横領罪と背任罪について

司法試験の採点実感では、横領罪該当性を判断し、該当しなければ、背任罪の検討をすべきと読める部分があります。
銀行の支店長が、返済される見込みもなかったり、担保価値がないものに担保を設定したりして、金銭を貸し付ける行為について、背任罪が成立しうるとするのが判例の立場ですが、この場合に横領罪のどの要件を満たさないから背任罪の検討をすることになるのでしょうか。
よろしくお願いします。
2018年4月20日
刑事系 - 刑法
回答希望講師:国木正
回答:1

ベストアンサー ファーストアンサー
国木正の回答

回答が遅れ、申し訳ございません。

背任罪は、財物のみならず財産上の利益をも保護の対象とし、しかも不法領得の意思がある場合だけでなく(しかも、図利加害目的は領得意思より広い)、加害目的がある場合にも成立する点で、横領罪より広い範囲をカバーする犯罪です。

そうすると、横領罪がカバーする範囲と背任罪がカバーする範囲が重なってしまいますが、いわゆる背信説はこの問題を次のように整理します。
すなわち、横領行為は背任行為の特殊な一場合であるから、成立範囲が重なるときは横領罪が成立する。したがって、権限逸脱の場合、かつ客体が財産上の利益の場合は、横領罪が成立する。横領罪が成立しない場合、かつ権限濫用の場合と評価できる場合、背任罪が成立する。

さて、ご質問に記載されていたような事案は、客体が財物ではありませんから、権限逸脱かあるいは権限濫用かを検討するまでもなく、横領罪が成立する余地はありません。
このように、横領罪ではなく背任罪を検討すべきことが明確な場合は、背任罪の検討を行う冒頭の問題提起の中において一言断る程度、横領罪について触れるだけでよいとは思います。なぜなら、横領罪自体についてしっかり記述したがために、背任罪についての検討、とくにあてはめが疎かになるのは避けたいからです。

2018年4月21日


匿名さん
分かりやすく的確な回答ありがとうございました。

2018年4月21日

誤記がありました。
以下のように訂正します。

「すなわち、横領行為は背任行為の特殊な一場合であるから、成立範囲が重なるときは横領罪が成立する。したがって、権限逸脱の場合、かつ客体が財物の場合は、横領罪が成立する。横領罪が成立しない場合、かつ権限濫用の場合と評価できる場合、背任罪が成立する。」

2018年4月21日


匿名さん
横領罪は「権限逸脱の場合、かつ客体が財物の場合」に成立するとすると、土地を抵当権設定後に売却したケースというのはどちらにも該当すると思うのですが、判例通説は背任罪が成立するとしています。
このケースというのは、どのように説明すればよいのでしょうか。

2018年4月21日

回答の便宜上、少し事案を変えて以下のようにご説明を加えてみます。いかがでしょうか。

占有する不動産について、無断で、抵当権設定という物を処分する行為は、財物を客体とする横領行為にあたります。
なので、最大判H15年4月23日の事案(占有する不動産について、所有者に無断で、抵当権を設定し、その抵当権設定登記を了した後、当該不動産について、所有者に無断で、売却し、所有権移転登記手続を経た)では、第1行為について横領罪が成立する以上、第2行為について別途横領罪は成立しないのではないか(不可罰的事後行為ではないか)が問題となったのです。

他方で、例えば、自分の不動産について、Aのために抵当権設定契約を締結したものの、抵当権設定登記は未了の間に、当該者に無断で、Bのために抵当権設定契約を締結したというような事案では、Aを被害者とする背任罪が成立します。この事案で横領罪ではなく背任罪が成立するのは、被害者Aとの関係で問題となるのは、所有権ではなく、抵当権という財産上の利益だからです。

2018年4月21日


匿名さん
大変分かりやすいご回答ありがとうございます。
直前期になり、頭が整理できていない状態で焦っていました。
ありがとうございました。

2018年4月21日