平成30年新司法試験刑事系第2問(刑事訴訟法)

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[刑事系科目]

〔第2問〕(配点:100)
 次の【事例】を読んで,後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。

【事 例】

1 平成30年1月10日午前10時頃,A工務店の者と名乗る男が,H県I市J町のV方を訪問し,V(70歳,女性)に対し,無料でV方の修繕箇所の有無を点検する旨申し向け,Vの了解を得て,V方を点検した。その男は,実際には特段修繕を要する箇所などなかったにもかかわらず,Vに対し,「屋根裏に耐震金具は付いていますが,耐震金具に不具合があって,このまま放っておくと,地震が来たら屋根が潰れてしまいます。すぐに工事をしないと大変なことになります。代金は100万円です。お金を用意できるのであれば,今日工事をすることも可能です。」などと嘘を言ってVをだまし,V方の屋根裏の修繕工事を代金100万円で請け負った。その男は,Vから,「昼過ぎであれば100万円を用意できるので,今日工事をしてほしい。」と言われたため,同日午後1時頃,再度,V方を訪問し,Vから工事代金として現金100万円を受領し,領収書(以下「本件領収書」という。)をVに交付した。その後,その男は,V方の修繕工事を実施したかのように見せ掛けるため,形だけの作業を行った上で,Vに対し,工事が終了した旨告げて立ち去った。
 本件領収書の記載内容は【資料1】のとおりであり,.の部分にA工務店の代表者として甲の名字が刻された認め印が押されているほかは,全てプリンターで印字されたものであった。

2 Vは,同日午後7時頃,Vの長男WがV方を訪問した際に前記工事の話をしたことを契機に,詐欺の被害に遭ったことに気付き,Wから,犯人が言った内容を記載しておいた方がよいと言われたため,その場で,メモ用紙にその内容を記載した(以下「本件メモ」という。)。
 本件メモの記載内容は【資料2】のとおりであり,全ての記載がVによる手書き文字であった。
 翌11日,V及びWは,警察署に相談に訪れた。Vは,司法警察員Pに対し,本件領収書及び本件メモを提出した上で,「100万円の詐欺の被害に遭いました。犯人から言われた内容は,被害当日にメモに書きました。犯人は中肉中背の男でしたが,顔はよく覚えていません。ただ,犯人が,『A工務店』と書かれたステッカーが貼られた赤色の工具箱を持っていたことは覚えています。ステッカーは,直径5センチメートルくらいの小さな円形のもので,工具箱の側面に貼られていました。」と説明した。Wは,Pに対し,「提出したメモは,昨夜,母が,私の目の前で記載したものです。そのメモに書かれていることは,母が私に話した内容と同じです。」と説明した。

