2023年度 慶應義塾大学法科大学院入学者選抜 傾向と対策 ~ 試験日:既習者コース9/3(土)・未修者コース9/4(日)

慶應ロー受験生必見! 
緊急徹底解説
2023年度 慶應義塾大学法科大学院入学者選抜
傾向と対策

(法学未修者コース・法学既修者コース共通です。)
 
試験日が来週の土日(9月3日・4日)に迫ってしまいましたので、緊急にリリースしました。
なお、本文については「である調」となっています。あらかじめご了承ください。
また、長文につき、目次もご活用ください。
| 目次

1 基本データ
2 入試分析
  (1)2023年度入試日程
  (2)昨年度入試実績
  (3)2023年度入試における募集人員と今年度入試に与える影響の考察
3 過年度および2023年度ステートメント課題の分析
  (1)今年度と過去のステートメント課題文の変更点について
  (2)2023年度のステートメント課題文について
     ア.2023年度課題文
     イ.課題文の読解と分析
4 過去問の傾向と分析,2023年度入試対策(上三法)
  (1)過去問分析,傾向と対策
     ア.入試総論
     イ.憲法(法学既修者)
       民法(法学既修者)
       刑法(法学既修者)
       商法(法学既修者)
       民事訴訟法(法学既修者)
       刑事訴訟法(法学既修者)
       小論文(法学未修者)
   (2) 2023年度入試対策(主要3科目。下三法については上記で記載済)
     ア.憲法
     イ.民法
     ウ.刑法
おわりに

1 基本データ

(1)所在地
東京都港区三田2-15-45 慶応義塾大学三田キャンパス内 南館
南館や施設データについては、https://www.ls.keio.ac.jp/gaiyou/equipment.html 参照

(2)ア.入学に必要な諸費用(2022年度実績)と、イ.授業料等納付後に辞退する場合の入学費用償還請求の可否について
ア.入学に必要な経費
・第1次入学手続:入学金10万円
・第2次入学手続:在籍料30万円、授業料110万円、施設設備費18万円、
その他の費用12,240円
・第1次・第2次年間支払費合計:1,692,240円(昨年公表比+10万円。分納可)
→日本全国の法科大学院のなかで最高額の費用負担が生じることは否めない。 他方で、入学試験成績優秀者に対する学費免除制度等も設けられている(同制度の過年度採用枠:既習未修合計で16名。専門実践教育訓練給付金等対象校)

イ.授業料等入学費用納付後に辞退する場合の入学費用償還請求について
・例:2023年1月に合格発表の一橋大学法科大学院等に合格し、辞退する場合
→所定の方法により入学辞退の手続きをすれば、入学金を除くすべての入学に関する費用は受験生に返還される(募集要項19頁「6-4.入学辞退・在籍料などの返還」項目参照)。要は、大学院側が所定する必要手続きを経て入学辞退手続きを行えば、入学金を除いた授業料など支払分全て返還される。

2 入試分析

(1)2023年度入試日程

ア.試験日
法学既習者コース:2022年9月3日(土曜)
法学未修者コース:2022年9月4日(日曜)
→一昨年度と異なり、追試験など特別措置を講じる予定はない(8月23日現在)

イ.合格発表日
2022年9月13日(火曜) 午前10時

ウ.前年度との変更点と考察
①昨年度同様、早稲田大学法科大学院入試(9/17~)前に合格発表がなされる。
なお、一昨年度までとは異なり、法学既修者コースの入学試験実施時間中に中央大学法科大学院の合格発表は行われない。
②慶應大ローの合格発表が時期的に前倒しとなったことは、早大ロー入試の受験者数に影響を与えることが予想される。具体的には、出願をしたものの、慶應大ローに合格したために早大ローを受験しないという事態が一定数生じることが考えられる。実際に2022年度早稲田大学法科大学院入試では、一教室に2割程度の欠席者がいたとの情報が、複数件寄せられている。

(2)昨年度入試実績

ア.大学側は非公開(20223年8月23日現在)

イ.文部科学省調査資料(未修・既習合計):
志願者数1、145名、受験者数1、065名、合格者382名、入学者数163名

ウ.入試実績の考察と今後の展望
 一昨年度入試までは全体の競争倍率2.02倍、定員充足率0.68倍からわかるとおり、近年競争倍率・入学実績ともに芳しくなかった。しかし、昨年度入試では法科大学院全体として人気が再燃したこともあり、慶応義塾法科大学院についても例外に漏れず志願者数・受験者数ともに増加した。
慶應義塾大学法科大学院として、競争倍率改善計画を文部科学省に提出しています。同計画記載のとおり、慶應大ローは今後3年に渡り競争倍率を2.5倍以上に改善させる方針を示している。今年度についても実受験者数/合格者数により算出される実質競争倍率は2.5倍以上となることは必至である。

参考資料
令和3年度法科大学院公的支援見直し強化・加算プログラム審査結果 (PDF:2.9MB)
同資料24頁目(慶応ロー提出資料)参照

(3)2023年度入試における募集人員と今年度入試に与える影響の考察

ア.法学既習者コース募集人員

 ・合計 :約170名(前年比±0名)
①特別選抜(5年一貫型) :約45名(地方枠4名含む)
②特別選抜(開放型) :約45名
③一般選抜※1 :約80名

※1:学部3年生3科目入試枠若干名を含む。本年迄に限り実施予定(要綱より抜粋)。

イ.法学未修者コース募集人員

 ・合計 :約50名(前年比±0名)

ウ.今年度入試に与える影響の考察
 昨年度入試と比較し、今年度入試は募集人員の変更点はありません。また、今年度についても募集定員の倍近くの合格者数を出すことが十分に考えられる。
 今年の受験生も募集人員が少ないからと言って過度に焦る必要はない。慶應義塾大学法科大学院の入試に向けて、日々着実に勉強して欲しい。

3 過年度および2023年度ステートメント課題の分析

(1)今年度と過去のステートメント課題文の変更点について

 昨年度と比較する限り、課題文の変更はない。もっとも、2015年頃と比較すると、課題文の内容に若干変化がみられるので、注意が必要である。(具体的には、志願者全員回答欄において、かつては「将来ビジョン」に関する言及はありませんでした。なお、この課題を入れたことにより、後述のとおり課題文の読解が非常に難解なものとなっている。)
 インターネット上のものなど過去のステートメントを参考にした場合、内容によっては問いに答えていないステートメントが完成する場合があります。細心の注意を払ってください。

(2)2023年度のステートメント課題文について
ア.2023年度課題文

(ア)[志願者全員回答]
 あなたが、大学学部、大学院その他の教育研究機関において、どのような問題意識にもとづいて、学習、研究およびそれに関連する活動を行ってきたか、また、そのことがどのような将来のビジョンに結びつくのかを特筆すべき事項を1つから3つにまとめ、その主題を箇条書きしたうえで、内容について説明してください。なお、説明を裏付ける資料を「その他の書類」として提出する場合には、その資料との関連を明記してください。

