不出来がかなりはっきり出ていた。不出来な答案というのは明らかに時間不足の答案が多かった。結局これは第1問の憲法とそれから第2問の行政法の方でも資料を読み込んでいるうちに時間が不足してしまったのではないか。」という指摘もある。それから,厳しい指摘としては,「与えられた資料,法文から重要な事実を読み取り,それらに法令,判例理論を適切に当てはめることによって適切な結論を導き出す能力,基礎的知識を養成するという法科大学院の教育理念が一部の法科大学院においては,十分に学生に徹底されていなかったことが考えられる。」という指摘がある。設問2の出来がよくなかった点については,「国賠法の問題について正面から,注意義務,すなわちこれは過失要件,あるいは国賠法の違法要件ということであるが,注意義務について論じている答案が少ないとの認識を持った。これは,事例に則して,そこまで言及,検討する教育が行われていないということではないかと推測される。」という指摘もある。このような点を踏まえて,法科大学院に求めるものとして,厳しい指摘をされた委員の方は,「与えられた資料,法文から重要な事実を読み取り,これらに法令,判例理論を適切に当てはめることにより適切な結論を導き出すという能力,基礎的知識を養成するという点を各法科大学院の責任において検討されることを望む。」という意見がある。
 それから,国賠法の要件についての検討が十分にされていないという指摘をされた先生は,「各要件に即して考える癖を付けることは重要であり,また,過失認定という研究者教員にとっては少々教えづらい問題についても少なくともどういうふうにアプローチするのかという程度の教育は意識的に行う必要がある。」という指摘をしている。他の意見を紹介すると,例えば,「いたずらに細かい知識を追うのではなく,基礎的,基本的な知識を与えられた事案に的確に当てはめ,応用できる能力を身に付けさせる教育に力を入れてほしい。」という意見がある。それから,実務家の委員からは,「今回の出題では,訴訟形態のことを訊いているので,出来るだけオーソドックスな訴訟で最大限の効果を上げるという極めて実務的な能力が不可欠である。そのためには行政事件訴訟法の条文をしっかりと理解すること,それから判例百選等の基本的な判例をきちんと読込むことなどに重点を置いてほしい。さらに,余裕があれば判例雑誌や裁判所のホームページで行政事件の最新の裁判例を読み,具体的に生起する事象に対する行政訴訟による対応を考察してほしい。」という指摘をされた委員がいる。以上が法科大学院に求めるものである。
 今回の結果を受けて,新司法試験の出題に当たり見直すべき点については,資料の減量を指摘された委員がいた。ただし,実際には行政法の特質から,資料の減量はかなり困難ではないかという意見も一緒に述べている。

□行政法に関して,委員の意見を客観的にまとめたものは,今,説明があったとおりである。個人的な感想を付け加える。短答式試験の関係であるが,行政法については次のようないきさつをたどっている。プレテスト問題は非常に難しかったという感想を受け,今回は行政法の出題に関しては,プレテストのときよりも一層やさしくすることに努めた。その結果が今回のような結果になっていると思われる。短答式試験は,行政法は初めての経験であるので,初回はやさしいものであっても,今後は,様子を見つつ,少しづつ,長期的には難しくしていければいいのではないかと思っている。それから,論文式試験については,先ほども説明があったように,十分な資料を与え,そこから正しい答えを引き出してくるということを主眼において出題をしたので,一応の答えは比較的容易に出来るはずである。ただその先の解釈論上の論点に気が付いて検討することは,実務家,あるいは研究者の間でも議論になるような高度な論点も含まれている。色んなレベルの能力を評価できる問題のつもりで出した。結果的には上の方のレベルの答案はほとんどなかった。下の方に関して言えば,一応は書けているというのがかなりあるという印象である。もちろん,そのくらいのレベルで果たしてよいのかというのはまた別個の問題である。御承知のとおり,日本の行政訴訟の実務というのは事件の件数もまだ少なく,行政訴訟の実務のレベルが平均的にはまだまだであると私は認識している。中には大変優れた判決,優れた訴訟活動の事例もあるが,一般的な法曹のレベルはまだまだであるので,差し当たり先ほどのようなレベルで法曹養成の目標を定めるとしても,それは現状を改善していくことにそれなりに役に立つのではないかと思われる。それから,法科大学院との関係,あるいは,学生の勉強との関係で言うと,実務行政法というか,法曹になるための行政法の勉強の仕方というのは,まだ確立されていない。各法科大学院も手探りでやっているところであるので,そのための教科書なり教材なりというものもこれから開発しなければならないという段階である。最初に言ったように,プレテスト後,学生諸君はかなり行政法を勉強してくれたという印象を持っている。それが今後教材の開発や教育方法の改善も加わって,だんだん全体としてレベルが上がっていく,それに応じて,出題採点のレベルも次第に上げていければと,私としてはそのような見通しを持っている。