3 Pらが所要の捜査を行ったところ,本件領収書に記載された住所には,実際にA工務店の事務所(以下「本件事務所」という。)が存在することが判明した。
 本件事務所は,前面が公道に面した平屋建ての建物で,玄関ドアから外に出るとすぐに公道となっていた。また,同事務所の前面の腰高窓にはブラインドカーテンが下ろされており,両隣には建物が接しているため,公道からは同事務所内を見ることができなかった。
 Pらは,同月15日午前10時頃,本件事務所付近の公道上に止めた車両内から同事務所の玄関先の様子を見ていたところ,同事務所の玄関ドアの鍵を開けて中に入っていく中肉中背の男を目撃した。その男が甲又はA工務店の従業員である可能性があると考え,①Pは,同日午前11時頃,その男が同事務所から出てきた際に,同車内に設置していたビデオカメラでその様子を撮影した。Pが撮影した映像は全体で約20秒間のものであり,男が同事務所の玄関ドアに向かって立ち,ドアの鍵を掛けた後,振り返って歩き出す姿が,容ぼうも含めて映っているものであった。
 Pがその映像をVに見せたところ,Vは,「この映像の男は,犯人に似ているような気がしますが,同一人物かどうかは自信がありません。」と述べた。
 その後の捜査の結果,A工務店の代表者が甲という氏名であること及び前記映像に映っている男が甲であることが判明した。
 Pらは,引き続き本件事務所を1週間にわたって監視したが,甲の出入りは何度か確認できたものの,他の者の出入りはなかったため,A工務店には甲のほかに従業員はいないものと判断して監視を終えた。
 Pらは,その監視の最終日,甲が赤色の工具箱を持って本件事務所に入っていくのを目撃した。Pらは,同工具箱に「A工務店」と書かれたステッカーが貼られていることが確認できれば,甲が犯人であることの有力な証拠になると考えたが,ステッカーが小さく,甲が持ち歩いている状態ではステッカーの有無を確認することが困難であった。そこで,Pらは,同事務所内に置かれた状態の工具箱を確認できないかと考えた。しかし,公道からは同事務所内の様子を見ることができなかったので,玄関上部にある採光用の小窓から内部を見ることができないかと考え,向かい側のマンションの管理人に断った上で同マンション2階通路に上がったところ,同小窓を通して同事務所内を見通すことができ,同事務所内の机上に赤色の工具箱が置かれているのが見えた。そして,Pが望遠レンズ付きのビデオカメラで同工具箱を見たところ,同工具箱の側面に,「A工務店」と記載された小さな円形のステッカーが貼られているのが見えたことから,②Pは,同ビデオカメラで,同工具箱を約5秒間にわたって撮影した。Pが撮影したこの映像には,同事務所内の机上に工具箱が置かれている様子が映っているのみで,甲の姿は映っていなかった。
 Pがその映像をVに見せたところ,Vは,「犯人が持っていた工具箱は,この映像に映っている工具箱に間違いありません。」と述べた。
 その後,Pは,Vの供述調書を作成するためにVの取調べを実施しようとしたが,その直前にVが脳梗塞で倒れたため,Vの取調べを実施することはできなかった。Vの担当医師は,Vの容体について,「今後,Vの意識が回復する見込みはないし,仮に意識が回復したとしても,記憶障害が残り,Vの取調べをすることは不可能である。」との意見を述べたため,Pは,Vの供述調書の作成を断念した。

4 Pらは,同年2月19日,甲を前記1記載の事実に係る詐欺罪で通常逮捕するとともに,本件事務所等の捜索を実施し,甲の名字が刻された認め印等を押収した。そして,甲は,同月21日,検察官に送致され,引き続き勾留された。
 甲は,検察官Qによる取調べにおいて,「V方に行ったことはありません。」と述べて犯行を否認した。
 その後,捜査を遂げた結果,本件領収書から検出された指紋が,逮捕後に採取した甲の指紋と合致するとともに,本件領収書の印影と前記認め印の印影が合致したことなどから,Qは,同年3月12日,甲を前記詐欺の事実で公判請求した。

5 甲は,同年4月23日に行われた第1回公判期日において,前同様の弁解を述べて犯行を否認した。
 Qは,本件領収書の印影と前記認め印の印影が合致する旨の鑑定書,本件領収書から検出された指紋と甲の指紋が合致する旨の捜査報告書,Vから本件メモ及び本件領収書の任意提出を受けた旨の任意提出書等のほか,③本件メモ及び④本件領収書の取調べを請求した。Qは,本件メモの立証趣旨については,「甲が,平成30年1月10日,Vに対し,本件メモに記載された内容の文言を申し向けたこと」,本件領収書の立証趣旨については,「甲が平成30年1月10日にVから屋根裏工事代金として100万円を受け取ったこと」であると述べた。
 弁護人は,前記鑑定書,前記捜査報告書及び前記任意提出書等については同意したが,本件メモについては不同意,本件領収書については不同意かつ取調べに異議があるとの証拠意見を述べた。その後,Wの証人尋問が実施され,Wは,前記2のWがPに対して行った説明と同旨の証言をした。

 〔設問1〕 下線部①及び②の各捜査の適法性について,具体的事実を摘示しつつ論じなさい。
〔設問2〕
1.下線部③の本件メモの証拠能力について,立証趣旨を踏まえ,具体的事実を摘示しつつ論じなさい。
2.下線部④の本件領収書の証拠能力について,立証趣旨を踏まえ,立証上の使用方法を複数想定し,具体的事実を摘示しつつ論じなさい。ただし,本件領収書の作成者が甲であり,本件領収書が甲からVに交付されたものであることは,証拠上認定できるものとする。


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