平成22年旧司法試験商法第1問

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株式 - 株式の譲渡・株主名簿

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 Y株式会社は,①取締役会設置会社であるが,委員会設置会社ではなく,②株券発行会社ではなく,種類株式発行会社でもない会社であり,また,「社債、株式等の振替に関する法律」の規定による株式の振替制度も採用しておらず,③定款で,定時株主総会における議決権行使及び定時株主総会における剰余金の配当決議に基づく剰余金の配当受領の基準日を毎年3月31日と定めている。

 Xは,Y社の株式を保有する株主名簿上の株主であったが,その株式すべて(以下「本件株式」という。)をAに譲渡した(以下「本件譲渡」という。)。Y社は,平成22年6月に行われた定時株主総会における剰余金配当決議に基づき,本件株式について配当すべき剰余金(以下「本件剰余金」という。)をAに支払った。

 以上の事実を前提として,次の1から3までの各場合において,XがY社に対して本件剰余金の支払を求めることができるかどうかを検討せよ。なお,1から3までの各場合は,独立したものとする。

1 Y社は,その発行する全部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について会社の承認を要すること(以下「譲渡制限の定め」という。)を定めており,本件譲渡が平成22年3月10日に行われたとする。この場合において,Xも,Aも,Aによる取得の承認の請求をせず,本件株式に係る株主名簿の名義書換請求もされなかったが,本件譲渡の事実をAから聞いたY社の代表取締役Bが本件剰余金をAに支払ったとき。

2 Y社は,譲渡制限の定めを定めておらず,本件譲渡が平成22年4月1日に行われたとする。この場合において,本件株式に係る株主名簿の名義書換請求はされなかったが,本件譲渡の事実をAから聞いたY社の代表取締役Bが本件剰余金をAに支払ったとき。

3 Y社は,譲渡制限の定めを定めておらず,本件譲渡が平成22年3月10日に行われたとする。この場合において,同月15日にXとAが共同でY社に対して株主名簿の名義書換えを請求し,Y社はこれに応じたが,AがY社から本件剰余金の支払を受けた後,Xが成年被後見人であったことを理由として本件譲渡が取り消されたとき。

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 本問は,株券発行会社ではなく,かつ,株式の振替制度も採用していない株式会社において,株式の譲渡がされた場合に関し,①譲渡制限株式の譲渡承認がなく,株主名簿の名義書換えがされていない事案,②基準日後に当該譲渡がされ,名義書換えがされていない事案及び③名義書換えがされた後に当該譲渡が取り消された事案のそれぞれについて,当該株式会社が当該株式の譲受人を株主として取り扱うことができるかどうかを問うものである。解答に際しては,譲渡承認機関による承認がない場合の法的状態,基準日制度の趣旨,譲受人の権利推定効なくしてされた株主名簿の名義書換えの効力について,整合的な論述をすることが求められる。