(イ)[社会人かつ特記事項(d)に該当する場合]
 あなたが、社会人としての経験を有する場合は、その経験を通していかに高度な専門知識を身につけ豊かな人間性を培ってきたかということについて、特筆すべき事項があれば、その内容について説明してください。説明を裏付ける資料を[その他の資料]として提出する場合には、その資料との関連を明記してください。

(ウ)[任意回答]
2.および 3.に加えて(注:原文ママ)なお記載すべき自己評価およびあなたの将来のビジョンがあれば、説明してください。

イ.課題文の読解と分析

 慶應大ローのステートメントの難しいところは、この課題文の読解にある。
とにかく1文が長く、どこで文が切れるのか把握しがたい点が受験生を悩ませる。また、⒊⑴記載のとおり、過去の課題文の文章をそのまま用いたうえで、半ば無理やりに「また、そのことがどのような将来のビジョンに結びつくのかを」という文言が追加された。そのお陰で、ロースクール側が問う内容を、受験生が日本語として理解するのが非常に難解になってしまったという点が問題点として挙げられる(注意:2013年頃は、「あなたが大学学部、大学院その他の教育研究機関において、どのような問題意識にもとづいて、学習、研究およびそれに関連する活動を行ってきたか、特筆すべき事項を1つから3つにまとめ、その主題を箇条書きしたうえで、内容について説明してください。」と、1つから3つに纏める事項を受験生が把握するのが非常に分かりやすい文章であった)

 もちろん個人的にはこの質問文は、過去の合格者ステートメントを流用していないか・受験生が将来的に未知の条文を読み解けるだけの能力を習得しているか試すという点で非常に良い問題であると考えている。恐らく慶應側もこの課題文を通して、受験生の“条文を正確に読み解く資質又は能力”というものを把握しようと考えていることが強く伺われる。
受験生を悩ませる主題の箇条書きの件は一旦脇に置いておいて、まずは課題文を分析から始めたいと思う。

(ア)課題文で問われている事項について
 本課題文で問われているものは、以下の2点に大別される。

1点目は、「大学学部、大学院その他の教育研究機関において」という時間的・場所的限定がなされたうえで、❶「どのような問題意識にもとづいて」、❷「学習、研究およびそれに関連する活動を行ってきたか」というものである。つまり、問題意識の説明と、活動の説明をすることを出題者は受験生に求めていることになる。

 まず、出題者は時間的・場所的範囲を「大学学部~教育機関において」と限定している。そうすると、この問いに対して、「アルバイト先で~」という時間的・場所的範囲の出来事を回答することは、問いに答えていないこととなる。「アルバイト先で~」というのがお門違いであることを別の角度から根拠づける文言として、本件課題文で用いられている「その他の」教育機関という用語が用いられていることも挙げられる。(なお、法学を学ぶ上で基本的な事項なので、課題文における「その他の」が何を指すか把握するために必要な知識となる「その他」と「その他の」の違いについては、各自で必ず調べてほしい。)

 そのうえで、「どのような問題意識にもとづくか」につき回答することとなる。
 では、ここでいう「問題意識」とは何か。
 一般的に、何の知識・知見も有さない場合には問題意識は生じ難い。つまり、問題意識とは、何らかの過程で得た知識や既存の考え・事実に対して、自分の知見や常識・価値観等に基づく限りで矛盾点や疑念が生じたことから形成されるものである。そうすると、上記教育機関で自分が知識を得る過程で、既存の考え方や世間の常識等に疑念を生じたということが必要となる。そしてこのような疑念こそが、「問題意識」である。
まとめると、課題文の回答の流れとしては、❶まず大学等教育機関における教育内容を適示したうえで、その際に生じた疑念から形成された問題意識を記載する必要がある。
 そのうえで、❷その問題意識に基づく活動内容を記載することが求められている。要は、問題意識と関連する具体的事実・活動を記載し、説明する必要があるということである。

 2点目に、慶應大ロー側は受験生に将来ビジョンの説明をするよう求めている。
 この将来ビジョンについては、今までの文章と何ら関連性もない・脈絡もなく突如記載した場合には問いに答えていないこととなる。すなわち、1点目の内容と関連させたうえで、記載することを。出題者側は求めていることが読み取れる(上記根拠として、「そのこと」という指示語、および、どのような将来のビジョン「に結びつくのか」という文言を確認ください)。
 上記では説明の都合上聞かれている内容について1点目・2点目と記載したが、出題者としては、バラバラで無関係な事実を記載することを求めているのではなく、1点目記載の事実と2点目の全て一連の流れで論理的に説明するよう、受験生に求めていることがわかる。
 わかりやすく例を述べるなら、1点目記載の事実が動機となり、2点目記載の将来ビジョンに繋がったという過程で記載・説明すれば、流れとしては論理的矛盾点なく、一連の文章を構成することが可能となる。(なお、受験生が記載すべき具体的内容については、出題者は独力で記載することを求めているため、具体的回答例を挙げることを差し控える。各自で検討の上、論理矛盾や主語述語の対応関係には十分に気を付けて頂きたい)

(イ)主題の箇条書き指定について
 上述のとおり、2015年度頃の過去問では、箇条書きにする事項は「学習、研究およびそれに関連する活動」であることが明確であった。しかし、数年前にこの文章に「そのことがどのような将来のビジョンに結びつくのか」を特筆すべき事項を1つから3つにまとめとの指定に変わった。句点が長々と続く文章であり、句点の区切り方次第では読み手も様々な読解・解釈が可能なため、これが受験生を悩ませている。
 以下、合格者答案等で流布されたことのある解釈について数点挙げたうえで、各々の解釈が日本語として正しいのか、問題文の文言に基づき、以下説明する。

 1点目としては、「大学学部、大学院その他の教育研究機関において、どのような問題意識にもとづいて、学習、研究およびそれに関連する活動を行ってきたか」という問いと、1点目と関連させたうえで「将来のビジョン」について説明が求められていると読み解くものである。この場合、「また」の前の句点で一旦文章が途切れたと読む。その上で、前段の質問に加えてという意味で「また」という接続詞が用いられていると解釈する。
 この読解の場合、「また」の前の句点は「、」ではなく読点「。」であると読み解くことになる。しかし慶應側が訂正をしていないことを考えると、受験生が勝手に誤記と判断して問題文を書き換えることには些か無理がある。

 2点目としては、追加文言を無視し、問われていることは2015年以前の課題文と同様であると独自に解釈するものである。すなわち、2015年以前の課題文と同じく、「どのような問題意識にもとづいて、学習、研究およびそれに関連する活動を行ってきたか、また、そのことがどのような将来のビジョンに結びつくのかを特筆すべき事項を1つから3つにまとめ」であると読み(注:訂正線は藤澤が解説用に入れたもの)、研究等活動を1つ~3つに纏めて、箇条記載するものである。
 しかし、これでは新課題文に追加された「また~ビジョンに結び付くかを」という追加された質問文を完全に無視することになり、現在の課題文をこのように解釈するのは日本語としても無理がある。2023年度現在の課題文は「どのような問題意識にもとづいて、学習、研究およびそれに関連する活動を行ってきたかを1つから3つにまとめなさい」という問いではない。そして、「また」という並列の接続詞が存在することや、「特筆すべき事項」とは何を指すのかを完全に読み飛ばすこととなる。さらに、仮にこのように解釈した場合、「内容について説明してください。」との指定は、学習研究活動の内容について説明することとなるが、それでは「どのような将来のビジョンに結びつくのか」という問いに対する回答を、主題に書いていないのにどうやってその内容を具体的に説明することが可能となるのだろうか。