□他の憲法の考査委員の意見の概要を紹介する。既に説明のあった内容と共通する点も多いと思われるが,かなりよかったのではないかという印象を述べた委員と,逆に,かなり期待はずれであったという印象を述べた委員が,それぞれおられた。ただ,その具体的な内容を比較すると,共通点も少なくないように思われた。具体的に申し上げると,予想よりはよかったとか,法科大学院の教育の成果が現れているといった肯定的な印象を述べた委員からも,問題点を把握してきちんと書いている答案はほんの一握りに過ぎない,出来のいい答案はそれほど多くはないとの指摘がなされており,きちんと出題者の意図をとらえて問題点を分析,把握して記述している答案は少ないという印象であったように思われる。また,悲観的になったとか,残念であったという印象を述べた委員のコメントを見ると,問題点を事実に照らしてきちんと把握できていない,例えば,本問におけるたばこに対する警告表示がどういう自由権を制約するのかきちんと分析しないまま非常に表面的な記載で終わっているものが多いとか,大きな論点である消極的表現の自由には触れているものの,その内容をきちんと把握しないまま記述しているものが多いといった指摘がなされている。こういった意見をまとめてみると,今回の出題は,豊富な資料を提供して事実の分析を求め,憲法規範の的確な理解のもとに,何が問題となるのかを把握し,その問題に関係する事実を資料から抽出した上で,複眼的な立場から憲法規範を当てはめることが出来るかどうかを問う問題であったが,こういった事実の分析や抽出が十分出来ておらず,表現の自由の問題のようだということから,すぐ合憲性判断の基準といった解釈についての記述に飛んでしまう答案が多く,採点者から見ると,法律実務に重要な事実の分析や抽出が抜けているという印象を受けたのではないかと思われる。消極的表現の自由が問題なのであれば,たばこに対する警告表示を義務付けることがどういう意味で消極的表現の自由の問題になるのかをきちんと説明した上でないと次のステップに本当は移れないはずなのに,そこを飛ばしてしまう答案が多かったということであろう。その反面,一応の問題点の把握は出来ており,そういう意味でそれなりの記述がされている答案は少なくなかったので,旧試験の答案に多く見られたような紋切り型の答案からは脱却傾向にあるのではないかという肯定的な評価をすることも可能であり,委員の期待値によって評価が変わったのではないかと思われる。

○行政法の出題では,どのようなところが重要な問題となり,受験生や法科大学院生には,どのような勉強を求めるというメッセージを伝えたことになるのか。

□最初に出題意図ということで,説明したことであるが,行政法は,いわば,種々雑多な法令の中でどうやって筋を通してものを考えるかということもある。種々雑多な制度の仕組み全部を暗記せよということでは決してない。事実に関する資料も,それから制度に関する資料も問題に付けているので,与えられた条文や説明などから制度の趣旨あるいはポイントをきちんととらえることが行政法にとって基本的なスキルであり,それをまず訊きたいと考えていた。私の印象では,半分以上の受験生は,資料は正確に読み取ってそこに書いてあることは理解していた。しかし,その先に,実は隠された論点があるわけであるがそこまではなかなか気付いてもらえなかったということである。

○もう一つお聞きしたかったのは,従来の試験では,いわゆる画一的で,論点主義,記憶に頼った答案というのがよく見られるというのはしばしば指摘されてきたところであるが,今年の行政法の答案では,そのような印象を受けるものがあったのかどうか,また,数字で表すのは難しいかもしれないが,あったとすればどれぐらいの割合で見られたかを教えていただきたい。

□画一的と言われると,確かにそういう印象を受ける点はある。しかし,どういう意味で画一的かということもあるが,非常に平板な,つまり,概念とその定義を機械的に暗記していて,それをただ書き並べるということであるとすれば,今回の答案はそういう感じでは必ずしもなかった。生の資料から書かせるので,手持ちの概念から書き始めるのは,そもそも難しいところがある。ただ,別の意味では画一的とみ得る点もある。この問題は行政の一連の活動についての争い方を問うているわけであるが,今の行政事件訴訟法でいうと,行政処分というものをとらえて,取消訴訟なり,無効確認訴訟を起こすというのがオーソドックスなやり方であるので,そのオーソドックスなやり方にとらわれて何とかして処分を見つけてそれを取消訴訟に結びつけるという,ただその一つの解法しか頭にない。
 そこで,なんとしても処分を見つけたいという発想で,ある事実に行くわけであるが,それはいまの判例から見ればそんなものに処分性は到底認められないような事実なわけである。にもかかわらず,そこへ非常にたくさんの学生が,いわば魚が網に誘い込まれるように行ってそこで長々と書いている。そういう意味では,与えられた事実の中からバランスよく問題の所在をまずつかんでバランスよく議論を組み立てていくという能力がまだ足りないという印象を持っている。

□よく他の科目で聞くような,各論点に対する記述のパターン化というような指摘が,行政法の委員の先生からはあまり出ていないように思われる。今回の行政法の問題は,そのようなことではなかなか対応しきれなかったのではないかと個人的には思う。

