A株式会社の取締役である甲は,A社の代表取締役ではないにもかかわらず,代表取締役であった父親が死亡した際に,取締役会の決議を経ることのないまま,議事録を作成して,A社の代表取締役に就任した旨の登記をした。
甲は,振出人を「A株式会社代表取締役甲」とし,受取人をBとする約束手形をBに対して振り出した。さらに,Cは,この手形を裏書によりBから取得した。
Cは,どのような場合に,だれに対して手形金の支払を請求することができるか。
本問は,自ら代表取締役である旨の虚偽の登記をした取締役がその会社の代表取締役の名称で振り出した約束手形の効力について,不実登記の効力,表見代表取締役等の表見法理による第三者保護規定との関係において整理された論述をすることができるかどうかを見る点に主眼がある。手形行為と表見代理,代理権の瑕疵と手形の転得者の保護等についての基本的理解を踏まえて類似事例を処理する応用力が試されるが,それとともに,裏書人の担保責任,無権代理人の責任についての言及も求められる。