 上記2点が果たして正しいのか判断するためには、最終的には受験生の日本語力・解釈力がカギとなる。日本語的に・論理的に無理筋な回答を鵜呑みにするのではなく、インターネット上の素人の半ば啓蒙活動・発言が、論理的に考えて本当にそれが正しいのか、冷静に判断して欲しい。最終的にステートメントの問いに答えていないと評価され、責任を負うのは受験生なのだから。
 さて、話を戻そう。以下では日本語および論理的に飛躍のないものとして3点目の解釈を案内する。すなわち、日本語を忠実に読解する限りにおいて、以下記載の3点目が課題の文言と親和的であることが窺われる。

 つまり受験生が勝手に問題文の文言を解釈することなく、問題文を素直に読むということである。具体的には、2015年以前とは課題文が異なるという前提を把握したうえで、課題文に書いてある日本語や句読点を受験生が勝手に加筆・修正せず、素直に読み取るというものである。。
 課題文の句読点を読み変えずに、また課題文の指示に純粋に従うのであれば、課題文で問われている内容は「❶どのような問題意識にもとづいて、❷学習、研究およびそれに関連する活動を行ってきたか、また、そのことが❸どのような将来のビジョンに結びつくのか」(❶~❸は藤澤による加筆。なお❶および❷については前頁で解説済)の3点ということになる。そして、そこで書いた内容を❶~❸の各内容に分類し、内容を纏めたうえで慶應ローの志願者報告書回答欄に印字された①などの主題に1文ずつ記載するというのが素直である。これは、慶應の志願者報告書3頁記載形式の「①~③」にも対応するうえ、また内容欄の記載でも、主題と対応させたうえで各項目にわけ(例:⒈主題①についてなど)、以下ではその主題に関する内容を具体的に説明せよという問題文の指定にも忠実である。更に、これは「内容に分類し」という文言や、「(主題の)内容について説明してください」という課題文の指定にも整合する解釈となる。

 まとめると、志願者報告書3頁記載の主題①~③には、上記❶~❸の“内容を纏め”主題化したものを記載する。そして次の内容記載欄は、その主題に記載することについて説明するものであるから、たとえば“⒈主題①について”等と、主題と対応関係がわかるよう明示したうえで、その具体的「内容について記載」することが、読みやすさという点から望ましいと考える

(ウ)結語
 2020年頃から市中に流出している合格者答案や受験生から寄せられた情報を見る限り、この課題文を正確に分析し、把握しているものは皆無であった(私の知る方は、この事項を正確に記載し、勿論筆記も出来たことも相まって、学費免除で合格していました。なお、問題文の指示に基づき適切に回答できるか否かで、基本的な書類点の差はつくものと考えられます)。合格者ステートメントということで流出しているものの多くは、2015年以前の入試課題文とは課題が変更されたという事実を把握せず、法律家の基本的な能力である文言解釈から始めずに無理やり課題文を都合よく解釈したうえで、または2015年以前のステメンを参考として、主題に学習内容の具体的事実のみを記載した結果、問いに正確に答えていないという誤りを犯しているものが多く流出している。(なお、慶應ロー側が意図的に課題文の内容を変更していることからすると、受験生の一定数が2015年度以前の合格者ステメンを盗用・参考とした事実を把握していることが考えられます)

 たしかに2020年以前は、慶應も競争倍率が低下しており(約2倍)、このような事情からすると、主題の書き方を誤っただけでは合否に直接は影響しなかったであろう。しかし2020年以前とは異なり、現在は競争倍率も非常に高くなっている。そのため書類点に関わる1つのミスが、場合によっては致命傷となりかねない。問題文の解釈項目でも述べたとおり、ステートメントの回答でミスをし、減点され、不合格という悲しい思いをするくらいなら、きちんと正確に書いて、書類点でハンデを負わないで欲しいということを、毎年筆者は切に願っている。

 以下、参考までに昨年度に起きた例について案内する。上述のとおり、2022年度入学者選抜入試(2021年9月実施)は数年ぶりに高倍率であった。その競争激化を予想せず、ステートメントに力を入れず適当に書いて提出した受験生の1人は(参考:予備試験論文600位前後の方)、筆記では手ごたえがあったものの、補欠不合格となってしまった。その受験生に敗因を聞いたところ、慶應のステートメント作成~受験までの時期は毎週のようにサマークラーク等で忙しかったこともあり、課題などを分析し丁寧に記載することを怠り、市中に当時あった答案例の精度を判断せずに、それを参考として作成し、精査せずに提出してしまったとのことである。この受験生の予備試験の成績とステメンの出来など考慮すると、恐らく入試では書類点でハンデを多く負ってしまったのだろうということが窺われる。

 出願の段階で学費免除を狙う方や中上位合格を目指す方、合否ギリギリのラインに乗る可能性の高い方・何としても慶應大ローには合格したいという方は、このようなミスをせずに他者と差別化を図ることで、ステートメントで点数を稼ぐことが出来、その結果として各自の目標とするラインに乗る可能性が高まると考える。

 また合格者ステートメントのレベルは、完璧なものから不合格相当のものもあり、多種多様です。また、多数人に流出しているステートメントについては、多数の受験生と内容が共通してしまうリスクを孕んでおり、参考とするのは非常に危険です。特に他者により精査をされていない合格者ステートメントは内容の正確性に疑義のある場合も多いため、あくまでも参照程度に留めるのが適切でしょう。
 なおステートメントを作成する際は、繰り返しますが問いを正確に把握したうえで、それに答える姿勢を忘れずにいて欲しい。

4 過去問の傾向と分析,2023年度入試対策(上三法)

(1)過去問分析、傾向と対策
ア.入試総論

 過年度入試となった2021年度(2020年実施)はコロナウイルスの蔓延に伴い、通常の入試と追加入試の2つが行われた。しかし追加入試はあくまでも疫病の蔓延による例外的な措置である。事実、2021年度入試の際と異なり、今年度入試については2022年8月16日現在、未だに追試実施に関する広報はされていないことから、追試は期待できない。そのため、受験生は体調管理に注意したうえで、相応の対策を講じて受験に臨んでいただきたい。
既修者試験においては、『法科大学院試験六法』(第一法規株式会社)https://www.daiichihoki.co.jp/store/products/detail/104457.html)が貸与されることが想定される。
 市販のポケット六法やデイリー六法等と異なり、特に試験科目である刑事訴訟法は条文の見出しのないことに注意が必要である。試験後に六法の持ち帰り可であるが、本番中に戸惑わないためにも、特に刑事訴訟法については図書館や書店で一読の上、条文の位置や構造を把握しておきたい。
 なお、予備試験六法や司法試験六法についても、掲載法令数の差はあるものの、法文の記載や仕様は法科大学院試験六法と同じである。