○法科大学院での行政法の指導方法が良かったということになるのではないか。

□そういうことではないと思われる。今回の問題は,およそ論点の丸暗記では答案の一行の書き出しもできない。ただ,法科大学院で教えてほしいバランスのよい状況のとらまえ方は,まだだと思われる。

○資料を読んで組み立てるということで,丸暗記型の勉強では対応できない非常によい出題だと思われるが,今の法科大学院の行政法の教え方は,こういうような形の題材を使って,細かくトレーニングするやり方が多いのか。もちろん大学によって,違うと思われるが,今の法科大学院における行政法の教え方はどのようになっているのか。

□私が認識している限りのことであるが,一昔前の行政法の教科書は概念を体系的に説明したものであった。今でも教科書は基本的には同じである。それに対して,新しく始まった法科大学院での教育は,判例教材を使って行われているところが多い。判例を読ませて論点について考えさせるのが主流だと思われる。教材と教え方との間にギャップがまだあることが問題だと思われる。今回の問題は,実は判例があるが,行訴法の改正もあり,行政訴訟についての考え方もちょっと流動的になっているので,このような状況では他にも色んな可能性があるのではないかということをもう一度考えてもらいたいところであった。判例を踏まえつつ,しかし,判例から距離をおいて自分でものを考えてみるという能力を養うための教材というのは,いったいどういうものだろうかと,私自身,この問題の作成に関わり,採点しながら,それが今後の行政法教育における課題だと思った。

○判例の結論の部分を憶えるだけだと,あまり進歩がなく,具体的な事例を前提に判例で展開されたロジックであるとか,考え方を勉強することによって,いわば汎用性が出てくるようになるのだと思われる。私はこの問題を拝見して,そういう意味で実務にもつながるよい問題だという印象を受けた。

□採点結果を踏まえて,憲法の論文問題について,前述した全体的感想よりもやや踏み込んで述べておきたい。今年の問題では,それぞれ異なる3つの立場から論じることを求めた。それは,多元的・多面的思考能力を問うものでもある。第1問の1では,依頼者の希望に応じてどういう訴訟を提起するか,を尋ねた。サンプル問題のときには,どういう問題があるかを「簡潔に述べなさい」という尋ね方であった。「簡潔」ってどう書けばよいのか,どこまで書けばよいのか分からないという声が寄せられた。また,プレテストでは「箇条書きにしなさい」という尋ね方をしたら,箇条書きってどう書くのか分からないという声が寄せられた。そこで,今年の問題では,損失を回復したいし,損害賠償を求めたいという依頼者の希望に応じた訴訟という,かなり絞った形で尋ねた。それゆえか,この問いに関してはかなりの人が書けていた。しかし,第1問の2の部分,つまり憲法論としての核心的問題にかかわるところであるが,前述したように,十分にとらえられていなかった。教科書・概説書では,一般に,表現の自由の中で消極的自由という概念は説明がされていない。しかし,それは,自由論そのものの中で論じられる。強制からの自由と選択の自由である。今回の問題では,自分の意見でない他者の意見を自分のパッケージに記載することを義務付けられることの問題性であるから,強制からの自由を巡る問題である。受験生は,この基本的問題に気付いてくれなかった。その点で,出題側の期待との間にズレがあった。また,パターン的答案も目だった。とりわけ,それは,営業の自由の問題だと論じている答案で目立った。問題となった法律の立法目的は複合的目的であることを依頼者も認めているにもかかわらず,また,目的の問題性は問わないと述べているにもかかわらず,単純に消極目的・積極目的二分論で書く傾向が見られた。具体的判断に関しても,手段の合憲性を論じる際に関係する資料を出しておいたが,それらが十分に活かされていない印象がある。出題側としては,特定の答えを想定しているわけではなく,受験生が資料等を用いてどのような結論を導き出すのか,楽しみにしていた。例えば,タバコの値段を上げることの方が有効な手段である,といったような主張をする答案も出てくるのではと楽しみにしていたが,残念ながら,そのような答案はなかった。

□行政処分については普通は取消訴訟で争うが,その出訴期間が切れていることは問題文に書いてある。そうすると,次に,無効確認訴訟の可能性があると想起されるはずである。
 しかし,無効確認訴訟は,出訴期間が無い代わりに特別の無効事由を主張しないといけない。大体この程度まで理解できている人が半分以上いるという印象であった。プレテストのときにはその程度のことも書けていない答案が多かったが,今回はその程度のことは理解出来ていると思われた。

□前半部分で比較的こちらの想定していた基本的な論点について,解答を満たしているところで印象がよくなったので,後半部分の国賠法の要件の当てはめのところが,十分出来ていなかったのは時間切れのせいではないかと受け止めた考査委員が比較的多かったようである。おおむね全答案の約60パーセントが合格という点については,他の行政法委員の先生も異論はないのではないかと思われる。