イ.憲法(法学既修者)

 原告側の立場・原告側の代理人として事例を検討させ、同時に被告側の反論も踏まえて解答させるという点で、近年の司法試験と小問形式が近似している(例として令和2年度公法系科目第1問憲法)。慶應大ローでは2018年度入試以降この形式を採用している。その傍らで、司法試験の小問形式もそれに後れた2020年より同様の小問形式に変更されていることからすると、どうしても憲法科目の入試問題作成者は司法試験の問題作成と密接に関連する立場の教授であるように思えてしまう(事実、近年の司法試験憲法の司法試委員・考査委員は慶應大ローの教授からも選ばれている)。もちろん、あくまでも筆者の推測であるため、参考意見程度の認識に留めてほしい。

 後述項目(2)2023年度(2022年9月実施)入試対策で述べるとおり、入試問題の元ネタ判例は概ね存在しており、その場合は試験直近で話題になった裁判例や時事ネタを素材としているケースが殆どである。もっとも出題の趣旨にも記載されているとおり、その判例や時事ネタを知らなくても解答することが出来るが、出題の元ネタ等を知っておくと有利であることは否めない。(繰り返しとなるが、元ネタ判例の案内については後述)
 いずれにせよ、受験生の理解力・思考力を問うものであり、内容含めロースクール入試随一の良問である。演習問題としても利用できるので、受験生だけでなくロー生にも読み解くことを強く勧めたい。

 2022年実施の問題や出題の趣旨は既にHP上で公開されている。そしてこの問題については、私が当時、出題の趣旨公表前にリリースした速報解説もある。出題の趣旨と記載内容が同じであるが、法科大学院受験生が制限時間内に書ける答案を推定し、実践的な解説をすることを重視したものである。以下リンクを記載するので、宜しければ出題の趣旨と併せてて利用して頂きたい。https://law-information2019.hatenablog.jp/entry/2021/09/06/031428
上記などを用いて、試験本番まで演習に努めて欲しい。

 次に、2022年の合格者答案の分析結果を案内する。
以下記載のとおり、論点を多少落としても合格していることが判明した(もちろん他の科目で挽回することが前提となるが)。合格者答案を見る限り、制限時間との関係で全論点を網羅するということが厳しいということが如実に表れている。
 たとえば①私人間効力について、当然認められることを前提に書いていないもの(注:なお学説の動向に照らし、上記解説のとおり論理の前提となるが、個人的には書かなくても減点にはならないと考えている)、②富山大学事件について検討していないもの、③表現の自由構成のみで、学問の自由構成を書いていないもの(又はその逆)もあった。しかし上記程度のミスであれば、問題文の事実をきちんと拾い上げて即して検討することで合格水準に達することは十分に可能であったようである。つまり、憲法についてはメインの争点をミスするならまだしも、細かな一つの論点落とし程度では合否に大きな影響を与えないことが読み取れよう。それよりも、解答にあたってはきちんと問題文の事実を用いて、どのように衡量し、または審査基準の定立や、あてはめを説得的に論述できたかが合否の分類嶺であったことが窺われる。

 最後に一例として2021年度追試について案内する。同入試の合格者複数人に対するヒアリングによると、法律上の争訟について理解していない人も多かったと聞いている。そして、問題を開き、解く意欲を削がれた受験生も多かったと聞く。実際に合格した人でも、この分野はそこまで勉強していなかった方もいるが、うろ覚えでも知識を喚起させ食らいつき、条文に基づき解答し、合格ラインに乗ったという方も多い。
 他方で、同入試の不合格者へヒアリングしたところ、同問題について職業遂行の自由(22条1項)の侵害として解答を作成したと聞いている。問題文にも「法律上の争訟に該当しないので不適法」という被告側の反論が掲載されており、問題文にも争点が明確化されている。他の答案については、本人の主観では一応の水準を満たすことができたということであるから、憲法で足切りに遭った可能性も排除できない。ステートメント講義でも案内している通り、「問いを正確に把握する」というのは、問題を解くうえでの大前提であり、まずは落ち着いて問題を把握したいところである。

 現場では論証パターンや論証集に載っていない問題も出題される。だからといって論証の暗記量を増やすのでは無理もある。未知の問題に対応するには、まずは根拠となる条文を発見し(2021年度入試でいえば、少なくとも76条1項、そして司法権の定義を記載することにより「法律上の争訟」というワードを導き出し、そこの解釈論に展開させるという姿勢)、そこから大学の授業や予備校の入門講座等で学んだ知識を喚起したうえで、設問に則して問われていることに素直に解答するという姿勢が重要である。また、この過程で考え解答した方は、知識がうろ覚えでも・素材判例とは結論が異なっていても、同大学法科大学院合格している。

 法科大学院入試では、人気校に行けば行くほど、現場思考型・未知の問題が出題される傾向にある(例として、2021年度入試以前の一橋大学法科大学院刑事訴訟法)。これには、問題作成者が論証パターンでは解けない問題を出題したいという意向が強く伝わってくるが、いずれにせよ、条文や定義、入門講座で教わったことを理解しておけば、合格水準の解答を導き出すことが可能である。判例と同じような完全解を導き出す必要はない。
 未知の問題が出ても、まずは落ち着いてきちんと問題文を読み、既存の知識と条文で立ち向かうという姿勢が重要である。諦めず、基本に忠実であれば、合格レベルに達することは可能と思われる。

<過去問9回分出題分野>
・2022年度入試:大学における学問の自由(又は表現の自由)と部分社会の法理
・2021年度追試:司法権と法律上の争訟(76条1項、裁判所法3条)*
・2021年度入試:財産権(29条3項)*
・2020年度入試:集会の自由(21条1項)*
・2019年度入試:幸福追求権(13条後段)*
・2018年度入試:信教の自由と政教分離(20条3項等)
・2017年度入試:登山の自由(幸福追求権(13条)又は移動の自由(22条1項))
・2016年度入試:アファーマティブ・アクションと平等原則(14条1項)
・2015年度入試:営業の自由(22条1項)
*は時事ネタまたは判例変更等出題当時、学者や実務家の注目を浴びていた事案

民法(法学既修者)

 近年の入試問題と2018年度入試以前を比較すると、問題の難易度はやや易化傾向にある。そうとは言うものの、他の法科大学院入試問題と比較すると難易度は相対的に高く、また(出題者により難易度の差は激しいが)慶應大ロー入試では受験生に一番得点差がつく科目であるように思える。また、合格者や受験生によると、科目あたりの足切りが多く発生する科目であるとの声も多い。
 元ネタとしては百選判例などを用いているものも多い(一例として2019年度入試)。予備校の講義などでも百選判例については引用され解説されている。学部の授業や予備校の入門講座・演習問題を通して、百選に掲載されている重要判例を理解し、解けるようになることが必要である。

 合格者と不合格者それぞれにヒアリングをし、過去の足切りライン答案を分析したところ、2019年度入試不合格者の足切り答案情報が入ったので以下案内する。
 不合格者は出題の趣旨で述べられている「甲土地の所有権に基づく物権的返還請求権(を根拠とする建物収去・土地明渡請求)であることを確認した上で、それに対するBの反論として、①贈与による所有権の取得」までは書けていた。しかし、これによる対抗要件をBは具備していないとして177条の対抗関係の問題であると処理し、時効については何も触れないという答案(すなわち、①の処理のみ)という答案であった。設問2についても同様で、設定された占有権原を有することから対抗することが出来ないとする答案であった。
 このことから考えて、受験生の殆どが書けるところ(本件でいえば少なくとも時効による所有権取得)を落とし、メインとなる争点の検討に繋がらないという答案は、不合格答案(又は足切りライン)となったものと窺われる。
 この不合格答案例からも挙げられるとおり、民法では正確に人的関係や権利関係を把握すること、問題文をきちんと読むことが特に重要である。一般的に民法の事例問題で言えることであるが、①年月日の具体的記載のある事例では、その把握だけでなくきちんと経過年数をチェックする、②請求権や抗弁などを検討しても、動産であれば即時取得(192条)の成否や、権利抗弁として留置権(295条1項)や同時履行の抗弁(533条)を主張する余地がないか検討することを忘れずにいると、気づくことが出来る論点は多くある。
 民法では、特に人的関係や権利関係、動産か不動産か、権利抗弁の余地がないか確認する姿勢を忘れないで欲しい。
 なお、問題の形式や内容からすると、2021年度入試の問題作成担当者と、2020年度・2019年度入試、2018年度入試の作成担当者は異なると思われる。

<過去9回分出題内容>
・2022年度入試:将来債権の譲渡と債務消滅の抗弁(混同)、詐害行為取消権とその抗弁
・2021年度追試:権利喪失の抗弁と権利抗弁、物権的請求の相手方とその内容
・2021年度入試:売買の契約責任(担保責任)、賃貸借の同責任と責任追及
・2020年度入試:賃貸借契約の解除と信頼関係破壊の法理、債権者代位・転用物訴権
・2019年度入試:取得時効と登記(百選47、48、58事件等参照)
・2018年度入試:相殺の抗弁とそれを基礎づける法的構成(表見代理等)の検討
・2017年度入試:将来債権譲渡の適法性、債権譲渡の304条1項該当性、抵当権に基づく物上代位と貸金相殺の優劣
・2016年度入試:取得時効と登記、賃借権の取得時効
・2015年度入試:二重譲渡と危険負担(旧法)、第三者(177条)該当性、代償請求権(現行法では422条の2で明文化済)

刑法(法学既修者)

 民法と同様、2018年度入試以前と比べると、問題自体の難易度自体は易化傾向にある。特に論述式試験の易化傾向は顕著であり、受験生であれば概ね解答できることが予想される。そのため、勝負の分かれ目となるのは、近年出題されるようになった短文式(短答式)問題に関する設問であろう。実際に、「刑法は良くできた。」という感想を述べた不合格者の短文式試験の解答をチェックしてみると、6割程度しか取れていない等が頻繁にある。そのため、後の項目で案内するとおり、慶應ローの過去問演習や共通到達度確認試験等を用いて、短文式試験の対策をし、少なくとも8割程度は確保できるよう対策を講じて欲しい。

 近年の出題形式は、数年前のものとは変更されている。かつて慶應大ローでは、論述式試験以外に短答式試験として外部機関が実施する法学検定既習者認定試験または独自の短答式試験を課していたこともあり、現在の試験はこれらを踏襲したことが窺える。
 問題1では元来の既修者認定試験短文式(近年でいうと共通到達度確認テストの一問一答)レベルの問題が出題される。条文指摘含め、基本事項(入門レベル)であるため、手元の六法を用い、落とさず8割以上の点数を取りたい。
 問題2についても百選の基本判例や基本知識を問う問題である。問題自体の難易度を主要科目で比較するのであれば、近年刑法が一番易しいように思える。市販の演習書で例えるのであれば、難易度はロープラクティス刑法の問題と同程度と思ってよい。
 出題者はあくまでも現状の最低限の知識を押さえるよう受験生に求めているように読める。刑法については、落ち着いて問題を読み解いたうえで事実を適切に把握し、書くべき要件をきちんと挙げたうえで、丁寧な答案を心掛けたい。事実を適切に把握し、それを丁寧に評価してほしいという出題者側の意図は、2019年度入試以降の出題の趣旨を読む限りで強く伝わってくる。
 また、同趣旨を読む限りでも、出題者は受験生が解けないような難しい知識を問おうとしていない。基本的な問題を出題する代わりに、受験生は文章をきちんと読み、ポイントを把握したうえで丁寧に論じてほしいというスタンスが伝わってくる(例として、2021年度入学試験出題の趣旨内にある「採点のポイント」記載箇所を参照願います)。
 そのため、受験生はその想いに応えるためにも、きちんと事例を読み内容を理解したうえで、問題文の事実に基づき、丁寧に論じて欲しい。
なお、問題文等を読み解く限り、2020年度・2021年度(追試も含む)と、2019年度入試では出題担当者が異なるものと考える。

<過去9回分出題内容(問題1の短答式試験を除く)>
・2022年度入試:刑事未成年者に犯罪を実行させた事例における間接正犯及び共犯関係の処理
・2021年度追試:(Xの)窃盗未遂、事後強盗罪・強盗致傷等の成否の検討
・2021年度入試:(Xの)殺人行為に対する正当防衛の成否誤想過剰防衛の成否と36条2項(任意的減免)の適用有無
・2020年度入試:窃盗罪の成否における「不法領得の意思」の有無、窃盗罪の器物損壊罪との区別(各論分野のみ)
・2019年度入試:窃盗か占有離脱物横領か(窃取時における占有の事実の有無)自招侵害の場合における正当防衛の成否
・2018年度入試:窃盗罪の成否(「窃取」の認定)・事後強盗罪又は傷害罪の成否、同時傷害の特例適用の可否
・2017年度入試:因果関係の存否、具体的事実の錯誤、違法性阻却事由の錯誤誤想(過剰)防衛
・2016年度入試:不真正不作為犯の成否と因果関係、中止犯、財物性の認定、 不法領得の意思の有無の認定
・2015年度入試:暴行後の領得意思(「強取」該当性)、窃盗罪と死者の占有、 共謀の射程

商法(法学既修者)

 下三法については、慶應大ロー側はあくまでも簡易記述式との位置付けであり、上三法(特に民法や憲法)と比べると、問題自体の分量も少ない。
 過去の入試問題を見る限り、論述式で手形法分野からの出題はない(2005年の肢別式試験の解答に対する理由説明を除く)。また、第三編持分会社、第四編社債、第五編組織再編からの出題についても同様である。商法についても同様であるが、会社法総則分野と重複する商法総則(例として事業譲渡)については、基本事項をきちんと押さえておくと良い。
 入試問題では主に会社法総則(商法総則)・株式会社における意思決定や手続上の瑕疵につき、受験生の基本事項の理解力を問うものである。そして入試問題のレベルも、ロープラクティス商法の演習問題よりも易しい。
 難しい論点や論証を覚える必要はない。基本的な条文をきちんと把握し、それを適切に指摘し、丁寧に説明できる能力が求められていることは、出題の趣旨からも読み取れる。
 基本的な演習問題や法学部の講義を通じ、基本事項を徹底の上、復習して欲しい。

<過去問9回分出題内容>
・2022年度入試:特別利害関係取締役が参加してなされた取締役会決議の効力同決議を欠く利益相反取引の効力、重要な財産の処分該当性
・2021年度追試:事業譲渡に係る商号続用責任の適否、法人格否認の法理
・2021年度入試:発起人の権限の範囲と、範囲外の場合の責任追及について
・2020年度入試:会社法429条1項責任の検討、名目取締役の監視義務の有無
・2019年度入試:瑕疵ある取締役会決議の効力、瑕疵ある新株発行の効力
・2018年度入試:取締役の会社に対する任務懈怠とその責任の有無、競業規制に違反する取引の効力
・2017年度入試:承諾なき譲渡制限付株式の移転の効力と譲受人を株主と扱うことの可否、名義書換未了の株式の処理、831条1項の取消事由の認定(定数不足、取締役招集漏れが存在する取締役会決議の有効性、株主総会招集通知漏れという事実を基に)
・2016年度入試:利益相反取引の検討・(「重要な財産の処分」該当性)、株主代表訴訟(847条、423条)の検討
・2015年度入試:株主提案権、株主総会取消の訴え(314条違反検討)と裁量棄却

民事訴訟法(法学既修者)

 商法と同様に、簡易記述式試験であり問題文の分量は上三法と比較して少ない。また、難易度自体も司法試験合格率トップ校等と比べると易しいが、基本的な知識を問う良問である。入試に出題された数年後の本試験や予備試験に同様の分野・論点が出題された(一例として2020年度司法試験民亊系第三問と、2018年度入試設問2)こともあり、ロー入試が終わった後も基本事項を短時間で復習する演習問題としても利用することを薦めたい。
 過去11年分(2012年度~2022年度入試)を見る限り、複雑訴訟(請求の主観的複数)に関する問題は出題されていない。ただし、2020年には上訴(控訴)の利益に関する問題が出題されており、基本書や予備校本によっては複雑訴訟の後に説明されていることもあるので、注意する必要がある。
 入試では、民事訴訟法上の概念を具体的な事例とともにきちんと理解しているか問われる傾向にある。そのため、予備試験や本試験などの問題を解くよりも、まずは基本的事項や用語を理解するとともに、ロースクール1年生向けに作成されている『ロープラクティス民事訴訟法』レベルの問題集を繰り返し解くことを薦めたい。上記書籍は慶應大ロー入試と親和的であり、かつ最新の判例を素材とした演習問題も掲載されている。
 なお、入試過去問は、ロープラクティス民事訴訟法掲載の論点・解説から出題されている。同演習書をやっておけば、どの年度でも対応は可能である。(同演習書解説講義:https://bexa.jp/courses/view/296)
 民事訴訟法は基本概念を具体的な事例と関連させて理解することが、苦手意識を克服する一番の近道である。事例演習をメインに、その傍らで基本事項等は問題解説を読み、それでもわからなければ基本書等を調べて理解するという過程を経ることが他の科目に増して求められる。決して諦めずに、日々演習問題を通じて基本概念の復習をしていただきたい。

<過去問9回分出題分野>
・2022年度入試:相殺の抗弁と既判力(114条2項)、権利自白とその効果
・2021年度追試:証明責任の分配、既判力の客観的範囲(114条1項、2項)
・2021年度入試:将来給付の訴えの利益と確認の利益、一部請求と残部請求
・2020年度入試:既判力の客観的範囲、控訴の利益 
・2019年度入試:主張原則(弁論主義の第一テーゼ)、既判力の遮断効について
・2018年度入試:一部請求と残部請求、将来給付の訴えの利益(21年入試と類似)
・2017年度入試:立退料減額と処分権主義、訴えの変更の可否
・2016年度入試:訴訟物の認定及び処分権主義違反の検討、控訴の利益の有無
・2015年度入試:証明責任、既判力の拡張(「口頭弁論終結後の承継人」該当性)

刑事訴訟法(法学既修者)

 簡易論述式試験であるが、下三法の中では一番難易度が高いように思える。また、2018年頃と比べると捜査法ではなく公判・証拠分野から出題されることもあり、難易度は多少上昇しているように思える。
 レベルとしては、考えさせる問題が多い。2019年度と現在の出題者は異なる可能性が非常に高いが、例えば当時の学説対立が激しかった以下の論点について出題されている。
 2019年度入試小問4(改題):「令状による捜索・差押え(218 条 1 項)を実施中、その対象物が捜索場所とは管理権を異にする隣家の敷地に投げ込まれてしまった。この場合、捜索・差押えという本体の処分に内在する措置 (218 条 1 項)、または捜索・差押えに必要な処分(222 条 1 項、111 条 1 項)として、隣家の敷地に強制的に立ち入ることが許されるか」というものである。
 今であれば解答や出題の趣旨が公表され、それに基づき予備校のテキストもこの論点が掲載されつつあるが、当時学説等で議論が活発に行われている最中であり、予備校のテキストなどで解説のあるものは皆無であった。出題者が受験生に対し未知の論点を考えさせる目的で、上記小問を作成したことが窺える。
 他方で、2020年度入試以降の傾向は異なる。具体的には、ロースクール2年次において刑事訴訟実務の基礎を学ぶための基礎知識を現段階で習得しているか確認するもので、公判・証拠法などを問うものに変わりつつある。
 のちの予想等でも記載するが、刑事訴訟法を含めた多くの科目の入試担当者は、2年に1度交代しているように思える。今年度の予想については困難であるが、過去の傾向としてはいずれも類似論点は本試験・予備試験等に出題されている個所から出題されている。予備校のテキストなどでは予備試験や本試験に出題された箇所についてはチェックがされている。それらの箇所を把握し、復習することを心掛けたい。

<過去9回分出題分野(文字数の都合上、条文問題は入試問題を確認下さい)>
・2022年度入試:令状に基づく捜索差押(218条1項、憲法35条)、捜索差押許可状の効力が及ぶ範囲(219条1項)とその派生論点
・2021年度追試:職務質問に付随する所持品検査、違法収集証拠排除法則
・2021年度入試:自白の補強法則、訴因変更手続きとその可否(312条1項) 
・2020年度入試: 供述録取書・供述調書の証拠能力(伝聞法則)、自白法則
・2019年度入試:逮捕に伴う捜索・差押、令状による捜索の範囲、条文指摘・説明
・2018年度入試:条文指摘・説明、逮捕前置主義、「必要な処分」(222Ⅰ、111Ⅱ)
・2017年度入試:令状主義、現行犯・準現行犯逮捕の要件及びその事例判断
・2016年度入試:捜査に関する強制処分及び任意処分該当性判断、GPS捜査
・2015年度入試:捜索差押許可状記載の特定性、差押え対象物の範囲、 伝聞証拠と伝聞例外

小論文(法学未修者)

 主に社会科学分野の評論文から出題される。
 慶應義塾大学の学部入試(特に一般入試)を受験した経験のある方(商学部や理系を除く)にはおなじみの問題形式。設問1が下線部の箇所についての説明問題、設問2が問題文の理解を前提としたうえで、受験生の意見を述べさせるものである。
 日々の対策方法については、BEXAにて連載済の『第三回 筆記試験対策について(法学未修者コース入試編)』で述べたとおりである。慶應義塾大ローでは出題の趣旨が公表されているが、採点基準や解答例に関する案内は掲載されていない。そこで日々の演習や模試代わりに利用するのに最適な過去問として、関西学院大学法科大学院の入試問題が挙げられる。同大ローの入試問題は慶應大ローと問題文の量や設問形式が似ており、他方で出題の趣旨だけでなくロースクール公式の解答・解説も公表されている。ロースクール側が受験生に対しどのような解答を求めているか把握する材料としても適切であり、日々の小論文問題演習の材料として利用頂きたい。また、捨てずに保管しているのであれば、同大学学部入試の小論文等を利用することも有益であろう。
 次に、その他の慶應義塾大ロー特有の注意事項を述べる。
慶應大ローの入試問題の特徴として、他のロースクールと比べてとにかく問題文の量が多いことが挙げられる。そのため、集中力を維持させるとともに、設問内容を適切に把握する能力が必要不可欠である。
 評論文は基本的に、主張箇所(claim)と、それを肉付けする具体的事実と根拠箇所(data(evidenceと表現するものもある)、warrant)にわかれている。後者はあくまでも筆者の主張を正当化させるための事実や証拠に過ぎない。
 慶應大ロー入試ほどの長文をメリハリつけずダラダラとよんでいると、読解中に集中力が切れ、内容を理解できず、問題文の主題と全く異なる解答を作成しがちである。そうすると、筆記試験の成績は期待できず、最悪の場合筆記試験で不合格となってしまう。
 問題文を読む際は、①まずは問いを正確に把握する、問われている内容が何か・キーワードは何か正確に把握し、②具体的な事実や例(例えば歴史上の人物の意見)を挙げている個所は、あくまでも筆者の主張・意見を補強する事実に過ぎないこと(もちろん、筆者がその意見を批判するために用いる場合もある)、③筆者がどういう立場を採用しているのか文章全体から把握する(要は頭の中で要約する)ことが必要である。要は、不必要に具体的事実と根拠(data、 warrant)が記載されている個所に引っ張られるのではなく、具体的な例を挙げた後又は挙げる前提として出てくる「筆者の主張」を適切に把握することが重要である。
 そのため、問題を解く際には、筆者が問題文で挙げる具体例に引っ張られ過ぎて、問いで聞かれている事項を見失わないよう注意したい。そして、なによりも試験時間中は集中力を切らさず、問題文の内容を適切に把握して欲しい。

 参考までに、2022年入試を挙げる。
 2022年度入試では、問題文は11頁に及んだ。問題文のページ数からもわかるとおり、問題量は非常に多いため、既述のとおりメリハリをつけて読み進める必要がある。それとともに、読解方法としては❶設問文を正確に読み解く(例えば設問1であれば「フェイクニュース」という用語の解説がなされている個所を重点的に読み解く必要があること、そして問題文はメディア論について書いてあるということがこの問いから推測される。設問2については、「論旨を踏まえつつ」との問題文の指示から、「メディアリテラシー」について筆者の主張を適切に理解していること前提として踏まえつつ、それを一定程度要約する形で解答に示したうえで、それに関して自らの主張(ないし意見を補完)をする必要があるということが読み取れる。つまり、最初の段階で何が問われているのかを正確に把握したうえで、メリハリをつけて文章を読解しなければ、恐らく時間だけ浪費することになってしまうであろう)、❷上記「問題文を読む際は~」の段落に示した通り、評論文における論理構造を的確に把握し、筆者の主張は何なのか・キーワードに関してどの段落で具体的に説明しているのかを正確に把握することが必要不可欠となる。
 試験は一度きり、後で悔いるくらいなら、集中し、全力で問題文の把握に努めて欲しい。

(2) 2023年度入試対策(主要3科目。下三法については上記で記載済)

 以下では、過去問の出題傾向に基づく重要点を纏めたものである。

ア.憲法

(ア)2022年度入試を踏まえて(今年度の対策)
 憲法については、2019年度以降は憲法論として問題となっている時事ネタから出題される。判例が元ネタの問題については、下記記載の判例速報または判例時報等の速報記事から出題されている。なお2022年度入試については、その8ケ月後に行われた司法試験令和4年度入試と共通している論点・事情等もある。司法試験委員に慶應ローの憲法担当が多いことが如実に反映れているように思える。
2022年度入試:令和4年度司法試験 公法系科目第1問憲法
https://www.moj.go.jp/content/001371989.pdf
2021年追試:https://www.lawlibrary.jp/pdf/z18817009-00-011831991_tkc.pdf
2021年入試:グローバルダイニングによる訴訟(自粛と補償に関する諸問題)
(参考)https://bijutsutecho.com/magazine/insight/23401
2020年入試:泉佐野市民会館事件判決と太子町立博物館入館拒否事件の融合問題
参考:https://ls.lawlibrary.jp/commentary/pdf/z18817009-00-011111391_tkc.pdf
→琉球大学ローが8月入試の段階でこの判例を素材とした入試問題を既に出題しており、重複を避けるため問題を若干変更したことも考えられる(私見)
※参考として(琉球大学A日程入試問題憲法)http://web.law.u-ryukyu.ac.jp/wp-content/uploads/2019/11/c690459f845953db56d00ef83fd05527.pdf
2019年入試:性同一性障害特例法における性別変更と生殖腺除去要件の合憲性
参考:https://www.lawlibrary.jp/pdf/z18817009-00-011561737_tkc.pdf

 上記を踏まえ、また過去問の出題からすると、近年出題されていない重要論点として、営業の自由・職業活動の自由(22条1項、なお職業遂行の自由・営業の自由の根拠条文については学説対立あり)が挙げられる。これらの論点は昨年度も同様に案内しているが、今年度も引き続き注意が必要である。
最新判例分析については、今後リリース予定の『今年も的中させます ロースクール入試で狙われてもおかしくない最新判例』にて案内したい。
なお、以下は昨年度の寄稿内容と同一であるが、受験対策の観点から記載をそのまま残しておく。参照にして頂きたい。

(イ)昨年度連載記載項目(一部追記・変更)
 職業活動の自由については令和二年司法試験公法系第一問でも出題されているばかりでなく、近年、同自由の侵害について争われた最高裁判例も話題である(https://www.lawlibrary.jp/pdf/z18817009-00-011902044_tkc.pdf)。同判例では判旨において、薬事法違憲判決の判旨が引用されている。そして薬事法違憲判決自体は判例百選に掲載されている、ロースクール受験生であれば一度は勉強しているものである。過去5年出題されていない論点であり、この判例を素材とした問題が出題されてもおかしくはない。なお上記判例を素材とした問題については(昨年度も案内しているが)、2022年度東京大学法科大学院入試において出題されている。
 時事問題としては、今年度も引き続き各校にて昨年度の入試問題と類似するものとしてコロナ禍における営業の自由の侵害について問うものを出題することも考えられる。なお、この問題については、令和2年度筑波大学法科大学院の過去問において出題されている。
(筑波大学法科大学院過去問:https://www.lawschool.tsukuba.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2021/06/8e6798256d82162ebab53528712d52ef.pdf)。
また、他に過去5年間に出題されていないが今後狙われても不思議ではない判例として、以下の判例を紹介する(https://www.lawlibrary.jp/pdf/z18817009-00-011851996_tkc.pdf​)。
 この判例は、百選にも掲載のある長良川リンチ事件やノンフィクション逆転事件判例の(プライバシー侵害による不法行為成立の)判断枠組を引用している。百選掲載判例についてはロースクール受験生であれば抑える必要があり、上記の2判例についても学習経験のある受験生は多い。基本事項として復習すると良いと考える。
 そのほか、孔子廟違憲判決(https://www.lawlibrary.jp/pdf/z18817009-00-011882034_tkc.pdf)など重要なものはあるが、個人的には受験生であれば既に知っている判例であり、他のロースクールなどでも出題が予想されることから、出題しにくいのではないかと考えている。もっとも、空知太神社事件については百選でも掲載されており、時間を残す限り、上記判例に一度目を通しておくのも良い。
近年市役所前広場における集会の不許可処分の合憲性が争われた事案もある(https://www.lawlibrary.jp/pdf/z18817009-00-011811973_tkc.pdf)。集会の自由についても、今年度の司法試験で出題されていることから、復習しておくと良い。

イ.民法

(ア)昨年度入試の分析を踏まえて(今年度の対策)
 昨年度入試は将来債権譲渡について問うものであったが、実はこの論点は2017年度入試にて出題された箇所である。当時は旧民法に基づく出題であったが、法改正により明文化されたこともあり、現行民法における理解力を確認するために再度この問題について出題したことが考えられる。
 昨年度の慶應ロー入試分析でも事前に伝えていた通り、法改正により明文化された箇所の問題については重要性が高いが、他方で予備校の問題集では法改正においつけず、旧法の問題を単に改正法に置き換えただけの問題も多い。必ず条文を確認し、また改正箇所についても一度は目を通りようにして頂きたい。
 次に、債権法の施行が決定した平成29年以降の入試(2020年度入試~)では、毎年度債権法分野から出題されている。そして同改正により明文化された箇所や旧法と異なる点についての、現行法に基づく知識を問うものが非常に多い。そのことからしても、債権法分野の重要性は今年度についても高い。
総論分野については2019年度入試以降出題されていない。しかし、民法総則分野についても文言の変更や明文化された箇所も多い(代理など)。そのため、(全分野狙われる可能性があるが、その中でも過去問の出題傾向からすると)代理や時効民法総則分野や債権法改正により明文化・変更のあった箇所については、今一度総復習して頂きたい。

(イ)昨年度連載内容(一部加筆・修正)
 民法については過去9年分を見る限り、近年総則~債権各論まで満遍なく出題されている。また傾向からすると今年度に出題者が変更される可能性もある。他方で、一昨年度の入試問題は本試験民亊系第一問設問1と類似する内容であった。この傾向を考える限りでは、動産の対抗要件(「引渡し」について判断させるもの)と即時取得について問うものや、取得時効・消滅時効について問う問題が作成されてもおかしくはない。また、本試験の傾向から考える限り、論点というよりも適切な条文を探し、指摘する(今年度の本試験設問3)ものも考えられる。
 いずれにせよ、上記はあくまでも本試験の論点として出題された箇所を例示するに留まる。民法については合否の分かれ目でもあり、きちんと復習してほしい。
 対策としては、旧法下で作成された旧試験の過去問や問題集を利用するよりも、改正民法の知識を確認するために作成された演習書で勉強するほうが網羅性も高く、適切であると考える。本試験についてもいえることであるが、民法については近年論点を問うというより、条文の理解力や基本的な知識を問う問題が多く出題される傾向にあるからである。
 改正民法に対応した演習書の一例として、ロープラクティス民法Ⅰ・Ⅱが挙げられる。各自で勉強していただきたい。(解答解説付講座についてはhttps://bexa.jp/courses/view/260

ウ.刑法

(ア)2022年度入試を踏まえて
 昨年度入試(論述式試験分野)では刑法総論分野から主に出題された。また間接正犯に関する設問は過去9年分の入試を分析する限りで初めて出題されたものである。なお総論分野をメインとして問われた問題は2021年度入試(本試験)、2017年度入試の2年度のみとなっている。
9年度分の入試を分析する限りで財産犯(特に窃盗罪およびそれと密接に関連する罪名)分野から頻繁に出題されている。昨年度入試では総論分野がメインであったことからしても、今年は財産犯が狙われてもおかしくはない。窃盗・詐欺・占有離脱物横領・(業務上)横領などの構成要件や不法領得の意思の定義等を正確に理解しておくだけでなく、それらの成否につき正確に理解するよう心がけて頂きたい。

(イ)昨年度連載内容(一部加筆・修正)
 既述のとおり刑法については、特に短答式問題については全問正解、間違えても8割正解のレベルに留めたい。手元の六法を用いることが出来るだけでなく、ロースクール受験生であれば理解していることが期待されるごく基本知識について問う問題だからである。
 対策としては、共通到達度確認試験・試行試験の肢別問題を一通りやることをお薦めする。(http://toutatsudo.net/)。形式が同じものとして、法学検定試験委員会がかつて実施していた法学既修者認定試験の過去問問題集(肢別箇所)を解くのも良いが、同試験は2016年で廃止されていることに注意が必要である。
 両者を解答する際は慶應の出題形式に沿い、特に各論分野については条文や罪名も正確に指摘するようにして欲しい。慶應の短答式試験問題は、司法試験予備試験の短答式試験ほどのレベルではない。基本的知識や基本判例の理解力を問う問題であり、直前期に同試験の過去問をやるにはオーバースペックである。直前期には、効率よく適切なレベルの問題集等を復習すると良い。
 論述式については、過去3年間連続で窃盗罪について問われたこともあり、財産罪については頻出となっている。ただし、レベルとしてはそこまで難しい問題は出ていない。不法領得の意思といった書かれざる構成要件は勿論、犯罪の構成要件や定義について今一度確認すれば、対応は可能である。

おわりに

 昨年度好評を頂けたことから、今年度も無事『2023年度版 慶応義塾大学法科大学院入試分析』を連載できたことを非常に誇りに思えます。昨年度の受験生に続き、少しでも今年度の受験生のロー入試対策のためになれば、筆者としてこれ以上嬉しいことはありません。残り少ない時間ではありますが、受験生はこの資料を用いて、慶応義塾大学法科大学院の出題傾向や入試分析に用いて頂ければ幸いです。

 次回の連載については、『2023年度入試対策 狙われてもおかしくない最新判例の分析・紹介』を行いたいと思います。

2022年8月25日   藤澤たてひと 

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